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しふぉんけーき後日談


 夜。
 みたらし団子茶房<巫>から明かりがもれる。
「なるほど、ね。それでですか、妙に甘い香りがあなたからするのは」
 茶碗を布でみがきながら、店主が言った。
 どこか浮世ばなれした、おっとりとした声。
 柊 久音(ひいらぎ くのん)という名のその青年は姫巫女の命により、この茶房の店主を務めると共に時には吏族として天領に赴くこともある。
 もっとも、茶房の仕事については本人曰く「店主とは言いましても、実際に店で働いていただいている方々にほとんど任せきりですけどね」とのこと。
「大変ですねぇ、摂政というのは……」
 まるっきり他人ごとのように一言。
 言われた本人である摂政、七比良 鸚哥(ななひら いんこ)は、はははと力なく笑った。
 連日の菓子づくりで、もはや反論する気力もない。
「この話には続きがあってな」


 さかのぼること3週間。
 外国までしふぉんけーきを食べに行こうとする姫巫女&みぽりんを止めるため、摂政はなぜかしふぉんけーきを作成するはめになった。
 それがお気に召したようで、毎日のように二人からくる“りくえすと”。
 あきらめの境地で摂政は作成し続けた。
 二人が飽きるまで、二人が飽きるまでと思い願いながら。
 われながらよくやったと思う。
 さすがに知らない献立も多く、そんなときは政庁での政務が終わってから書庫にこもり文献を探した。
 書庫で朝をむかえることもたびたび。
 どうしてここまでやらないといけないのか。
 そう思いながらも努力を続けた。
 そんなある日。

「摂政さま~」
 みぽりんがひょこっと政庁の台盤所に顔を出した。
「ん?どうしたの?」
「あのね、見にきたの~」
 どうやら菓子づくりの様子を見学したいらしい。
「いいけど、危ないから、ちょっと離れててね」
 今日の献立は、どーなつ。
 油を使うから慎重にやらないといけない。
 ましてやみぽりんは、名高いうっかりさん。
 子ども並に気をつけなければ危ない目にあわせてしまう。
 どーなつの生地を作り、茶碗を利用して輪っかの形にする。
 油を熱してじゅじゅじゅと揚げると、そのうち生地の色が褐色に変わり、こうばしく甘いかおりが周囲にたちこめる。
「うわ、うわ、うわ~~」
 みぽりんはその様子を、目を丸くして見ていた。

「すごいんですよ~姫様。じゅ、じゅ、じゅ~って、どーなつができるです~!」
 作りたてのどーなつを食べながら、みぽりんは作成の様子を姫巫女さまに伝えていた。
 にこにこしながら話を聞く姫巫女さま。
(和やかだなあ)
 一緒にお茶をいただきながら、ほっと一息。
「なんか、楽しそうだねぇ。そんなに楽しいんだったら、私たちもやろうか♪」
(え?!)
「やりましょうよ!姫様~!」
 なんか二人、楽しそう。
 気持ち的に取り残される摂政。
 そこはかとなく嫌な予感。
「できあがったら、摂政さま、食べてくださいね~」
「そうだね。摂政に食べてもらおうか。いつも作ってもらうばかりじゃ悪いから~」
 ぶんぶん首を横にふる摂政。
「悪くない、悪くないですよ、全然!!」
 ものすごく身の危険を感じるのはなぜだろう。


 それからしばらく後。摂政は原因不明の腹痛で早退して、数日間の病欠をとった。
 摂政の予感が当たったかはさだかではない。
 話を聞いた茶房の店主は、「摂政は大変ですねぇ」と微笑みながら繰り返したそうである。


                                                             おしまい                            作・みぽりん