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シノの過去の話

あたしは、いつからここにいたのか分からない。
気付いたらここにいた―――だだそれだけだった。

家族の顔も全く記憶にない。
あたしがさらわれたのか、あるいは家族があたしを捨てたのか―――あたしは『それ』を知る術を持たなかった。
只、ここがあたしの居場所では無いことは確かだった。

変な薬を飲まされ、鞭に打たれ、苦痛を伴う実験に振り回される毎日。
ここにいる人間達にとってあたしは、『人間』じゃなく、『実験動物』でしかないんだ―――あたしはそう思わざるを得なかった。
絶滅の中にいるあたしにとっての唯一の楽しみは、外の世界を想像する事だった。

―――太陽がある外の世界は、ここよりずっと明るいんだろうな。
―――色んなお花が咲いてるんだ。動物もたくさんいる。
―――どんな食べ物があるんだろう。


いつもそんな風に考えていた。

―――いつか、ここを出たい。ここを出て、外の世界で自由に生きたい。


いつしか、そんな願いを抱く様になった。
でもそんな願いが叶う日は一生来ない。
そう、思ってた。


『あの日』が来るまでは。

ある日の事だった。

「来い」
「……」

機械みたいな冷たい声。
時々、人間じゃないのではと思う。
あたしはそいつの後をついた。
そうしないと、鞭で打たれる。


「ここで横になれ」

そいつが指差した方向には、頭を置く部分をすっぽりと覆うように、コード等が繋がれたフィルターがついたベットがあった。
あたしはそいつの言うまま、ベットに横になった。

「よし、始めるぞ」
「はい」

そいつが別の人間に命令すると、その人間はレバーを押した。
その瞬間、あたしは猛烈な眠気に襲われた。


どれくらい経っただろうか。
その時だった。

「ッ!」

突然、頭が締め付けられる様な痛みに襲われた。
半端なものじゃない。

「ッ…うああぁぁぁああッッ!!!」

あたしは悲鳴を上げた。
このままじゃ―――死ぬ…!

「いやぁぁあぁあああぁあッ!!!!」


そして―――あたしの意識はそこで途切れた。



「チッ…死んだか」
「どうします?」
「仕方ない…捨てとけ」
「はい」

ガタッ

「?」

研究員は音がした方へ振り向いた。
そこにはベットに横たわるシノの遺体―――のはずだった。


シノは起き上がっていた。


「な…ッ!」

そいつがあたしを見て驚いた。
あたし自身も、生きている事に驚いていた。
でもすぐにこう思い直した。

―――こいつを殺すんだ。こいつを殺してここを出るんだ。

すぐさまあたしは行動を始めた。
と同時に、あたしの頭に何かが流れ込んできた。
そしてそれが『こいつを殺す為の知識』だと分かった。

―――即死させるには遠心力で首を引き裂く。

あたしの頭の中には、速い速度の走り方、遠心力を上手く使う方法等の知識が張り巡らされていた。

あたしは猛スピードでそいつに向かって走り、近付いた所で腰を回して遠心力を上げる。
そして―――首を引き裂いた。

あたしの顔に血が降りかかった。
あたしはそれを手で拭う。

「ひ…ッ!」

その光景に恐怖を感じた人間は逃げようとした、が―――。

あたしはそれを見逃さず、そいつの首も引き裂いた。

次にあたしはここを消そうと思った。

―――電力を限界まで上げて、液体をかければここは壊れる。

あたしはその知識に従い、近くのコンピュータマシンの電力を上げ、バイオ液をぶっかけた。
すると装置が煙を出しはじめた。
あたしはそれ見て、すぐここから逃げた。
それから数分後に後ろから爆発音が響いた―――。


『あの日』からどれくらいの時間が経ったのだろう。
多分、『あの日』から6年ぐらいは経ったかもしれない。
最初、外の世界に出れた時は嬉しかった。
けどその喜びはすぐに消えた。

生活の仕方も知らず、頼れる人もいない。

―――あの時とあまり変わってない。

あたしはまた絶望に呑まれた。


いつもの様に建物の路地裏にうずくまっていたある日、あたしの目の前に、一人の男の人が現れた。

「…誰?」
「ウスワイアの者だ」
「ウスワイア…?」

聞き慣れない言葉にあたしは首を傾げた。

「特殊能力者を保護する為の施設、それがウスワイアだ」
「特殊能力…」

『あの日』のあたしは、まさにその力を使っていた。
あたしは『死』によって生き返り、力を得た。

「それで、あたしを保護するの…?」
「そうだ」
「変な薬を飲ましたり、鞭で打ったり、実験させたりしない?酷い事、しない?」

あたしは思わずそう聞いた。
もう、あんな地獄は嫌だった。

「一般人の様に暮らすことは出来ないが、冷酷に扱う事はない。安心しろ」

その言葉を聞いたあたしは思わず、

「じゃあ、そこに連れてって」

と言った。
すると男の人はあたしに質問した。

「名前は何だ?」
「名前…」

気付いた時からあそこにいたあたしに名前なんてものは無い。
だがふと、脳裏にいつかの日に聞いた、親子の会話が浮かんだ。


―――お母さん、今日の晩御飯はなぁに?
―――今日は『シノ』ちゃんの好きなオムライスよ。
―――わぁ!嬉しいな!


『シノ』と呼ばれた女の子は、幸せそうに見えた。
その『シノ』はあたしに無いもの―――家族を持っていた。

あたしが一番、欲しかったもの。
居場所が見つかった今、もう過去に戻ることはない。
―――あたしも、『シノ』の様になれるかな。

『シノ』になりたい。
そう思ったあたしは質問にこう答えた。

「あたしは―――」


―――『シノ』。



作者 登場人物
十字メシア シノ

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最終更新:2013年06月12日 22:15