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旅行当日

旅行当日

「整列!番号!」
「わんっ」「2!」「3!」「4!」
「ご…ておい、ちょっとまて!一番最初誰が点呼した!」
「マサムネですけど?」
「マサムネも「一人」だもんねーw」

騒がしく始まった旅行当日。
レストランの前に欠けることなく集まったメンバーを見、店長…いや、亜音は満足そうにうなづいた。

旅行は1泊2日。少し遠いが、九州に滞在する。
往復は新幹線とバスを使用。3時間程度かかるがたいそう疲れるわけではあるまい。
そして、亜音はこの旅行に、一つだけ決まり事を決めた。
「万が一の時以外は、決して能力を使わないこと。」
勿論、環の能力を抑えるため同行したシドウに関しては例外だが。

人の多い所に慣れていないからだろう。一人孤立し、環はおろおろしていた。
きょろきょろとあたりを見回すと、シドウと目があった。
「…よろしく。」
ふっと、シドウは微笑む。
「は、はい…。」
環はそれだけ言うのが精一杯で、俯いてしまった。

「星殿、大丈夫がか?」
「ああ。月光も悪いな、コロコロ予定変わってしまって;」
「いいんじゃよ、このくらい。星殿が優先じゃw」
月光は星の肩を支えていた。もうすぐ肝心の部分をみることができると意気込んでいる星だが、今回の提案がなかったら倒れていることだろう。
月光は何よりも、星の体が心配だった。しかし星は、あえて別行動を望んだという。
亜音の近くにいるつもりではあるし、いつも自分のことを気にかけていては、彼自身の体が持たないと配慮したうえであった。

「うう、昨日眠れなかった…;」
「大丈夫か?楽しみで眠れなかったとか?」
「そう、なんだよね;」
「全く、子供だなぁ、冬也は。新幹線での移動が時間かかるらしいから、ゆっくりねなよ?」
「そうするよ。」
何が楽しみって、旅行が楽しみなのもあったわけだが、凪姉との外出も楽しみだった。
自然と顔が赤くなる。凪姉に気付かれてはいないが、傍観していた奏が笑った。

「さて!全員そろったわね!旅行に出発よ!」


移動シーンは省略(単純にワンパターンになりそうだったから)


それからそれから。

「うわぁー!」
バスを降りた女子組が、一斉に声を上げた。
目の前に広がる広大な自然。そこにはきれいは「街」ともいうべき施設が並んでいた。
ここが今回の目的地兼宿泊地。
体をのびのびと動かし、いろんな体験を通して大切なものを学ぶのがモットーだ。
ここから先はチェックインまで解散。皆、思い思いに散って行った。





細く繊細な音が入り混じるオルゴール館。
ネイロは小さな人形の回るオルゴールを手にとり、眺めていた。
横からののかも見、かわいいwと喜んでいる。
ただ一人、環はオルゴールを見るものの、手に取ろうとはしなかった。

「…あれ、環さん、オルゴール見ないんですか?」
ののかが、環の浮かない顔に気がついた。
環は驚く様に反応し、両手を振った。
「わ、私はいいの。見てるだけで楽しいから…。」
「でも、近くで見ないと分かんないこともありますよ?」
「だからいいのよ。…壊しちゃうかもしれないし。」

手にとるものが高確率で壊れた。
昔からずっとそうだ。
そして、壊したわけでなくても弁償になる。
なら最初から触れなければいいと、外のものを触れることはなくなった。
でも、眼の前のののかはそれに気付かず、一つオルゴールを持ってきた。

「ほらこれ、かわいいでしょ?」
「だ、だから私は…;」
「いいからいいから!」
そういい、環の手をとると、オルゴールを乗せた。

思わず目をそらした環だったが、掌の上でオルゴールは変わらずに音を奏で続けていた。
「あ、あれ…?」
「ね?かわいいでしょ?」
笑顔を向けるののかに、環はとまどったような表情しか見せることができなかった。


その外、オルゴール館付近のベンチにシドウは座っていた。
中で戸惑う環は、おそらくこういった「モノに好かれる」状況に置かれたことがないのだろう。
どれだけ能力に苦しんだかが目に見える。
しかし、そんな環をみると、何故かほほえましいと感じてくるのだ。

「…ああ、シドウさん。ここにいたんですか。」
声に振り返ると、ソフトクリームをもった静流がいた。
そのソフトクリームを差し出す。
「いります?ののかさんの分なんですけど、当分出てきそうにないので溶けちゃいますから。」
「…ああ、それならいただくよ。」

先程向けられた屈託ない笑顔。
どうやら彼は、シドウが疑われている人間だとは知らないらしい。
よほどの経験と「自分を騙す」ことができなければ、自分を偽ってそんな笑顔は向けられないのを、シドウは知っていた。
「ののかさんも環さんも、仲良くできているみたいですね。特に環さんは、ネイロさんと同じ年ですし…。」
「ああ、玉置さんは環ちゃんの付き添いもあって来たんでしたね。」
「でも、実質シドウさんがついてくれているので、安心してますよ。」

「…玉置さん。俺にはね、娘が一人いるのですよ。」
シドウは、ひとり言のように切り出した。
「娘さん…?」
「丁度環ちゃんと同じくらいの娘でね。いかせのごれに住んでいるんです。」
「そうなんですか。かわいい盛りでしょう?」
「…でしょうね。」

静流は、今の返事に違和感を感じた。
「でしょうね」という予測したような言い方。つまり、しばらく娘に会っていないような言い方だったのだ。
「…娘さんは、今日同行されていらっしゃらないようですが…。」
「体が弱くてね。こういうところにもなかなか行かせてあげられないんですよ。」
「その…娘さんに、お会いしてないんですか?」
「!」

「…面目ない父親ですから、娘に合わせる顔がないのです。」
それだけいい、シドウは立ち上がった。
「ごちそうさまでした。これ、代金です。」
ベンチに220円置き、彼はオルゴール館へ入って行った。





「…今のところ怪しい動きはなし、と。」
フードコートで亜音が呟く。その横には大量の皿。
決して亜音が食べたものではない。その隣、星が食べた分である。
高く積み重ねられた皿を見、ノアもノルンユウムも唖然とする。

「調子が悪い…割に食べますね;」
「ん?ああ。腹がへってはなんとかいったろ?」
「にしちゃ食いすぎだろ;」
「でもよかったねぇ、運よく大食いチャレンジあってて。」

ユウムが指さす先にあったのは、一枚のポスター。
フードコートの料理を合計5000円以上完食すれば、無料になるというものだった。
正直一般人には無理な話だが、既に星は7000円分は食べているだろう。店員の顔がそろって青ざめている。

「私より姉さんのほうが食うぜ?」
「え?そうなの?」
「私がっていうか、兄弟そろってね。」
「前に競争したけど、私完敗。」
食器の間から星がひらひらさせる手が見える。
一体どれだけ食べる気なんだ、とユウムはほんのすこし寒気を覚えた。


オルゴール館の隣、ガラス館。
ガラスでできた商品がたくさん置いてあることは言うまでもない。
その建物の端、ガラス製品の工房を冬也は眺めていた。
「あれ、冬也さん?なにみてるんですか?」
奏が近づいて話しかける。
「ああ、あのガラス細工みてるんだ。オーダーメイドしてくれるらしくってね。」

窓の向こうの灼熱の世界で編み出されるは、それに相容れないほどに繊細で冷たいガラス細工。
幾本もの透き通った棒は赤く熱せられ、掌に乗るほどの大きさに変わっていった。

「わぁ、綺麗!」
「ありがとうございます!」
小さな袋に包まれたキーホルダーを、大事そうに冬也は受け取った。
袋を開け、中身を取り出す。

色のついていない四角のキーホルダーだ。青い紐がつけられている。
そしてその中ほどに、赤いガラスで「N」と書かれていた。
「ん?あれ、冬也さん。これ、Nって…。」
「ああ、これでいいんだよ。これはある人に渡すために…。」

「おーっ?ついに冬也も彼女できたかーっ?」
突然、後ろから凪が抱きついた。
思わず冬也は飛び上がる。
「な、な、な、凪姉…ぇ;」
「なんだよ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。」
「後ろから襲われたら吃驚するよ!」
「HAHAHA☆」
二人の親しげな様子を見、奏は笑った。
そして、邪魔しないようにそっとガラス館を出た。


「ひゃっほー!」
不思議な形の大岩を、由衣は軽々と飛び越えた。
のびのびと体を動かせるアトラクションコート。子供から大人まで楽しめるイベントがそろっている。
しばらく暴れていなかった由衣が暴走気味だ。ついていく月光もやっとである。

「あーあ、もうあんなとこまでいっちゃった;」
遠くのベンチに座って眺めるフウコ。
その横でユズキがスケッチブックを広げている。
「ユズキ、追いかけなくていいの?」
「いいよ。面倒だし。」

紙の上を走る鉛筆は、少しずつ笑顔を描き出していく。
「あの子、あんないい笑顔できたんだ。」
「…本当よね。学校じゃあそこまで笑わないってのに。」
二人は走り回る由衣を眺めていた。

いかなる理由で由衣がいかせのごれに来たかは、聞かされていない。
ただ、過去の話をするとひどく悲しそうな顔をする。
その過去の影響だろう。「満面の笑み」というものを、人前にあらわしたことが由衣はなかった。
いや、今こうして笑っていることに、由衣が気付いてるかもわからない。

「…今度学校に行ったらさ、由衣の過去、受け止めてあげない?」
「…いいね。話すかどうかは本人次第だけど。」
ユズキのスケッチブックには、いつの間にか決して綺麗とは言い切れない、綺麗な横顔があった。





時間になり、メンバーが集まる。これから宿にチェックインだ。
宿といっても、ホテルのように何部屋もあるわけではない。
小さな丸い家のようなものが敷地内に所狭しと立ち並び、所謂一つの「集合住宅」を形作っている。
「よし、全員いるわね。今から部屋割を発表します!」
全員を見回し、亜音は名前を呼んで行った。

「235番、ノア、ノルン、ユズキ、冬也、由衣。
236番、奏、ネイロ、フウコ、凪、ののか。
237番、環、シドウさん、月光君、ユウム。
で、238番に私と星ちゃんと玉置先生、それからマサムネね。」
亜音は代表一人ずつに鍵を渡した。

「晩御飯は各自でとること。何かあったら携帯に連絡。お風呂はこの先に温泉があるけど、個室にもついてるから。あとは大丈夫ね。」
もうここまでくるとすっかり亜音が姉さんしてます。はい。


「由衣さん、ご飯食べに外いきましょう。」
部屋に入り、ベッドに寝転がっていた由衣を、ノルンが呼んだ。
「ん。わーった。ユズキは?」
「冬也さん連れて先に行きました。ノアはここにいます。」
「…丁度いいや。」
由衣は起き上がると、ノアとノルンを一度部屋に引き入れた。

「な、なんですか?」
「聞きたいことがあってな。」
「ユズキ達待たせてるんだ。さっさとしろよ。」
由衣は正面切って、二人に訊いた。

ホウオウから抜けたこと、あんたら後悔してねぇのか?」

「「…え?」」
「そのまんまだよ。特にノルン。あんたはホウオウを実の父のように慕ってただろうが。」
由衣にはそれが、ずっと気になっていた。
親を亡くした由衣にとって、「親」は何より大切な存在だからだ。
「ホウオウを抜けたことで、今はその親に狙われてんのに。」

「…そうですねぇ。」
ノルンはふっと息を吐いた。
「後悔してない…わけではありません。ホウオウ様と縁を切るのは、正直辛かったです。」
「!」
すこしばかり驚く由衣をよそ眼に、ノルンは続ける。

「でも、それよりも自分の生きる意味を見つけたかったんです。たとえそれが、ホウオウ様を裏切ることになっても。」
「そうまでして生きがいを…。」

人としての道を残されなかったノルン。
それに「人としての道」を作ってくれたのは「親」であるホウオウだった。
だからこそ、「人としての」生きがいを見つけたい。
それが、僅かに残された人の自我が願う、ノルンの願いだった。

「俺は…ただ単に面白いものを求めてただけだから。」
ノアも口を開く。
「ホウオウには何も未練はねぇ。それよりも双子の兄として、乃流になんかしてやりたかったんでな。」
「…そうか。後悔してないんならいいんだ。」
意味ありげに彼女は呟き、立ち上がった。
その口調にどんな意味が込められてるか。それは、彼女自身にしか分からなかった。


「…ちぇ、結局渡せなかった。」
袋からキーホルダーを取り出し、冬也はぼーっと眺めていた。
透き通った四角いキーホルダー。渡す相手は勿論決まっている。
しかし先程は不意打ちを食らい、渡しそびれた。
「なーんでこうもうまくいかないんだろ…。」

「冬也君?食べないの?ほとんど減ってないみたいだけど。」
心配したユズキが声をかける。由衣達がとんでもない量を食べているのだから当然と言えば当然か。
「え?あ、いえ。ちょっと考え事をしてたので。」
冬也はキーホルダーを仕舞うと、箸をとった。
(どうやってわたそっかな、このキーホルダー…。)





「さ!女の子がこれだけそろえば、やることなんてひとつでしょ!」
「その出だしどっかで聞いたことありますよ、凪さん;」
先に風呂に入って来た236番室一同。スイッチはもう恋バナモードだ。
作者としては勘弁してほしいとこなわけだが、女の子が集まると必然的にこうなるのだから仕方ないorz

「凪ちゃんから切り出したんだから、あんた彼氏いるんでしょ?」
「え?私はいないよ~。きいてて楽しいだけw」
「あ、ずるい!自分だけ逃げる気?」
「本当だってば!そういうフウコはどうなのよ?」
「私にはネイロとユウムがいるから。彼氏は当分いらない!」
「…それ強がりでしょ、フウコ?」
「それをいうなぁっ!」

「でも、いい人ってなかなかいないものですからね。」
「特に男なんてみんなそうじゃない?」
「わかるわかる!」
「えー?でもたまちゃんはいい人ですよ?」
「ののかちゃんの場合は恋愛対象じゃないでしょw」
「いいんです!たまちゃんはいい人ですから!」
「まぁ、確かに優しいしねw」
「「「あはははw」」」


「…へっくし!」
そのたまちゃん…静流は小さくクシャミをした。
「どうした、玉置先生?風邪でもひいた?」
「誰かが噂でも立ててるんでしょう。ていうか「先生」つけるのやめてもらえませんか?同僚でしょう?;」
「元だよ、元。」
「ウスワイヤから抜けたわけではないでしょう;」

緊急時の拠点になる238号室。
ここでは温泉などで外出することを避け、できるだけ部屋の中で片づけていた。
現在、風呂に星が入り、亜音と静流は待機している。
若い時からのよしみだ。3人にはほとんど隔たりがない。
それゆえ拠点にいるのもある。

「あんた、まだ動物ムツゴロウやってるわけ?」
「当たり前でしょう。ね、マサムネ?」
「わん!」
「それで保健室によくやってられるね。動物嫌いが来たらどうするのよ。」
「それも何回かあって…;」
こうして朗らかに話すのも何時振りだろうか。と考えたその時だった。

風呂場からガシャンという激しい音がした。
その音に驚き、慌てて風呂場のドアを開ける。
散乱する洗面具。出しっぱなしの水は跳ね、寝間着に着換えていた星の上半身を僅かに濡らしていた。
「星ちゃん、どうしたの!?」
亜音が駆け寄る。星は虚ろな目で鏡の前の自分を見つめたまま、呟いていた。

「…分かった…、何もかも…。私の左目を、奪った奴を…。」

包帯が滑り落ち、隠れていた「左目」があらわになる。
途端におとなしかったマサムネが吠えだす。
奇怪なその眼は、長年の付き合いである亜音や静流にも稀有なものに見えた。
星はただ一人、呟き続けていた。
「…「重力操作」こそが、私の先天性能力だったんだ…。」




三日月の上る真夜中。
電気は消え、あたりは静まり返っていた。
237号室も例外ではない。環も月光も静かに眠っていた。

「…環ちゃん、起きて。」
肩をゆすられ、環は目を覚ます。
ふと顔を上げると、そこにはシドウがいた。

「靴はいて。今から外に出るよ。」
「え?何でですか?こんな夜中なのに…。」
「いいから。」
靴をはいた環の手を引き、シドウは外に出た。

直ぐ近くの原っぱまで彼女を引き連れた彼は、そのまま諭すように肩をつかんでしゃがんだ。
「よく聞いて。君は自分のこと、ただの不幸な女の子だと思い込んでないかい?」
「!」
「そして今日の旅行、今まで起こっていた事故が何一つ起こらなくなり、不思議に思っていただろう?」
「…;」

今、シドウはろくに環と目を合わせていない。
それがまた、彼女の不安を掻き立てた。
「な、何がいいたいんですか…?」
「…君の不幸は「体質」じゃない。「完全嫌悪」という「能力」なんだ…!」

「…ニャフフwこれはおもしろくなってきたねぇ…w」
二人の様子を、寝たふりをしていたユウムが窓から眺めていた。
「これはぜひぜひ!トキコちゃんにお知らせしなきゃ…。」
ユウムは携帯を取り出すと、送信画面を開いた。


――翌朝。何事もなかったかのように、全員がそろった。
この日はお土産を買って帰るだけだったので、バタバタしすぎて何をやったかほとんど覚えていない。
同じようにバスと新幹線を乗り継ぎ、無事、いかせのごれに帰って来た。


旅行後の変化?
…大きく分けるなら二つだろう。

星がとある大きな決意をしたこと。

そして、引きこもっていた環が、保健室登校から始めたということ…。


――――――――――
小説外になりますが、
  • 環はシドウによって能力のオンオフがつけられるようになったこと
  • シドウはその後消えるようにどこかにいったこと
  • 冬也は未だにキーホルダーを渡せずじまいなこと
  • どうやらユウムやトキコは環をホウオウに誘いたいらしい(ぇ こと
を付け加えておきます
話題に挙げるときに参考に。
上がらない気もしますけどね;

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最終更新:2011年03月16日 11:02