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残された者たち

「……今頃、アンさんは目的の場所へ着いたのかしら」
「ええ、きっと。寄り道をするような人じゃないし…できるような状況でもなさそうだしね」
「…それもそうね」

アンとブラウが情報屋を出て、しばらく経った。
紅と京は、先程と同じように、ローテーブルを挟んで向かい合って座っている。
アーサーもパペットを抱いたまま何も話さず、静かな空気だけが流れている。

「……………」
「…あの人の話を考えているの?」
「!」

沈黙を最初に破ったのは、京のほうだった。
突然の京の言葉に、伏せられていた紅の目が驚いたように開かれる。

「……そうね」

去り際に告げられた、ブラウの言葉。
「ハヅルを襲った人物が、紅の縁者である」という内容。

ハヅルが戦った人物がどのような相手であるかも分からない今、彼の言葉にどのぐらいの信憑性があるのかは分からない。
しかし、その言葉が嘘やハッタリであるとは、紅には思えなかった。

「……。ねえ、紅さん。聞いてもいいかしら」
「ええ、どうぞ」
「…その、あなたに縁のある人…だったかしら。あなたが情報屋をやっているのって、その人に関係が?」
「………………」

考え込むようなしぐさの後、やや間があって紅が口を開いた。

「……その人か、どうかは分からない。けれど、私は人を探している。そのために情報屋になったの」

そして、何か言われる前にそっと人差し指を口元に当てる。

「…これ以上は、言えないわ。情報屋の端くれとして、個人情報をあまり無闇に話すわけには、ね」
「……そう。ごめんなさい」
「いいえ、こちらこそ」

そこで、会話は途切れた。
また少し、沈黙が訪れる。


そのとき、今まで黙っていたアーサーが口を開いた。

『…ベニー姉さん』
「ん?何かしら、アーサー?」
『…あの人の言うこと、信じるの?』
「…………。100%信用するわけではないけれど…頭から全て否定することもできないわ」
『…そうなんだ…』
「…どうしたの?」
『…怖いんだ』

そう小さな声で言い、俯く。
パペットを持っていないほうの手は、膝の上でぎゅっと握られていた。

『よく分かんない、わかんないけど…あの人、何かとても怖いものを見ている気がするんだ』
「…それは、アーサーの勘かしら?」
『うん…やな感じがする。僕、ベニー姉さんが怖い目にあうの、いやだよ』

アーサー一家と近所づきあいの深かった紅は、アーサーがこの手の勘に鋭いことを知っている。
彼女の“嫌な予感”は、昔からよく当たる。故に、この言葉を考えすぎだと笑い飛ばすことはできなかった。

「…分かったわ。私も気をつける。だから安心して」
『うん…。京姉さんもね。気をつけてね。怖いの、いやだから』
「え、ええ。大丈夫よ」

突然話を振られて驚いたものの、京も頷く。
その様子を見て、やっとアーサーも安心したようだった。

『……ありがとう』


残された者たち


(でも、やっぱり怖いよ)
(どうしてだろう)

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最終更新:2012年12月31日 22:56