「……見た所では何もなさそうだが……」
ストラウル跡地で、
蒼崎 啓介はそう呟いた。
アースセイバーに所属する能力者たる彼がここにいるのは、理由がある。以前、隣のクラスの同級生で同僚であるミユカが、保護された能力者である
シグマを連れて勝手に外出した際、ここに待ち構えていた
ホウオウグループ幹部・ゼアと交戦したという記録があることだ。
生物兵器については
ジングウと双璧を成すあの男が、一体こんなところで何をしていたのか?
それともう一つ、
パニッシャーの本体に当たる制御中枢を調査するのが、今回の彼の任務だった。ただし、ここにいるのは彼一人ではない。
「真衣、あまりうろうろするな。ここでは何が起きてもおかしくないんだからな」
「う、うん。……けど、何だか嫌だ、ここ……」
3つ下の妹、真衣を伴っていた。彼女もまた能力者で、現状啓介が「監視」している状態にある。連れて来ることに関しては危険が予測されたが、結局こうなった。
というのは、
「当たり前だ。何度も、何度も、戦いが起きてるんだからな。それより、何かあったら」
「わかってる。戦わずに隠れとくから」
「それでいい。まだ、能力の訓練中だからな」
「教官」こと七篠 獏也……アースセイバーの能力者達に対する訓練を統括している男によって、名目上アースセイバー預かりの真衣もまた、自分の力を制御するための訓練を受けているのである。最近まで封じられていたため、まだまだ完璧とは言い難いが、一応形にはなってきている。そのため、今回の調査にあえて同行させることで、危機対処法を覚えさせよう、というものだ。能力者であり、それを自覚した以上、どこかで必ず危険に巻き込まれるのは自明の理だ。
ただしこれには、
『わかってると思うけど、真衣ちゃんは無理に戦おうなんて考えたらダメっすよ? まだ自分を扱うので一杯一杯なんだから、無茶して暴走するのは厳禁っす』
というシノの忠告がついている。当たり前だが、駆け出しの能力者が無理に戦闘に参加するほど無謀なことはない。
ともかく、跡地の調査をしていた蒼崎兄妹だったが、ここまで目ぼしい成果はない。
以前の如く地下か、とも思ったが、ブラストルも
ボルカノンも既に破壊されている。
正直、空振りが良い所だった。
「…………」
(俺の「センサー」にも引っかからん……本当に何もないのか)
啓介の能力は、一言で言えば「超能力」、エスパーである。その一つである「超感知」は一般人だった頃からの力で、近い危機やトラブルを察知できる。だが、ここまでその予感はない。
一方の真衣は真衣で、
「んにゃ~……柳ちゃんだったら、もうちょっと上手く出来るのかな」
「穂ノ空か……あいつ、興味のある時でないと出て来ないからな……」
優秀な調査能力を持ちながら、異様にマイペースな友達のことを考えていた。「こうなって」からは久しく会っていない。彼女がアースセイバーにいるということもごく最近知ったところだ。
「俺としては冬也を頼りたかった所だが……」
啓介の方は、全方位10kmという驚異の視界を持つ後輩のことが浮かんでいた。普段は本部で接近する敵などの警戒をしている彼の力なら、この「跡地」全体を少し動くだけでサーチ出来たはずだ。だが、彼の任務は地味ながらかなり重要なため、任務中はめったに動くことはない。
(しばらくはどうにもならん、か)
いない人物を頼っても仕方がない。とりあえず、ここには今の所何もない。
「真衣、移動するぞ」
「はーい」
そう言って、啓介が真衣を伴ってその場を離れようとした――――瞬間。
「ッ!?」
不意に、頭の中を鋭い電流のようなものが駆け抜けた。これは間違いない、危機が迫った時の「あの感覚」だ。しかもこの鋭さからすると、本当にすぐやって来る。
「まずいッ!」
「ふわっ!?」
とっさに真衣を抱え、啓介はその場から飛び退る。直後、啓介がいた場所を灰色の光線を穿った。
「何、何!?」
(攻撃……奴らか!?)
咄嗟、啓介は光線が来た方向を見上げる。が、目に留まったものが何かを認識して愕然となった。
鳥の姿を模した、機械兵器……。
データベースで見たことがある。過去の戦いで一時投入された、ホウオウグループ側の兵器。速度を活かした高高度からの突撃もさることながら、最も恐ろしいのは、嘴と翼から放って来る灰色の光線―――石化光線。
まともに浴びると石化してしまい、そこに突撃して木っ端微塵にする、という兵器だ。
だが、その戦いで同士討ちを起こしたため、戦域外へ逃走した数機を除いて破壊されたはずだ。
(あれがその1機か……ッ!)
「け、啓兄ちゃん」
「真衣、お前は物影に隠れていろ。奴は俺が叩き落とす!!」
言うや否や、啓介は人一人抱えているとは思えない速度で縦横に走り回り、ガルダの光線をかわしつつ疾駆する。これは能力の恩恵でもなんでもなく、にわかには信じ難いことだが素の身体能力である。
「ここにいろよ、すぐに戻る!!」
「啓兄ちゃん!」
真衣を光線の及ばない建物の陰に隠すと、啓介は自ら飛び出してガルダの注意を引き付けにかかった。途端に十条の光線が襲いかかったが、逃げ場のないそれを、
「ッ!」
啓介は一睨みで止め、弾いた。念動力の障壁である。
しかしこれは長く持たない。啓介の能力は、強力でしかも応用が利く、異様にハイレベルな力だ。だが、強力な力には当然、それに見合うリスクや欠点がある。精神力がそのまま能力となっている啓介の力は、使いすぎると心を疲弊し、最悪精神崩壊に至ってしまう。つまり、長期戦は不可能。ましてやブラストルの時とは違い、単独だ。
(長くはかけられん……速攻!!)
急降下しながら光線を連射して来るガルダを見据え、啓介は灰色の雨の中を紙一重で駆け抜ける。
その中で手ごろな瓦礫にいくつか目をつけ、それを念で浮遊させて投げ飛ばす。
(行けッ!)
強烈な思念を受け、瓦礫が弾丸の如く乱れ飛ぶ。ガルダの光線はあくまで石化光線であり、直接破壊力はない。元から石である瓦礫が喰らった所で、何の意味もない。光線を遮りながら飛び交う瓦礫は、しかし一つたりともガルダには命中しなかった。異様な速度と異常な軌道で飛びまわるガルダを捉えるには、弾丸のスピードでは遅すぎた。
「ちッ、何て奴だ!!」
予想はしていたがこれは厳しい。こちらは一発でも喰らえば終わりだと言うのに。一体かつてのアースセイバーはこれをどうやって撃破したのか。
「何とか動きを止めなければ……うおッ!」
油断していた所に光線が着弾。ギリギリでかわしたものの、服の裾が貫かれてその部分が石になってしまっていた。
「だあッ、この!!」
しかしまずい。石になった部分が重くなり、わずかだが動きが鈍る。相手が空を飛んでいる上に高速で動き回っていては、地上を走る啓介にとって圧倒的に不利だ。
啓介も飛べないわけではないのだが、それ以外に力を使えなくなるためこの場では論外。
時間が経てば経つほど、啓介は追い込まれていく。
どれくらいの時間が経っただろう。啓介の精神力は限界が近づき、動きにもキレがない。一方のガルダはまったく変わらない様子で飛びまわり、隙あらば石化光線を放って来る。
(こ、の、心もない機械ごときが……ッ!!)
状況は絶望的、まさに絶体絶命だった。突撃を喰らって吹き飛ぶか、石化して砕かれるか。このままでは、啓介が辿れる道は二つしかない。
既に能力を発動するだけの精神力はなく、空間転移一回が限度だった。それだけの手札で、この状況は到底乗り切れるものではない。
だが、だからと言って諦めるわけにはいかない。
(こんな所で、俺は……ッ!!)
最後の意地で力を振り絞り、真っ向から急降下して来たガルダ目掛けて瓦礫を「投げ」つける。しかし、消耗しきった念動力はそれに応えてはくれず、狙いは虚しく逸れた。そして、
(ぐ、ぁ……!)
啓介の精神力も、ここで尽きる。霞む視界に、ガルダの三つの砲口が臨界し始めるのが見える。
しかし、
「―――!?」
その時彼が見たものは、横合いから「何か」にぶつかられて錐揉み回転するガルダの姿だった。
(え!?)
啓介の危機に思わず飛び出そうとした真衣が見たものは、横合いから「何か」にぶつかられて錐揉み回転するガルダの姿だった。
ちょうど真衣が隠れている場所と真反対に当たるその場所から放たれた「何か」によって、ガルダは明らかにその動きを鈍らせていた。全体にまとわりついているのは、白い何か。氷……だろうか?
(あっ!)
と思う間に、啓介の傍に何者かが姿を現す。黒……いや、緑の長い髪を持った少女。少なくとも、真衣はその人を見たことがなかった。ただ、普通の人間でないのは確かだった。右手に握る氷の刃と、左手に握る青い銃が、その証。
(だ、誰、あの人……あ、危ないッ!?)
真衣が何を考える間もなく、状況が動いていた。ガルダは動きを鈍らせつつも、その少女目掛けて低空で突撃を敢行する。が、
「遅い!」
その声と共に真正面から振り下ろされた刃が、ガルダを真っ向から縦一閃、断ち割っていた。
真っ二つになった鳥型戦闘機は、少女の横を通り過ぎてしばし勢いのまま滑空し、一拍おいて思い出したように爆発を起こし、木っ端微塵に砕け散った。
「ひゃあっ!?」
至近で起きた爆発に、思わず悲鳴を上げる。が、それで向こうも気付いたらしく、
「あ、しまった!? 大丈夫か!?」
駆けよって声をかけて来た。思わず、
「は、はい」
と返事をしてしまう真衣であった。
少女の方はそれで安心したのか、息を一つつくと言った。
「無事か、よかった。……けど、何でこんな所に?」
「それは、俺の質問だ、凪……」
「! 起きてたのか、啓介……」
能力を使い果たしたはずの啓介が、壁に手を突いて身体を支えながら立ち上がっていた。どうやら完全に意識を失っていたわけではなかったようだ。
その眼は、凪と呼ばれた少女に対する疑惑に染まっている。
「何故、ここにいる? その力、お前も能力者なのか」
「……こっちにはこっちの理由がある。能力者かって聞かれれば、『そうだ』って言うしかないな」
「……そうか。で、どうする? 俺はアースセイバーだ。今のを見て動じないってことは、ある程度事情は知ってるんだろう」
「多少は」
「……答えは予想できるが一応聞こう。アースセイバーに来る気はあるか?」
そして案の定、
「悪いな。縛られるのは好きじゃないんだ」
答えは啓介の予想通りのものだった。
「はぁ……だろうな。俺も縛られるのは好かん。行け。あとは適当に言っておく」
「すまないな。じゃ」
短くそれだけ言い、その場を立ち去る凪。彼女がどうしてここにいるのか、啓介にも真衣にも推し量ることは出来なかった。……が、今はそれはいい。
「戻るぞ、真衣。まだ一回ならテレポートが出来る」
「え、でも、あの人のことは?」
真衣の記憶では、能力者である以上ウスワイヤで保護しなければならないはずだ。しかし啓介は、あっさりと言ってのける。
「ガルダは俺が破壊したことにしておく。どの道、いかせのごれには隠れ能力者が何百といる。今更一人二人増えた所で、何の問題もない」
「……いいの、そんな認識で」
「いいんだ。ここに凪はいなかった、そういうことだ」
啓介としても、同級生を「告発」するのは何だか気が引けた。元々そういう性分なのだ。
「とにかく戻るぞ。どの道これ以上は続けられん」
「う、うん」
真衣が近くに来たのを確認し、啓介は妹共々その場から姿を消した。
「跡地」の攻防
(それはある日の光景)
(続いて来たわけでなく、続くわけでもない)
(そんな、ある日の出来事)
最終更新:2011年05月13日 23:22