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「……そうか」

某所。ユウイの答えを受け、クロウはただ一言、そう返した。
即ち、「グループには入れない」という答えを受けて。

「――それもいいだろう。繋がりを切れなければ、我らの一員にはなれん。そして、入れば入ったで、否応なしに戦う事になる。敵を―――お前にとって今、友人と呼べる者達を殺すためにな。その意味で、お前は不適格だった。そういうことだろうな」

電話の向こうでユウイが首を傾げるような気配があった。が、構わず続ける。

「こちらの話だ。……前にも言ったと思うが、我々は世間から認められない才能を持った者、あるいは普通に生きていては実現しない願いを持つ者。そういう連中の集まりだ。だから、そこまでしてでも叶えたい願いのない者、ただ引きずられているだけの者は、いらん」
『………』
「後処理は俺の方でやっておく。通話を切った瞬間、俺達とお前は何の関係もなくなる」
『……はい』

肯定を受け、クロウは一言だけ付け加える。

「……わかっていると思うが、この一件については夜波 マナ以外には口外するな。迂闊なことを言えば、俺はお前を殺しに行かねばならん」
『――――!』
「だから、言うな。俺は無駄な力を使う事は好かん」

ではな、と言い置いて通話を切る。携帯を片手でぱたん、と閉じ、ある方向を見つめる。

「さて……」

その表情が、先ほどまでの真剣なものから一転、どんよりと重くなる。

「気が進まん……進まんが、仕方があるまい……」




『……それで、わたくしにどうにかしろと言いますの? よくもまあ、そんな勝手な事が言えたものですわね。かつて、わたくしの学校を襲ったあなたが』
「……これはお前のクラスメイトのためでもある。それでもか?」
『正直に言えば、知った事ではありませんわね。放っておいても姉様の害にはなりませんし、なればなったで切り捨てるのみですわ』

頭を抱えた。彼女の通っていた小学校を襲ったのは9年前、まだ夜と組んでいた頃だ。UHラボのメンバーが教職員として潜んでいるという情報を受け、交通事故を誘発してそれに乗じて襲撃をかけたのだが、結果として情報がガセだったことが判明。その時彼女に顔を見られたものの、撤退を優先して生かしておいたのが失敗だった。いかせのごれで再会してからと言うもの、何かと敵意を向けられている。

(あの時始末しておくべきだった……おかげで動きにくいことこの上ない)

とはいえ、現状彼女の力を使う以外、表沙汰にせずに事を収める方法がない。

「頼めんか? 事が大きくなるのは、どちらにとっても不利益だろう」
「聞けない相談ですわね。入るも入らないも、ユウイさんの勝手ですわ。その結果彼女がどうなろうと、本人の責任。自分で責任を取れない行動なら、最初からしなければいいのですわ」
『話を聞いていなかったのか? あれは、リオトの暴走によるものだ』
「最初に言いましたでしょう? 知った事ではないと」

スザクのためならともかく、どうしてホウオウグループの問題を自分が解決しなければならないのか。正直、彼女―――アオイは不本意極まりなかった。ましてや、相手はクロウ。通っていた小学校を襲撃し、友達も先生も大勢殺した、いくら憎んでも足りない相手。ウスワイヤなど諸々の事情があり、直接やり合った事はない。だが、もし彼が目の前にいたら、その場で嬲り殺しにしてやりたい程だ。
そんな奴の頼みを、どうして聞かなければならないのか。

「ともかくお断りですわ。ご自分で何とかなさいな」
『…………』

けんもほろろ、とはこういうことだろう。だが、クロウは通話を切る気配がない。苛立ちもいい加減頂点に達していたアオイは、携帯を耳から離すと電源ボタンに指を伸ばす。が、

「アオイ」
「?」

後ろから声をかけられ、手が止まった。振り向くと、そこにいたのは黒系統の服でまとめた、雰囲気の希薄な少女。

「ああ、何だ、マナさんでしたの。どうしましたの?」
「……お願い。その話、受けて」
「!? 突然何を……」
「その、ユウイって人の相談、受けたのは私なの」
「あなたが……?」

確かに、マナはそういう人間だ。誰かが真剣に悩んでいれば、真摯に応える。それが誰で、何者であろうとも。

「……ですけど、クロウはわたくしの……」
「仇だってことはわかってる。でも、お願い。ホウオウグループのためじゃない、ユウイさんのために、スザクのために、何とかしてあげて」
「姉様のため……?」
「そう。このままだと、この学校に問題が大きく増える。しかも、解決が容易でない、根深いものが。……誰かを想うがゆえの恨みや憎しみがどんなに強いか、あなたも知っているはず」
「!」

当然だ。今アオイが抱いているものこそ、それなのだから。

「スザクだったら、きっと何とかしてくれたはず。因縁も怒りも横において、友達のために」
「友達……」

アオイは考える。友達。自分にいるだろうか、今。付き合いがあるのは「スザクの友達」でしかない。自分自身の友達は……。

「……仕方がありませんわね」
「!」
「わたくしにとっても、姉様にとっても、マナさんは恩人ですもの。その頼みを聞かないのは、仁義に反しますわね」

さすがにここまで言われて蹴っては、スザクにも怒られるだろう。それは嫌だ。
携帯を戻し、言う。

「……その話、特別に受けて差し上げますわ」
『……すまん』
「あなたのためでは断じてありません。マナさんと姉様のためですわ。……その事を忘れないように』

冷たい声で返答し、通話を一方的に切る。

「……ありがとう」
「いいえ。考えてみればユウイさんも同級生ですものね……敵愾心に囚われて周りが見えなくなるのは、わたくしの悪い癖ですわね」

思い返せば、以前ゲンブを殺そうとした時もそうだった。あの時もマナに止められたのだ。

(まあ、正直あの方はどうでもよろしいのですが)

数々あった障害を乗り越えて、ようやく幸せに手が届いたスザク。それを利用しようなどという輩を、信用できるはずもなかった。実際、アオイの中でゲンブの評価は最低未満にまで落ち込んでいる。

「では、わたくしは……」
「ええ。手筈通り、リオトを呼び出して……」


昼休み、屋上。立ち入り禁止になっている屋上に、高嶺 利央兎はいた。

(一体何なんだ……)

火波 アオイから突然呼び出しを喰らったのだ。何のつもりか、何か考えているのか。
スザクの方は「自分達」にとって割合に微妙な立ち位置にいるが、今目の前にいるアオイはそれに輪をかけて微妙な立場にいた。ただでさえアッシュやジングウの件で苛々しているのに、何の用事か。早く済ませてほしい。

(まあ、こっちの世界の事情に通じてる分にはいいのか……)

こうして二人きりで呼び出したということは、その方面の話なのだろう。

「前置きなしで言っておきますわ」

言いつつも、アオイはなぜか俯き、視線を合わせようとしない。顔を上げたかと思うと少し目を逸らし、言った。

「ユウイさん、ホウオウグループに入ることはやめたそうですわ。今の日常を捨てることも、友達を裏切ることも……ましてや人を殺すことは出来ない、と」

一瞬何を言われたのかわからなかった。だが、一拍おいてそれが、この間自分がユウイをグループへ勧誘したことだと気がついた。―――拒絶された? オレがユウイに? ――ずっと一緒にいられると、そう思ったのに。

「……だよ、それは。どういうことだ!! 出鱈目言うんじゃねえよ!!」
「あいにくと事実ですの。あなたと共に在るという喜びよりも、今までを裏切るという痛みが勝った。そういうことですわね……」
「ふざけんな! そもそも何でそれをお前が――――」


「こういうことですわ」


不意に顔を上げるアオイ。「目が」、「合った」。湖水のように凪いだその眼を見た瞬間、荒れ狂っていた心が静まるのがわかった。語られた事実が、すとん、と心に落ちる。

「……何だ。そういうことか」
「ですわね」
「ダメだったかぁ……ん、仕方がないか」

ユウイを引き込もうとしたのは、一重に彼女を守りたかったからだ。だが、そのせいで守るべき彼女を傷つけては、本末転倒もいい所ではないか?
そんな風に、思えた。

「気に病むことはありませんわ。別にグループにいなくとも、共に在ることは出来るのですから」
「そうかな?」
「そうですわ。同じ輪の中にいなくとも、繋がりは保てます。いえ、むしろその方が強く、固いものですわよ」
「そ、そうなのか?」
「ええ、絶対にそうですとも。わたくしが保証いたしますわ」

やけに強気で言い切るアオイを見ていると、そんなものか、と自然に納得できる。何か、そういうオーラのようなものでも出ているのだろうか。そんな気になる。

「わかった。とりあえずは元通り、か」
「そうなりますわね。……ところでリオトさん」
「?」

出ようとした所で呼びとめられ、振り返る。

「わたくし、ユウイさんとお友達になりたいんですの。よろしければ紹介して頂けませんこと?」
「は? 友達……」

そう聞いて思い出すのは、ユウイを「殺した」、彼女のかつての親友。反射的に嫌悪感が込み上げ、声音が鋭くなる。グループの件は納得したが、それとこれとは話が別だ。

「……何で、そう思うんだ? 同じクラスに友達いないのかよ」
「おりませんの。姉様の友達はたくさんおりますけど、わたくし個人の友達は一人も……」
「……………」
「ご心配なさらずとも、別にリオトさんから取ったりしませんわ」
「……なら、いいけど……って待て」

聞き流しかけて気付いた。取ったりしない、ってことは……。

「……わかるのか? やっぱり」
「ええ、とてもよくわかりますわ。気付かなければただの朴念仁ですわね」

―――やっぱり、わかりやすいのか? オレは……。


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(ちなみに)
(この後階段を下りて行くリオトの後ろで)
(密かに胸を撫で下ろすアオイの姿があったとか)


(とはいうものの……)

階段を降りながら、アオイは心中で呟く。

(記憶操作ではありませんから、時間が立てば同じ事が起きないとも限らない……ここが痛いところですわね)

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最終更新:2011年11月23日 13:18