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調教師とグリフォン:語り

「UHラボ?」

 その単語を耳にして、花丸は首を傾げた。

「何で今更、そんな単語が出てくるんですか? あそこって確か、もう潰れちゃったんじゃ……」
「正確には『潰した』ですけどねぇ。クロウの旦那が」
「そうです。僕もそう聞いてたんですけど……」
「何か、最近生き返ったらしいですぜ、連中」

 そう言って、イマは肩を竦めた。

「生き返った?」
「つい此間、街中にレギオンが出て大騒ぎになったでしょう? あれをやったのが、どうやらUHラボの残党らしいってのがウチの頭(カシラ)の話なんですよ」
「ああ、あれか……」

 その時の事を思い出すように、花丸は呟いた。

 深夜、街中に出現した膨大な数の人工亡霊。それらはすべて規格のものとは異なっており、体内に毒ガスを内包した物や、複数体が合体する機能を有した物などだったと言う。

 偶然花丸はその現場に居合わせており、その時の事はよく覚えていた。一瞬、自分には知らされていないホウオウグループの作戦でも始まったものだと思い、思わず千年王国の仲間に連絡を取ったくらいだ。

「あんな大掛かりな事するの、ジングウさんぐらいだと思ってた」
「そうそう。それで頭、クロウの旦那に詰問されたらしいですよ。『またなのか』って」

 両手の人差し指を鬼の角の様に頭に突き立てながら、イマは言う。それを聞いて、思わず花丸は苦笑を浮かべた。確かに、部下である自分ですらそう思ったのだ。ジングウを目の敵にしているであろう、クロウは真っ先に疑うに違いない。今回は濡れ衣だった訳だが、まぁ日頃の行いが悪いので同情はしない。

「頭自身、こんな作戦を取ったのは自分に濡れ衣を着せる気満々だったからだ、って言ってましたねー。ホウオウグループはともかく、アースセイバーやらその辺は、とっくの昔に滅びた研究所なんて眼中に無いだろうから、って」
「……それって、何だかおかしくないですか?」
「何で?」
「前聞いた事があるんですけど、UHラボって確か、ホウオウグループに入れなかった人達が、再起をかけて集まった組織だったんですよね? それなのに、自分達が戻りたいと思っている組織に罪をなすりつけるなんて……」
「そりゃ、戻るつもりなんて無いんだろうさ」
「え?」
「頭が言ってましたよ。もう奴らにとっては、ホウオウグループは重要でもないんだろうって。何かしら、ホウオウグループに敵対出来るだけの手段や力を手に入れたんじゃないかって、頭は見ているみたいですね……それに連中、クロウの旦那に潰されてますからね。再起しようと頑張ってたのにそんな事されたら、そりゃあ恨みますよ」
「…………」

 果たして、彼らは何を思ってUHラボを造り、ホウオウグループへと返り咲こうと思ったのだろうか。花丸には分からない。彼の場合は、その能力を買われて孤児院から引き取られ、なし崩し的にグループの所属になった。最初こそ、ただいるだけだったが、それでも長く居続ければ立派な居場所となる。それに今の彼には、人ではないが、生物兵器と言う仲間がいるのだから。

 だがそれでも、立場が違っても。UHラボにいた人々の失望は、それなりに理解出来た。

 自分達が目指していたもの。自分達の理想。それそれそのものに手を振り払われ、捨てられた。それは確かに辛いだろう。

「使えないなら捨てる。頭とは違う発想ですよねー」

 ジングウの場合、「使えないなら使えるようにする」、だ。不要な物さえ磨き、或いはそれを補う物を付け加える。労力で言ったら、切り捨てる方が合理的だ。しかし、ジングウはそうしない。使えない物さえ資源と化し、自らの力に加える。失敗した時のリスクは大きいが、あの男には「失敗」と言う単語は存在していない。否、それは錯覚だ――失敗さえ塗り潰して前に進む程、ジングウの行動力が突出しているのだ。合理性もへったくれもない、とんでもないパワープレイである。

「そういや、UHラボって頭が造らせたらしいですよ」
「え、そうなんですか?」

 意外な事実を聞かされ、しかし心のどこかで納得していた。確かに、彼がやりそうな事ではある。

「何でも、グループから弾き出された研究員何人か見繕って、場所と創設資金だけ頭が提供したらしいです。後は丸投げして」
「へぇ……でも、何だってそんな事を?」
「んー……いや、ちょっと考えれば分かるでしょう?」

 にひひ、とイマは意地悪そうな笑みを浮かべる。千年王国の合言葉、「想像力を働かせろ」と言いたいらしい。

 が、これ位なら、想像力を働かせるまでもない。ジングウと関わっていれば、その人となりは何と分かってくる。要はあの男は、グループから落とされた者達にチャンスをあげたかったのだ。

『芽が出ない花なんてありませんよ、生きている限りはね。問題は育て方です。案外セオリーだと思われている手段でなく、思いっきり奇をてらった育て方をしたら咲く花も、世の中にはあると私は思うのですよ』

 いつぞや、ジングウが言っていた言葉だ。

 ジングウは人でなしそのものだが、その一方で人間が誰しも持っている可能性や資質を誰よりも信じている。「死んだらそこまで」と割り切る一方で、「生きているのだからそれが芽吹くまで待ちましょう」と言う懐の大きさがある。究極的な意味での能力主義者で搾取主義者だ。あの男にしてみれば、人類すべてが「使える物」なのだろう。

「まぁある意味、そのラボがクロウの旦那に潰されたのはそれらしいと言えばらしいっすね」
「そうですねー」

 全体主義でホウオウグループが掲げる合理性を重視するクロウと、個人主義で独自の価値観によって行動するジングウ。二人はまさに対極で水と油。ジングウが創設に関わった施設をクロウが潰したと言うのは、そんな二人の分かりやすい構図であるように思えた。






「そう言えば頭が、近い内に嵐が来るって言ってましたよ」
「嵐……って事は、」
「そうっすね。頭の大好きな戦いが起こる、って事ですねー」

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最終更新:2013年05月17日 13:42