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心の奥に響く記憶

「……ここは…」


場所が変わった。

道が、くらい。
窓がある。
向こうは、明るい。
暗い場所から明るいところはよく見える。
明るいところから、暗い場所はとても見えにくい。

まるで、この世界をそのまま表しているかのようだ。
きっと、向こうから、アタシの姿は見えていないんだろう。

長い廊下が続いている。光は、見えない。どこまでこの廊下が続いているのか、わからない。

…………。

でも、歩こう。出口があるかはわからないけれど。
ここで立ち止まっていたって何も始まらない。進むしかないんだ。





ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ



ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ



ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぱちゃ


水が、靴を舐める音だ。
アタシが今立っている場所はどうやら濡れているみたい。







…どれだけ、歩いたかな。今、歩き出して何歩目ぐらいなんだろう。
体力に自信はあるけれど、そろそろ疲れてきた。


…あ。

ずっとずっと先に、光が見えてきた。出口かな。
歩く度に、光が近付いてくる。


光。

出口?

ここから出れるのか。


よし。


………あれ。
でも、このまま光があるところに進んじゃっていいのかな。
あの場所から逃げ出してはきたけれど…。
ここを進んだ先にある、光が溢れるところは、本当にいいところ?
足が動かない。

(ユウイ、わたしと親友じゃなかったの?)

近くにあった窓の向こうから親友の声が聞こえてくる。
違うよ、アタシは貴方を嫌ったりなんかしていないよ。嫌いなんかじゃないよ。
違うの、違うの。貴方は、アタシのたった一人の親友。
待ってて、すぐに―――。


『そっちじゃないわ』


窓に触れようとしたら、あの白い女性に腕を掴まれた。
近くで見て改めて思う。髪も、肌も、服も、白。本当に、真っ白だ。
頭に付けている赤い髪飾りと耳に付けている虹色のピアスが一際目立っていた。


窓から向こうの部屋が見えた。自分と親友が談笑している。
アタシが「死ぬ」前に、当たり前だった風景。酷く懐かしい風景。
何も変わらない、ただ幸せだったあの頃。あぁ、戻れるならあの頃に帰りたい。


…ただ、一つだけ気になったのは、自分の背中が真っ赤に染まっていたことだ。
その、なんと不気味なことか。


『あなたが進むべき道はこっちじゃない。真実に背を向けてはいけないわ』
「…背を、向けて…?」



どういうことだろう。真実って一体何なんだ?





…あぁ、そうか。
この光は「真実」。アタシは今までずっと逃げ続けてきた、「真実」で溢れかえっているんだ。
だから行きたくないんだ。

きっと、ここにいればさっきみたいな「望んでいた世界」にいることが出来る。
そこでは、殺し合いなんてものもなくって、ミユも、リオトも、ゆーちゃんも、トキコも、みんな楽しそうに笑っているんだ。
それに比べて、この光の先はどうだろう?アタシを「殺したい」と言う、幽霊となった親友がいて、恐い顔をした幼馴染みや弟がいる。
どちらかを選べ、といわれたら迷うことなく前者を選ぶだろう。


………でも。



赤い背中の人間になるのは、嫌だ。



背中を焼かれるぐらいなら。正面を焼かれてやる。





その方が、何倍もマシだ。





「ありがとう、アタシ、行くよ」
『ええ、貴方なら、大丈夫』
「……そうだ、ずっと聞きたかった。 あんたの、名前は?」

そう聞くと白い女性は少し言いにくそうに目を伏せたが、やがてアタシを見て優しく微笑むと。

『…ミハル。それが、私の名前よ。美しいに晴れと書いて、ミハル』
「ミハルさん、か…アタシは榛名 有依っていうんだ。
あと、それから…あんたが言う、「ヤハト」っていう人は、アタシの知ってる人、なのか?」

今更、お互いの名前を交わした後、アタシが一番気になっていることを彼女に問いかけてみた。

『……それは、もう貴方も気が付いているでしょう?』
「――そうだな、聞くだけ、無駄だったかも」

開いた口を隠すように片手を軽く口元まで持ってきて。うふふ、とお互いに、同じように笑ってしまった。
暫く無言の時が続く。そろそろ、行かないと。戻って、「ヤハト」さんやみんなに会いに行かないと。
アタシは「あの頃」と比べて、強くなれているかな?――だったら、少し、嬉しい。

「なんだろうな、もっとあんたと話をしていたいのに、言葉が出てこないや」
『私もよ。ずっと話していたいという気持ちは確かにあるのに、言葉にすることができないの』
「なんだか、他人のような気がしないよ」
『――実は、私も。貴方は私…私は貴方に、よく、似ている気がするわ』

でも、アタシはあんたほど女子力高くないよ。
そう返すと、おもしろいことを言うのね、と上品に彼女は笑って。
貴方、短気でしょ?私もなの。ついでに「彼」も。すぐにカッとなっちゃうのよ。なんて、返してくれた。
それから「短気四人組」でお話でもしてみたかったわね、なんて言葉も付け加えて。
アタシと、ミハルさん、それからゆーちゃんと…「あの人」そんな風には見えないんだけどなぁ。意外。


「…待ってて。必ずアンタと、「ヤハト」さんを救うから」


少し恥ずかしかったけれど、ミハルさんを真っ直ぐ見据えてそう言うとミハルさんは目に涙を浮かべながらゆっくり縦に頷いた。
それから、アタシは振り返らずに光の中へと飛び込んだ。背後で、「ありがとう」という小さな声が聞こえたような気がした。

眩しい、何も見えない。おもわず目をぎゅっと閉じた。開けていられない。体中が熱い。まるで焼かれているかのようだ。
それでも負けない。目が悪くなりそうだ、と思ったが、嫌がる瞼を無理矢理開けて。


前へ、歩き出す。


思い出せ。



逃げるな。



駆けろ。




記憶を、辿れ。





アタシはもう、迷わない―――!!


《ユーイちゃんっ》


  《この瞬間から、私はあなたの味方になった》


《――あぁ、もう、へいきだ》


      《本当に行ってないか不安になって、来てしまった》


 《お友達なのですから、他人行儀にならずアオイと呼んでくださいな》


        《今日は家族でお出かけなんだ!》


   《…不思議な子だな、キミは》 


                 《どうしたんだよ、姉貴らしくねーな》

            《生きていれば…》    


     《――カンよ、カン わたしのカンは結構当たるの》





      《オレは"お前の"味方だから》





心の奥に響く記憶



(それは、言葉ではとても言い表せないほど)
(素晴らしく、そしてうつくしいものだった)

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最終更新:2013年07月27日 12:03