魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry 第二話 「邂逅」

星明りと月光に照らされた森を青い魔力光により作られた翼の道ウイングロードが木々の間を縫うように走り、その上を少女スバル・ナカジマはローラーブレードを彷彿とさせるデバイス、マッハ・キャリバーにより風のような速さで駆け抜けていた。
「こちらロングアーチ、状況は?」
「こちらスターズ03、報告どうり凄い数のガジェットです、でも目視できるガジェットは全て破壊されてます。」
「こっちのエリアサーチでも敵影はゼロだけど気を緩めないでね。」
通信を切ると同時にスバルは眼下に広がる光景に再び目を奪われる、そこにはガジェットと呼ばれる無数の戦闘機械の残骸が地面が見えないほどに埋め尽くされていた、破壊されたガジェットを見るのは何も初めてではないがこれほど見事な倒し方は見たことが無かった。
破壊されたガジェットは全て切断されており、鏡面のようなその切り口はこの薄明かりの中で顔を映すほどであり、荒事を苦手とスバルにさえ美しいと思わせるほどであった。
森を進むにつれ破壊されたガジェットが増えていき、スバルはその中心地へとたどり着く。眠るように倒れ伏した一人の男が彼女の目に映る。
「こちらスターズ03、要救助者と思われる人を発見しました、大至急!救護班をお願いします!」
スバルは愛機マッハキャリバーにより最大の加速で近づく。彼は輝く銀髪に青いコート、そして手には鞘に身を隠した長大な日本刀を持って大地に横たわっていた。
「だ…大丈夫ですか!?」
あまりに安らかな顔に、生死を疑い大きく声をかける。恐る恐る頚部の脈を測りその温かさと脈動に胸を撫で下ろす。
「よかった~生きてるよ。」
「それにしても…」
彼は寝顔こそ安らかだがその全身は汚れ多くの裂傷が覗いている。
「やっぱりこの人がここで戦ってたのかな?でもこの剣ってデバイスじゃなさそうだし…」
近づいてくるヘリの音にスバルの疑問の声はかき消されていった。

夢を見ていた。吐き気を覚えるほどに見続けてきた悪夢。全ての終わり全ての始まりの夢。
幼い頃から俺達兄弟に歌ってきた歌を口ずさむ母に俺と弟が静にそして平和に暮らしていた。この頃の自分を何度呪っただろうか?この頃の俺は自分の身体に流れる悪魔の血の危険性も、戦う術も知らないただの子供だった。
全てを失い絶望するなんて一瞬だ、突然現れた無数の悪魔が俺達兄弟を殺そうと迫り、母が逃げろと叫んだ。
この声が俺が聞いた母の最後の声だった。
俺は並び立つ墓石の間を迫り来る悪魔どもから必死で逃げていた、しかし逃げ切ることはできずついには悪魔どもの持った槍や剣にその身を刺し貫かれる。普通の人間ならば瞬く間に死に至る傷だったがそれにより俺の中の悪魔の血は目覚めた。
悪魔どものを切り伏せたとて全ては遅すぎた、母はとうに殺され弟のダンテの姿もなかった。
俺の手には禍々しい悪魔の力と父母の形見のアミュレットだけが残った。

目を覚まして最初に感じたのは天井のライトの明るさと鼻につく消毒液の匂いだった。俺の上半身からは衣類が脱がされ何箇所かに包帯が巻かれ傷に処置が施されていた。
目に付く場所に置かれていたので自分の服とブーツを身につけベッドから出た、驚いたことにボロボロだったそれらは見事に修繕されていたそれほどの時を寝てはいない筈なのだがな…。
だがそれよりその時に俺の思考を占めていたのはそれらの荷物の中から最も大事な物が無くなっていた事だった。
「あ!もう目が覚めたんですか?」
自動ドアが開く音と共に白衣の金髪の女が俺のいた部屋へと入ってきた。
「まだ横になっていた方がいいですよ、軽い消耗じゃないんですから…」
女の気遣う言葉も聞き終わらぬうちに、俺はその女の首へと手をかけた。
「がっっ! な 何を…」
首を絞められた女が苦しそうに呻くが、その時の俺は普段では考えられないほどに激情に駆られていた。人間が死なない程度に加減はしていたので構わずに女に問いをかける。
「傷の処置には感謝しよう、しかしアミュレット…俺の持っていた物とはまた別の話だ。」
「な…あれがいったい?」
女が苦しそうに呻く。人間にしては高い魔力を感じたので例え自分が優勢だとしても一切油断はしない。
「いいから答えろ、アミュレット…俺のペンダントに刀は何処だ?」
「くっ ここにはありません、今ブリーフィングルームに…」
「では案内してもらおう。」
女が場所を知っているようなので手を離し。身体が自由になり膝をつき激しく咳き込む女に俺は言った。

時空管理局機動六課ブリーフィングルームにて部隊長 八神はやてを中心に昨日のガジェットの大量発生とその破壊、そしてレリックに似たロストロギアの反応が感知された事件に対する会議が行われていた。
「それではこれを見てください。」
メガネをかけた女性、六課通信主任 シャリオ・フィニーノが映像を出す。
それは鬱蒼とした森の中に大量のガジェットの残骸が広がる航空写真であった。
「マジかよ。」
「改めて見るとスゴイですね~。」
「見事だな。」
「いったいどれだけの数が…」
スターズ分隊副隊長・フォワード、ライトニング分隊副隊長・フォワードの各人がそれぞれにつぶやく。
「昨日のガジェット発生事件ですが今のところ確認されている破壊されたガジェットの総数は287体、あの男性以外に死傷者は発見されていません。」
「ちょっ ちょっと待てよこれだけの戦闘で怪我人が一人保護されただけって…」
スターズ副長ヴィータが堪らずに声をあげる。
「そこであの人に話がいくわけや。」
六課部隊長 八神はやてが口を開く
はやては目の前に大きな刀とペンダントを置く。
「まずこのペンダント、これからはレリックに似た魔力波動が感知されたんよ多分ガジェットはこれに引き寄せられたんやね、おまけに空間干渉系統のロストロギアに近い特徴がみられとる」
「それって、ジュエルシードみたいな?」
金髪の執務官 フェイト・T・ハラオウンが複雑な顔で尋ねる、彼女の過去を知る者はこの表情に込められた意味を自然と察する。
「それはないわ、安定しとるし暴走する危険性は皆無や、とりあえず簡易的な封印処置もしたし心配わいらへんよ。」
フェイトの表情に安堵が広がる。
「いいからガジェットをぶっ壊したヤツの事を教えてくれよ。」
早く答えを知りたくてヴィータがシビレを切らす。
「それでこの刀が出てくるんよ。」
「刀~それデバイスじゃないんだろ?ってか何であいつそんな物持ってんだよコスプレか?」
一見すれば冗談に聞こえる言葉にもはやては表情を変えずに静かに答える。
「この刀の表面にガジェットの塗装に使われてる塗料がついとったんよ…」
その言葉と共に場の空気の温度が下がる。
「じゃ…何かあの男はそのボロイ刀で300体近いガジェットを倒したのかよ?」
「切り口の形状とかも考えたらそうなるんかな、こんなこと上には報告でそうもあらへんな。」
「ほんとかよ、それじゃまるで…」
ヴィータの言葉は最後まで言い切れず。
「まるで悪魔か?」
聞き覚えの無い声にさえぎられ、全員の視線がドアに釘付けになる。

続く。

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最終更新:2007年12月08日 10:12