リリカル遊戯王GX 第五話 ゾンビ生徒の恐怖! 駆け抜けろライトニング!

「こちら明日香、正門異常なし」

石像等を使って作られた簡易バリケードごしに外の様子を見ながら、
明日香は今やトランシーバーの役にしか立たない多機能の生徒手帳へ告げる。
十代達がいない間、アカデミアに残ったメンバーはモンスターが入ってこないように見張りを続けていた、
レイを襲った相手はすでに内部にいるかもしれないが、だからといってこれ以上侵入されては堪ったものではない。
――それにしても、まいったわね。
明日香は今朝の食糧配給時の騒動を思い出す。
出来る限り節約するため、今日の朝食はパン一つとわずかな水だけだった、
全員が我慢をしてその明らかに量の足りない朝食を食べていた時、突然一人が「お前のパンの方が大きい!」と側の人間と喧嘩を始めた。
どこの小学生だと明日香や剣山達も呆然としていたが、
殴り合いにまで発展しそうなところでようやく仲裁に入った……エリオとキャロが自分の食事を渡そうとすることで。

「情けなさすぎるわ……」

思わず額を押さえる。
さすがにレイよりも幼い子供から食事を奪う気にはならなかったか、喧嘩をしていた二人も大人しくはなった、だが――
深い溜息、明日香は十代達、それと付近の偵察に出たフェイトが早く帰って来る事をひたすら祈る。


「三沢君も見張り手伝ってくれればいいのにー」

明日香がいる場所とは別のバリケードで、翔は呟く、
事故によって飛ばされた三沢にはデュエルディスクがなく、当然魔法も使えない彼はモンスターへの対抗策がないため危険な見張りからはずされていた。
今は一心不乱に複雑な計算式をあたり一面に書き続け、自分の頭脳で元の世界に戻る方法を見つけようと奮闘している。

「でも、三沢さんも元の世界に戻るため頑張ってるようですし、私たちも頑張りましょう!」
「う、うん……」

キャロの言葉に翔はわずかに顔を赤くしながら頷いて答える。
はっきり言って、翔は可愛らしい女性にはとことん弱い、デュエルモンスターのカード、ブラック・マジシャン・ガールに恋をしているぐらいだ。
そしていくつもある次元世界の中でも間違いなく「とびっきり可愛い」部類に入るであろうキャロが隣にいるのだ、気が気ではなかった。
キャロは確かに子供である、だが、自分の身長を考えると意外とお似合いなのではないだろうか?
そんな少し危ない妄想に翔が入りそうになった時、一人の少年の声がその妄想を打ち砕いた。

「キャロ、戻ったよ!」
「エリオ君、おかえり!」

偵察に出ていたエリオ(とフリード)に明るく応えるキャロに思わず項垂れてしまう。
自分との会話と随分温度差があるように感じた、何よりとても親しげだ、間違いなくこの少年は自分なんかよりお似合いだ。
翔は気づかれないように一つ息を吐く、
どうやら、この世界は現実逃避すらさせてくれないようだった。



一方その頃、アカデミア内に些細な喧嘩が起こっていた。
パンの大きさでもめていた二人、その一人が自分で持っていたチョコレートを食べているのを見つけて口論になっていたのだ。
……もはや明日香でなくても頭を押さえたくなる状況である、そんな二人に、一人の生徒が近づいていった。
――闇、心の闇……駒に相応しい。



食糧保管庫の前で、万丈目は一人座り込んでいた。

「まったく、この万丈目サンダーが何故見張りなど……」

今朝の騒動からも想像できる通り、空腹から来るストレスは相当な物になっている、
配給だけでは満足できない者が食糧を盗もうと動くことは容易に考えられた。

「兄貴~、おいら達もお腹空いた~」
「ちょっとぐらいもらってもー」
「この馬鹿ども! 見張ってる本人が盗みを働いてどうする!?」
「でも~、もうお腹減って死にそう~」
「精霊が空腹で死ぬというなら、十代のはねクリボーはどうなる! もう少しまともな嘘をつけ!」

おじゃまトリオを鬱陶しそうに払っていると、一人の生徒が近寄ってくるのが見えた。
顔を伏せ、おぼつかない足取りのその男に眉を顰めながら万丈目は警告する。

「おい貴様、食糧を求めてきたならば渡すことはできん、今すぐ帰れ!」
「あ、兄貴……あいつ、なんだか様子が変よ~?」

おじゃまトリオもその男の様子に怯えて万丈目の後ろに隠れるように下がる。
――まるでゾンビだな。
そんな事を思いながら警告を聞かずに近づいてくる男に向けてデュエルディスクを構えた、
実体化したモンスターの攻撃で怯えさせる――それだけならばデスベルトの影響も少ないと考えていたが、そこで男に変化が現れる。

「……デュ、エル……」
「デュエル? 貴様、この俺にデュエルを挑もうというのか? 身の程知らずが、一瞬で終わらせてやる!」
「あ、兄貴、デスベルトは……」
「ふん! 挑まれたデュエルを受けないなど、俺のプライドに反する!」

そして万丈目と男のデュエルは始まり――あっという間に終わる。
手札に恵まれた万丈目が1ターンキルをやってのけたのだ。
デュエルに敗れた男はその場に倒れ、そこでようやく「デュエルに敗れた者がどうなるか」ということを思いつく。

「お、おい、無事か?」
「う……」

万丈目の呼びかけに男は呻き、命は無事だと胸をなでおろ――

「何だ……!?」
「あ、兄貴~!」

倒れていた男がむくりと起き上がる。
それだけならばまだわかる、だが、
その後ろから目の前の男と同じような不気味な足取りで何人もの生徒がやってきていた……これも100歩譲ってよしとしよう、
一番異常だと思えるもの、それは――

「デュエ、ル」
「デュエルしよう……」
「でゅえる、デュエルー」

全員がデュエルディスクを展開してデュエルを迫る、
さすがの万丈目でもこの光景には恐怖を感じてしまう。
だが生徒――もはやデュエルゾンビだ、ゾンビ達は万丈目を逃がさないようにか、取り囲むように歩いてくる。

「お、おい、待てお前ら……!」
「デュエルー!」

ほぼ強制的に、ゾンビの一人とデュエルを開始させられてしまう……



「……?」
「どうしたんです、フェイトさん」

見張りを交代しアカデミア内で休憩していたフェイトは、辺りを見回して違和感を感じる。

「……人数が、少ない」
「え?」

フェイトに言われ明日香も体育館にいる生徒たちを見渡す。
確かに言われてみれば少ないようにも感じるが……別にここから動くなと言っているわけではない、
むしろグループで行動している人たちがいるのなら、人数が少なく見えるのはそれほどおかしいこととは思わなかった。

「考えすぎじゃないでしょうか?」
「そうだといいんだけど……エリオ! キャロ!」

嫌な予感、執務官としていくつもの事件や世界を回った彼女だからこそ感じ取れる独特の感覚が抜けなかった、
それを拭い去るため、キャロにこの場の守りを任せてエリオと共に見まわりに出る。

「少し慎重すぎじゃないかしら、あんなに気を張り詰めてたら倒れちゃうわ」
「フェイトさん、いつも自分の事を後回しにしちゃうんです……でも、だからこそ私とエリオ君でお手伝いするんです!」
「あなた達は、本当に強いわね……」



「俺の……勝ち、だ」

すでに十戦目……万丈目は次々に来るゾンビ達とひたすらデュエルを続けていた。
一度倒しても、他のゾンビと戦っている間に起き上がって挑んでくる、
万丈目はデスベルトの影響でどんどん弱っていき、デュエルでも戦略を考えるだけの思考能力が失われていくのを感じていた。

「く、くそ……おいお前ら……少しは、休ませろ……」

苦し紛れに呟くが、言葉など聞こえていないかのように万丈目へ近づいていく。

「ま、待て……落ち着け。そ、そうだ、今なら俺の弟子にしてやっても構わないぞ……? な、なんだったら秘蔵の天上院君の……」

これ以上デュエルをしたらまずい。
万丈目は自分の体の限界を感じ、なんとかその場を収めようとするがゾンビ達は変わらず万丈目を追い詰める。
壁際に追い込まれ、ゾンビ達から逃れる術もなく遂に――


『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「っ! エリオ、今の声!」
「はい、食糧庫の方です! 今の声は……万丈目さん!?」

フェイトとエリオはデバイスを起動して全速で食糧庫へと向かう、
その途中、ゾンビ生徒にデュエルを迫られている一人の女子生徒を見つけた。

「いい加減に、してよね……これ以上やったら、デスベルトのせいで倒れちゃうわよ……」
「でゅ、える……」
「ああもう、嫌だってば!」

焦れた女子生徒がデュエルディスクをはずしてゾンビ生徒へ投げつける、
ディスクが当たっても何事もなかったかのように――

「違う!? バルディッシュ!」
『Sonic Move』

高速移動魔法を使って女子生徒の目の前に行き、バルディッシュを構える、
その直後、巨大なネズミが飛びかかって来たのをギリギリで受け止めていた。
―巨大ネズミ― 攻撃力1400 守備力1450 効果モンスター

「フェイトさん!」
「エリオ、ここは私が押さえる! 食糧庫へ!」
「っ……はい!」

少し迷いながらも、エリオは食糧庫へと急ぐ。
フェイトは突然実体化したモンスターで攻撃しようとした生徒を睨みつけ……恐怖する。
生気が感じ取れず、虚ろな目でこちらをただ見ているだけ……何かをしようという、生きようという意思さえ感じ取れなかった。

「な、何なのよ、これ……」
「落ち着いて、どこかに隠れて隙を見て逃げ出して」

フェイトの言葉に怯えながら少女は逃げていく、
それを横目で見て、目の前のモンスターへ斬りかかる。

「はぁぁぁ!!」
「罠カード、攻撃の無力化」

いつの間にか伏せられていたカードが開き、モンスターの目の前に空間の歪みが現れバルディッシュの斬撃を飲み込んでしまう。
始めて見る罠カードにフェイトは慌てて下がろうとするが、すでに巨大ネズミはフェイト目がけてその大きな前歯を向け噛みつこうとしていた。

「っ――盾!」

円形の防御障壁、ラウンドシールドを展開しかろうじて攻撃を受け流す。
間合いを放してバルディッシュに魔力を集中、一気に解き放つ。

「プラズマスマッシャー!」

雷撃を纏った魔力砲撃が直撃し、耐えきれずに巨大ネズミは破壊される。
――次の手を打たれる前に魔力ダメージで昏倒させる!
しかし、フェイトの動きを一つの悲鳴が止めた。

「いやぁ! 離して!」
「なっ!?」

見れば先ほどの少女を、今倒したはずの巨大ネズミが捕えていた。
予想外の事にフェイトの思考は一瞬止まり……次の瞬間にはバルディッシュのAIと共に何十通りもの救出方法をシュミレートしていく、
その間にも巨大ネズミはその口を大きく開き、恐怖で完全に動きを止めた少女へと噛みつこうとしていた。
普通の人間では頭がパンクする量の行動パターンを一度に考えるが――
――ダメ、どれも間に合わない!
現実は無情だ、どれだけフェイトが手を伸ばそうとそれは届くことなく、巨大ネズミの歯は少女の胸に突き刺さる!

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
『Trident Smasher』

怒りの咆哮と共に、その名の通り三又に分かれた魔力砲撃が巨大ネズミを貫く。
急激に魔力を消費しフェイトは荒く息をして少女を見る。
少女は倒れたまま動かない、当然だ、あんなモンスターに心臓を貫かれたら無事でいるわけがない。
――守れなかった……! 私は、すぐ側にいたのに……!!
義兄がいたら「執務官が感傷に浸っていてどうする!」と怒鳴りつけていただろう、だが、ここにその義兄はいない、
フェイトはふらつきながら、かろうじてモンスターを呼び出した生徒を確保しようとし――気づく。

「え……!?」
『周囲、完全に包囲されています……エリアサーチ、反応区域が制限されている……!?』

無口で冷静なフェイトの相棒が珍しく焦ったような報告をしてくる。
フェイトの周りは何十人というゾンビ生徒で埋め尽くされていた、
そのうちの何人かはすでにモンスターを呼び出し、いつでも攻撃をできるような体制に入っている。
だが、逆にその状況がフェイトの頭を冷やし、止まっていた思考回路を急速に回復、加速させていく。

「バルディッシュ、まずはこの包囲を抜ける。その後エリオと合流、可能なら万丈目さんも救出して体育館まで退避! ……いけるね?」
『Yes sir』
「いい子だ」

強行突破の体制に入るフェイトだったが……神は彼女に恨みでもあるのだろうか?

「フェイトさん……」
「エリオ!? 万丈目さんはどうだった? ここは危ないから早く逃げ――」

フェイトの動きが止まる。
さっきとは違う、完全な思考停止だ、
それだけ目の前の状況は彼女にとって信じられず、受け入れたくないものだった。

「え、りお……」
「フェイトさん……」

フェイトとは家族同然の存在、スカリエッティ事件の最後ではフェイトの事を守り、
それ以降も彼女の精神的支えとなっていた少年、エリオ=モンディヤル、彼は――

「僕と戦いましょう……!」

周囲のゾンビ生徒と、同じ目をしていた――。

続く

フェイト「私は、守れない……誰も、エリオでさえも……!」
なのは「フェイトちゃん、しっかりして! 最後まで諦めちゃだめ!」
十代「万丈目! 翔! ちっくしょー! どうして、どうしてこんなことになっちまうんだよ!」

次回 リリカル遊戯王GX
 第六話 最高の最悪 エリオVSスバル!

スバル「エリオ、絶対に目を覚まさせてあげるからね!」
エリオ「スバルさんも戦ってくれるんですか? 嬉しいなぁ……!」

十代「今回の最強カードはこれだ!」

―ライトニング1 フェイト=T=ハラオウン― ☆6 効果モンスター
攻撃力2300 防御力1600
名前に「ライトニング」「高町なのは」とついたモンスターが自分の場にいる場合、
その枚数×300ポイント攻撃力がアップする。
このカードが召喚された次のターン以降、魔法カードを二枚捨てこのカードを生贄に捧げることで手札・デッキ・墓地のいずれからか
「フェイト=T=ハラオウン(ライオット)」を特殊召喚できる。

なのは「負けないでね、フェイトちゃん!」
十代「次回もよろしくな!」

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最終更新:2007年11月22日 18:26