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妖怪主治医、戦線復帰

目の前に座る客人・薬師寺院 千郷は未だ黙りこくっている。
涙で潤んだ瞳の前に手製のジュースをおいても、それに手をつけようとしない。
幹久朗は一つ溜息をついて千郷の目の前に座った。
そっとそばに寄りそうアカノミの頭をなで、彼は声をかける。

「まだへこんでるのかよお前は。」
「…」
「ありゃお前のせいじゃなかったんだ。仕方のないことだったんだ。」
「僕の…僕のせいで…」

よほど先日の出来事がショックだったのだろう。彼は聞く耳すらかさない。
キリの消失に加え、ミサキの叱咤も響いているようだった。
幹久朗はもう一つ溜息を吐くと、少し前にのめりこんだ。

「千郷、思い出すのも辛いかもしれないが、もう一度、その時のことを正確に話してくれないか。」
「…分かった…。」
千郷は覚えてる分だけ、できるだけ正確に状況を話す。
前と同じように途中から涙を流し、つっかえながら。
一通り聞き終えたところで幹久朗は腕を組み、頭をそらした。

「千郷、こっからは俺の見解だ。別に本気にしてもらわなくていい。」
幹久朗はそう前置きし、結論をまず、率直にぶつけた。

「キリは、最初からお前の為に死ぬつもりだったんじゃないか?」

「…え?」
千郷は素っ頓狂な声を上げる。まぁ、無理もないと幹久朗は続ける。
「だって妙だろ、お前の言う結界の『位置』が」

「仮に結界を張ったのが第三者、しかも千郷ないしキリの敵だったとする。今、千郷がキリを治療しようと近づいたとして、千郷、お前がもし敵の立場ならどうしたい?」
「治療を阻止…するだろうね。」
「そう、つまり千郷を近づけないよう、キリにのみ結界を張るはずだ。」
「…確かに、僕を巻き込むのはおかしいね…。」

「千郷に逃げられないようにした。こう考えてもおかしい。外部から手出しができないだろうし、キリの消滅後に結界は解除されている。」
「じゃあ、敵である第三者が結界を張る意味はない。」
「次に第三者が味方である場合だが、これはお前自身ありえないことに気づいてるだろう。」
「…うん。味方であるならキリの治療を優先させたはず。『メスが錆びる幻覚』を見せる意味がない。」
一つずつ整理しているはずなのに、頭の中が混乱するようで千郷は顔をしかめる。
「…でも、そうするメリットはキリ君にもないんじゃ…?」

「こっからは俺の想像なんだけどよ。」
幹久朗は手を組んで再び前にのめる。
「キリが相手取っていたのはおそらく件の人外狩りだ。獲物がナイフで、単独だったとはいえキリ程の奴をやれるなら数が絞られる。」
「うん、そうじゃないかと僕も思う。」
「もしさ、お前が来た段階で近くに奴がいたら?」
「…奴からみれば僕も人外だ。間違いなく攻撃対象に…あ。」

「そう、お前が来た時、近くに奴はいた。妖怪主治医であり『第二の主』と称されているお前を、キリは結界を利用して守ったんだ。」
「じゃあ、じゃあメスはどう説明するんだ!」
「…おそらく自分でなんとなく悟っていたんだろう。自分はもう長くないと。」
「そんな…!」

「治療しても助からない自分を無駄に治療し、千郷が時間をロスして逃げる暇を失うことはしたくなかった。だから暗に自分の治療を諦めろと言っていたんだ。」
結果として茫然自失のお前に逃げるも何もなかったんだろうけどな。皮肉なもんだ。と、幹久朗は呟いた。
「…ということは僕はキリ君を救おうとして、助けられたの…?」
「あくまで推測だ。真意は本人に聞かなきゃわからないがな。」

見えていなかった事実の新たな側面が垣間見え、千郷はまた涙をこぼしそうになる。
だが、幹久朗は立ち上がると、乱暴に千郷の顔にタオルを押しつけた。
「泣いてる暇があったら先を見やがれ。お前も長生きとはいえ、俺ほど生きてはいないだろう。」
幹久朗さん…。」
「生きてりゃなぁ、辛い別れなんざ山ほどあるんだよ。それでも前に進むことは余儀なくされんだ。」

「だったら前向いて先見ようぜ。別れを忘れんなとはいわねぇが、いつまでも引きずるな。」

「当面はキリの復活に力を注ぐことになる。お前の力も必要だ。いいな?」
千郷はしばらくうつむいていたが、やがてタオルをとると幹久朗に頷いた。
「うん。僕に出来ることがあれば、何でもする。」
「よく言った。」
幹久朗は投げられたタオルを受け取った。



妖怪主治医、戦線復帰



今は兎にも角にも、友人の復活を目指す。

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最終更新:2013年06月08日 11:08