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都シスイの仕事

 都シスイの仕事1

 とある昼下がり。俺、都シスイは学校にいた。
 今は授業中。とは言っても自習で大体の生徒が先生に出された課題に取り組んでいる。
 かと言って、教室内で聞こえる物音が無機質な筆記用具の音だけなのかと言えば、そう言うわけじゃない。勉強出来る奴はさっさと課題を片付けてしまうし、そもそも課題をやる気の無い奴だっている。
 そう言う奴らは、思い思いの行動を取っている訳で。
「ちょっと! そこの男子、課題はどうしたのよ!」
 委員長が立ち上がり、教室の後方に固まって談笑していた男子数名を注意する。彼らは一斉に顔を上げた。
「けど委員長ー。俺ら課題終わっちまって暇なんだよ」
「暇だからと言って、自習中にお喋りしていい理由にはなんないでしょ!」
 再度注意され、その男子らはバツの悪そうな顔をしている。
(まぁ、自業自得って事で)
 そう思って、俺はため息をつく。
 あの男子グループは、一見すると自分勝手な事をしている様に見える。まぁ、実際そうなんだけど、「それだけ」かと言えばそうでなく。
 彼らが教室の後方に移動したのは、彼らなりにまだ課題に取り組んでいるクラスメイトを考えての事だ。声の音量だって、最初はヒソヒソとうるさくない程度だった。だから、委員長も「見逃して」いたんだ。
 けれども、ついつい話が盛り上がるにつれて、声も大きくなってしまった。まぁ、よくある話だけど、それでチラチラ気にしだす生徒も現れ始めた。だから委員長が声を上げたってわけだ。
 注意し終わると、委員長は自分の席につく。それから、まるで一仕事終えたかのように「はー」とため息をついた。本当は気が小さい人なのに、健気なものだ。
「コラー!!」
 その時、隣から女性の怒った声が聞こえた。声の主は、二年一組の担任教師、トモコ先生だ。
「一組、またお嬢を怒らせたみたいだねー」
「今度は何やってんだろ?」
 ついつい、課題に取り組んでいた生徒もそんな風に話始めてしまう。最初の頃は驚かされたりもしたけれど、今じゃすっかり慣れっこだ。
「いつも通り、マサカズがなんかやらかしたんじゃないか?」
「いや、ケイ君がからかったんじゃない?」
「もしかしたらユウキが……」
 そんな風に、誰がトモコ先生を怒らせたのかの予想を始める。
 教室がざわざわしてきた。委員長が深呼吸したから、そろそろ止めが入るぞ。
「はいはい、そこまで!」
 パンパンと手を叩き、騒がしくなりはじめたクラスを止める。ぴたっとすぐに止まるあたり、このクラスらしい。
「……平和だなー」
 どこにでもありふれた風景。平和そのものの光景。普通の人には退屈なだけかもしれないけど、この場所の空気は心地良い。
 と、そんな風に浸っていると。

『――空を流れるッ! 雲のようにッ!』

 突然、「赤碧の空」が流れ出す。音源は俺の鞄の中。クラス全員が、一斉に俺の方を見た。
「……シスイ君?」
「あは、あははは……ごめん。携帯マナーモードにしてなかった……」
 脂汗を拭いながら、俺は鞄から携帯電話を取り出し、ボタンを押して着メロを止める。
 どっと教室中が笑い声に包まれた。委員長まで笑ってる。
 俺は照れくさくて、ただ頭を掻く事しか出来なかった。



 都シスイの仕事2

 放課後、俺はメールの文面を確認する。
 アキヒロさんからだった。どうやら、仕事の話らしい。

『ストラウル跡地で重機械の駆動音を聞いた、と言う報告が相次いでいる。異変の前兆かもしれないから、一つ調べてみてくれ』

「またあそこかー……」
 ストラウル跡地。1997年、超技術開発団体「ストラウル」の基地があった場所で、基地壊滅時に周囲が巻き込まれゴーストタウンと化している。復旧が行われる見通しは無く無数の廃墟群が手付かずに残され、その様は無数の巨大な墓標が並んでいるかのよう。その不気味さから、好んで近付くような人間は滅多にいない。
 ウスワイヤの調査では安全性が確認されている。しかし、事件は絶えない。
 人無き後も、ストラウルの跡地は「アンバランスゾーン」だった。
 曰く、幽霊を見た。曰く、怪物を見た。そんな噂が絶えず飛び交っている。
 半分はただの見間違いだ。けど、残り半分は「本物」。公にはならないので結局残り半分の噂に混じって消滅していくが、それでも実際ここでは色々な出来事が起きる。
 バランスが壊れた場所、「アンバランスゾーン」。ここに常識は無い。
 そんな非常識な場所に入るのが、俺の仕事。アースセイバー所属調査員が俺の肩書きだ。
「やれやれ……どこから調べましょうかね」
 廃墟群を前に、俺は頭を掻く。中に入って異変の前兆を探す訳だが、こう広いとただ歩いて調査するのも楽ではない。
「機械の音がする、って話だったな……だったら、それらしい痕跡が何かある筈だ」
 そう思った俺は、跡地の奥を目指して走り出した。



 都シスイの仕事3

「……ビンゴ」
 走り出して、すぐにその痕跡は見つかった。
 走る車の無くなったアスファルト。その上に転がる無数のビルの破片。そして、それらを踏みしだいた巨大な足跡。
 本当に、巨大な足跡だった。一つでも俺の体を踏み潰すには十分な大きさだ。鉄筋コンクリート製の破片が踏み潰されているあたり、重量もかなりある。
「ロボットの足跡か、その辺か……」
 機動兵器……その単語が頭に浮かぶと、連鎖で別の単語が自然と浮かんでくる。
ホウオウ、グループ……」
 アキヒロさんやケイイチさんが幾度と無く挑み、その度に打ち倒してきた組織。鳳凰の名の如く、何度でも蘇る存在。
 これは、ホウオウグループ復活の予兆なのか……いや、そう判断するのはまだ早い。この足跡の主が、ホウオウグループに関係すると決まったわけじゃないんだから。
「――うわっ!?」
 その時、足元が大きく揺れた。地震か、と思ったが、そうじゃない。ズシン、ズシンと、鈍重で巨大な足音が、こちらに向かって近付いて来る。
「う、うわ……うわわ……」
 揺れのせいで、俺はその場からうまく動けない。止むえず背を低め、足音の主が現れるのは待つ。
 そうして姿を現したのは、全長十メートルはある巨大な人型のロボットだった。
 廃墟のビルと同じ位はありそうな、巨大なロボット。ほとんど人間の形をしているが、頭部の部分はまるで鎧武者の兜に似ていて、カメラアイは一つしかない、所謂モノアイ(単眼)だった。
「あ、あれは……!?」
 俺の姿を見つけたロボットが、こちらに向かって近付いて来る。その胸の部分に、見覚えのあるマークが刻まれていた。アルファベットのHとOを組み合わせたエンブレム。資料でしか見た事が無かったが、それは間違いなくホウオウグループのシンボルだった。
「ホウオウグループのものだと分かれば……」
 俺は、俺の持つ特殊能力「天子麒麟」を発動した。瞳の色が黒から赤へと変色し、全身が金色のオーラに包まれる。「天子麒麟」の特性である強化効果が、全身に張り巡らされた。
「生体反応無し……無人の機械か!」



 都シスイの仕事4

 ロボットが拳を振り落としてきた。俺は跳躍し、その攻撃を避ける。そのままの流れで、俺は近くのビルの窓に飛び込んだ。
「く……問答無用かよ!」
 ロボットは首を回してすぐに俺の姿を認めると、再び向かってくる。コンクリートの外壁や柱を薙ぎ倒しながら、中にいる俺を押し潰そうとしてきた。
 身の危険を感じた俺は、窓から飛び出して隣のビルに移る。振り返ると、今まで俺のいたビルがガラガラと音を立てながら瓦礫に変わっていくところだった。
「野郎!」
 やられっぱなしは性に合わない。俺はビルから飛び出すと、瓦礫の中に立っているロボット目掛けて跳び蹴りを放った。蹴りはロボットの胸に命中し、その衝撃で相手はたたらを踏んだが、装甲が分厚くそんなに効いているようではない。
「くっそ。こっちは一発でも当たったら危ない、ってのに!」
 お返しとばかりに突き出されたロボの拳が、地面を抉った。飛び散った破片さえも俺に襲い掛かってくる。
 俺はロボの攻撃から逃げ回りつつ、隙を見て攻撃を繰り返す。だが一向に手応えは無く、ただ悪戯に体力を消耗するだけだ。
「ハァ……ハァ……ぐ……」
 瓦礫の陰に身を隠し、俺は呼吸を整えていた。
 正直キツイ。勝てる気がしない。
 不安と焦りが、俺を弱気にする。
「どうすればいいんだ、どうすれば……」
 このまま攻撃を続けても、相手に通用しない以上ジリ貧だ。体力が尽きたところを捕まり、俺はロボの餌食になる。
 全身が揺れた。ズシンという足音共に、俺の方にロボが近付いて来る。
 さっきまでは全然怖くなかった。だが、それは「勝てる」と思っていたからだ。勝ち目が見出せない今、ロボは俺にとって恐るべき相手になっていた。
「助けてくれ、ケイイチさん……」
 弱気のあまり、俺は俺が尊敬する人の名前を呟いてしまう。そんな事をしても、あの人が助けに来てくれるなんて都合の良い事は起きないのに。
『諦めるな』
「!」
 その時、俺の脳裏にケイイチさんの言葉が蘇った。
『どんなに小さなヒントでも可能性を信じて諦めない。それが、「勝てない敵を作らない」方法なんだ』
 かつてケイイチさんが俺の訓練に付き合ってくれた時、俺に教えてくれた強さの秘訣だ。
「そうだ……諦めちまったら、そこでゲームオーバーだ……諦めない限り、俺はまだ負けていない!」
 呼吸が整い、俺はロボの姿を睨み付ける。
 どんなに優れた物でも、完璧なモノなんてこの世には存在しない。絶対に、どこかに劣っている部分がある筈なんだ。
「どこだ……奴の弱点は一体……」
 ロボが俺の姿に気付き、近付いて来る。しかし俺はそこから逃げず、ジッと目を凝らして奴の弱点を探す。
「どこだ……どこだ……」
 ズン、ズン。音と揺れが大きくなり、ロボが更に近付く。ロボが拳を振り上げた。
「う――!!」
 ギリギリまで粘り、俺はロボの姿を観察し続けた。しかしその結果、ロボの拳を避けきれずに衝撃波を食らってしまった。俺の体は吹っ飛ばされ、射線上にあったビルの外壁に叩きつけられる。
「う、あ……」
 痛い。全身に激痛が走る。視界が明滅し、意識が遠のきそうになる。
「ふ……うっ……」
 体に鞭を打って立たせる。これ位の怪我、「麒麟」の力ですぐに治せる。弱気になるな、俺!
 まだ俺が死んでいない事に気付き、再びロボが近付いて来る。今度食らえば、俺はもう二度と立ち上がれないだろう。
「だけど……お前の弱点は見つけたぞ!」



 都シスイの仕事5

ロボが拳を振り下ろす。その一撃一撃が、まるで一トントラックが衝突してきたみたいだ。向かってくる拳を前に、全身が総毛立つ。
 しかし、今度は完全に避けきった。それだけじゃなく、俺はその腕を足場にロボの上を駆け上がっていく。
 辿り着いたのはロボの肩の上。ロボが俺の姿に気付いて反対の腕で振り落とそうとするが、もう遅い。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 俺は両腕をロボの肩間接の隙間に両腕を突っ込み、左右に引いた。すると、間接部分にある配線が引きちぎれ、バチバチと音を立てながら火花を散らせた。
「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 更に力を込めると、ロボのモノアイが明滅し、痙攣を起こすように動きが一瞬止まる。そしてついに、メキメキと音を立てながらロボの右腕は引き剥がれた。
 俺が地面に降りると、胴体から離れた右腕が大きな音を立てて落ちた。振り返ると、ロボが数歩後ずさっている。その様子はまるで、痛みに苦しがっているかのようだ。
 どんなに装甲が硬くても、関節部分までは頑丈に出来るわけじゃない。これは人間だって同じだ。どんなに体を鍛えても、間接は万人共通の弱点なんだ。
「終わりだ、ブリキ頭!」
 俺はロボに飛び掛る。奴の腕を引き剥がして配線がむき出しになった部分に手を突っ込むと、俺は「天子麒麟」の力をそこから思いっきり流し込んだ。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 ロボの全身が発光した。間接中から火花が飛び散り、モノアイがバン! と言う音と共に弾け飛ぶ。ロボを動かしていたエネルギーが「天子麒麟」の力で無理矢理強化され、その結果暴走した力が奴の体の中で暴れまわっているのだ。
 時間にして、数秒の出来事だった。全身から煙を上げながら、ロボはその場に崩れ落ちる。力を全力で使用した俺はすぐには動けず、ロボが倒れた衝撃でその場から投げ出された。
「っ……痛ぁ……」
 仰向けに寝転がり、痛みの広がる場所に手を当てる。見ると、転がった時に切ったのか、それともロボの拳で吹き飛ばされた時血が出たのか、ぬるっと赤い液体が手を赤く染めていた。
「……痛っえ……」
 もう一度、俺は呟いた。
 この仕事は痛い。今回は格別だったけど、今までだってこんな出来事に俺は何度も挑んでいる。今日より重傷を負った事もあるし、死にかけた事だってある。
 でも、俺はこの仕事が出来て嬉しいし誇らしい。
 目を閉じれば、脳裏に浮かぶのは学校の光景だ。非常識とは無縁な、あったかい日溜りがそこにある。
 あそこをぶっ壊されるなんて、俺は嫌だ。俺が今感じている痛みを、他の誰かが味わうのだって嫌だ。
 俺だけが痛い思いをすれば、無関係な人達は守られるんだ。
 そう思うと、何だか嬉しくて、気が付くと俺の口元に自然と笑みが浮かんでいた。



 超常現象、怪事件の予兆を感じ取り、それが公になる前に解決する。
 それがアースセイバー調査員、俺、都シスイの使命。
 今日も俺は戦う。
 人知れず、非常識な場所で。




作者 登場人物
akiyakan 都シスイ

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最終更新:2013年06月14日 21:41