魔法少女リリカルなのは Strikers may cry 第三話 「なまえをよんで」

ブリーフィングルームにいる人間は一人残らずその闖入者へと視線を投げつけた。
六課の主任医務官であるシャマルを伴ってブリーフィングルーム内に足を踏み入れてきたのは、銀色に輝く髪を軽く後ろになでつけ、端正な顔立ちに良く似合う青いコートを着込んだ誰が見ても美男子と言うだろう男だった。
ほとんどの者が彼の端正な顔立ちを凝視する中、烈火と鉄槌の二つ名を持つ副長二人は長年の仲間であるシャマルの変化に激しい怒りを顔に浮かべ待機状態の己がデバイスへと手を掛けていた。
白く滑らかな肌を晒すシャマルの首には、くっきりと手の形に痕を残す痛々しい痣が浮かべ顔は恐怖に血の気を失っていたのだから彼女の身に何が起こったかを想像するのはたやすい事だった。
「まずは礼を言おう、傷の手当に感謝する。」
男は二人が送る殺気をまるで気にすることも無く静に口を開く。
未だに事態を理解していないスバルはその言葉に満面の笑顔を浮かべる、自分の助けた人がかける感謝の言葉が純粋に彼女の心を満たしているのだから当然かもしれないが。
「どういたしまして、当然の事をしただけですから。」
シャマルの様子に疑問を抱きながらもはやては彼の感謝の言葉に笑顔で答える。
「ミッドチルダっていう名前をご存知ですか?私たちは時空管理局…」
身元を調べた際に管理世界に戸籍の確認されなかった彼を管理外世界から時空遭難者と考えたはやては管理世界に関する説明をしようとしたが…
「そんなことはどうでもいい。」
男の言葉にさえぎられる。
「それよりも俺の持っていた物を何処へやった?」
その言葉を言い終わるや否や場の空気は先ほど副長二人が放っていたものとは比べられぬほどの殺気の重圧を孕んだものへと変わる。
「死にたくなければ早く返すことだな…」
疑問を顔に浮かべたはやてに対し敵意をむき出しになったの言葉がかけられる。
「貴様っ!」
「てめえっ!」
各分隊の副隊長二人は言葉と共に。
隊長の二人は無言でデバイスをいつでも機動できるように身構える。
少なくとも男の身体から伝わる殺意と魔力、そして何より感じる人外のものが持つ異質な恐怖感が一騎当千の四人に臨戦態勢を取らせることをと惑わせなかった。

場には触れなば切れんカミソリのような鋭い殺気の渦が流れ、若いフォワード陣は体の芯に冷たさを感じる。
しかしはやては落ち着いて彼の前に歩き、そっと手にした物を渡した。

目の前の女が差し出した己の半身とも呼べる二つの品を取り、ようやく身体をに流れていた激情の波が引いていく。
「私は時空管理局機動六課、部隊長の八神はやて二等陸佐いいます、お名前うかがってもよろしいですか?」
先ほどまで抑えきれずに発していた殺気を気にする素振りなどまるで見せずに八神と名乗った女は柔らかくも凛とした口調で尋ねてくる、
気配を感じれぬ程に鈍いのか、気にする必要などない程に豪胆なのか…俺の目を真っ直ぐと見つめる澄んだ瞳がその答えは後者であることを物語っていた。
「…バージル。」
俺は最低限、聞こえる程度の声量で女の問いに答えた。

最初に部屋に入ってきた時は正直に言って腹立ったわ、シャマルの様子はおかしいし何より私らのことを値踏みするっちゅうか見下したような目で見とった、次に感じたんは震えるような恐怖、
っていうか“死にたくなければ”って要するに言うこと聞かな殺すってことやん!シャレにならんでホンマ…、
ピリピリ感じる魔力と威圧感はその言葉が決して冗談でない事を物語とった、でもここでビビッてたら部隊長なんか務まらんし下手したらこの人の傍におるシャマルがどうなるか分からん、
一部隊の長として相手に礼は示さなあかん…っていうか他のみんなは今すぐにもドンパチ始めそうな勢いやったし、
相手は丸腰な事を忘れとるんか?でも油断はできん何かあったら真っ先に命を懸けなあかんのは私や、もしもの時は私がシャマルの身代わりになる、
絶対に家族には手なんか出させへん!とりあえず皆に釘さして私はその人の目の前に立った。改めて顔を見るとホンマに二枚目や、90点以上は確実やな、でも目つきも気迫も怖すぎや…これ気の弱い人なら確実に失禁しとるで、
恐怖と警戒を抱きながらもなんとか荷物を返したんやけどその時のこの人の目を見てやっと合点がいったわ、
ペンダントを手にした時に一瞬見えた安堵感…これは誰かが触れていいモノやない、こんなの勝手な想像かも知れへんけど多分このペンダントはこの人にとって自分の命より大事な物なんやと思う、
今までの殺気も意識して私らに出してたんと違うきっと抑えきなかったんや、その証拠に殺気も消えて今私を見とる目はさっきみたいな見下すようなもんやなくなってる、
警戒の色はちょっと消えてへんなぁ…こんな美少女が悪人なわけあらへんのやからもうちょっと警戒解いてもいいんと違う?
でもこちらが名乗ったらちゃんと名前を教えてくれただけでも嬉しかった。

それから会議は急遽、事件の当事者への事情聴取に変わった、本来なら執務官のフェイトが一任する事であったがはやての要望により隊長陣の立会いの下で行われることになった。

交わされる情報からやはりバージルは管理外の世界からの遭難者であることが判明したがそれ以上に彼の話す悪魔・魔界・魔帝・スパーダといった内容は彼女達を驚かせた。

「その話からするとスパーダ…バージルさんのお父さんはそのアミュレットにフォースエッジっていう剣の力で魔界…特定の次元世界を隔絶したって言うんですか?」
「無論、完璧に一つの世界を遮断すことは出来ん、しかし上位の悪魔や魔帝が出入りすることは難しい、少なくとも自由な出入りは不可能だ。」
「それにしても大した魔力なんか感じねえこのロストロギアにそんな力があるのかよ?それにその話からするとこいつ…悪魔とかいう魔獣が親ってことになんのか?」
フェイトとバージルの応答にヴィータは未だ敵意と警戒心を隠さぬ目で小さくつぶやく。
「正確に言えばアミュレットが元来持っている力ではなく、スパーダが自分の力を三つに分けたのがフォースエッジに二つのアミュレットだ、魔力が安定しているのは当たり前だスパーダがその手で作りあげた魔石なのだからな、
それに俺が人間でも悪魔でもないことは既に調べがついているのだろう?」
バージルは聞こえない程度の小さな声にもはっきりと答える。
「…確かに検査の結果は、DNAの塩基配列は人に類似していましたが明らかに人とは違うものでした。」
部屋の隅で自分の首をさすっていたシャマルが答える。
「悪魔でもないって、どういう事なんですか?」
先ほどのバージルの言葉にはやてが思わず口走る。
「俺の母は人間だったということだ。」
人間が未知の魔道生物との間に子を成すという話に全員が息を飲む。
「その悪魔の力でガジェット…あの戦闘機械を退けたんですか?」
一瞬の沈黙を破りフェイトが尋ねる。
「ああ、随分と数が多かったがまるで手ごたえが無かったな。」
バージルの言葉からすると彼は一発の攻撃も受けずに300体近いガジェットを倒したことになる、デバイスも無く、ミッドやベルカの魔法知識も無く、あんな負傷をした者がそれをしたと言うならば正に悪魔の所業だろう。
「そのボロ刀でか? 信じられねえなホントに。」
「閻魔刀(やまと)、スパーダの振るった数多の剣の内の一本だ。」
バージルは挑発ともとれるヴィータの言葉に静に答える。
「それじゃあ、身体の傷はいったい…」
「こちらの世界に来る前の戦いで負ったものだ。」
と、はやての問いに答える。
「貴様にそれほどの手傷を負わすとは、相当の使い手か?」
事情聴取が始まってから沈黙を守ってきた烈火の将シグナムが問う。
「ダンテ…俺の弟だ。」
バージルが始めて口にする、こちらの世界に来る前の具体的なそして衝撃的な言葉にスターズ、ライトニングの両隊長が口を開く。
「弟って!」
「何でそんな。」
「魔界へ渡るためフォースエッジとアミュレットを賭けて戦ったまでだ。」
バージルは感情を隠しきれない二人に今までと変わらない静かな口調で答える。

お互いに交換できる情報は出し尽くした、これまでの話からすればバージルは自分の住んでいた世界と魔界と呼ばれる隣接する世界を繋ごうとしたことになる、
管理外世界の住人(厳密に言えば人ではないが)である以上は管理世界の法律で彼がその世界間を勝手に繋げようとした事は裁けないが、
少なくともアミュレットはロストロギアとして押収されるだろう事が予想された、しかし彼の見せたアミュレットに対するこだわりと、さらに亡き両親の形見という言葉を聴いてフェイトは言葉に詰まっていた。
「バージルさん…」
口を開いたのはフェイトではなくはやてだった。
「このままやったらアミュレットは間違いなくロストロギア…危険な古代遺産として管理局が押収します。」
はやての歯に衣着せぬ言葉に一同は目を見開く、彼のアミュレットに対する感情を知ってこのような言葉を吐いたならそれは自殺行為にも等しかったからだ。
「でも…もし私に力を貸してくれるなら、絶対にそんな事させません!悪くても最低限の封印処置で所持の許可を取ります!」
(ちょっと!はやて何を言って…)
(はやてちゃん!)
(主!)
(はやて!)
ブリーフィングルームの時の比でない驚愕を浮かべ隊長陣が念話をつなぐ。
(みんな落ちついて…)
はやても念話をつなぎ説明を始める。
(バージルさんは魔道師やない、低ランクの嘱託魔道師として登録すれば戦力の保有制限にも引っかからへん最高のジョーカーになる、
時空遭難者として六課の預かりにすれば問題もあらへん、切れるカードが多いことに越したことはない筈や、それにアミュレット取り上げる言うて駄々こねられたら大変やろ?)
自分を見つめる皆へ少し視線を向けながら諭すようにはやては念話で呼びかけた。
「力を貸すとは?」
「嘱託契約の魔道師として機動六課の戦力になってください。」
「封印処置と言ったな。」
「アミュレットの魔力が暴走せんように魔法をかけます。」
しばしの応答をへて見詰め合う両者、次に言葉を切ったのはバージルだった。
「つまり、大事な物を取られたくなければ言うことを聞け…ということか。」
こちらも歯に衣着せぬ言葉で返すバージル、痛烈だがそれは真実だった。
「…断ると言ったらどうする?」
「全力でぶっ倒して取り上げます。」
「出来るとでも思っているのか?」
「私ら舐めとったら火傷しますよ?」
声の調子こそ穏やかだったが、二人を除く全員は気が気ではなっかた、圧倒的な数の優位性があるが目の前の男の力はあまりに未知数なのだ。
「くっ くはははっ。」
静かな笑い声が響き、バージルは初めての負ではない感情を見せる。
「随分と飾らんのだな。」
「そんなことないですよ、これでも一部隊の隊長ですから、猫かぶるときはかぶりますよ。」
今までの剣呑な流れが嘘のように会話が場に流れる。
「悪魔の俺に助力を請うとは変わった奴だなお前は。」
その言葉を聴き、はやては不機嫌そうに口を出す。
「違いますよ~、お前やのうて“はやて”って呼んでください。」
「いいだろう八神はやて、俺もこの世界の魔道に興味が沸いた、俺の力貸してやる。」

この日、力を求め続ける闇の剣士、伝説の魔剣士の息子は最後の夜天の王と契約を果たした。

続く。

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最終更新:2007年11月17日 18:14