蒼崎 真衣は夢を見る。
同じ場所から始まって、同じ場所で終わる無限の輪廻を。
―――物心ついた時には、私の傍には一つ上の啓兄ちゃんしかいなかった。お父さんとお母さんは知らない。
啓兄ちゃんに聞いても、「知らない」というだけだったから。
周りの人に支えられて、私達は懸命に生きていた。啓兄ちゃんは、学校に生きながらアルバイトを重ねて生活を維持していた。
私には何もできないから、せめて負担にならないように、と家の中の手伝いをしていた。
大変だったけど、楽しかった。幸せだった。
こんな日々が続いて行くのだと、疑いもせずそう思っていた。
―――あの日、までは。
その日、私は啓兄ちゃんの代わりに買い物に行くことになった。
啓兄ちゃんは学校で行事があって遅くなるって言ったから。
『真衣、いつものスーパーで頼む』
「うん」
『……出来るだけ急いでくれ。なんだか、嫌な予感がするんだ」
「も~、啓兄ちゃんは心配しすぎだよ。いつも通る道だし、大丈夫だよ」
『そうか? ……そうだよな、きっと。でも、本当に気をつけろよ?』
「大丈夫、大丈夫。じゃあ、いってきま~す」
啓兄ちゃんはああ言ったけど、スーパーにつくまで何もなかった。頼まれたものを揃えて、エコバッグ片手に家に急いだ。
「わっ、雨降って来ちゃった」
傘を持って来なかったのが失敗だった。啓兄ちゃんの言うとおりだったなぁ、と後悔していた。
――――その時。
「……なるほどな。お前さんだったのかい」
「!?」
突然後ろから声をかけられた。振り返ったそこにいたのは、サングラスにスーツ、黒い短髪の男の人。
「だ、誰!?」
私の声には応えず、その人は言う。
「最近頻発してる『電気や水道の突然の停止』……お前の仕業だったのかい、真衣ちゃんよ」
「え……」
「『流れる』ものを操る、か。ようやく得心したぜ。……さて、詳しくは向こうで聞かせてもらおうか」
「何……嫌、嫌だよ! 私は家に帰るの!」
無機質な表情で、その人は言う。
「ダメだ。お前も俺達と同じ……」
「化け物、なんだからな」
――――頭が真っ白になる。私の前に、黒い鉄の塊が口を開けていた。
「最後通告だ。一緒に来いよ。……断れば、命は」
その先は聞けなかった。意識が凍りつく。そんな感覚と共に、私の世界は閉じた。
――――ウスワイヤのエージェント、
蒼井 聖は、この日、一人の能力者を「保護」した。
しかし、彼女は原因不明の昏睡状態に陥り、現在の所覚醒の目途はまったく立っていない。
真衣からの連絡がない事に気づいた啓介が、雨で濡れた道路に転がるエコバッグを見つけたのは、それから少し後のこと。
この後、彼は妹の姿を求めて彷徨い、そこにひとつの道を見るのだが……。
それはまだ、もう少し先の話。
――――蒼崎 真衣の時間は、止まっている。奇跡でもない限り、「流れる」ことはない。
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最終更新:2013年06月12日 22:16