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小さな国があった。
その小さな国は竜の襲撃に会い、滅んだ。
滅びる寸前、王は一人の騎士に自分の娘と逃げるように言った。
「これから先、お前がこの子を守ってくれ」と言って。
そして国は滅び、一人の騎士と姫は何とか生き延びた。

この世界ではそんなに珍しくもない話。

「ここが…カザン…」
一人の男がカザンと言う街の入り口に立っていた。
金色の目、白い髪、褐色の肌、そして人間にしては少し長い耳が男の特徴だった。
男は所々ボロボロの鎧を身に纏い、その隣には小さい少女が立っていた。
少女は青い髪に獣のような耳を持ち、その手の中にはぬいぐるみがあった。
「姫様、少し休みましょう。ここ最近はずっと歩きっぱなしでしたし…」
男にそう言われると、姫様と呼ばれた少女は首を横に振った。
「しかし…」
「…大丈夫だよ、グリオン」
少女はグリオンと呼んだ男の顔を見て、そう告げる。
「…申し訳ありません。私に力がないばかりに…」
「違うよ。グリオンは十分私の力になってくれてるよ…」
その言葉を聞き、グリオンの表情は崩れそうになる。
一度や二度の話ではない。
グリオンが少女を気遣うたび、少女はグリオンにそう言う。
そしてそのたびにグリオンは思う、もっとこの子を支えられる力が欲しいと。

「…それでは水を恵んできてもらいますので姫様はここで待っていてください」
「…私も行く」
「いえ、姫様はここで休んでいてください」
「…大丈夫って言った」
そう言う少女の姿はどう見ても疲れていた。
「嘘はダメです。少し休んでください。姫様に倒れられたら私が困ります」
「でも…」
「大丈夫です。すぐ戻りますから」
「あ…」
グリオンは言い終えると少女に背を向けて歩き出した。
少女はその背を追おうとするが、通行人にぶつかってしまう。
少女は尻餅をつき、ぬいぐるみが地面に落ちる。
「おっと、ごめんよ、大丈夫?」
「だ、大丈夫です…」
少女はぬいぐるみを抱えて立ち上がる。
ぬいぐるみが少し汚れたが気にしない。
すでにぬいぐるみは綺麗と呼べる状態ではなかったから。
「本当に大丈夫?」
「うん…」
「ごめんね、お譲ちゃん」
そう言って通行人は去っていく。
少女はすぐに辺りを見回す。
少女と一緒にいた騎士、グリオンの姿は大勢の通行人の中に隠れ、もうなかった。
少女はぬいぐるみを抱く腕に力を込める。
(グリオン、いない…一人…ぼっち…)
少女はしゃがみ込むと、声を出さずに泣き出した。
このカザンの街に来るまで少女はずっと騎士から離れなかった。
離れたらグリオンもいなくなりそうだったから、父親や母親のように。
だからどんなに疲れていても離れなかった。
だが、離れてしまった、こんなにも簡単に。
「っ…ぅ…」
「あなた、大丈夫?迷子?」
「…ぅっ?」
少女が顔を上げるとそこには大きな斧を持った男と白髪の獣耳少女がいた。
少女はさらにぬいぐるみを抱く力を強くし、警戒した。
「あ、大丈夫よ!私達怖くないから!」
「ああ、その証拠を見せてやろう」
「え?」
白髪の少女が男の方を向くと、男は奇妙な踊りをし始めた。
俗に言うヒゲダンスである。
「…何してるの?」
「子供は歌と踊りが好きだろう?だから、ほ~ら」
そう言うと男は踊るスピードを速くする。
「な、怖くないだろう?」
怪しい上に何か怖かった。
少女は怯えた様子でその男の顔を見た。
男はそれに気づくと、ニカッと笑ってみせた。
それを見て、不思議と少女は男が怖くなくなった。
「もう!変な踊りはやめて!」
「ちぇっ、これからなのに…」
「いいから!……前回はまだまともでかっこ良かったのになぁ…」
「え、何?」
「すごい変人と一緒になっちゃったって言ったの」
白髪の少女は男にそう言うと、泣いていた少女の方を向いた。
「ごめんね、怖かったでしょ?お姉さんは怖くないから。私はイクラクン。あなたは?」
「…モモメノ」
「モモメノちゃんね、可愛い名前ね」
「確かにな。イクラクンと比べると天と地の差だ」
「そう言えばまだ私の実力見せてなかったよね。せっかくだし手加減なしで見せてあげる」
「よく考えるとイクラクンって名前もすごい可愛いよな。はぁいとかばぶぅとか言いそうで」
「それ、違うから。どっちかって言うと『チャン』だから」
「あの…お兄ちゃんの名前は?」
モモメノと名乗った少女がそう聞くと、男は再び笑って答えた。
「俺はファンタって言うんだ。シュワシュワしてそうだろ?」
「…うん」
モモメノは頷き、微かに笑った。
イクラクンはその様子を見ると、大きくため息をついた。
「最初っからそうしていて欲しいわ。いきなり変になられるとこっちが疲れるんだから…」
「ははは、悪い悪い。で、モモメノ、迷子なのか?」
正しくは迷子ではないが、モモメノは答えずにただうつむいた。
「…よし、俺が一緒に保護者を探してやろう!いいよな、イクラクン」
「うん、もちろん。モモメノちゃん、出来れば探している人の特徴を教えて欲しいんだけど…」
イクラクンに聞かれると、モモメノは顔を上げた。
「鎧、着てる…」
「鎧、か…ここじゃそんな奴いっぱいいるからな…おっ、そうだ。モモメノ、立てるか?」
「うん…」
ファンタに言われるとモモメノは立ち上がった。
「うし!」
「ぇ?」
ファンタはモモメノの後ろに回りこみ、彼女の太ももの間に頭を突っ込み、足をつかんだ。
「ちょ、何してるのよぉ!」
イクラクンはモモメノの太ももの間にあるファンタの頭を思い切り蹴った。
「ごっ!ま、待った待った!」
「うるさい、変態!」
「だぁ~、違う違う!蹴らないで!お願いしますから!」
「ゎ…」
ファンタがその姿勢のまま立ち上がると、ファンタがモモメノを肩車する形になった。
「どうだ、高いか?人の顔、よく見えるか?」
「…うん、見える…すごい」
「よし、探そう。そして、イクラクンは俺に何か一言ください」
「う……ご、ごめんなさい…」
「うむ、では罰として俺の斧を持ちなさい」
「え、ちょ」
「さぁ、しゅっぱーつ」
「ま、待って…う、重い…」
そしてファンタとイクラクンは歩き出した。

30分後、彼らは元の場所に向かっていた。
「み、見つからないね…」
「ま、向こうも探してるかもしれんしな、すれ違ったかもしれん」
「そうかもしれないわね…」
イクラクンは重い斧を持って歩いていたせいか元気がなかった。
「ぁ…」
「ん、どうした?モモメノ」
モモメノの目は探している人物を捉えた。
「いた…あの人…」
「ん……え、あの人か?」
「…すごい人ね」
モモメノが探していた人物、グリオンは顔から出るものを全部出してひたすら「びめざま、びめざまぁ~!」と叫んでいた。
「早く声をかけよう。やばそうだし」
「そ、そうね」

「本当に!ありがとうございましたぁ!」
グリオンはそう言ってファンタとイクラクンに向かって土下座をする。
「いや、いいって。どっちかって言うと俺達が勘違いしたせいであんたに迷惑かけたし」
「そ、そうですよ。顔を上げてください」
「いえ、姫様に寂しい思いをさせてしまったのがそもそもの原因です!」
グリオンはそう言って頭を下げ続けている。
グリオンの説明でファンタとイクラクンはモモメノが迷子じゃなかった事を知った。
「いいから顔上げてくれ。ほら、モモメノも困ってるだろ?」
モモメノは沈んだ表情でグリオンを見ていた。
「ごめんなさい、グリオン…」
「そんな!姫様は何も悪くありません!」
ファンタは二人のその様子を見ると、口を開いた。
「なぁ、モモメノってどこかの国のお姫様なのか?」
「そう言えばさっきからグリオンさん、姫様姫様って言ってるね」
「それは…」
グリオンは一瞬ためらったが、二人の方に向き直った。
「分かりました。貴方達には教えましょう。先ほどの事もありますし」
グリオンはそう言って自分とモモメノの事を話した。
グリオンは昔、死にかけていた所をモモメノの父に拾われ、王である彼に忠誠を誓った事。
ある日突然ドラゴンに国を襲われ、国が滅亡した事。
王はグリオンにモモメノを連れて国を出るように命令し、グリオンは苦悩しながらもそれに従った事。
そして、モモメノとこのカザンまで歩いてきた事をグリオンは話した。
ファンタとイクラクンは黙ってそれを聞いていた。
グリオンが話し終えるとファンタが口を開いた。
「なるほどね。でも何でカザンに来たんだ?」
「ここではハントマンを集めていると聞いています。私はハントマンとなり、お金を稼ぎ、姫様を守っていくつもりです」
「他の国で騎士をやるって事は考えなかったのか?」
「私の王は…あの人だけです」
グリオンはそう言うと、ファンタは少し考えた後にグリオンに言った。
「なぁ、あんた、俺達の仲間になるか?」
「む、それは…」
「俺達のギルドに入らないかって事。これからあんた一人だと大変だろ?」
ファンタがそう言うと、グリオンの表情が明るくなる。
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、でも一つ条件がある」
「条件?」
「モモメノもギルドの一員として働いてもらう」
それを聞いた途端、グリオンの表情が変わった。
「そ、それはなりません!姫様を危ない目には…」
そう言うグリオンを無視し、ファンタはモモメノの前まで来ると姿勢を低くした。
「モモメノ、俺とイクラクンは竜の侵略から人を助けようと持ってる。お前にもそれを手伝って欲しい」
「お手伝…い?」
「ああ。でもすごい危ない事だ。死ぬかもしれない。でも、一つだけ約束してやれる事がある」
「約束?」
モモメノがそう言うとファンタは頷いて、笑った。
「お前に寂しい思いをさせない。お前が独りになりそうな時は俺とイクラクンが傍にいる。
もちろんグリオンだって一緒だ。この約束だけは絶対守ってやる」
「…本当?」
モモメノは知らない内に泣いていた。
何に泣いていたのかは分からないが泣いていた。
「ああ、本当だ」
ファンタはそう言ってモモメノの涙をぬぐった。
「…分かった…お手伝い、する」
「姫様…」
「と言う事なので、よろしくお願いしますぜ、グリオンさん」
「しかし…」
「大丈夫だよ、死なせないって。俺ってこう見えて臆病なんだ。
大切なものがなくなるのは怖くて仕方ないのだよ。だから死に物狂いで守ってやる」
「…分かりました。この命、ファンタ様に預けます」
「だが断る」
「え?」
「あんたに死なれるのは怖いんだって。あ、そうだ、イクラクン、悪いな、勝手に約束して」
「文句言うと思ったの?」
「ですよねー」
そう言ってファンタはモモメノに背を向けてしゃがんだ。
「話聞いた感じだと相当疲れてるだろ?おぶってやるよ」
「ぇ、いいの?」
「それは俺の台詞だ。可愛い子おぶれるんだから」
言ってる事が滅茶苦茶だがモモメノはほんの少しだけ笑みを浮かべてファンタにおぶさった。
「うし、グリオンさん、あんた、俺の斧持って」
「イクラクンが持ってる奴だ」
「こ、これです…」
イクラクンはグリオンにそう言って斧を渡した。
「これは…中々重いですね」
「は、はい…」
「悪かったな、イクラクン、後で何かおごるから」
「え、でも、あれは罰で…」
「女にあんな重い物持たせて何もしないわけにはいかんだろ」
ファンタにそう言われ、イクラクンは頬を染めた。
「…本当に…普段から真面目ならかっこいいのに…」
「んぁ?」
「何でもない」
イクラクンはファンタに顔を見られないようにそっぽを向いた。
「ま、モモメノはプリンセスってとこだし、ヒーラーがいないのはきついが何とかなるだろ?」
「アイテムで何とかするしかないわね…ねぇ、プリンセスやヒーラーは知っててメイジは知らなかったの?」
「え?」
「え、じゃなくて。最初メイジをチョコ売りって…」
イクラクンがそう言うとファンタは口笛を吹きながらそっぽを向く。
「知ってたの?」
「さぁ、ワシにはなんの事かさっぱり」
「知ってたんでしょ!知ってたのね!?」
「よし、ギルドオフィスまで逃げよう」
「逃げよー」
モモメノの台詞とともにファンタは走り出した。
「ちょ、待ちなさい!」
イクラクンもそれを追う。
「お、置いてかないでください!」
グリオンもまた、それを追う。

間もなくして彼らはギルドを結成する。
彼らがドラゴンを相手にどんな活躍をするのか、それはまた別の話。

~おまけ~
「全滅した時さ、「hageた」もいいけど「フロワロスwww」もいいんじゃないか?」
「いや、笑えないから」




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最終更新:2013年04月22日 20:24