※カニバリズム表現有
「・・・?はいはーい?」
『ロビンさん!
緊急事態です!』
「ん?どうしたの、アルト君?」
『搬送予定にあった囚人達が惨殺されてて・・・!』
「えっ、それ全員?」
『かろうじて息のある囚人もいますが、早くしないと・・・』
「あちゃー、じゃあ殺しといて。」
『・・・え?』
「あと、そっちに『処理係』回しておくから、その子が来るまで待機してて。」
『でも、まだ生きてる人が!』
「生かしといたってどうせあっちに着いたら衰弱すると思うよ?
だったら今楽にしてあげたほうが、その人の為になるんじゃないかな?」
『・・・・・・・・・』
「大丈夫だって、所長には僕からちゃんと言っておくから、
アルト君は何も心配しなくていいよ。」
『っでも・・・』
「何か質問ある?」
『いえ・・・・・・分かり、ました。』
「ん、それじゃあね。」
ピッ
___そんなやり取りをして電話を切ってから数十分後、
今俺の目の前では、一人の少女が目の前の肉片に喰らい付いている。
「ん、んぐ」
ケーキを鷲掴みにして食べる、まさにそれがぴったりな少女であるのに、
彼女が一心不乱に食べているのは血と肉と骨で出来た肉団子、
先程まで虫の息であった一人の囚人の死体なのだ。
子供のように頬張っては口元を赤で濡らしていく、
嗅ぎ慣れていない腐臭に吐き気を覚える。
彼女はぐら子。それは単なる呼び名で、正確な名前は初めからない。
生まれながらにして能力を持っていた為か、彼女との初対面は見世物小屋だったらしい。
所長が何を思ったのかその子供を買い、以来、ぐら子は刑務所内で『処理係』として
刑務所内で働いている。
『処理係』というのはその名の通り、刑務所内で死んでしまった囚人の死体を処理する仕事だ。
カルーアトラズ刑務所に収容される囚人の多くは能力持ちの極悪犯罪者。
その為、彼らの親族と自ら名乗り、遺体を引き取りにくる者は滅多にいない。
だから積み重なる死体の処理が必要なのだ、それも人も寄り付かない離島の中で。
その点について、ぐら子の能力は非常に適している。
『満たされない胃袋(ハングリーケイヴ)』
所長の命名したぐら子の特殊能力で、彼女が一度口付けた物は何でも食べてしまう。
それが鉄であれ、鉛であれ、果ては人間であれ、
その小さな口に何でも収容してしまうのだ。それが栄養として、肉としては蓄積されるものの、
人間の欲求の一つである『食欲』は永久に満たされることはない。
24時間365日、腹を空かしたままだからこそ、いつでも『処理係』として回せるのだ。
「げふっ、あむ」
ぐら子にとって、自らの行為はいつものように『食事』としか認識されていない。
それなのに、俺らは何故こんな年端もいかない少女にえげつない事をさせているのだろうか。
この子だって能力者でなければ、今頃はトキコちゃんと同じく高校に通っていたはずだ。
いや、能力者であっても、いかせのごれにいたならば、きっと・・・
そんな事を考えながら憔悴した眼でぐら子を見つめいたら、彼女はその視線に気付き、
死体の腕を咥えながら近寄ってきた。
「ある、げんきないの、どったの?」
「…いや、なんでもないよ。」
「たべる?」
「いらない。」
「うー、ざんねん。」
そう言って、近くに座るともぐもぐとそれを食べ始める。
気を紛らわせようと俺は彼女に話しかけた。
「…ぐら子、おいしい?」
「おいし、ある、やっぱたべる?」
「いらない。」
「うー」
「………」
「ある、げんきないの、しぎいないから?」
「え?」
「ある、しぎ、いつもいっしょ。でも、きょう、べつべつ。」
「それは仕方ないさ、俺はロビンさんの付き添いだし、
シギは例の男の調査にメリーと行ってるし…」
むしろ、今日は一緒じゃなくて良かったのかもしれない。
スザクちゃんの異変、収容していた筈の囚人の虐殺。
顔を知っているシギならばそれをネタにすることはまず間違いないだろうし、
特に後者は、十中八九トキコちゃんの仕業であると彼ならばまず疑うからだ。
いや、ロビンさんにはああ言ったけれども、ここで殺人を行ったのは彼女かもしれない。
人形を乱暴に扱って、誤って身体の一部分を千切り、中身の綿をぶち撒かす。
囚人たちの殺され方が酷くそれと似ている。
騒ぎの蚊帳の外であるぐら子はそんな俺の思考を察することなく、
きょとんと首を傾げ、尋ねてきた。
「れいのおとこ?」
「上が追っているとある能力者のことさ。
いかせのごれに最近、そいつと酷く類似する奴が現れるらしくてね。」
「んー・・・たべれる?」
「食べれない。」
「えー」
「必ずしも同一人物とは限らないし、情報も定かじゃない。
もし収容されたとしても、きっと開発部や研究部の連中に・・・」
開発部、研究部。
その言葉を聴いた瞬間、ぐら子の顔が強張り、咥えていた腕が地へと落ちていった。
…そりゃ、そうだろうな。
カルーアトラズ刑務所専属の開発部、研究部は
『いかに刑務所内から脱走者を出さないか』
をモットーに能力者に対する研究と対策を日々奮闘している。
もちろん、その素対となるのは能力者・・・刑務所で収容されている囚人達である。
どんな研究が行われているのか、については所長はまったくノータッチ。
もちろん看守である俺らも何をしているのかは知らないし、お互い不干渉、
が暗黙の了解となっている。
ぐら子は彼らに特別何をされたわけでもないが、
いつも夜中に奇妙な声が部屋から聞こえてくる、と言って怯えているから、
あまり良い印象を抱いていないのだ。
それは、俺らも同じこと・・・なんだけどな。
「………」
ぐら子は開発部の名を聞いた後から、黙って処理し始めた。
「………」
俺もつられて黙り込んでしまう。
・・・分かってる、自分たちが何をしているのかも、
どんなに最低な行いをやっているのかも。
けどそれは、カルーアトラズの信念の元故に行われる行為なのだ。
『犯罪者を許すな』
『犯罪を犯した者に人である権利はない』
『その罪も人も許すな』
『能力者であれば、尚更のこと』
かつてただの看守であった時、おかしいと教官に口答えし、
拳で顔を殴られた時にそう怒鳴られた。
ないがしろにされる犯罪者であれど、彼らは俺らと同じ人間だ。
帰るべき故郷もあるし、待っている人達もいる。
子持ちの父親も母親だっていた。
しかし、一度ここに収容されてしまえば、二度と日に出ることはない。
それはあまりにも可哀想だ、とシギに喋ったら、お前はお人好しだ、と笑われ、
殴られた箇所を引っ張られたっけな。
翌日、その教官は殉職し、違う教官が入ったのはまた別のお話。
「…まだ、大丈夫…」
自分に言い聞かせるように呟く。
シギが隣にいれば茶々を入れてくるだろうに、
今この場にいるのは異常を知らない『処理係』のみ。
だから、能力者でない自分がこうしないと、俺は俺を保っていられなくなる。
自分が能力者だったら、きっと酷い
自己嫌悪に襲われてるに違いない。
まだ、俺は能力者に対して人を捨てることは出来ない。
まだ、壊れない。
「・・・まだ、大丈夫・・・」
もう一度、自分にそう言い聞かせた。
或る男の独白
最終更新:2011年04月12日 23:38