魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry 第五話 「闇の剣士の休日(前編)」

人間どもと馴れ合う気などは毛頭ない、ただ俺の魂がさらなる力を求め続けているから“お人好し”を利用しているだけだ。
だから目の前で落ちていく女を助ける必要はない…筈だった…だがこの戦いは楽しかった、今までこれほどの高揚を戦いに覚えたことは無かった。
俺は気づかぬうちに、烈火に手を伸ばしていた。

「…ここは」
「気づいたか」
医務室のベッドにてシグナムは目を覚ます、まさか自分を負かしたバージルを一番に目にすると思っていなかったのか、目を丸くしていた。
「敗れたのか、私は…」
苦笑するシグナムだがその顔はとても穏やかで、“烈火”の名を忘れさせるほどに涼やかだった。
「あれが全力ではあるまい、それにリミッターとやらもあったのだろう?」
「負けた相手に慰めか?“全力”云々ならお前こそ…それとも、口説くのならもっと色気のある言葉がいいのだがな…」
「……」
「どうした?」
沈黙するバージルにシグナムが首を傾げて尋ねる。
「いや…お前も冗談を言うのだな」
「バージル…お前、私をただの戦闘狂だとでも思っているのか?失礼だぞまったく」
二人は互いに苦笑し、先ほど“死合った”物同士とは思えない静かで安らいだ空気が流れる。
「それで本当の所はどうしたのだ?」
シグナムが笑う口を手で押さえて再度尋ねる。
「いやな…」
バージルは静かに答え始める。
「何だ?」
「俺はまだこちらの魔法戦闘に慣れていない…」
「来て数日だからな」
「だが鉄屑(ガジェット)では試し斬りにもならん…」
「お前ならな」
「だからまた俺と戦え」
「……」
今度はシグナムが沈黙する番だった。
「その為にわざわざ来たのか?」
「違うな…お前を運んだのは俺だ、起きるまで待っていたから、その表現は間違っている」
シグナムは手で押さえきれずに大笑いしだす。
「くははははっ」
「何が可笑しい?」
「ふふっ、いや何そんな事の為にわざわざ…律儀な奴だなお前は」
「俺にとっては重要だ」
バージルは不満そうにシグナムを睨む。
「気にするな、強敵(とも)の頼みだ…どんな事でも聞こう」
「……そうか」
注意して聞こえる程度の声で答えるとバージルは振り返り、医務室を後にする。
「ではまたな」
「…ああ」

六課宿舎屋上、星と月が満遍なくその輝きで照らす中、俺は夜風に身を晒していた。
「“とも”か…」
烈火の言葉を反芻して考える、あの会話は試し斬りの巻き藁の調整に過ぎない筈だ、あの女とまた戦う為の…
今まで自分を“とも”と呼んだ者などいない、殺すか、利用するか、それ以外、それが世界の全てだった。
だが烈火から受けた言葉と剣は、あるはずのない“熱”を俺に与えていた。
「どうかしているな、俺は」
結局、夜風にもその“熱”は冷めることなく俺の心に火を残したままだった。

数百年の時を戦いの中に生き、多くの勝利を得た、敗北が無いわけではないが1対1ではまず負けず、単純な剣技ならば皆無だった。
「負けたのに随分と嬉しそうね」
見舞いの為、医務室にヴィータとザフィーラを連れシャマルがやってきて、不思議そうに尋ねる。
「そうか?」
「いつもなら“私もまだ未熟”とか“次こそは”とか言うじゃない」
「そうだな、いつもならもっと熱くなってんよな~シグナムのヤツは」
「…確かにらしくないな、具合でも悪いのか?」
守護騎士一同が心配し口を開く、確かに今の私は彼らの知る“それ”より静かだった。
「確かにな…だが不思議と今は気持ちが穏やかなのだ」
そう言うと私は自分の胸に手を当てて言葉を紡いだ。
「こんな感覚は初めてだ、正面から負けて実に清々しい、風が身体を駆け抜けている様に涼しい…そして次の勝負に焦がれている」
シャマルもヴィータも呆れた顔をしてこちらを見ていた。
「饒舌ねえ…」
「フェイトん時より重症だな…」
寡黙なザフィーラもやれやれと言った風に口を開く。
「戦闘狂ここに極まるだな」
私はあえて何も言わずに医務室のベッドに身体を落とし、この胸の涼しさを味わいながら次の戦いを思い、皆に聞こえない程度に呟いた。
「シュツルム・ファルケンならばどうするかな…」

時はそれより少しだけ流れる。
六課での日々はそれなりに俺の探究心を満たすものだった、時間が許す限り魔法修練と模擬戦を行い己を高め、様々な魔道書物を読みふける。
徒手空拳の感覚を忘れぬよう、たまにはフォワードのヒヨッ子らを揉んでやる。
ナカジマは“聴剄”を教えてやったら動きが段違いになった、ランスターは幻影剣で磔にしてやったら少しはこちらの動きを読むようになった、モンディアルは勝手に俺の動きを盗んでいる、ルシエは戦闘の恐怖に慣れつつある。
最初は戯れだったが、今では高町の教導の熱を少しは理解できる、才や熱意を持つ者に力を与えるのは妙な楽しさがある。
いつかは俺を楽しませる猛者になるかもしれないと考えると胸が騒ぐのを止められない…
「…今日の模擬戦が第2段階クリアの見極めテストだったんだけど…」
その日の模擬戦の後に高町がフォワードのヒヨッ子らに話す、どうも試験は合格らしい。
「休みか、くだらん」
その日の午後は教導なしで休日、俺はまだ術式構築や対ミッドチルダ式魔法の戦闘シュミレーション等、まだ12通りは修行内容を考えていたのだが。
ついでだが、ヒヨッ子らの教導に付き合ってやろうと思っが…
「何だよ、淋しいのか?」
不満気な顔をしていたら鉄槌が何かフザケタ事を言ってきた…今度、模擬戦で念入りに落としてやろう。

「バージルさ~ん♪一緒に出かけませんか~」
ナカジマが街に出かけるらしく俺に声をかけてきた。
「ちょっ! ばかスバルいきなり失礼でしょうが!」
ランスターがいつものようにナカジマを諌めている。
どうもナカジマは苦手だ、何も意に返さずこちらの懐に入って来るが不快感を感じない、そんな所がどうも慣れない。
「断る、別に用事があるからな」
ナカジマは捨てられた犬のように落ち込んでいた、感情を表に出しすぎだ…ランスターも苦労するな。
モンディアルとルシエも出かけるようだった、親にでも会いに行くのか?
二人は兄妹のようなものだと言っていたが、モンディアルは随分と緊張していた、ヒヨッ子の中でも期待している秀才だけに気がかりだ。
俺は個別で念話を出す。
(ルシエ)
(えっ! はい)
(モンディアルが緊張している、戦闘ではないが支えてやれ)
ルシエは隣のモンディアルに視線を移した、次いでモンディアルにも念話を飛ばす。
(モンディアル)
(えっ! バージルさんですか?)
モンディアルは遠くからこちらを見返す。
(兄貴分なら手ぐらい繋いでやれ)
モンディアルは隣のルシエを見てまた俺に振り返った、表情からは硬さが取れ、二人は先程よりも寄り添って歩いていった。
ふと自分の弟を思い出した。
「ダンテもあれくらい冷静で大人しければな…」

休みを与えられた所でする事は変わらない、今日は無限書庫とか言う魔道データベースで俺の閲覧権限で見れる本を探すか…
すると烈火が声をかけてきた、いつもの模擬戦の誘いかと思ったが目を見た瞬間にそうでないと察する。
「何だ?いつもの誘いでは無いようだな」
「ああ、私はこれから聖王教会へ行く予定があるのだが、お前も来い」
聖王教会、この世界の宗教団体で一応この世界での俺の身分の後見人になった者がいるらしい。
「“顔を見せて礼を言え”とでも言ってきたのか?教会の人間にしては厚かましいな」
「お前は何故そんな風にしか言えんのだ?まったく…」
歯に衣着せぬ俺の言葉に烈火は少し呆れていた。
「お前に飾ってもしかたあるまい」
何度も刃を交えた俺と烈火に、くだらん建前など意味は無かった。
「主…部隊長からの言伝だ“お前の所属は前線メンバーでなく部隊長の直属だからな今後の運営指針の事もあるから挨拶はしておけ“とな」
つまり部隊立ち上げのお偉いさんに顔見せをしろと言うのか、あまり内容は変わらんが、しかし八神には少し恩がある。
「いいだろう」
「何か予定があったのならすまんな」
「気にするな、お前の言っていたシスターとやらにも会ってみたいしな」
「ああ、シスターシャッハは強いぞ、お前も満足するだろう、何せヴィンデル・シャフトの攻撃ときたら…」
烈火の言葉を聴きながら教会の人間はどんな者か考えていた、八神の様な“お人好し”ならともかく…
もし俺の力を利用しようとする愚か者なら次元斬でも使って跡形も無く斬り潰してやろうかと考えていた。

続く。

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最終更新:2007年11月18日 20:12