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仕立屋、魔術師を案ず

「…そうか、美琴は今日も休みだったか」
「はい…」

美琴の騒動から数日。
夕陽は仕立て屋のアルバイトであるタチと共に、縁側で休憩をしていた。
世間話から話が弾み、タチの学校での出来事から、今は美琴の話になっている。

「まあ、美琴も思うところがあるのじゃろ。
それに、一度不埒な輩に狙われてもおる。そやつらの手から逃れるためにも、しばらく大人しくしておいたほうが良かろうて」

不埒な輩、とは、ヴァイスのことである。
結局一度も出会うことはなかったが、夕陽はヴァイスがこの騒動の発端なのだろうと感じていた。

(美琴は素直で物事を信じやすいとはいえ、自分に不都合な内容は受け入れがたいと思うたのじゃが……美琴がそれほど素直だったか、あるいはヴァイスとやらは酷く話術に長けているのやもしれぬのう)
「…夕陽殿…」
「……む?どうした、タチ」
「…我輩は、どうすればよかったのでございましょうか…」
「…………」

その呟きには答えず、湯飲みの中の茶を一口すすると、一息つく。

「どうすればよかったか、など、今となっては誰にも分からんよ。仮に分かったところで、過ぎたことは変えられんからのう」
「夕陽殿…」
「しかしなぁ、タチよ。これで終わってしもうたわけではなかろう?これからのことは行動しだいでどんな結果にもなるじゃろうて」

そっとタチの頭に手を置き、ぽんと軽く撫でる。

「主が今すべきことは、終わったことをああすればよかった、こうすればよかったと思い返すことではない。これから何をするか、考えることじゃよ。
そうじゃな、まずは…美琴が戻ってきたら、今までと同じように接することじゃ」
「……それは、もちろんです。…でも、それでよろしいのでございますか?」
「勿論。特別なことよりも、身近な行動のほうが分かりやすいもんじゃ。己にとっても、相手にとってものう。
それに、今まで仲良うしてきた友の態度が急に変わることほど、辛いことはなかろうて」
「………はい!」

何かを察したらしいタチが、その言葉に元気良く返事をして頷く。
それに夕陽も笑って頷き、ふと何か思い出したように瞬きした。

「……ああ、タチや。すまぬが、ちぃと頼みがある」
「はい、何でございましょうか?」
「美琴が学校へ来るようになったら、こちらへ連れてきてはもらえぬかのう」
「?はい…何故でございますか?」

不思議そうにタチが聞き返すと、夕陽は軽く照れたように頬をかいた。

「…先日、余裕がなかったとはいえ、美琴を止めるために強く引っ叩いてしもうてのう。謝罪をいれたいのじゃよ。
本来我が出向いてきちんと言うべきなのであろうが、我は美琴の家を知らんでのう。学校付近で待ち伏せても良いのじゃが、それじゃといつ出会えるか分からぬ上に、この格好では変に目立ってしまいかねん。
かといって男の格好をしておれば我と分かってもらえぬやもしれぬからのう…」

ふむ、とあごを撫でながら思案する様子に、タチはくすりと笑った。

「…大丈夫です、夕陽殿。我輩が責任を持って連れてきます」
「うむ、そうか。よろしく頼んだぞ」


仕立屋、魔術師を案ず


ちりん ちりりん
「……む?誰ぞ客が来たようじゃの。タチ、母を呼んでくれぬか。
我は客を出迎えてこようぞ」
「はい!」

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最終更新:2012年08月06日 14:33