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おわりのつづき

「ユウイ、ユウイ?」
「ん………」

自分の名前を呼ぶ声で、目を覚ました。どうやら自分は寝てしまっていたらしい。
まだ半開きの目をこすりながら、体を起こす。ここは……学校だ。

「授業中だよ?ふふ、まぁた昨日寝るの遅かったんでしょー」
「あれ……」

―――あぁ、そうか、夢だったんだ。
アタシがミユに殺されたのも、アタシがミユを殺したのも、あんな森へ行ったのも、
幽霊になってしまったミユと会ったのも、全部。

「ユウイー、どうしたの?」
「え、いや」





夢だったんだ。





「なんでも、ないよ」



アタシはほっと一安心して、親友、ミユに答えた。



  ―――・―――・―――

授業も終わり、放課後。
アタシとミユは久しぶりに放課後街にくりだして遊ぼう!ということになった。

「んー、何して遊ぶー?ユウイ」
「んー…なんでも」
「なんでもじゃ困るよー」

もぉ、と困ったようにミユは頬を膨れさせる。
おかしいな。どうしてかな。…アタシは、ミユと目をあわすことができなかった。

あ、と。ミユが前方に何かを見つけて立ち止まった。

「あれ、スザクちゃんとトキコちゃんじゃない?何してるのかな。行ってみようよ!」

ミユがアタシの手を握る。けれども、アタシの足は動かなかった。
前にいたトキコ達がアタシ達に気がついたのか、あの活発な、明るい声が聞こえてきた。
けれど、アタシの口からは自分でも信じられないような言葉が飛び出していた。


「アタシのこと、嫌いなんじゃないの…?」


空気が、凍りついたような気がした。いや、気がした、じゃない。凍りついた。自分でもどうしてこんなことを言ったのだろう。と思った。
ミユが目を剝いて自分を見ている。近付いてきたトキコは状況が掴めておらず「どうしたの?」と聞きたそうな不安げな表情をしていた。
後から来たスザクも不思議そうな顔で首を傾げている。

ミユは返す言葉に困っていたのか、幾度も話そうと口を小さく開けては閉め、開けては閉めを繰り返し。
一度唇をぎゅっと噛んで、アタシの肩を両手で掴んでから、やっと声を出した。

「何、言ってるの…?私達、親友じゃない!ユウイのこと大好きよ!」
「……は、そうだよね、親友だもんね。ごめん、変なこと言った」
「もーユウイったらー」



     《私の邪魔する嘘つきな親友なら…》





……違う。



「えっ?ユウイ、なんか言った?」


  《今日学校で――と何話してたって聞いてんのよ!》



ちがう。





「ユ□□ちゃん…?□□し□の?」



      《貴方のせいだって…言った…ゆったゆったゆった》



チガウ。




あ た し の い る べ き ば し ょ は 、 こ こ じ ゃ な い 。






 ―――・―――・―――

「はぁああッ!」

氷の剣を大きく振りかぶり、振り下ろす。手ごたえはあった。が。


(だめだ、攻撃を止めるとすぐに傷が塞がる!)


今まで倒してきた猫とは違うその生き物は、驚くべき回復力を持っていた。
三人がかりで攻撃を続けても、傷はたちどころに塞がる。
猫は攻撃を受けると直ぐに素早い動きで三人と距離をとり、傷を癒してしまう。

「クソッ、はぁッ、こんなの、どうしろっつーんだよ」

息も絶え絶えにカクマが言う。その言葉に答えるものはいなかった。
この猫と戦い始めてから数十分。なかなか決着が付かない。そして三人の体力はもう既に限界に近かった。
眩暈や吐き気が体を襲い、立っているので精一杯。


(だけど!)


ユズリは自分に再び喝を入れるように巨大鋏を一振りすると、


「うぉおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」


猫に向かって駆け出した。猫も、同時に駆け出す。
がきり、と音を立てて鋏と牙がぶつかり合う。

「が…、くそ、ぉ…!」

ユズリに勝機があるように見えた。だが、それは一瞬で。
凄まじい力で猫が鋏を押し返してくる。鋭い牙が目の前に迫り、ユズリは背筋が「凍る」というのを実感した。
思わず地面に倒れこみそうになる。だが、倒れたら今度こそ終わりだ。両足に力を込め、歯を食いしばる。

「凪!カクマ!今のうちだ!」

猫の動きが止まっている今がチャンス。ユズリは叫んだ。



凪が氷の剣で猫を斬りつけ、カクマが爆発を利用して、此方へと飛んできてくれる。





そう、思ってた。




二人の攻撃はいくら待ってもやってこない。実際は数秒のことなのだろうけれども、その時間は、数分のように感じられた。


剣の攻撃、爆発の代わりに猫へと降りかかったのは、自分がこの戦いで何度も見た、あの赤い液体だった。


「………あ」



今度は誰が。

ユズリは絶句する。鋏を持っていた手からも力が抜けていった。目の前に鋭い牙が迫る。



そして、目の前が赤く輝いた。



「がはッ!?」

一瞬の沈黙の後、鼓膜も破けそうな大きな音がユズリを襲った。何かが近くで爆発したように思える。
衝撃でユズリは吹っ飛び、派手に地面を転がった後、「爆発の悪夢」を持つカクマを探した。
合図には遅れたものの、カクマがあの猫に攻撃を仕掛けてくれたのだと思ったのだ。
右を向き、左を向いた時、カクマを見つける。声をかけようと口を開いた―――が、


カクマは、ユズリの遥か後ろを見て驚愕の表情を浮かべている。


「カクマ…?凪…?」

凪も同じだった。目を見開いて「信じられない」というような表情を浮かべている。
おそるおそる、ユズリはその視線の先へ、後ろへと振り返った。
信じられない光景だった。あれだけ、血を流していたのに。あれなら致命傷だ。
それに、呼びかけにも、応えなかったのに。


倒れていたはずのリオトが、腕から血を流して立っていた。

「……どいてろ」

聞いたことのない低い声で、リオトはユズリの横を通り過ぎる。
ちらりと見えた目に光はなく、白目の部分が黒に変色していた。
不気味さを放つそれには、強い思いが込められている。

  殺 し て や る

そんな、思い。

予想外の「爆発」攻撃に苦しんでいた猫だったが、すぐに落ち着きを取り戻し、今度は巨大な尻尾でリオトを薙ぎ払おうと動く。
リオトはそれを避けようとはせず、血の流れている腕を大きく振るった。

――刹那、先程リオトの喉から流れ出た血が、ずるっと音をたてて動き出し、あの棘の形へと姿を変え、猫に襲い掛かった。

「ギィイッ」

猫は低い叫び声を上げて、尻尾での攻撃を諦める。そして、噛み付こうと駆け出した次の瞬間。


ばん、という爆発音と共に猫から火が上がった。
―――いや、正確に言えば「猫に刺さった棘が発火した」というべきか。
聞いたこともないような、悲痛な、それでいて醜いような、聞くに堪える叫び声が森に木霊する。
その光景に圧倒されていたカクマ達だったが、はっとして自分のすべきことを思い出し、叫んだ。
猫が動くことの出来ない、今がチャンス…!

「今だ!一斉に叩け!!」

もう猫に向かって走り出す体力も無い凪は、少し離れたところで力を振り絞り、腕を上げ、猫の足元から鋭い氷を出現させた。猫の体がそれに貫かれる。

ユズリは後ろへと回り込み、攻撃手段の一つである尻尾を一度に二本、鋏で切り落とした。

そしてカクマは、爆発を利用して大きく前へ、そして上へ飛躍。

「これで……終わりだァアアアアッ!!!!!!」

宙で一度回転すると、強烈な踵落としと爆発を猫に食らわせた。





氷の柱は砕け散り、この戦いで一番大きな爆発音が、森に響き渡った。












「終わった……」

ぴくりとも動かなくなった猫を見て、ユズリが小さく呟く。
猫の下にじわじわと広がっていく血溜まりを見て、少し複雑な思いにはなったが、もう彼らを襲うものはいなかった。
この猫があの「影」のような猫を影分身のように生み出していたのだろう。

「リオ兄…」

ユズリが、座り込んでいるリオトに声をかけるが、返事はない。

「リオ兄?」
「ゆう、い…を…」

『ユウイを』それだけ呟くように言って、リオトは猫に被さるようにして倒れた。

「ユズリ、リオトは…」

心配になったのか、凪がユズリの隣に座り、リオトの顔を見た。
…不思議なことに、あの巨大な猫の死体がみるみるうちにミイラのように変化していっている。

「わからねぇ、でも、熱…か…?」

リオトの手に触れる。彼の体は「異常」と言ってもよい程熱を持っていた。
なんにせよ、リオトが生きていてよかったとその場にいる全員が思った。
死んでしまっていたらユウイになんと説明したらよいのか…。

「ユウイは…まだか」

自分達とユウイ、ハーディを隔てたあの壁を、凪を忌々しげに見た。


「無事でいてくれ…ユウイ…」



おわりのつづき

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最終更新:2013年07月16日 20:53