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海鳴臨海公園は、日当たりと風通し双方に恵まれた場所にあるため、休日は市民の憩いの場所として人気がある。
梅雨も明けた七月末、夏休み最初の休日という事もあって、ジョギングに精出すスポーツマンや散歩中の家族連れ、
カップルなどで公園は賑わっていた。
人通りで賑わう海沿いの遊歩道を、大学生の女性二人組みが、周囲の注目を集めながら歩いている。
一人は、白いトップスに黒のロールアップパンツとウェッジサンダルが、一流トップモデルみたいに似合っている
白人女性。
もう一人は、紺の半袖ブラウスにリボンベルトの付いた白のタックスカートと、ネイビーカラーのウェッジソールが、
清楚な雰囲気を漂わせている日本人女性だから、注目を集めるのも無理はない。
「今日は何時にも増して人が多いね、アリサちゃん」
「学校も休みに入ったし、今日は休日だからじゃないの? すずか」
月村すずかとアリサ・バニングスの二人は、周囲の熱い視線を平然と受け流し、歩きながら他愛ない雑談をしていた。
「ところで、なのはちゃんは?」
すずかが尋ねると、アリサは周囲を見回しながら言う。
「えーと、この辺りで待ち合わせなんだけど…」
「あっ」
アリサ同様、辺りを見回していたすずかが、突然表情を崩して口を押さえた。
「すずか?」
アリサが怪訝な表情ですずかに声に掛けると、すずかは笑いを堪えながら指を差す。
「君、今待ち合わせ中? もし時間があるなら、向こうの通りの喫茶店でお茶でもどうかな?」
「えっと…あの…その…」
アリサやすずかと同年代で、左寄りのポニーテールに紫のカットソー、デニムジーンズと藍染柿染め
のスニーカーという服装の、二人によりは地味ながら平均以上に綺麗な女性が立っていた。
彼女は、派手な色彩のジャケットとジーンズの服装が、如何にも軽い雰囲気な男にナンパされて困った
表情を浮かべている。
「いや、予定があって待ってるのは分かるんだけど、時間まで少しの間でもいいんじゃないかなって――」
ナンパ男がそこまで言いかけた時、誰かがいきなり背中を強く小突いた。
「――ってぇ、誰だ!?」
乱暴な口調で振り向いた男の険しい表情も、アリサの牙を剥き出しにした狼の如き凶悪な笑みに消し
飛んでしまった。
「あ…アリサ・バニングス!?」
「私の大切な友達にナンパとは、いい度胸してるわねぇ…」
「――――っ」
アリサは男の足を思いっ切り踏みつけて、男の返答を遮る。
「ふふ…相変わらずだね」
すずかは、その様子を微笑みながら見つめている。
「くぁwせdrftgyふじこl;p@:…っ!」
足の痛みと、アリサの人食い虎の如き凄みのある笑いで固まっている男が、すずかに救いを求める
ような視線を送る。
「アリサちゃん、もういいんじゃない?」
すずかがアリサの肩を軽く揺すると、アリサは思いっ切り踏みにじってから足を外す。
男は足を引きずりながら、ほうほうの体で逃げ出した。
「なのはちゃん、大丈夫だった?」
すずかが言うと、高町なのははほっと肩の力を抜き、二人に頭を下げる。
「アリサちゃん・すずかちゃん、ありがとう~」
「とんだのにひっかかったわね。あいつ、ウチの大学では超有名な自称“愛の伝道師”なのよ」
アリサが苦虫を潰すかのように言うと、すずかは微笑んだまま後を続けた。
「で、ことごとく失敗してる事でも有名なの」
「そう、あたしもすずかもあいつの毒牙に危うくかかるところだったんだから。まぁ、頬に2~3日
は引かない腫れを作ってやったけどね」
腕を組んで言うアリサに、なのはは人差し指で頬をかきながら苦笑する。
「あはは。アリサちゃん、会うごとにどんどん過激なってない?」
「現実に鍛えられてタフになってると言いなさい。なのはだって、管理局のエース・オブ・エース
なんだから、あんなバカは魔法で吹っ飛ばせば済むじゃない」
「無理だよ~。一般人にそんな事したら、魔導師資格剥奪された上に刑事罰で実刑になっちゃう」
三人が笑いあった時、なのはの背後で小さい子供の声がした。
「ママ?」
「あれ、ヴィヴィオちゃんも来てるの?」
すずかが尋ねると、なのはは頷いてから後ろを振り向く。
「うん。ヴィヴィオ、もう大丈夫だよ」
なのはがそう言うと、後ろから迷彩色のキャミワンピースを着た、オッドアイの小さい女の子が出てきた。
「ママ、大丈夫?」
心配そうに見上げる高町ヴィヴィオを、なのはは抱き上げて微笑む。
「ママは全然平気、ヴィヴィオは?」
「ヴィヴィオも平気」
なのはの微笑みに、ヴィヴィオも満面の笑みで返した。
「こんにちはヴィヴィオ」
「お久しぶりね、ヴィヴィオちゃん」
二人が挨拶すると、ヴィヴィオも丁寧に頭を下げて挨拶する。
「今日は。アリサお姉ちゃん、すずかお姉ちゃん」
「で、今日の予定は?」
「そうねぇ…」
アリサが問いかけると、なのはは少し考え込んでから答えた。
「街へ出てお買い物をするかな? ヴィヴィオに何か綺麗な服とかアクセサリーとか買ってあげたいし」
「お買い物するの?」
ヴィヴィオの問いかけに、なのはは優しく頭を撫でて首肯する。
「うん、ヴィヴィオに似合う可愛らしい服を買ってあげる。それからお菓子もね」
「うん」
「ちょっと過保護じゃないかなぁ…」
アリサは苦笑しつつすずかに顔を向けると、すずかも首を傾げつつ微笑んだ。
「OK、じゃあ行くわよ」
そう言って、アリサとすずかは海側へと歩き出す。
「あれ、そっちは駐車場じゃ?」
なのはがそう言うと、アリサは人差し指をなのはの眼前で立てて左右に振る。
「ふっふっふ…」
アリサは含み笑いをすると、なのはに付いて来るよう身振りで示した。
最終更新:2007年11月17日 18:52