「……シドウさんの言ってることはわかるんですけど、アースセイバーに入れば、色々と不都合も大きいですよ。ゲンブみたいな独立隊員ならともかく」
「それは承知している。だが、それらのリスクを考慮した上で、俺はこの選択をした」
星には俄かに答えを出すことが出来なかった。元々アースセイバーに属していた身としては、新規参入組となるシドウの選択が、どう良くてどういけないのか、そこが判別出来なかった。
ただ、相応のデメリットはある。組織に属する以上有事には駆り出されることになるし、危険も相応に増える。
「個人的にはやめた方がいいと思うんですが……」
「だが、現状では俺には打つ手がない。詠人は詠人で音信不通になっているし、奴の回りが何やらキナ臭い。姿の消えた
ヴァイスの件もある。いざという時、後ろ盾がなければ俺も動けん」
それに、と付け足す。
「アカネに出会うまで、俺は根無し草だった。それに、今まで父親らしいことは何一つして来なかったからな。さすがに、何もかもアカネに任せて自分の目的に走るのはもはや無理だ。確かに、アースセイバーに入ることで何らかの危険は増えるだろう。だが、そこを考えても俺はやはり入ろうと思う。危険に相応して、対処の方法も増える。それで50:50だ」
「む……」
確かにシドウの意見は一理ある。それに、話している途中で気付いた。
シドウは既に意志を固めているのだ。守るべきを守るため、アースセイバーの一員となるという意志を。
わざわざ自分の所にやって来たのは、その意志をあらためて確認するためだろう。
「……わかりました。なら、こっちの方から連絡はしときます」
「すまんな」
そう言って、シドウは頭を下げた。
―――だが、このすぐ後に「
千年王国」によるウスワイヤ襲撃事件が発生。シドウの参入は先延ばしとなった。
そして今。
「……ん、
モエギ。流也はどこ行った?」
「霧波? あいつだったら東の平原に行ったぜ」
『……やっぱり、見つからないの?』
「さっぱりだ。本当に死んだんじゃないか?」
「俄かには信じられねえな……簡単に消えるような男じゃねえんだが」
東の平原。樹木の姿の
アカノミの前に、幹久朗と流也がいた。
アカノミ言う所の「白い闇」、即ちヴァイス=シュヴァルツの消息を確かめに行っていたのである。八方手を尽くして調べては見たが、結果は空振り。やはり、死んだとしか思えなかった。
「浮世歌でもダメか?」
『うん……全然引っかからないんだ』
「それでもなお、奴が生きてるとお前は言うのな……」
はぁ、とため息をつく流也。ヴァイスの死亡記事は彼も読んだが、半信半疑というのが正直なところだった。奴とて人間である以上いずれは死ぬ。だが、あんなに簡単に死ぬものか? そう思っていた。
『どうしても信じられない……あんなに異質な存在が、簡単に消えるなんて』
「能力も性格もブッ飛んだ奴ではあったけどよ、人間だろ? 死んだら死ぬさ」
幹久朗の言い分ももっともだったが、そもそも前提である「ヴァイスが死んだ」という事実すらつかめていないのだ。正確に言うと、「死んだ証拠」も「生きている証拠」も掴めていないのだ。
これでは本当に雲隠れだ。奴が今どうなっているのか、誰も知らない。
「まあ、何にせよ、警戒はしといた方がいいぜ。いざ本人に出くわした時、『莫迦な、何で生きてやがる!?』ってのはまずいぜ」
「だよ、なぁ……」
なおも「必要あるのか?」と言いたげな幹久朗だったが、アカノミが『絶対にそうした方が良い』と力説して来るのにややたじろぎつつも、それを肯定した。
「主は主で切羽詰まってるし……はぁ、問題多いなぁ」
「気張れよ幹久朗。向こうさんもよ、
百物語組に支えられて『頑張ってリーダーをやってる』状態だからな」
「ちぇっ、他人事だと思って」
同刻。
「こーんにーちはー」
「ん? いらっしゃい、何にする?」
亜音の
レストランに声が響く。やって来た客は、全身を白で装った小柄な少女。
いつもならマナがいる席の真向かいに座り、胸元からひも付きの財布を引っ張り出すと遠慮なく注文して来る。
「んーと、オムライスと、オレンジジュースね」
「はいよ。正人ーっ、こっち頼む」
「わかりました、ちょっと待ってて下さい」
返事を聞きつつ手を動かす亜音。ふと、気付いた。
(……そういえば、さっき扉の開く音がしなかったような……)
「ルーツ、
ミネルヴァは?」
「さっき、向こうの方で見たってよ」
「何? あの方向は……」
「どうした?」
「いや……ちょっとな」
(レストランか……時期尚早だが、どうしたものか)
崩壊序曲
(に、なるかどうかは)
(これから、わかる)
最終更新:2011年12月01日 21:34