「…な、なんだこれは…!?」
2年2組の教室に広がる死屍累々を見て、
都シスイはそう呟いたのであった。
話は数十分前に遡る。
この日、都シスイはいつものようにバイクに跨っていかせのごれ高校へと向かっていた。
冬場の寒い風に当てられながら運転していると、ちょうど交差点に差し掛かったところで、
見知った友人である火波スザクを発見した。彼女は珍しく一人で歩いていたので、
シスイはバイクから降りるとスザクへと声をかけたであった。
「よっ!スザク、おはよう。」
「ああ、おはようシスイ。」
「珍しいな、トキコもアオイさんも一緒じゃないんだ。」
「…そうなんだ、トキコは今日早く行くって言って先に行ったし、
アオイは風邪を引いてしまって、学校を休んでいるんだ。」
「あー…可哀想に。」
「なんでも、バレンタインだからって昨日夜遅くまでチョコを作ってたみたいで…」
「バレンタイン?」
シスイは首を傾げたが、そういえば今朝テレビでバレンタイン特集をやっていたっけ、と思い出して、
あぁ、と声を漏らし、言葉を続けた。
「チョコ貰えるあのイベントなー。」
「シスイは貰ったことあるのか?」
「貰ったことはあるにはあるけど、全部義理だったな。スザクは?」
「え、僕?」
「あぁ、誰かに渡したりしなかったか?」
「…」
やや俯いて考え耽ってしまったスザクを見て、シスイはハッ、とした。
よくよく考えれば、今まで人並みではない壮絶な人生を過ごしてきて、
こういった・・・特に女の子のイベントに気をかける余裕なんてなかっただろう。
そう悟ったシスイは、黙り込んでいる彼女に慌てて声をかけた。
「ス、スザクは色々忙しかったもんな!はは、悪い悪い、俺…!」
「そういえば、渡したことはなかったな……今からなら間に合うかな?」
「へ?…あ、まぁ…放課後とか、買って渡せばいいんじゃね?」
「そうか、…ありがとう、シスイ。」
予想に反した答えと微笑を返され、シスイはとりあえず大丈夫だったのか、と胸をなでおろしたのであった。
そんな他愛もないやり取りをしながらいかせのごれ高校に着いた二人は、昇降口で上履きに履き替えると2年2組の教室へと向かった。
バレンタインの話をしていたからか、そういえば今日の学校はどことなく甘い匂いが漂っているような気がする。
男子にチョコレートを渡そうと奮闘している女子生徒の姿も、ちらちら見える。
「そういえば、ヒラヅカが甘党だって聞いたな。」
「ヒラヅカ?…あ、
ゴクオーさんか。あの人、いつもココアシガレット齧ってるしな、今日なんか特に嬉しいんじゃない…か?!」
「っ!?」
2年2組の教室の前へ着き扉を開いた途端、二人は開けかけた扉をすぐ閉めた。
扉の隙間からむせ返るほどの甘いチョコレートの匂いが二人の嗅覚を襲ったのだ。
それが本能的に「危険」と察知したのか、シスイが閉め、その手の上からスザクが手を重ねて強制的に閉めさせたのだ。
そのタイミング、ほぼ同時。思わず二人は顔を見合わせた。
「「…」」
「…スザク、」
「分かってる、ここで入らないと僕たち二人は遅刻になってしまう…」
「いや、それはそうだけど…」
「例え中で戦争が起きてようが、僕たちは入らなければならない…!」
「あっれ、スザクさん何か勘違いしてません!?そういうわけじゃないと思うんですけど!?」
「行くぞシスイ!!」
「スザクさーん!?」
あんまり強かったチョコの刺激でやられたのか、ややキャラ崩壊しているスザクは扉を開いた。
シスイもその後を追って中に入ったのだが、直後、目に飛び込んだ光景に愕然とした。
「…な、なんだこれは…!?」
そして話は、冒頭へと戻る。
教室の中は凄まじいものであった。
あちらこちらにチョコが血痕のように飛び散っており、床に、机の上に、教卓に、
更には生徒の口の端からおそらくチョコであろう茶色の液体が付着しており、皆一様に倒れていた。
「くっそ、一体何が…!」
「う…」
「!」
シスイは呻き声がした方を振り向くと、そこには床で蹲り倒れている利央兎の姿があった。
スザクと共に彼は駆け寄り、利央兎を抱き起こした。彼の口元にもまた、チョコが付いていた。
「っリオト!一体、何が…」
「シス、イ…か……は、早く一組に…っあの…チョ…」
「チョ…?」
「ごふっ」
「リ、リオト!!おいどうしたんだ、リオト、リオトーーーー!!!!」
吐血した利央兎(恐らくチョコだが)は、それを最期に気絶してしまったのであった。
シスイは彼をそっと床に寝かせると、涙ぐみながら立ち上がった。
「…リオト…イイ奴だったよ…」
「いや、殺すなよ。…とにかく、一組に向かった方がよさそうだな…」
「ああ、何があったか知らないがこれ以上被害が…」
ぎゃああああああ!!!!
「っ!」
「あの断末魔は…!」
叫び声を聞き、スザクとシスイは廊下へと飛び出した。
2年2組の隣である1組の教室の前もまた先程と同じような惨状になっており、
そこには先程の利央兎と
同じように倒れている
ハヤトと___
「トキコ!?」
「あ、鳥さん!それに一角くん!」
紙袋を両手に一つずつ持ったトキコであった。
いつものように天真爛漫な彼女は他の生徒と違い、五体満足であったが…
「トキコ、これは一体…!?」
「えっへへー」
シスイが彼女に尋ねては見るが、その様子とは打って変わってトキコはご機嫌である。
ひょこひょこと彼女は二人に近付くと、紙袋から小さな袋を二つ差し出した。
意表を突かれた二人は、思わず顔を見合わせた。
「「え?」」
「はいっ、バレンタインデーおめでとー!」
「…もしかして、チョコを作って皆に配ってたのか?」
スザクが恐る恐る聞くと、トキコは「うん!」と元気よく答えた。
その返事にシスイとスザクは、今回の騒動の犯人が誰だか確実に悟ったのであった。
今目の前にいる、この少女だと。
「…そ、そうか…」
「皆嬉しくて倒れるぐらいだったよ!ハヤトくんだって一口入れて倒れたもん!」
それは昇天しただけだ。
と、二人は心の中で同時に突っ込んだ。
トキコは二人の顔を覗きながら、無邪気に『おねだり』をしてきた。
「ね、食べて食べて!」
「え、今…?」
「うん!」
あまりの眼の輝きに耐え切れず、とりあえず二人は中身を見てみることにした。
チョコが入っているであろう袋はピンクのハート模様で、実に女の子らしくて可愛い。
が、
ギェェェェェェ
「「………」」
「…シスイ…」
「…なんだ…」
「チョコって…喋るのか…?」
「・・・いや、俺の知ってるチョコは・・・口開かないと思うんだけど…」
「そ、うだよな・・・チョコってそもそも食物であって喋らな」
ギェェェェェェェ
「「………」」
二人が手にしたチョコレート(かどうかすらもはや疑わしい)は、歪な顔らしきものが浮かんでおり、
時々「ギェェェェェェ」と叫んでは腕のようなものを伸ばしてくる。
しかも若干動いてる、というか揺れている。
明らかに食べ物とは思えない物体を目の前にして、トキコは早く食べてくれないのかとキラキラした眼でこちらを見つめてくる。
「シスイ・・・」
「なんだよ・・・」
「踊り食いだと思えば、たいしたことない。」
「デェェェ!?この子俺に押し付けようとしてる!!いや、乗りかかった船なら最後まで付き合えよスザク!」
「ボ、ボクは後でー・・・その、トキコと一緒に食べる!だから、ほら、先に!」
「そう言って後でこっそり処分するんだろ!?」
「失敬な!!トキコから貰ったものをそんな無下に扱うわけ・・・!」
「ねぇねぇ」
「「!!」」
「食べないの?」
こそこそと背を向けながらやり取りをする二人に、トキコはそう声をかける。
スザクとシスイがちらり、と振り向けば、段々と彼女の表情が曇っていくのが分かった。
「あ・・・」
「食べて、くれないの…?」
「い、いやその…」
「・・・」
終いには泣き出しそうになってしまい、ついに居た堪れなくなったお人好し代表・シスイは、
泣きそうな顔をしているトキコの両肩へと手を置いた。
「トキコ!」
「ふえ?」
「俺は食べるぞ!」
「!?ちょ、シスっ」
血迷ったかとスザクは止めようとしたが、時すでに遅し。
「あ」
雄叫びを上げているチョコを口へと投げ入れてしまったのであった。
うぶ、と一度シスイは吐きかけたが手で押さえ(しかし指の隙間から手らしきものが見えたが)、
彼はなんとか胃の中へとそれを収めた。スザクが心配そうに彼へと声をかける。
「シスイ…大丈夫か・・・?」
「・・・・・・・・・」
「一角くん?」
「っごふぁ!!!」
口から勢いよくチョコレートを吐き出したかと思えば、シスイはそのまま後ろに倒れて、
そのまま動かなくなってしまった。「い、一角くーん!?」と駆け寄るトキコの後ろ姿を見ながら、
スザクは一言、こう漏らしたのであった。
「・・・シスイ、無茶しやがって・・・」
2.14事件
おまけ
「クロウー!!クロウしっかりしろー!!」
「どうかしたんですか?」
「っ!エドくん、クロさんが、クロさんが謎の物体Xを口から垂れ流しながら倒れてるの…!」
「わあ、本当だ。写メっていいですか?」
「駄目に決まってんだろ!?何やってんのお前等!!…っちょ、ホントに写メんないで!写メ禁止!」
「………」
「それで、
クロウさん生きてるんですか?」
「えっ?……!生きてる、一応心臓は動いてるよ!」
「チッ」「よかったね、」「クロウくん生きてて」「ぽっくり逝けばよかったのに(笑)」
「あれ、モブちゃんいつの間に。」
「でも何故こんなところで倒れてたんでしょうかね?」
「…分からねぇ、俺とミーネがクロウ探してここに来た時にはもうこうなってて…っくそ!一体何が…」
「……?(甘い…)」
「とりあえず」「クロウくん起きる前に」「一発」「撮らせてよ☆」
「だから写メ禁止っつってんだろ!?」
「…あれ、皆…何してんの…?」
「あっ、ミューくん!…それは?」
「…これ?トキコから貰った…」
「…トキコちゃんから?」
「うん、…さっきクロウさんも貰ってたし…」
「…ああ、そういうことか。」
「………」
「え、エドくん…思い当たりあるの?」
「うん、昨日
エレナとキッチンで何か作っているのを見てたから。ねぇ、エレナ?」
「……・・・」
「エレナちゃんも」「料理ド下手って」「聞いたけど」「?」
「ド下手ってレベルじゃないよ・・・あれは。ありえない材料から生物を生み出すレベルさ。」
「・・・え、つ、つまり・・・ちょー不味いのとちょー不味いっていう次元じゃないチョコレートをクロウが・・・?」
「そういうことになるね。」
「「「・・・・・・・・・」」」
※加筆修正有り(2012/11/23)
最終更新:2012年11月23日 14:36