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運命交差点・推

京とアンがアーサーに付き添って救急車に乗り、その場を離れてからしばらく。
誰もいなくなった情報屋に、人影が入り込む。

「あーららら……こーりゃまたひーどい有様だねぇ」

奇妙に間延びした口調の男……赤銅 理人。いかせのごれ各地を放浪する変人であり、触れた物質に任意あるいは無作為に能力を付与する、という厄介極まりない特殊能力を備えており、アースセイバー・ホウオウグループの双方から「ハーメルン」のコードで登録されている要注意人物でもある。

そんな理人が此処にやって来たのは、全くの偶然からだった。いつもの如く気ままに歩いていた彼は、少し前にこの情報屋の前を通り過ぎたのだが、視界から消えて程なく銃声と騒音が聞こえたのだ。何が起きたのかと様子を伺っていると、研究者風の男が赤い髪の少年を連れ、何事か言いながら理人とは反対の方向へ消えて行ったのだ。

緊急事態と飛び出しかけたところに、今度は別の女性二人が現れ、救急車で運ばれた何人かに付き添って去って行った。

人の気配が消えたところで、ようやく理人は姿を現し、情報屋の中に入り込んだのだが、

「……うーわー、なーんだこりゃ。まーさに惨状だ」

そこら中に血痕と弾痕が残り、家具や調度品が破壊され、ひっくり返され、まさに惨状としか形容のしようがない有様だった。理人はこの情報屋に来たことはないが、さすがに襲撃があっただろうことは一目瞭然だった。
と、

「ん?」

足元に何かを見つけた。拾い上げてみると、それは無残にもズタズタにされたパペットだった。腹話術か何かに使うモノらしいが、そんなモノがなぜ情報屋にあるのか?

「……なーんだこりゃ」

興味をなくして放り捨てそうになったが、寸前で思いとどまった。あることを思い付いたからだ。

「おーぉっと、そうだ。コイツに聞いてみよーかね」

言うや、理人は背負っていたナップサックから器用に一本の針を取り出し、パペットに突き刺す。瞬間、針が凄まじい速度で縦横無尽に動き、数秒後にはパペットが元通りに修復されていた。そのパペットを手に嵌め、理人は反対の手でヘッドホンをつける。

「さーて……まーずは、君の名前を教えてもらおうかーね」

パペットは何も反応を返さなかったが、理人はまるで返事が聞こえたかのように頷く。

「ふーむふむ、ロッギー君ね。でーはロッギー君、ここで何が起ーきたのかね?」

今度は数十秒、沈黙が流れる。それを破ったのは、やはり理人の声だった。

「……あわー、そーりゃ大事だー」

口調は全然そうとは聞こえないが、ロッギーから事態のあらましを「聞いた」理人は内心、かなり慌てていた。
ロッギーの「言った」ことが正しければ、ここを襲ったのはUHラボの関係者、しかもかなり危険な部類だ。あの施設の危なさは理人自身もよく知っていたが、まさかここに来て関わりが出来るとは思わなかった。


「やーれやれ、どーしたもーのかね? こーこまで関わって放り出ーすわけにもいかんし」

何だかんだ言って、一度首を突っ込むと放っておけないのがこの男の性格である。幸いと言うか、何が起きてもとりあえず対処できるだけの用意はしてあるし、なければないで現地調達が利く。

「とーりあえずは、あの救急車ーを追いかけてみーるかね」

言って、ロッギーを手に嵌めたまま外に出る理人。



「その件、私も咬ませてもらうけど、いいわね」


そんな彼の前に、一人の女性が現れていた。夜闇の中でもなお黒い長髪と、瞳。片手で眼鏡を弄ぶ、Gパン姿の彼女。
普段ツバメのアシスタントに奔走している、昼間の姿はどこにもない。彼女を、理人は知っていた。

「おんやー……久しぶりだーね、雨里さん」
「フフ……そうね、何年ぶりかしら?」

女性―――絵本作家・一之瀬ツバメのアシスタントたる夜見 雨里は、不敵に笑ってその挨拶を受けた。


「しかーし、相変わらず表と裏の激しいことで」
「前に言ったでしょ? 私はあくまで私、あの子はあの子。違って当然よ」

言い含めるようにはっきりと述べる雨里に対し、理人は表面上は変わらず受け答える。

「はーいはい。まーそれより、状況は把握しーてます?」
「大よそはね。それより、行くなら急いだ方がいいんじゃない? この子もいるし」
「へ?」

言われて雨里の横を見ると、まるで色が抜けたかのような白い髪とリボンが印象的な、無表情の少女が佇んでいた。

「こーの子は?」
「ポリトワルサーカスの団員よ。何だか迷子になったみたいで……送ろうにも時間が遅いから、ひとまずここに預けようと思って」
「何でそーんな結論に……そーりゃ、三鷹先生はたーまにここに来ーますから、顔が多少利ーくのはわかりまーすけど」
「すぐに頼れるのがここだったのよ。……ま、こんな状況では無理みたいだし、状況知ってからこの子も何だかやる気みたいだし」
「時間僅少。拙速推奨」

その少女が、抑揚のない口調で「行くなら急げ」と急かす。言われた雨里は会話を打ち切り、

「……そうね。理人、こっちへ」
「んー」

右手で少女の、左手で理人の手を取る。

「病院の近くまで跳んで、そこからは普通にいくわよ。夜とは言え、一般人に見られたらコトよ」

二人が頷いた直後、彼女らの姿は文字通り掻き消えていた。



運命交差点・推

(交錯する事象)
(未だ見えぬ一線)
(次なる運命は、いかに)

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最終更新:2013年05月21日 17:38