「獏也さんは、昔の事覚えてないんだよな?」
久しぶりにアースセイバーにやって来た星は、出会いがしろに獏也に質問をぶつけた。
獏也は一瞬フリーズする。星の質問が何を意図しているのか分からなかったからだ。
「…あ、ああ、まぁな。」
「てことは、親の顔も名前も覚えてないんだよな?」
「そういうことになるな…。」
「親の顔、知りたいって思ったことないか?」
「は?」
ますます混乱する獏也に、星は慌てて両手を振った。
「いや、いいんだ別に。気になった程度だから深い意味ははいし。」
「そう…か?」
問い返そうとする獏也を制し、星はさっさと行ってしまった。
「…なんなんだ、あいつは…。」
「ただいま、月光。遅くなっちまったな。」
「
おかえりぜよ。しかし星殿、何故急に親探しなどと…。」
「殆ど依頼が無いからいいだろうが。」
実際、
シグマの親探しや狂人たちの調査は進めている。
例の「黒ずくめの男」はまだ死んだと信じているわけではないが、とりあえず後回しとなっている。
週一で此方にくるシドウさんとも話はするし、このところほぼ毎日来る千鶴とも話している。
とはいえそれで予定がいっぱいになるわけでもない。
時折本を読んだりパズルをいじったりするときもある。
そんな時、ふと思い出したのだ。
幼いころの記憶はばあちゃんと過ごしていた頃から始まる。
しかし、当時の彼女の年は70代だったか。そんな彼女が子供を産めるわけが無い。
ということは自分には顔の知らない親がいるはずだ。
誰なのだろう。その好奇心が彼女を駆り立て、今に至る。
「『重力操作』がじっちゃんの遺伝だから、そこから調べたら早いのか?」
「でも、登録しとるとは限らんぜよ。現にキングは
ホウオウグループの怪盗。もしかしたらその関係で知られとらんのかもしれん。」
「だよなぁ…。」
星は腕を組んだ。
「…でも、興味本位もあるし、解けなくてもいいんだ。」
「はぁ…。」
星は大きく伸びをすると、事務所に戻って行った。
「…うん、わかった。じゃあそっちも頑張ってね。」
ぴ、と通話を切り、海海は空を大きく仰いだ。
「綺麗な青空なんだろうね。ゴーグル越しには濁った灰色にしか見えないけど。」
残念だなぁと海海は呟き、ストラウルのビルの窓枠に座った。
10階にあたるそこは落ちれば死亡確定だろうが、本人はそんなこと気にしていない。
「本当、最近全然人外狩りがうまく行かなくていらいらするよ。」
そういう口元は、何故か緩んでいる。
「僕も何でこんな力手に入れちゃったかなぁ。」
「『死にたくても死ねない。死んだことを『なかったこと』にされちゃう力』なんていらなかったんだけど。」
その微笑みは自虐か、嘲笑か。それは本人にしか知りえないこと。
彼女は顔を上げ、ビルに足を踏み入れたその人に笑みを送った。
神に抗う少女
「最初に言っておくけど僕は君の存在でさえ『なかったこと』にできるからね?」
最終更新:2011年10月13日 14:48