魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry 第四話「試合、転じて死合」

スバルと会って六課に入隊して…たった16年しか生きてないけど危険の意味は知ってるつもりだった。
でもそんなの比べ物にならない“モノ”を目の前の人は放ってる。
キャロは今にも倒れそうでエリオは震える手でキャロを支えて。
鈍感なスバルだって狼狽してる、私も膝が言う事を聞いてくれないけどデバイスに手をかけてその人を見据えた。
(皆、落ち着いて…)
身構えていた隊長達と震える私達に八神部隊長が念話を伝えてきた。
(ベルカの古い言葉に“和平の使者は槍を持たへん”ってあるやろ知らん所で大事な物無かったら誰かて慌てるんやから)
八神部隊長はそう言ってその人にさっきの物を渡して…少し話しを聞いてから隊長達と事情聴取をすると言って出てった。
「大丈夫?キャロ」
「う…うん でも、もうちょっとそうしてて…」
その瞬間にキャロは膝をついて震える身体をエリオにさすられてた。
「は~ 何だったのよ、あれ?」
私は何とか息をついて落ち着いた、強く握っていた手は汗だくになってた。
「も…もしかして私たち何か失礼な事しちゃったのかな~」
スバルは相変わらず何かヌけたことを言ってた。
「あんたねえ、助けられてあんな反応するなんてこっちが失礼したって普通しないでしょ!」
「でもティア~ あの人、怪我してたし混乱してるのかもしれないよ…」
「怪我人があんな迫力だす?」
私たちはそんな会話をしながら宿舎に帰っていた、もちろんあの人が同じ職場で働くなんて想像もしてなっかたけど。

機動六課宿舎、自分で付けた偽名バージル・ギルバのネームプレートの部屋にて、いつもの悪夢と共に目を覚ます。
血のシミになった母の亡骸を目にしたところで目を開いた。
ここまで来ればこれも一種の目覚ましだ。
あてがわれた部屋でトレーニングウェアに着替えながらこの数日の事を振り返る。
最初はアミュレットを返さなければその場の人間どもを皆殺しにしてやろうかと思っていた。
数も多く、人間にしてはやたらと魔力の高い連中だったがアミュレットを奪われて、引く道理はない。
脆い人間を殺す等は容易い事だ。
だが未知の魔道技術とデバイスという魔道兵器の話を捨て激情に駆られるなどの愚策はしない。
俺は八神の話しに乗る事にした。
だが一切の飾り気の無い言葉で俺に助力を請いながら”倒す“と言った八神をひどく面白いと感じたのも事実だった。
それからは思ったよりも早く嘱託試験とやらが進んだ。
関係法規、契約規定、殺傷魔法の制限、覚えるのにどれも大した労ではなかった。
模擬戦とやらには期待したが相手は頭から猫のような耳を生やした女だった(この世界の使い魔らしい)。
”やっと出番が…“とか言っていたが名前はよく覚えていない。
目くらましの魔力弾を放ってから横合いから回り込み蹴りを仕掛けてきたが軽く足を掛けて。
倒れた所に幻影剣で磔にしてやった(言っておくが非殺傷設定とやらにはしたぞ)。
しかしあんな蹴りを喰らうのは余程のマヌケだろうな“クロスケなら当たったのに”とか言っていたが。
潜在魔力値は隠蔽し(ダンテならともかく俺には造作も無い)問題なくBランク級の資格を得た。
八神は約束どうりアミュレットには手を出さず俺を六課へと迎え入れた。
ともかく、かくして機動六課所属の嘱託魔道師としてこの宿舎の生活は五日目を迎えた。

朝の機動六課宿舎にて肥満体系にヒゲのいかにも軍人然とした男の演説をテレビで見ながら六課隊長陣は朝食をつまんでいた。
「そういえばなのは、バージルさん六課に馴染んでくれてるって?訓練はどう?」
「うん、飛行魔法とか防御障壁は術式の仕組みを教えたらすぐに覚えちゃったよ」
「本当に?転移魔法とか射撃魔法は使えるって聞いたけど、すごいね」
「厳密には幻影剣はこっちの射撃魔法じゃないみたいだけどね、フォワードの子も少しは馴染んだみたいだし」
なのはとフェイトがコーヒーを口に運びながら最近の一大事件であるバージルについて語る。
ヴィータは面白くなさそうに目を吊り上げて呟く。
「私はまだ認めてねえからな、あんな得体の知れねえ奴」
「ヴィータまた言っとるん?」
ヴィータははやての言葉にも高ぶった不満が収まらずに想いを吐露する。
「はやてもはやてだ!あんな簡単に武器とロストロギアを渡すなんて、あんな奴グラーファイゼンで潰してやったのに!」
「そう言われたかてなあ…」
「シャマルだってあんな事されて嫌じゃねえのかよ?」
「えっ…私は別にはやてちゃんが良いって言うなら、それにあの後お詫びをいれてくれたし」
「だあああ!シグナムとザフィーラはどうせ役に立たねえし、良いのかよこれで!」
「でもなヴィータ、私はあの時の事はあれで良かったって思ってるんよ…」
はやてはヴイータを諭し、静かに話し始める。
「あれはバージルさんの“全部”やねん…」
「全部?」
「そうや、あの人な…多分あれ以外には何も持ってへんよ、きっと命より大事や…」
はやては今にも涙を流しそうな顔で続ける。
「家族も友人もあらへん、持っとるのはあれと自分の身体だけや…」
「はやて…」
「解るんよ、私もそうやったから、昔はなにも持っとらへんかったから」
それまで黙々と朝食をとっていたシグナムも思わず口を開く。
「主…」
「職権乱用でも構わへん、そんなモン絶対に取ったらあかんし誰にも取れせへん」
はやての語る言葉には強い意志が満ちていた。
「それになあ…」
「それに?」
「六課って男キャラ少ないやん」
「はっ!?」
それまで話を聞いていた一同が凍りついた。
「別にな六課男性陣に文句はない、でもなメガネボーイ、気さくなお兄ちゃん、ショタと揃ってるんやからクールな美形がいても良いやん…」
今までのいい話をぶち壊すぶっちゃけトークが始まった。
「個人的には他にも“檜山さん”とか”関さん“とかの声の似合う熱血系とか渋いオジサマとかなあ…」
「おいっ はやて?」
「カレーの好きなマヌケな太っちょとか…」
「はやてが“向こう”に行っちまった…」
「にゃはは…こうなったら時間かかるね」
「笑い事じゃねえぞなのは」
結局その後はやての話はザフィーラの“俺に任せて皆は行け”の発言により救われること
になった。
「そういえば、ザフィーラさんって男キャラじゃないのかな?」
ふと呟くなのはの言葉に皆あえて黙っていた。

「ハアッ ハアッ」
私は必死に走って飛来する青い魔剣から逃げる。
「こんなの嘘でしょっ!」
バージルさんは息のかかりそうな距離からのスバルの拳を捌きながら横目で視認した私に射撃魔法“幻影剣”を連射してくる。
スバルとあんな近いとエリオもストラーダで突っ込めない、彼はキャロに対しフリードの火球の精度を見抜き相手にもしていない。
(ティア、行くよ!)
スバルが念話で反撃の合図を送る。
「一撃必倒…」
やっと少し距離をとったスバルが一撃に勝負を賭ける、エリオもバージルさんの側方から攻撃を仕掛ける。
「ディバインバスター!」
「スピーアアングリフ!」
スバルは即座に形成した魔力スフィアを右拳で打ち出し、エリオはバージルさんの脇腹にストラーダで突っ込む。
最大のチャンスに私は足を止め、誘導弾を作って二人に目を移す、ほんの一瞬、一秒も経たずに二人は倒れてた。
スバルはカウンターの掌打をアゴに受け、エリオは眉間を幻影剣に穿たれて倒れる所だった。
「くっ!」
「エリオ君!」
離れた場所からチビ竜とサポートについていたキャロが声を上げる。
さっき私が二人に視線を移す間、幻影剣が来なかったのは私が誘導弾を作る間に二人を倒す自信があったからだ…
「ここまでだ」
「「エッ!」」
私とキャロが驚いた声を上げる。
「待ってください!」
「何だ?」
「まだ私たち二人は倒れてません!」
「時間の無駄だ、やめておけ」
デバイスも持たない、つい先日、魔法を覚えた人を相手に私たちフォワードメンバーは3分16秒で敗れた。

なのはの提案で始まった模擬戦も終わり個人練習に入ったフォワードメンバーを見ながらなのはがバージルに尋ねる。
「どうでした?」
「正直、驚いている…」
「驚いて?」
「ああ、3分はかからないと考えていた…」
「それじゃバージルさんとしては合格ですか?」
「いや落第だな」
「手厳しいですね…」
「近接を主体にする者があんな真っ直ぐな攻撃では足元をすくわれるぞ」
「にゃはは…」
バージルはなのはを横目で見ながら痛烈な言葉をかける。
「おそらく師の影響だな」
なのははバツが悪そうに頬をかく。
「そういえば、どうやってスバルと戦いながらティアナを見てたんですか?魔法を使ったようには見えませんでしたね」
「聴剄だ」
「チョウケイ?」
「触れた相手の動きを見ずして読む古流中国拳法の技の一つだ、ナカジマの動きは身体で見てランスターは目で見た」
「そんな事ができるんですか?」
「修行しだいだな」
なのはがバージルのとんでもトークに驚いていると六課の通信主任にしてデバイスマイスター、シャーリーが駆けてきた。
「バージルさ~ん」
「何だフィニーノ?」
「も~バージルさん、シャーリーでいいって言ってるじゃないですか?」
「それで何のようだ?」
華麗にスルーするバージルにもめげずにシャーリーは満面の笑みである物を手渡す。
「要望どうりのデバイスが出来ましたよ♪」
二つの指輪を渡す。
「ほう、これが俺のデバイスか…」
「でも…良かったんですか?」
「何がだ?」
「いえ…その“あんな”名前をつけて」
「気にするな、得物の名前など何でもいい、使えればな」
「機動テストはいつしますか?」
「今すぐだ」
「それじゃ訓練用ガジェットの用意しますね」
「その必要は無い…先約があるようだからな」
言葉を切ると同時にバージルは肉眼で確認するのが難しいほどの距離からこちらの様子を見ていた女性に目を向ける。
「言ってくれる…」
ポニーテールに結んだ桜色の髪をなびかせ烈火の将は心の底から嬉しそうに微笑んだ。

荒野のフィールドへと姿を変えた訓練場に立つ二人の戦士、烈火の将と闇の剣士を隊長陣・フォワードメンバー・シャーリーは見つめる。
「どう見るなのは?」
「バージルさんの強さは凄いけどガジェットと戦ったのは地上だし、飛行戦に不慣れじゃ勝ち目は薄いかな?」
「だな」
スターズ隊長陣が意見を交わす中ライトニング隊長フェイトは心配そうな目で見守りフォワードメンバーも自分の予想を交えていた。
「う~だからバージルさんは負けないって!」
「うっさいバカスバル!確かにあの強さは解るけど相手はシグナム副長なのよ?」
「たしかにティアナさんの言うとうりだと思います…副長の強さはケタが違いますから」
自分の助けた人で何か“スゴイ”技で自分達を倒したバージルに盲信するスバルにティアナとエリオが意見を入れる。

そんな一同をよそに当の二人はゆっくりと歩きながら訓練場の中央に進んでいた。
「わざわざ相手に私を選ぶとはな、主の招いた食客だ粗相のないようお相手しよう」
礼をもって言葉をかけるシグナムにバージルは目も向けずに口を開く。
「言葉で飾るな烈火…」
「何だと?」
「昂る鼓動と熱がこちらまで伝わってくるぞ…」
「ふっ やはり隠せんな」
シグナムが不敵に笑うと同時に両者は訓練場の中央に立った、二人は向き合い視線を交差させる。
「初めて見たときから、そそっていた」
「こちらこそ、お前と闘(や)りたくてしかたがなっかた」
両者はデバイスを起動しバリアジャケットを展開する。
バージルは最初に着ていた服と同じデザインの青いコートと黒いインナーのバリアジャケットに銀の剣を構え、剣の騎士に対峙する。
「その太刀は抜かんのか?」
シグナムはバージルの腰に差されている妖刀を見て尋ねる、彼女の興味は300体近いガジェットを切り裂いたそれに向けられていた。
「残念だが閻魔刀は非殺傷設定など便利なことはできんからな、同僚を殺しては問題だろう…」
そう言いながら手にした剣の白刃をシグナムに突きつけながら呟く。
「ではデバイスとやらの力を見せてみろフォースエッジ・フェイク(贋作)!」
<OK、MASTER>
それは父の振るいし最強の魔剣を模したデバイス、贋作の名を受けたデバイス、フォースエッジ・フェイクは応える。

最初に動いたのは青き影、バージルは魔力を込めた大振りな突き“スティンガー”を繰り出す。
(後の先を捨て正面から挑むか…ならば防御で受け流すは無粋。炎の魔剣で受けて立つ!)
心中でバージルの蛮勇に感嘆し繰り出される突きを崩さんと脇に構えた魔剣レヴァンティンで斬り上げる。
両者の間に初めて起こる轟音、両者共に浮かべるは驚愕。
(防御ごと串刺してやろうと思ったが…この太刀筋に膂力、本当に女か?)
(なんという突きだ!このプレッシャー、テスタロッサのザンバーに匹敵する)
それこそ、あと一歩踏み込めば唇の触れる程に縮んだ距離、両者剣士ならばここで引くような道理は無かった。
「はあああ!」
「応おおお!」
最初の轟音からは打って変わった甲高い金属音が無数に響き渡り始まって1分と立たぬ内に戦いは最高潮に引き上げられる。
(俺と斬り結ぶつもりか?戦闘狂が)
(なんという力!技!魔力!こんな者がまだこの世にいたのか!)
火花を上げながら宙を幾重にも駆け巡る双刃、横薙ぎの一閃を斬り上げながら額の正中線を割らんと振り下ろされる炎の魔剣。
横一文字に構えたフォースエッジ・フェイクが受け止め、鍔競りへと形を変える。
「烈火の名は伊達ではないな!」
「嬉しいぞ魔剣士、この昂ぶりまだ冷ましてくれるなよ!」
互いに数多の斬撃により傷を付けながら、邪気の無い喜びを吐き斬り結ぶ二人の剣士。

「マジかよ…」
「シグナムさんと正面から戦ってる」
「それに一歩も引いてないよ…」
見守っていた隊長陣が感嘆の言葉を投げかける、両者の戦いは第二局面を迎えようとしていた。

「くっ!」
悪魔との体力の差か膂力の差か魔力の差か、シグナムは徐々に斬撃のプレッシャーに押されていた。
「このおおお!パンツァーシルト!」
一気に魔力を消費して硬質の防御障壁を展開し魔剣を弾き返し、空に退く。
(剣を前に引いたのか、この私が…)
思わず自分のとった行動に自問するシグナム。
距離を開かせまいとバージルも飛行魔法を行使して後を追う、が相手の変化に顔をしかめる。
「レヴァンティン、カートリッジロード、シュランゲフォルム!」
<SCHLANGEFORM!>
烈迫の掛け声と共に撃発音が鳴り響き濃密な魔力を供給した空薬莢が排夾される。
「それがカートリッジ・システムか、面白い、お前の全力を見せてみろ!」
バージルが更なる戦いの高揚に吼える。
レヴァンティンは喰らった魔力により形をワイヤーで繋がれた連結刃へと変える。
その速度、軌道、威力、間合い、どれをとっても今までの斬撃遊戯を超えるものであった、さしもの闇の剣士もこれを受ける。
「がはっあああ!」
右肩と左脇腹のバリアジャケットを大幅に削られ苦悶する。
(これが変形機構かここまで力を得るとはな…しかし)
バージルが戦略を練っているとシグナムが沈んだ顔で口を開いた。
「すまんなバージル…」
「何?」
「本来ならお前とは剣技のみで試合たかったのだが、思わずこんな無粋を…」
「何を言うかと思えば…気に病むな烈火よ、これは最早“死合”だそれに…」
「それに?」
「俺は負けはせんからな」
互いの目を見つめあい意思を汲み取った二人はこの日、何度目かの笑顔を交わした。
「ではこの刃の蛇を受けてみろ!」
迷いを振り払ったシグナムは自身の全能力を攻撃へと回す、対するバージルは慣れぬ防御魔法を展開し防戦に徹する。
(確かに防ぐも避けるも、まま成らん…)
突如として、軋む防御障壁の周りに魔力で作られた魔剣、6本の幻影剣が現れる。
(しかし…)
この状況で当たる確率の低い射撃魔法、それも円周状に展開したその様にシグナムは疑問を抱く。
「防御がガラ空きだぞおお!烈火あああ!」
その瞬間、極短距離で発動された空間転移魔法でその魔力刃がシグナムの周囲に現れる。
「何いいいっ!」
次の瞬間レヴァンティンに回した魔力の為に防御の薄くなったシグナムの身体を6本の幻影剣が貫き彼女の意識を奪った。
訓練場の中央に落下せぬように気絶したシグナムを抱きかかえたバージルが静に降りた立った。

続く。



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最終更新:2008年04月29日 01:49