リリカル遊戯王GX 第四話 潜水艦の罠! 打ち破れディバインバスター!

十代達は潜水艦の内部へと入り込む。
予想していた通り、人の気配がまったくしないその通路で十代は薬のメモを取り出し……顔を顰める。

「全っ然わかんねぇ」
「……貸せ、薬は俺が探す」

呆れたようにヨハンがメモを受け取り、医療関係の施設がある方向にあたりをつける。

「みんなは食料とか、他にも何か使えそうな物を探してくれ」
「なら私達はそれぞれの護衛を兼ねて分散、私はヨハン君と行くことにするよ」

各自分かれての探索、危険ではあるが、この世界ではむしろ時間をかけることの方が危険度は高いかもしれない。
だが、ティアナにとってそれはまずかった、アモンを監視することができなくなる。
ならば多少不自然になっても、先にアモンと一緒に行くことを宣言するべき――

「ガンナーガール、毛布とかを探そうと思うんだが、ガードを頼めるかい?」
「え、あ、は、はい……」

ここで断るのは無理だ、仕方なく残るスバルに望みを――

「じゃあ、俺は食料を探すぜ、な、相棒!」
「クリクリ~♪」
「あ、私も一緒についてくよ!」

託す以前の問題だった。ティアナは危うく頭を抱えそうになる。
誰も気づいていないがなのはも頭を抱えている、ティアナと同じ考えだったようだ。

「お、オブライエンさんとアモンさんはどうします? 危険ですから誰かと一緒に――」
「いや、俺は大丈夫だ、何かあれば生き残ることを優先する」
「僕もこう見えてデュエルだけじゃなく腕っぷしにも自信がある。心配いらないよ」

後でスバルを殴りつけようと心に堅く誓いながら、ティアナは仕方なくアモンのことを諦める。
何かをすると決まった訳ではないのだ、自分の勘違いという可能性に賭けるしかない。
そうと決まれば今は時間が惜しい、早速それぞれが目的の物を探すために分かれる。


「ここは、医療施設か?」
「そうみたいだね、保健室よりも簡単な作りだけど……あ、薬品棚はこれみたいだよ」

なのはとヨハンはメモと薬品を一つ一つ見比べながら、慎重に必要になりそうな薬品を置いてあった医療パックに入れていく。
そんな作業の中、なのはは疑問に思っていたことをヨハンへと尋ねる。

「ねぇ、ヨハン君」
「はい?」
「どうしてあの時、十代君を止めてデュエルをしたの? 私達が来る前にもヨハン君はすでにバトルをしていた、
 なら消耗をより深くするのは得策じゃない、それぐらいなら、ヨハン君は気づいてたと思うの」

なのはの問いにヨハンは沈黙する。
しばらく薬品を選別する作業が続き――口を開く。

「この世界でのデュエルは危険を伴う事は気づいていたんだ」
「だから、他の人が傷つくより自分が傷つく方がマシだ、って?」
「結局スバルを傷つけちまったけどな、俺の力が足りなかったせいで……」
「違うよ、ヨハン君の考え方は違ってる」

なのはの言葉にヨハンは首を傾げる。

「今のヨハン君みたいな考え方、自分の事を蔑ろにして仲間を守ろうとする人、私は知ってる……その人は、一度壊れて落ちてしまった」

どこか遠くを見つめながら話すなのはに、ヨハンは目を奪われていた。
悲しげなその表情を止めたいと思いながら、どうすることもできない。

「ならどうしろって言うんだ、仲間が傷つくのを黙って見てろっていうのか?」
「やる事は簡単だよ、仲間を信じるだけ」
「……信じる?」

気づいたらなのはは自分の事を笑顔で見つめていた、
その笑顔の中に、なのはが伝えたい思いが全て詰まっていることをヨハンは感じ取る。

「簡単でしょ? 仲間を信じる、初めはそれだけでいいんだ」


「おーい、そっち何かあったかー?」
「んー……これも空っぽ、こっちは……あ、あった!」

十代とスバルは苦労しながらも少しずつ食料を集めていく、
はねクリボーも手伝い、十分な量とはいえないもののそれなりの量が確保できた。

「よしっ、とりあえずこっちの方はこれぐらいで戻ろうか」
「ああ……あの、さ」
「ん?」

十代に呼び止められてスバルはキョトンとした顔で振り返る。

「その、まだお礼言ってなかったからさ、ありがとな」
「お礼……ああ! そんなに気にしなくていいのに、当然の事をしたまでだよ」
「だけど、俺を助けたせいで怪我をしちまったんだ!」
「怪我なら治ってたじゃない」

笑いながら謝罪をまともに受けようとしないスバルに、十代は焦れて思わず睨みつけるように見てしまい――気づく。
スバルの表情は声とは裏腹に暗く、触れれば壊れてしまいそうに見えた。

「私は、守れなかったんだ」
「え?」
「大事な人、とっても大切な……私のお姉ちゃん」

スバルのこんな姿を見るのは初めてだった、出会ってほとんど時間は経ってないが、
どんな時でも明るく、周りの人間もどんどん明るくさせていく……そんな印象があったのだ。

「ティアやマッハキャリバーのおかげで、ギン姉は助け出すことができた」
「えっと……なら、守れたってことになるんじゃないのか?」

十代の言葉に「結果的に見れば、ね」とどこか自嘲気味に答える。

「私はまだ、あの時の気持ち、絶望感や怒りを忘れられない……その感情に任せてしまったことによる、代償も」
『……』
「あの時、私はもう少しでいくつもの笑顔を奪うことになったかもしれない。私は守れてないんだ、自分自身の思いを」

マッハキャリバーが無言で光る、十代にはその意味はわからなかった。
だからこそ、言えたのかもしれない。

「そんなの、引きずることなのか?」
「え……?」
「だってさ、スバルは姉ちゃんも助けられたし、その笑顔っていうのも結局は奪ってないんだろ?
 ならそれでお終い、その後は関係ないじゃん」
「そ、それは、その……そうかも、だけど」
「俺、難しい事はよくわかんないけどさ、スバルは良い奴だと思う。
 過去に何があったかとかじゃなくて、今のスバルは俺を助けてくれた、それで十分だろ?」
「あ……」

スバルは何度も沈み込み、そのたびにティアナによって、マッハキャリバーによって励まされた。
その時と同じ、優しく自分の心を諭してくれる輝きを十代から感じていた。


「よっと、こんなもんだな」
「はい、それじゃあ戻りましょう」

仮眠所から持てるだけの布団や毛布を集め、ティアナとジムは元の場所へ戻ろうとする。

「……」
「どうしたんだ? ガンナーガール」
「あ、いえ、何でもないです」

ジムに呼ばれティアナは慌てて思考を目の前に戻す。
今さらアモンについて考えていてもどうしようもないのだ、下手な行動で摩擦を起こしては目も当てられない。

「……確かにアモンには俺達も掴めてない部分がある」
「――っ!?」

唐突に放たれたジムの言葉にティアナの動きが凍り付く。
――気付かれていた? でもいつ? 憶測だけでこんな危うい言葉を言える訳がない、だけどそこまで決定的な動きは見せてないはず……

「俺の目とカレンの勘を甘く見てもらっちゃ困るぜ」
「わ、ワニの勘……!」

一年以上かけてフェイトから学んだ執務官として必要な、自身の思考を悟られないようにする術、
それがワニの勘に敗れ去ったことにティアナはショックでその場に膝を付く。
――ああ、やっぱり私は凡人止まりなの? なのはさんに諭された時から前に進めていないのかしら……

「お、おい、大丈夫か?」
「あんまり……」
「ドントマインド! そんなに気にするな、このことは誰にも言う気はない」

見当外れな方向へ慰めるジムにティアナは項垂れたままだったが、かろうじて情報整理をするだけの思考能力は残っていたようだ、

「どうして言わないんですか? 疑いを持たれたままじゃ、信頼関係も築けないと思いますよ?」
「それはお互いがその本質を理解できていない時の事さ」
「……ジムさんは、私たちを理解していると?」
「Yes! もちろん全てを見たわけじゃないさ、だけどガール達は良い奴だ、それもとびっきりのな!
 それが判れば信頼することはベリーイージー!」

無茶苦茶だ、そりゃあ自分たちを悪人だと言う気はないが、善人だと思える部分しか見せていなかったとしたらどうする気なのだ。
無防備すぎる、こんな考えでは敵に付け入られる隙も多くなってしまう……だが、悪い気分ではなかった、信じてもらえるということは。


アモンは一人、潜水艦の情報端末を操作している。
画面には幼い頃からのアモンのデータが表示されていたが、一瞬にして消去されてしまう。
データが完全に消えたことを確認し、アモンは静かに笑みを浮かべた。


「ヨハン! そっちはどうだった!?」
「ああ、ちゃんと薬を見つけてきたぜ」

十代達は互いの収穫を確認しあい、それぞれそれなりの収穫があったことに満足する。
遅れてやってきたアモンとオブライエンに視線が集中するが、アモンはすまなそうに首を振る。

「すまない、僕はこの潜水艦がどこの物か調べようと思ったんだけど、データが破壊されていてわからなかったよ」
「そっか、でもまぁ、食糧も少しだけど手に入ったし、帰ろうぜ!」

――情報端末に入った? 軍の物にパスワードもなく?
十代達は気にしていないようだが、ティアナはやはりアモンに疑いを持ってしまう。
しかし、幸か不幸かその疑問を行動に表す暇はなかった。



「ふふ……タイタンのカードは、一枚だけじゃないんだよ」

アカデミアの図書室、そこでマルタンは新たなカードをディスクにセットした。



潜水艦の外、そこにマルタンによって召喚されたタイタンが現れ、ディスクを構える。

「今度こそ止めを刺してくれる、行け! デビル・スコーピオン!」

タイタンがカードをセットすると、大量のサソリが現れ潜水艦の内部へと侵入していった。
―デビルスコーピオン― 攻撃力900 守備力200 通常モンスター


「何だ!?」
「モンスター!?」

今まさに潜水艦から出ようとしていた十代達は、その入口から侵入してくるデビルスコーピオンの群れに慌てて下がる。
なのは達が迎撃するが、デビルスコーピオンは次々と侵入してきてキリがない。

「くそっ、こんなの相手にしてられるか! 守備モンスターでいくぜ、頼むぞクレイマン!」

十代が前に出て、一体のモンスターを召喚する。
―E・HERO クレイマン― 攻撃力800 守備力2000 通常モンスター
そのモンスターを盾にし、十代達は近くの部屋に駆け込み扉を閉じた。

「まずいね、出口を塞がれた……ここにもいつ来るか」
「へへ、クレイマンの防御力は2000! デビルスコーピオンの攻撃なんて効きやしないぜ……ってあれ!?」

「マジックカード、月の書! モンスター一体を守備表示にする……そして、行け、八つ手サソリ!」

―八つ手サソリ― 攻撃力300 守備力200 効果モンスター


「どうなってんだ、クレイマンが裏守備表示になっちまった!」
「いかん!? あれは八つ手サソリか!」

オブライエンが扉の窓から様子を見て声を上げる。
デビルスコーピオンの増殖は止まったが、変わりに巨大なサソリが通路へと現れた。

「まずいぞ、八つ手サソリは裏表示のモンスターには攻撃力が2400に上がる、クレイマンでは持ちこたえられない!」
「嘘だろぉ!?」

思わず叫んだ次の瞬間、八つ手サソリの攻撃でクレイマンは吹き飛ばされ、その衝撃で十代達がいる部屋の扉も破壊されてしまう。
一斉にデビルスコーピオン達が部屋に入り――無数の魔力球に撃ち抜かれる。

「スバル、ティアナ、なんとか通路まで押し返して、一気に仕留める!」
『了解!』

なのはの指示で二人がデビルスコーピオン達を次々と吹き飛ばしていく、
所詮は雑魚モンスター、数だけでは激戦を潜り抜けてきた彼女達を止めることはできない。
そして、それほど時間が立たない内に相手は全て通路へと押し戻され、なのはが一歩前にでる。

「いくよ、久し振りの長距離砲撃!」
『Divine Buster Extension』
「ディバイーン……バスター!!」

なのはの魔力砲撃がモンスターをなぎ払っていく。
しばらく待ち、もう襲ってくるモンスターはいないことを確認してほっとする――間もなく、潜水艦が揺れ始める。

「こ、今度は何だ!?」
「もしかして、今のなのはさんの砲撃で!?」
「ふぇぇ!? 私のせいなの!?」

パニックになる一同だったが、入口から大量に入ってきた砂に表情を凍らせる。
もしかしなくても――潜水艦が砂に沈もうとしているのだ。

「や、やばいぜ、このままじゃ!」
「とにかくこのままいては砂に呑まれる、逃げるぞ!」

入ってくる砂から逃げるように逆方向へと駆け出していく。
そこで十代はある事を思いつき、内部構造を調べていたオブライエンに問いかける。

「なあ、どこか入口以外に外に繋がってる場所ってないのか!?」
「……魚雷の射出口なら、あるいは」
「それでいいや! どこかわかるか!?」
「ああ、逆方向だ」

さらっと告げたオブライエンの言葉に一瞬十代の動きが止まる。
一応振り向いてみるが、すでに砂に埋もれて向こう側へは行けそうになかった。

「ちっくしょー! せっかくいい手を思いついたってのに!」
「十代君、外と繋がればいいの?」
「ああ! そうすりゃネオスでなんとかできるんだけど……!」
「わかった、任せて!」

悔しそうに言う十代になのはは自信たっぷりに頷いて答える、
どうする気か問いかける前に、ある部屋でなのはは壁に向かってレイジングハートを構えた。

「十代君、準備ができたら合図をお願い!」
「あ、ああ!」
「……まさか、壁を撃ち抜く気か?」
「馬鹿な! そんな事できるわけ……」

オブライエンとアモンが不可能だ、といった顔をしているのを、スバル達は複雑な表情で見る。
――できちゃうんです、この人。それもこれよりずっと強固な壁を何枚も同時に。

「よし、なのはさん、いつでもいいぜ!」
「うん、レイジングハート、カートリッジロード!」

なのはの声に応えてレイジングハートが薬莢を排出し、そのたびに魔力が跳ねあがっていく、
魔力を扱えないはずの十代達もなのはの力がどれだけ凄いのかを本能的に感じ取っているようだった。
そして……なのはは溜まった魔力を一気に解き放つ!

「ディバインバスター、フルバースト!」
「ネオスとグランモールを召喚! コンタクト融合! グランネオス!」

なのはが潜水艦の外壁に穴を空け、その穴目がけて十代が召喚した二匹のモンスターが融合しながら突撃する!

タイタンは沈んでいく潜水艦を見ながら笑みを浮かべていた、
八つ手サソリ達を退けたのは中々の腕前だったが、こうなってしまってはいかな力を持っていても脱出することは容易でないだろう。
つい大笑いをあげて――硬直する。
潜水艦が持ち上げられていた、
モグラの力を持つモンスター、グランモールと融合したネオスという十代のフェイバリッドモンスターが砂を掘り進んで潜水艦を砂の中から救い出したのだ。
あまりの光景に呆気にとられたままのタイタン目掛け……潜水艦をぶん投げる!

「ばっ――!」

成す術もなく――タイタンは潜水艦によって潰される。


「やったぜ! グランネオス!」
「十代……お前なぁ……!」

一人喜ぶ十代だったが、他のメンバーは投げ飛ばされた衝撃でめちゃめちゃになっていた……



「くっ……」

タイタンのカードが消滅し、マルタンは顔を歪めるが、すぐにその表情は笑みになる。

「嬉しいよ十代……この痛みは、君の僕への愛なんだ……」

続く

十代「薬も手に入ったし、戻ってきたぜ、翔! ……あれ? 翔?」
翔「兄貴……戻ってきたんすねぇ……」
十代「しょ、翔?」
なのは「気を付けて十代君、様子が変だよ!」
フェイト「みんな、デュエルをしたらダメ! 逃げて!」

次回 リリカル遊戯王GX
 第五話 ゾンビ生徒の恐怖! 駆け抜けろライトニング!

フェイト「こんなこと、私は絶対に許さない!」
翔「デュエルしようよ~!!」

なのは「今回の最強カードはこれ!」

―ディバインバスター― 魔法カード
手札をランダムで一枚捨てる。
場のモンスター一枚を破壊し、相手のデッキの一番上のカードを除外する。

十代「ど、どんだけ威力があるんだよ……」
なのは「次回もよろしくね♪」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年11月21日 18:37