気が付くと、夢を見ていた。
モノクロの視界に映るのは、ベッドの上で身を起こす黒髪の少女と、よく知っている真っ白な髪の少女。
――――UHラボから逃げ出した火波 綾音と水波 大悟は、
紆余曲折を経て白波家に保護されていた。
だが、家長のシドウが突如として姿を消し、家にいた青い妖狐・
アズールも消え、一人娘のブランカは体調を大きく崩して入院を余儀なくされた。
足繁く見舞に通っていた二人だが、程なくして「ウスワイヤ」という組織にランカ共々連れて行かれた。
そこで知った事実――――「特殊能力」。常人にあらざる力を持ってしまった者、その一人であることを知らされた。
精神面に爆弾を抱えていた綾音、戦闘力0以下のランカは収容が見送られ、その代りとして大悟のみがアースセイバーへと所属することを決めた。
そして二人は、実験体であった頃の、即ち本来の名を捨て、新たな名を名乗った。
実験を経て精神を破壊され、今生まれ変わった綾音は「スザク」に。大悟自身は、何かを護れる己であろうと「ゲンブ」に。
それから数日経った、ある時のことだ。
「ランカに偽名ぃぃ~?」
一般の病院に移されたランカの見舞いに来ていたスザクの前でゲンブが提案したのは、ランカにも何かしら偽名、というかカモフラージュの名がいるのではないか、ということだった。
「俺達がこの名を名乗っているのは、例の施設からの追手に対するかく乱の意味合いが強い。であるならば、アースセイバーの面々はともかく、俺達とかかわりの深いランカにもその手の名前がいるのではないか、という話だ」
「……わからなくもないけどさ……」
ちなみに、スザクが後の戦友・
都シスイと出会うのはもう少し先。後の恋人(?)・トキコと関わるのはさらに先の話である。
「というわけで、だ」
ゲンブが言い出そうとして、
「ランカの偽名はだな……」
「却下だ」
スザクがあっさり制した。
「……まだ何も」
「却下だ」
またしても。
「人の話を」
「却下だァァァァッ!!」
叫ばれた。
「……スザク。何のつもりだ」
「どうせお前の事だ。ビャッコとかつけるつもりだろ?」
「その通りだが?」
「却下、却下、大却下だあああ!! そんな名前、誰が認めるか!!」
「スザク、一つ言っておくぞ」
胡乱な眼を向けるスザクに、ゲンブは落ち着き払って言う。
「大却下などという言葉はない。残念だったn」
「そういう問題じゃなぁぁぁぁいっ!!」
ほとんど絶叫に等しい声で、スザクは反対を表明する。
「……なぜそこまで反対する」
「僕の台詞だ!! 何でそこまで偽名に拘る!?」
「さっき言ったはずだが」
「違うね、あれは後付けだ。施設の追手がどうのこうの言うなら、そもそもランカを病院に移す必要はない。本気で警戒するならあのままウスワイヤに入れておけばいい」
「む……」
「さあ本音を答えろ、ゲンブ。何のつもりだ?」
一息おいて、ゲンブは言う。
「―――俺達がこうして偽名を名乗る以上、連帯の意味でもランカにも」
「黙れこのドン亀!!」
ついに名前を呼ばなくなったスザクである。
「ど、ドン亀だと!?」
「それって要するに、『俺達だけじゃ面白くないからランカも引っ張り込もう』って話じゃないか!!」
「その通りだ。それの何が悪い」
「開き直るな、亀!!」
ドン亀ですらなくなった。
「な――――」
「前々から思ってたけどな、お前実は面白がってるだけだろ?」
「境遇がこうだからな。少しくらいは遊びがなくてはやってられん」
「だからってランカを巻き込むのは反対だ! 僕らのこの名前は『今までの自分を捨てる』意味だろ? ランカにもそうさせる気か!?」
「いや、何というかニックネームのような」
「『ランカ』で十分だ!! もうお前は黙ってろ!!」
「そ―――」
「黙ってろって言っただろうが!!」
捲し立てるスザクにさすがのゲンブも苛立ちを覚え、口論に発展する。
そんな二人が看護師につまみ出されるのに、そう時間はかからなかった。
ランカと偽名と迷コンビ
(ちなみに)
(この提案に対するランカ当人の意見は)
「やだ!」
(の一言だったらしい)
最終更新:2012年08月21日 23:21