アットウィキロゴ

変わりゆく物語

「主のこと、ですか?」
廊下で月光に呼び止められ、急にそう聞かれたカイムは戸惑った。
月光は白装束姿で額の汗をぬぐっていた。
昨夜から修行を開始した月光は、極僅かな休憩時間であるこの時間に部屋に籠りきりの春美の様子を聞きに回っているのだ。
子供なのに変わりはないし、妹の娘なのだ。気にならない筈がない。

「俺たちは籠ってから何も聞いてねぇぞ。」
カイムに抱きかかえられていたシキが言う。
「部屋から出てもこねぇし、妖怪達皆、心配しているんだよな。」
ゴクオーさんは出入りがあるので僕からも聞いてるんですが、何も答えてくれないのですよ。」
「…そうがか…。」

「触れてほしくないのかとは思いますが、不可解なんですよ、少し…。」
カイムが心配そうに春美の部屋を見た。
「不可解、とはどういうことがか?」
「…音が全く聞こえないんです。」

音と言葉の全てを掌握するカイムでさえ、『全く』聞こえない…。
「どういうことがか?」
「考えられることは幾らか。主が部屋にいないと考えるのが妥当でしょうね。」
「でも、外に出とるんなら寺の中におる誰かが見とるはずじゃ。」

「部屋を介して別空間に行った…と考えられませんか?」
あくまで予想ですが、と付け加えながらカイムは言った。
「部屋にいるはずの方は主とキリさんとゴクオーさん。キリさんは結界術と空間転送術が使えたはずです。」
「ということは、今頃この空間に…?」
「そう考えた方が自然でしょう。」

「でも、なんでそんなことしなきゃならねぇんだよ?」
シキの不思議そうな声に、カイムはあごに手を置く。
「…もしかして、『彼女』に逢いにいったのでしょうか…。」
「『彼女』?」
シキが首をかしげる一方、月光は思いあたったように顔を上げた。
「それって、もしや…。」

「『百物語組 第一〇〇話』…。そう考えた方が妥当ですが、あまりに危険すぎるとも…。」


「…しかしながら、どうして行き成り『彼女』に逢うと…。」
枯葉を踏む音がなる。
見渡す限りの木々に一本の獣道。そして遠くにある鳥居。
キリが作り出した空間の中に、春美、ゴクオー、キリの3人がいた。

「キリ君は気付かない?最近周りのみんながどんどん変わっていってること。」
「と、いいますと…。」
「百物語組だけでも幹久朗さん、カイムさん、エトレクさん、少し前にはミナミさんもかわったし、キリ君もついこの前…。」
「えっ…?」
まるで身に覚えがない、というキリに対し春美は付け加えた。

「最後にウスワイヤに行った時、一瞬「生前」のキリ君が戻ったじゃない。この間も日記帳持ってたし。」
「あ、ああ…、あれは…。」
どういおうか答えあぐねるキリ。
「とにかく、皆変わってきてるし、この前もあんなに悲惨なことがあったんだもん。私もこのままじゃいられないよ。」

「それで『彼女』に逢うと、そう提案したんじゃな?」
「うん。私にできることと言えば、それくらいだしね。」
笑顔を向ける春美。しかし、昨日の疲れがまだ垣間見えていた。

「…主、やっぱり今日は止めた方が…。」
「ううん。一人だけ立ち止まってられないよ。」
「頑張りすぎも体に毒でありマスよ。」
「…わかってる。でも、皆頑張ってるから、私も、倒れるまで頑張って皆に応えたい。」

一度決めたら揺るがないのは、かの師範によく似ていた。
そしてこうなればちょっとやそっとでは意見を変えないのもよくわかっている。
ゴクオーは首を振り、両手をかるく上げた。

「分かった、分かった。わしらも全力で手伝うわ。」
「しかし、体に限界が来た段階で直ちに止めに入らせてもらうのでありマス。」
「うん。ありがとう、二人とも。ごめんね。」

「じゃあ…いくよ。」


変わりゆく物語


『…ねぇ、あそんで、くれるの…?』

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年11月15日 18:30