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地球の守護者達と殺戮機械との戦い(仮)

「………ク、クッ」



「………」

夜、ストラウル跡地。
もはや事件が起こらない方が珍しいこの場所で、僕らは「それ」を待っていた。
何かが、起きる時を。

以前のブラストルの一件と似たような状況だが、今回は範囲が広い。けして狭くはない跡地の、ほぼ半分にアースセイバーが配置されている。
僕はアオイを伴って、跡地の端、人員が回らなかった部分に待機している。
こうして待っている間に、思い出す。なぜ、こんなことになったのか。





―――アースセイバーの調査員達は、口を揃えて「跡地」の奇妙な現象を報告していた。空間の歪むような現象が、何度も起きていると。
反応そのものは一瞬なのだが、数が多い。何の規則性もなく、現れては消える、そんな感じらしい。
さらに、そこかしこからホウオウグループの使うエネルギーの反応があった。以前ほど大きくはないが、点在している上に範囲が広かった。
事態を重く見たアースセイバーは、現状で行動でき、なおかつ戦闘力のある者達を可能な限り「跡地」に送り込んだのだ。

斯く言う僕は、いつものごとくシスイからそれを聞いてここに来ていた。今度は、アオイも一緒に。
彼女にとっては初陣となるが、大丈夫だろうか。


「アオイ、大丈夫か?」
「ご心配なく、姉様。絶好調ですわ」

いつもと変わらない調子で、そう答えた。この分なら、多分大丈夫だろう。

「そうか。けど、もし危なくなったら無理はするなよ」
「はい。姉様こそ、無理はなさらず」

頷き合い、それきり会話は途切れた。お互いわかっている、本当はこんなことを話している場合ではないと。
今回は規模が大きいためか、獏也教官とシノさんでそれぞれ指揮を分担している。僕を始めとする学生組は、シノさんの指揮下だ。

『学生諸君、警戒しといて下さいよ。いつ、どこから、何が来るかわからないっすからねー』

耳に着けた補聴器型の機器から声が聞こえるが、答える余裕はない。全神経を集中していないと、不意打ちを食らう可能性があったからだ。
反対にアオイは平然と、

「ええ、わかりましたわ。ところでシノさん、反応に変化はありまして?」

などと受け答えしていた。この肝の座り方といったらどうだ。

『今の所、反応に変化は……あ、ちょっとあった。転移反応がCブロックであったっす』
「C?」

今度の警戒網は、跡地全体をブロック分けし、それぞれに少しずつ人員を配置している。

『微弱だし、一瞬だったんすけど』
「開戦が近いかも知れませんわね……」

す、と目を細め、アオイが呟く。

まさに、その時だった。

突如、シノの声が叫びに変わった。

『!! 転移反応……気をつけて、「来た」!!』

その声に、学生組が一瞬にして身構えるのが空気でわかった。
ここEブロックの僕達も、無論同様に。
その見る前で、月明かりを受ける景色が揺らぐ。波紋が起きるように、次々と、次々と。
そしてその中から現れたのは、無数の目を持つ、殺戮兵士。

パニッシャー……!!」

スイネを二度に渡って襲ったと言う、ホウオウグループのかつての遺産。今やどちらにとっても邪魔者でしかない、弱い者を襲う機械の処刑人。
それが、見渡す限り。

「こ、れは……」
「少々、予想外ですわね」

冷や汗をかきつつ、言葉をかわす。通信機の向こうで、シノさんが指示を飛ばす。

『全員、無茶は厳禁!! 数では圧倒的に不利っす、無理だと思ったら別のブロックに合流!! 従わないと酷いっすよ!?』

珍しく切羽詰まっている。だがまあ、この状況では仕方ないだろう。

「敵は数百、味方はこの場では二人、か……!」
「姉様、ものは考えようですわ。これなら、遠慮なく暴れられます」
「……前向きだな、アオイ。だが……」

ギロリ、とパニッシャーがこちらを向く。が、それではもはや怯まない。

「それも、悪くはない。……シノさん、こちらEブロック。戦闘開始します!!」

叫び、幻龍剣を一振りして、敵に襲い掛かる。





Cブロック。

「うおおぉぉおおおぉ!!」

咆哮と共にガトリングガンを掃射する聖。空気圧の弾丸で一体一体仕留めて行く蒼。そして、レーザーで薙ぎ払いにかかる光一。
撃破状況は悪くなかったが、いかんせん数が多すぎる。倒しても倒しても次が襲来し、まるで終わりを見せない。

「くそ、こいつら何体いやがるんだ!!」
「聖さん、喋ってる暇ないです!!」

蒼も叫びつつ、空気弾を連射する。しかし、向こうは仮にも兵器。圧が下がってはかすり傷程度にしかならず、逆に向こうも攻勢をかけて来た。
一斉に、手にしたマシンガンを掃射する。

「くぉのぉぉぉぉぉ!!」

全方位からの射撃に対し、蒼が動いた。自分たちのまわりの空気を一気に濃度を上げることで硬くし、防御壁としたのだ。その裏から、

「行けぇぇっ!」

光一が打ち上げたレーザーで、確実に破壊していく。しかし、数は一向に減る気配を見せない。この戦況は、膠着しつつあった。



Aブロック。

こちらに配置されていたのは、アラタ、錬太郎、ジミーの三人だった。防御に関してはまさに鉄壁というべき二人と、射線に関わらず任意の場所を攻撃できるジミー。この組み合わせは、ことこのような状況において、最大の効果を発揮していた。あえて建物を背にすることで、防御する方向を絞り、効率を上げていたのだ。
と、

「うわっ、グレネードか!?」
「任せろ、アラタ」

マシンガンやライフルが効かないと理解してか、今度はハンドグレネードが放物線を描いて飛んできた。爆風でアラタの「盾」を貫こうという算段だったようだが、錬太郎が動いた。一睨みした瞬間、グレネードの全てがふっ、と消え失せた。彼の能力「四次元の入り口」は、任意の物体を別の次元に呑み込んでしまうと言う極めつけに強力なものだ。爆発諸共呑み込まれた爆弾は、何の被害も齎さすことはなく。
さらに、その後ろからジミーが躍り出る。

「そぉれっ!!」

爆音、そして熱風。「ダイナマイトキャノン」が炸裂し、迫っていたパニッシャーがまとめて吹き飛んだ。彼女の能力は、こういう対多数戦闘で最大の力を発揮する。
とはいえ、撃破した端から次が現れ、まるでわんこそば状態だ。

「あー、キリがないわねー!」
「そうは言っても、退けはしないよ」
「だな。いつまで粘れるかわからんが、今は戦うしかない」
「はーいはいっ。全く、なんなのこの数! これだからホウオウグループは!!」

苛立ち混じりの叫びとともに、再びの広範囲爆破。ジミーの奮戦で、このブロックは俄然、優勢だった。


Bブロック。

シスイ・ハヤト・修斗の三人が配置されたこの地点は、Aブロック以上に優勢だった。なぜならば、

「……――――!!!!」

ハヤトの「音の悪夢」がものを言っていたからだ。二人を後ろに下げ、収束音波砲を最小限の威力で放つ。それを、シスイが「天子麒麟」で増幅することで元の威力を保つというコンビネーションだった。時折飛来するグレネードは、修斗がロープで絡め取っては投げ返し、反撃していた。
しかし、こちらもやはり数が減らない。

「やれやれ、これは骨が折れそうだな」

今しがた七つまとめて返した修斗がロープを戻し、ため息をつく。

「銃器の類を撃って来る前に破壊出来てるからいいけど、長引くと持たないか……」

冷静に状況を判断しつつ、手近な一体にロープを巻きつけ、発射寸前だったマシンガンを逆方向に向けて同志討ちさせる。直接攻撃力に欠ける修斗にとっては、これが最大の方法だった。
一方のハヤトとシスイも、

「大丈夫か、ハヤト?」
「おう、まだまだ行けるぜ」

わずかに疲労を見せつつも、余裕を残していた。シスイは素手で戦うのが信条のため、武器を持っていない。そのため、このような兵器相手、しかも多数との戦いでは圧倒的に不利に陥る。それを解消すべく、ハヤトの支援に回されたのである。彼の音による攻撃は、とにかく消耗が激しい。しかし、抑え目の攻撃を「天子麒麟」で増幅すれば、最小の消耗で最大の効果を得ることが出来るはず。
そういう判断にも基づいていた。

とはいえ、いつまでも続くものではない。
修斗が危惧したように、消耗が極まれば攻撃の手はなくなる。そうなれば終わりだ。

(タイミングを測らないとな……)





Dブロック。
こちらは他と違い、大幅な劣勢に置かれていた。

「こ、これでは手が出せないぞ!!」
「ええい、殺戮機械どもが!!」

割り当てられたのはゲンブ、龍斗、ユウトの3人。しかし、この面子はパニッシャーとの相性が絶望的に悪かった。
「羅刹行」のゲンブと「獣の悪夢」のユウトは接近戦特化で、しかも防御手段に乏しいため、銃器がメインのパニッシャーに近づけない。龍斗の魔術は「タメ」がいるのだが、四方八方から撃ちまくられている現状ではその余裕もない。
言ってしまえば、手詰まりだった。攻撃も防御もままならなくては、この数相手では戦いにすらならない。常であれば実力者の3人が、ここにあっては狩られる獲物でしかなかった。
瓦礫を盾にじりじりと後退を迫られ、戦線維持は不可能だった。

「ゲンブさん、このままじゃ……!」
「やむを得んか……!!」

ユウトの言葉を受け、ゲンブは一瞬で判断を下す。

「全力で退け!! Aブロックに合流するぞ!!」



そして、Eブロック。

「だあああっ!!」

気合と共に幻龍剣が一閃する。銃を構えようとした機体がまとめて両断され、一拍おいて爆発する。その前に離脱した僕は、次なる機体に襲い掛かっていた。
回りは全て敵、まさに遠慮なく大暴れ出来る。
片やアオイは、

「あら、どちらを撃っているので?」

パニッシャーの光学カメラを妨害しつつ―――恐るべきことに、彼女の「幻夢眼」は機械にも通用するのだ―――、左手の青の幻龍剣で、次々と敵を鉄屑に変えて行く。
他のブロックの戦況はわからないが、少なくとも今は優勢だった。
しかし、いつまでも続くものでは決してない。ただでさえ数で劣る上、相手の総数が不明。しかも、こちらは一撃でももらえばそこから崩れるのに対し、相手は動く限り向かって来る。機械と人間の決定的な差だった。

(司令塔を潰せれば早いんだけど……)
(そう上手くはいきませんわね。何しろ、どこにあるかもわかりませんもの)

というか、それを言うならそもそも、パニッシャーがこの場所に、しかも大量に現れた理由がわからない。ストラウル跡地だから、ではさすがに説明がつかない。誰かの意図が介在していると見るべきだった。そもそも、力の弱い能力者を狙うはずのこいつらが、どうしてアースセイバーや僕らのような、「強い」能力者をこうも執拗に狙うのか。そこからして謎だった。
啓介がこの場にいたら話が早かったんだけど、あいにくあいつは真衣ちゃんの「監視」があるせいで自宅周辺を動けない。

(誰かじゃないけど……全く、ままならない、な!!)

心中で吐き捨て、一回転するように紅の刃を振るう。爆風の向こうに、次なる標的がいる。
アオイはというと、危なげなく攻撃をかわし、また斬り返していたが、いかんせん疲労の色が濃い。慣れない「戦闘」に加え、非常時という緊張感が精神を圧迫している。
戦闘開始から既に一時間、絶え間なく続く破壊音や爆音が、どこか遠い。

「まだまだ、ですわ」

本人はそう言って笑うも、無理をしているのは明らかだった。かといって、加勢に行ける状況ではなくなりつつあった。
僕の方にもパニッシャーが殺到しつつあり、手を止めればその瞬間死ぬ、といった有様だった。龍義鏡で銃弾や爆弾を跳ね返しつつ、刃を振るって確固撃破していくしかない。龍精落を叩き込めればかなり楽になるんだけど、「タメ」の時間が得られない。僕とアオイでそれぞれに担当しているからこそ、なんとか持ちこたえている。
「タメ」の時間を得るために下がれば、アオイにその分が集中する。そうなったら終わりだ。

(くっ、どうすればいい!?)

歯噛みしながらも、今僕に出来るのは戦う事だけだった。





「ふむ、なかなか頑張るな」

「跡地」から離れた、とある無人駅。そこにひとり立つ男は、肩まで伸びた黒い髪を夜風に揺らしながら呟いた。その眼に映るのは、目の前の、終電が通り過ぎた線路ではない。遠く「跡地」で繰り広げられている、戦いの光景だった。

「もう少し効率的に動かしたかったが……本体があれでは、やはり制御にも限界があるか。次はもう少し、手を考えるとしよう」

まるで、脚本を書いた芝居が失敗したかのような声音で言う。そして、それきり興味を失ったかのように、男は視界のリンクを切った。

「本体とのリンクは……このままにしておくか。その方が、興が乗るというものだ」

そして振り返る、

「!」

その視線の先に、一人の少女が立ちはだかっていた。月明かりを背にする彼女は、言う。

「さっきの子が言ってたのって、あんたか」
「……誰だ、貴様は?」

光に透ける髪は、黒に見紛うばかりの、緑。

「誰でもいいさ。ただ、あんたを何とかしてくれと、そう言われた。『みんなが危ない』って、言ってたからな」
「ほう。それで、私を倒すと?」
「ああ、そのつもりだ。あんた、こないだの機械と……」

そこまで言った所で、少女の表情に嫌悪が混じる。

「それに、あのクズ教師と似てる。他を見下して優越感に浸ってる、嫌な目だ」
「ふむ……別に、見下しているつもりはないのだがな。ともあれ、私はもう帰るところだ。邪魔をするなら容赦はせんぞ」
「それはこっちの台詞だ。あれだけ必死に頼まれたんだ、やってやるさ」

戦意も露わに、言い切る少女。その手に握るは――――氷の剣。





「ぐああっ!!」
「く! 錬太郎、無事か!?」

戦況は最悪と言ってよかった。再現なく現れるパニッシャーの波に、僕達は完全に押されていた。
各ブロックの戦線は完全に崩壊し、担当メンバーは「跡地」の中心の廃墟に集まり、劣勢を強いられることとなっていた。
今も、疲労が極まった錬太郎が爆風を受けたところだ。篠崎さんが声を上げている。

『無理をするな、退け!』
「ありがたい指示ですけどね、獏也教官。それが出来る状況じゃないです……」

はは、と乾いた笑いを漏らす、錬太郎。神経が完全にハイになっていて、感覚がおかしくなっているようだ。
ユウトやゲンブは余力を残していたが、それは単に、攻撃が出来なかったためにその分体力が残っている、というだけだ。ジミーやハヤトは限界をとうに越えているらしく、攻撃の精度がだんだん落ちてきている。とくにジミーが深刻で、爆発の威力がほとんどない。

「っ、はぁ、はぁ……ジ、ジミー、大じょ……うおおっ!!」

言いかけたハヤトが、至近距離から爆風を受けて吹っ飛んだ。誰も、それに目を向けない。そんな余裕は、ないのだ。
正直、以前ゼアと戦った時より、スキュアロウと戦った時より、ジングウと戦った時よりも厳しい。
数の差がこれほど圧倒的とは。一度味わうと、その実感が湧くと言うものだ。

「く……」

じりじりと後退していく中、背中が何かにぶつかった。
追いつめられたか、と一瞬血の気が引いたが、視線を向けると見慣れた顔が入った。

「シスイ! 無事か……」
「正直、あまり無事でもないけど、な」

シスイの言葉は、諦めでも何でもない事実だった。体を覆う「天子麒麟」のオーラが、いつもと比べて明らかに弱弱しい。

「数は力なり……よく言ったもんだよ」
「グループ脅威の技術力、戦いは数だよ……ってことか?」
「ネタが古いな、シスイ」

冗談を言い合ってはみるが、精神的には限界が近かった。アオイの方も当初の余裕が完全になくなり、必死の様子で剣を振るっている。
龍斗さんやアラタも必死で応戦してはいるが、焼け石に水だった。
斯く言う僕も、幻龍剣を振るう腕が鉛のように重い。ましてや、龍精落が撃てるようなコンディションでは到底なかった。

(ま、ずい……)

続々と迫るパニッシャーの群れは、さながらSF映画に出て来る殺人機械のようにも見えた。
問題なのは、それが比喩ではないということか。
いつまで戦っても、終わりが来ない。来るとすれば、死しかない。
もはやこの場での戦いは、いつ終わらせるかではなく、いつまで生きられるか、という消耗戦に突入していた。





「ま、まずいっすよ、このままじゃ……」

アースセイバー。指揮を担当するシノは、悪化する一方の状況に焦りの声を上げていた。倒しても倒しても次が出て来るパニッシャー、対して消耗していく仲間達。
隣の獏也も、ギリ、と歯を食いしばる。

「全滅も見えるか……いかん」

しかし、現状動ける人員は他には少なく、どれもこの状況を打開できるほどの能力者ではない。

「せめて、本体を叩ければ……」
「……難しいな。それがわかっていれば、とうに潰している」
「そ、そうっすよね……」

シノが肩を落とす。歯がみする二人は、とある駅で繰り広げられている、別の戦いを知らない。



氷の刃が、二閃、三閃する。
男はそれをひらりひらりとかわすが、表情には先ほどまでの余裕はない。

(なんだ、なんなんだ、こいつは!)

男が焦っているのは、少女の刃が、迷いを持ちながらも異様に鋭かったせいである。
人に刃を向ける、という事に慣れていないのが丸わかりだったが、その反面「敵」に対する戦意だけは燃え盛っている。
どころか、何回か実戦を経験したかのような、そんな空気さえ纏って。

(ええい!)

生体電流を増幅し、電撃を放って反撃する。

「ぐっ!!」

直撃するが、服の上だったためさして効いていない。衝撃を与えたのみに終わる。とすれば狙うは頭なのだが、悠長に照準している暇がない。
予想以上に刃が鋭い。そして動きが早い。アースセイバーの面々に比べると素人ではあるが、どう動けばいいかを体で理解している。
正直、予想外の強敵だった。

(く、このままでは……ならば)

どうせもう目的は果たした、アースセイバーの壊滅も時間の問題だ。なりふり構わずここを脱出すれば、あとはどうとでもなる。

(覚えておけよ……いずれ、貴様もただでは済まさんぞ)

心中で悪態を突き、巧みにステップして駅の入口に向かい、


「逃がさない」


立ちはだかった人影に、足を止めざるを得なかった。
苛立ちを声に乗せる、その前に、

「その力は、邪魔だね」

人影―――少年の左腕、刃の様なものに覆われた左腕が、直撃した。

「ぐ、はっ!?」

同時、直前まで発動していた力が、突然止まるのを感じた。

「!?」
「……僕にはいらないな、これは」

言うや、少年は素早く身を翻し、姿を消す。
何が起きたのかわからなかった。ただ一つ言えるのは、力が使えなくなっているということ。
半ばパニックに陥り、判断力をなくした男は、背後から迫る透徹の刃に気付けなかった。


―――――!






「………え、?」

声を発したのは、誰だったか。
誰も、事態を一瞬理解できなかった。
全方位から僕達を押し包もうとしていたパニッシャーの動きが、突然乱れたのだ。ついさっきまで統制のとれた動きで、的確に攻撃して来ていた機械達が、今は混乱を来たしたかのようにあらぬ方向へ動き、場所によっては同士討ちさえ起こしている。
混乱する僕達を、

「チャンスだ、仕掛けろ!!」

最前線にいた聖さんの声が、正気に戻した。それが、反撃の始まりだった。



そこからはまさに、先ほどまでとは打って変わった大逆襲だった。疲労していたメンバーも、最後の力で攻撃に出る。

流れ弾をアラタと篠崎さんが防ぎ、ジミーとハヤト、龍斗さんは最前線での広範囲攻撃、一撃ずつで薙ぎ払う。ダウンしていた錬太郎はアオイが確保して下がり、ゲンブとユウトはそれぞれに全力を尽くして壊乱するパニッシャーの群れに突撃、暴れ回る。

「「うおぉおおぉぉ!!」」

別の方では、聖さんが両手にマシンキャノンを携えて撃ちっぱなしにしている。というか、危なくて近寄れない。
たまに向かって来る奴は、修斗さんがロープで捕まえて聖さんの攻撃圏内に放り込む。
そして僕達は、

「行くぞ、光一!」
「おうっ、だあああっ!!」

シスイが限界間近ながらも発動した「天子麒麟」で増幅された光一のレーザーが敵陣を薙ぎ払い、そこ目掛けて僕が飛び込む、という連携で戦っていた。

「いあああっ!」

幻龍剣を振り回すと、パニッシャーが次々と爆発していく。増援が来る気配は―――ない。



―――出現したパニッシャー全てを撃破したのは、それから20分ほど経ってからだった。





「っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

男は、走っていた。
不意を打たれて氷の一閃を喰らったが、相手に迷いがあったのが幸いした。肩口を切り裂かれただけで、何とか逃げ出す事が出来た。

(おのれ、おのれ、おのれ……っ!)

何よりも、自分を傷つけたあの少女が許せなかった。いずれ、必ず報復してくれる。先ほどはなぜか使えなかったが、今は問題なく使えるように戻っている。

(この力、この力さえあれば、私は……!!)


「やれやれ。存外使えませんね、あなた」


「!?」

横合いから声をかけられ、足が止まる。暗がりに立っていたのは、古びた黒い帽子にコートを纏った、現代離れした服装の男。覗く視線は、やけに冷たく、それでいて感情の揺らぎが見て取れる。

「地球の守護者達と殺戮機械との戦い……せっかくのそんな力に目覚めたのなら、もう少し上手く演出してくれると思ったのですがね。期待外れです」

確かにこの力は、最近急に得たものだ。生体電流を増幅し、電子機器の制御を乗っ取り、電撃を放つ。だが、なぜこの人物がそれを知っている?
すると、心の中のその呟きが聞こえたかのように、コートの男は言った。

「それはワタシが目覚めさせたのですよ。ま、どのような力が出てくるかは、開けて見てのお楽しみでしたが」
「な……」
「ですが、あなたには失望しました。せっかくの力、有効に使えないとは。そんなことでは、ワタシの出て来た意味がない」


「では、さようなら」


あまりにもあっさりとした、死の宣告。男がそれを理解したのは、体を貫かれてからの事だった。





戦いが終わり、アースセイバーの面々はかけつけた莉絵さん達に回収されていった。僕達や修斗さんは比較的軽傷だったので、簡単な手当てをその場で受け、自宅まで送られた。余力を残していたゲンブは、今回の報告のために一足先に戻っていた。

「つ、疲れた……」

本当に疲れた。恐らく、「施設」を逃げ出して以来、もっとも疲れた一日だった。
部屋に戻った僕は、とにかく疲れた体を休めようとしたが、汗とホコリでドロドロの服が問題だった。ひとまず風呂場に向かい、学生服を洗濯機に放りこんで、さっと身体を流した後で戻る。アオイの方はと言うと、どうやら僕以上に披露したらしく、ちらりと覗いた部屋の中で倒れ込んで寝息を立てていた。
さすがにそのままにはしておけなかったので、ひとまず服だけは着替えさせておいた。
自分の部屋に戻り、着替える前にベッドに座り、身体を投げ出す。ああ、疲れた。体が重い。

(それにしても、何であんなにパニッシャーが……ああ、でも……そういえば、明日は何の授業が……)

思考が飛びまわる。目が重い。あれ――――。




「……ん、ん?」

気がつくと、外から陽の光が差し込んでいた。そこでようやく、僕は自分が眠ってしまっていた事に気付いた。

「あ、ぁ、寝ちゃってたのか……何時だ……って、どわーっ!!」

現在時刻―――AM8:26。

「完っ全に遅刻……ハ、ハクシュッ!! うぅ……?」

突然くしゃみが出た。何で突然……思いかけて気付いた。


「うわっ、服着てないっ!?」


そうだ。そういえば昨夜、着替えようとしてベッドに座り込んで、そのまま眠ってしまったんだった。寝冷えだな、これは。

「風邪ひいちゃったか……クシュッ! あれ、アオイは……?」

とりあえず寝間着を着てアオイの部屋に向かうと、まだ床の上で寝息を立てていた。この分じゃ、アオイも風邪か……。

「あーあ、またやっちゃったか……ふ、ハックシュッ!!」

……この日は、休まざるを得なかった。けど今日は全校体育。ああ、行きたかった……。

――――リンゴと清涼飲料水を持ったマナとエイトが火波家を訪ねるのは、それから4時間後の話。

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最終更新:2011年03月22日 01:31