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夜明け

「……はっ」

夜見 雨里が目を覚ました時には、既に10時を回っていた。無論午後の、だ。

「ぎゃー、寝過ぎたー!! とほほ……」

まるまる24時間眠っていた計算になる。いくらなんでもこれはあり得ない。過眠症、とかいうやつだろうか。

「うぅ、今度病院行こうかな……」

肩を落とす雨里は、自分に何が起きていたのか知らない。





別の日、いかせのごれ高校屋上。

「こうやってお前と話すのって、なんか久しぶりだな」
「そうだな……お互い、色々と立て込んでたからな」

僕こと火波 スザクは、随分と久しぶりに都シスイと話をしていた。確かにシスイの言うとおり、お互い抱えた事情が大きすぎた。
僕は僕で、恋愛事情を解決するのに東奔西走することになったし、その中でヴァイスにもかかわった(あれは思い出すだけで怒りが爆発しそうになる)。
シスイはシスイで、校内で襲撃されたりトキコのことを知ったりと、どっちかっていうと精神的に参ってた感じだ。それに、あのアッシュとかいう「弟」の一件もある。

(アオイはどうも嫌ってるんだよな……それにトキコはものすっごい嫌な顔してたし。何かあるのか)

思うけど、神ならぬこの身にわかるはずもない。
とりあえず、話を続ける。

「それで、今日はどうしたんだ? またストラウルで事件か?」
「事件って言えば事件かな。ただし、ストラウルじゃないけどな」
「へぇ? 珍しいな」

こういう時はたいていストラウル跡地で事件が起きると思っていたからだ。が、シスイはちょっと呆れた顔をして言った。

「珍しいって……ストラウル跡地は『何が起きても不思議じゃない』場所だけどな、だからって何でも起きるわけじゃないぞ? 今回のは別件だ」
「あ……」

そりゃそうだ。うっかりしてた。

「こほん。……最近、いかせのごれ全域で妙な人物が目撃されてるんだ」
「妙な人物?」

こいつだ、とシスイが差し出した、一枚の写真。そこに映っていたのは、黒い髪に黒い目の女性。ただ、その髪が不気味な程に黒く、感情が感じられない。

「こいつはいったい……」
「正体はまったくもって不明。ただ、アースセイバーの監視員が何人か襲われてる。アースセイバーを狙い撃ちにする奴らって言ったら、限られてくる」
「代表格はホウオウグループか……けど、本当にそうか?」

それはわからない、と首を振るシスイ。

「何にしても、警戒しておくに越したことはないさ」
「そうだな……」




いかせのごれ某所。

「うおおおおっ!!」

いつものごとくヴァイス捜索に出て迷子になっていた霧波 流也は、迷った先で遭遇した謎の女に襲われていた。

(ちっ、強ぇ……)

持ち歩いている大ぶりのナイフ二つで応戦してはいるが、如何せん膂力が違いすぎた。細身の女のどこにこんな力があるのか、全くわからない。
さらに読みも的確だ。攻撃の軌道を予測し、弾き、捌き、反撃して来る。一瞬の隙をついて痛打を叩き込んでも、その場合だけは完ぺきにガードを入れてくる。

(こいつ、本当に人間か!?)

思う間にも女が襲いかかってくる。その表情は能面のように動かず、異様に黒いその髪と相まって、まるで殺戮人形を相手にしているかのような錯覚さえ覚えさせた。
反射的に動きが止まってしまったことを自覚した時には、女の蹴りが脇腹を襲っていた。

「っぐ……がぁぁぁ!?」

灼熱感とともに吹き飛ぶ流也。当たった点を確認すると、コートが焼け焦げていた。

(なんだ、こりゃ……!)

火焔でも操るのかと思ったが、そんな様子はなかった。あの女は完全に徒手空拳だ。
ただ、技術も力もゲンブに匹敵する。力だけなら上回っているかも知れない。

(こりゃ、長引かせるとやべぇな)

判断からは一瞬。能力を発動する。

「だああっ!」

生体電流を加圧し、反応速度をトップまで上昇。さらにナイフに電撃を纏わせ、動きを止めにかかる。
「ブリッツフォース」……そう呼ばれている力だ。

「!」

女の表情にわずかながら揺らぎが生じた。が、それも一瞬、すぐに能面のような無表情に戻り、流也の攻撃に対処しようとする。が、

「おらあっ!!」

桁違いの速度で繰り出された斬撃をかわせず、肩口から袈裟がけに切り裂かれる。

「……!」

流也の攻撃は止まらない。一撃与えてからはまさに疾風怒濤、格闘を織り交ぜつつ縦横無尽の斬撃を繰り出し続ける。
しかしここにきて、流也は女の力を脅威として認識せざるを得なくなっていた。
跳ね上がった反応速度から繰り出される連続攻撃を、しかし女は皮一枚までしか届かせない。本来なら致命傷となるはずの一撃ですら、紙一重のところでしのいでみせる。難攻不落、このままではらちが明かない。この反応速度上昇は諸刃の剣だ、長く使えば肉体の負荷が限界を突破してこっちが死ぬ。

(ええい、こうなったら!)

いくつものフェイントを織り交ぜた連撃の後、唐突にナイフを片方手放す。
そちらに女が気を取られた隙を突き、その頭を鷲掴みにする。
そして、

「これでどうだぁぁぁぁ!!」
「!!」

その手から高圧電流を流しこんだ。少なくとも、これで動きは止まったはず。いかな能力者といえども、脳神経を焼き切られては生きていられるはずがない。


―――ない、のだが。


「!? 馬鹿な……」

女はまだ健在だった。ショックでふらつきながらも、倒れない。
何やらぶつぶつと呟いているが、流也はそれどころではなかった。

(あれで倒れねえのか!? や、やべぇ、こっちはそろそろ限界だ)

反応加速の反動で全身が悲鳴を上げており、動くのもままならなかった。今の一撃で決めるつもりだったので、あれに全力を使ってしまった。正直、このままだと死ぬ。
が、女は襲ってこない。どころか、

「……だ……報告……報告を、しなければ……」

かろうじて聞きとれるだけの声音でそう言うと、流也を無視してどこかに消えてしまった。

「……な、何だ、ありゃ……」

限界を迎えていた流也は、そのまま昏倒。しばらくして星から連絡を受けたモエギヤマブキが回収に来るまで、意識は戻らなかった。




同刻、一之瀬邸。

「雨里ちゃん、ホントに大丈夫? 家帰った方がいいんじゃない?」
「だ、大丈夫、です。大分収まってきましたから」

突然激しい頭痛に見舞われ、倒れてしまった雨里をツバメが看ていた。本人いわく「ハンマーで殴られた上に滅多切りにされたみたいです」とのことだったので、余程のものだったのだろう。

「そぉ? ならいいけど、無理はしちゃ駄目よ」
「は、はい」

何かあったら呼んでね、と言い残し、ツバメは原稿を仕上げるべく下に戻る。
残された雨里は、意識を失っている間のことを考える。

(何だろう……いつもの夢を見なかった……)

それは、いつも眠るたびに見る不思議な夢。誰かと一緒に行動し、戦っている、不思議な夢。
だが、今回に限ってはそれを見なかったのだ。

――――その理由も、夢の原因がほかならぬ自分自身であることも、雨里は知らない。



夜明け



「…………」
「……この人、確か鴉さんが言ってた人だよね……何でこんなところで倒れて……」

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最終更新:2012年01月23日 08:18