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緑音ののかの発症

本当は独りぼっちは大嫌いだし、寂しいのもだいっきらいで。
でも、理由なんてわかんないけど
私は、独りぼっちです。

今日も学校に来て、独りぼっちになる。
お弁当も独りぼっち、授業の移動も独りぼっち。
私はきっとこの学校に存在してないんだ。
だから私は

「たまちゃーん…気分悪いから寝てもいい?」
「またですか?」
「…う、ご、ごめんね」
「仕方ないなあ、一時間だけですよ?」
「えへへ、ありがとー」

ちゃんと学校に来るんだけど、どうしても教室に居れなくて
保健室に逃げ込む毎日。
それでも一時間だけって言って許してくれる保険医のたまちゃん。
申し訳なくって、辛くって、ちょっとだけ泣きそうになった。

今日も一日が終わって、透明人間な私は誰にも声をかけられる事無く学校を出る。
何時ものことだけど、やっぱり、凄く、寂しい。
原因なんか分かるわけ無い、何か気に障る事をしたのかな。
毎日こうやって考えるけど答えは出なくって、心は冷たく凍って、沈んでいく。

「暗い顔して、どうしましたかお嬢さん」
「……わたし?」

顔を上げると、眼鏡をかけた背の高いお兄さんが居た。
何だか久しぶりに笑顔を見た気がして、きょとんしちゃった。
お兄さんは、ポケットからロープを取り出して私に見せる。

「こちら、種も仕掛けもないロープ」

ぎゅっと手首を縛って私に手を見せる。
手を動かすと、するりとロープが外れた。
鮮やか過ぎて私の口はふさがらな…恥ずかしい!今のなし!

「す、すっごおい!!」
「笑ってくれましたね」
「はれ?」
「その笑顔がお代です、せっかく可愛いお顔なのに」
「かかか可愛くないよ!そんなお兄さんは超絶イケメン!!」
「あはは、それは嬉しいな」

それからまた、少しだけ魔法みたいな手品を見せてくれて
私は久しぶりにたっくさん笑って、幸せな時間をすごして。
もうお兄さんに感謝感激!!世の中捨てたもんじゃないのかも。

「お兄さんほんとすっごいね!」
「そう?ありがとう」
「また見せてくれる?」
「そうだなあ、またココで出会えた時には喜んで」
「ホントに?じゃあまた会えるの楽しみにしてる!!」

小さな幸せを噛み締めながら、少しだけ軽くなった足取りでお家に帰った。
今日もお父さんもお母さんも居ないけど、
心の隅っこがあったかくて何時もより寂しくなかった。



  • 2-

次の日、まだ私の心には昨日の出来事があって、凍った心は少しだけ溶けて。
勿論変わらず学校では独りぼっちだったけど…。
お気に入りの曲をイヤホンから流しながら学校を出る。
また今日も会えたらいいな、そしたら氷は溶けていくのにな。

「………今日は寒いなあ」

はあ、と吐く息は白い。
そういえば天気予報で今日はすっごく寒くなるって言ってたっけ。
海沿いの帰り道は風が強くてびっくりするほど寒いけど。
でも、私はこの道が好きだから、首を縮めて歩いていく。

「緑音さん」
「え?」

後から聞こえた同級生の声に振り向くと同時に衝撃。
ふわりと体が浮く感覚、視界には暗い空が見えた。
落ちていく感覚、下卑た笑い声。
追いつかない頭で考えた、あ、私突き落とされた。
瞬間襲ってくる冷たい海水。

冷たい
怖い
寒い
怖い
寒い
冷たい
助けて
たすけて!!

消えていく意識の中で、叫んだ。



どくん、どくん

どくん


ドクン



目が覚めると、一面は氷。
光に反射してキラキラしてて、凄く綺麗だった。
冷たくない。
顔を上げると、私を突き落とした同級生が氷漬けになってた。
胸には大きくて尖ったツララが刺さってて
ああ、私がやったんだ、って。
何故かわからないけど、涙が止まらなかった。

あの冬の日からしばらくたって
私はいつもと違う帰り道を歩いてた。
海が凍った事件は少しの間ニュースになったけど
今はもう、別の事件に埋もれて、沢山の人の記憶からは消えちゃってるだろうなあ。
不思議な事にあれ以来、私の中の「冷たい」って機能は
無くなってしまったみたいに氷も雪も、空気と同じ温度に感じられて
これはきっと神様が忘れないようにって私の中に「ばってん」を残して行ったんだ。
ふう、と息を吐くと少しだけ雪が舞う。
神様が残した「ばってん」は、冷たいを無くしただけじゃなくって私の心も凍らせて行った。
今は、もう、透明人間のほうが楽だった。他の人に関わって欲しくなかった。
…また、またあの日みたいな事件を起こすのが、すっごく怖くて。
心も感情も体温も、全部凍ればいいってずっと願って。

今日も私は、独りぼっち。



私の心が溶け出すのは、もう少し先のお話。



作者 登場人物
樹アキ 緑音ののか玉置静流森山修斗

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最終更新:2013年06月14日 21:39