リリカル遊戯王GX 第六話 最高の最悪 エリオVSスバル!

「おかしい、何故見張りがいない?」
「中で何かあったって考えるのが自然だね」

十代達はアカデミアまで戻ってきていたが、人っ子一人いないその状態に首を捻る。
荒れている様子はないため、モンスターが襲ってきて全滅……なんてことはないだろうが、
見張りを全員撤収させるほどの事態とは何なのだろうか?
言葉にできぬ不安を感じて内部に入り――動きを止める。

「な、何だ……?」
「この人達、普通じゃない……!」
「まるでゾンビだぜ!」

十代達を取り囲むように現れたゾンビ生徒たちに警戒を強める。
ゾンビ達は何も言わずにデュエルディスクを展開し歩み寄ってくる。

「何だ? デュエルしようってのか?」
「十代、あまり無用な戦いは……」
「だが、デュエルしないと通してくれそうにないな」

不気味な動きで、それでも十代達の進路を塞ぐゾンビ達に、やむ負えずデュエルディスクを展開してデュエルを始めようとし――
突然目の前に落下してきた女性と少年に目を奪われる。

「フェイトちゃん!?」
「エリオ!?」

なのは達は思わず叫ぶ。
だが、その思考は完全に停止していた。
何故この二人が戦っているのか、何故エリオの体が血まみれなのか、
何故――ストラーダがフェイトの体を貫いているのか。

「っ……な、のは……にげ、っ……」
「――っ! レイジングハート!」
「なのはさん!?」
『Divine Buster』

フェイトの姿を見て、何かが切れたなのはがエリオとその周囲にいたゾンビ生徒を吹き飛ばす。
倒れたままのフェイトを抱き起こし、治癒魔法をかけようとして――

「……怪我が、ない?」
「なのは、大丈夫……エリオと戦って、て……わかったことが、ある……」
「フェイトちゃん、喋ったらダメだよ!」

心配するなのはに首を振って応え、フェイトは時折苦しそうにしながら言葉を続ける。

「私たち、の存在は……この世界じゃ、カードの精霊と似てるんだ……」
「カードの精霊……」
「だから、戦いが終われば怪我はなくなる……ダメージは、残るみたいだけど」
「そ、それじゃあ、この世界では私たちは死なない……?」

タイタンから受けた傷が治っていたスバルを思い出しながら尋ねる、
この考え通りだとしたらなのはの心配も杞憂に終わる、
わずかに期待を込めて問いかけるが、フェイトはその問いにも首を横に振った。

「さっき偵察に出た時、モンスターの死体を見た……たぶん、デュエルじゃない……精霊同士での戦いでやられたら、死ぬんだと思う」
「じゃ、じゃあエリオにやられたフェイトちゃんは……」
「……違う、今のアカデミアに、死の概念はない」
「え……?」

言っている意味がわからなかった……いや、わかっていても、予想していても否定したかったのだろう。

「今のアカデミアで精霊……私たちが死ぬほどのダメージを受けたり、デュエルで負けたりしたら――」
「こうなるんですよ」
「危ない!」
「っ!?」

スバルに引っ張られ、なのはの目の前をストラーダが通り抜ける。
少しでも遅れていたら間違いなくやられていただろう、スバルに感謝すると同時に本当にエリオがやったのか信じられなくなってしまう。
だが、エリオはとても楽しそうな表情でなのは達にストラーダを構えていた。

「なのはさん達も一緒に戦いましょう……凄いんですよ、こんなに戦いが楽しく感じるのは初めてです……」
「エリオ……本当に……」

以前の彼からは想像できない姿にショックを受けるなのは達の横で、
十代達はゾンビ生徒達に追い詰められていた。

「みんな、目を覚ましてくれよ!」
「デュエル……デュエルしよう……」
「ダメだ、こうなったらやむ負えない……!」
「ようは勝てばいいんだろ! やってやる!」

ディスクを展開してデュエルをしようとした瞬間、聞きなれた声が十代達を押しとどめる。

「ダメよ十代! デュエルしちゃダメ!」
「明日香、剣山!?」
「うぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!」

剣山が台車に木材などを取り付けた改造車でゾンビ生徒たちを威嚇していき、
それによってできた逃げ道へ明日香がみんなを誘導していく。
エリオがそれを防ごうとするが――

「アルケミックチェーン!」
「キャロ!」
「皆さん、急いでください!」

キャロの鎖がエリオを封じ、その間に十代達は逃げ出していく。

「なのはさん、早く!」
「フェイトちゃん……っ!」

ティアナは逃げ出す直前、後ろを振り返った。
執務官に必要なものを色々と教えてもらった、恩師のような存在であるフェイトを、最後に見ておきたかったのだ。
そしてそんなティアナの視界に入ったのは――

「クロスミラージュ!」
『Phantom Blazer』

ティアナが咄嗟に放った砲撃魔法が相殺される。
なのはたちが驚いて振り返るが、ティアナは一気に走るスピードを上げて叫び返した。

「みんな、急いで! フェイトさんが……フェイトさんもエリオみたいに……!」



「あはは、さすがティアナだね……あれを防ぐだなんて」
「ダメですよフェイトさん……一撃で終わらせたらつまらないです」
「そうだね……ゆっくりと戦いの面白さを教えながら、なのはやキャロ達も仲間に入れよう?」
「はい……十代さんたちは、お任せしますね」

エリオは振り返り、新たなに現れた男へ語りかける。

「ああ、任せておけ……この俺、万丈目サンダーにな」



十代達は明日香を先頭にある部屋まで逃げてきていた。

「ここなら、大丈夫そうね」
「……なのはさん、大丈夫ですか?」
「うん……ごめんね、私がしっかりしないといけなかったのに」
「フェイトさん、エリオ……」

暗く俯くなのは達の横で、十代達もショックを隠せないでいた。
アカデミアの仲間達の変貌、そして、テレビでしか見たことのなかった「殺される」という瞬間……

「明日香、いったいどうなっちまってるんだよ!?」
「私達にもわからないの、フェイトさんとエリオ君が見回りに出て、しばらくしたら突然あんな風になった生徒が……」
「初めは何人かデュエルを受けて、勝った人もいたザウルス。だけど倒しても倒しても、すぐに起き上がってきていずれはデスベルトのせいで……」
「三沢君や無事な人達は体育館の方でバリケードを作ってるわ、私達は皆が帰って来たときのために見回ってたの」
「そうか……翔もそこにいるのか?」

十代の質問に明日香が少し俯いた表情で応えようとするが、背後から聞こえてきた泣き声に中断される。
そちらを向くと「兄貴……兄貴……」と蹲っている翔の姿があった。

「翔、無事だったか!」
「丸藤先輩! こんなとこにいたドン!? 見つからなくって心配してたザウルス!」
「兄貴……剣山君……」

喜びながら二人は近寄るが、翔は蹲ったまま顔を上げようとしない。
十代は自然に手を差し出して――

「よせ、十代!」
「へ?」

ヨハンが叫ぶが、その前に翔が十代の腕を掴み勢い良く立ち上がる。
その顔は――

「デュエルしようよぉ!」
「しょ、翔!?」
「そんな、丸藤先輩まで!」

普段の翔からは考えられない力で腕を掴み、強制的にデュエルをしようとするが、
横手から伸びてきた魔力の道が翔の体を吹き飛ばす。

「ごめん、翔君……!」
「スバル……くそっ、翔まで……!」
「いいじゃないか十代、お前も仲間に入ればいいだけさ」

入り口から聞こえてきた声に十代たちは慌てて振り向く、
何人ものゾンビ生徒の先頭に立った万丈目が、デュエルディスクを展開しながら近づいてくる。

「万丈目……お前まで……」
「天上院君、十代、お前たちも一緒にデュエルを楽しもう。俺はこんなにデュエルに快感を覚えたのは初めてだ」

エリオと同じ事を言う万丈目に、十代達は愕然としてしまう。
背後には翔、前には万丈目と大量のゾンビ生徒が十代達を追い詰める。

「どうする!? このままじゃ……!」
「やるしか、ないの……!?」
「まだだ! 道がないなら作ればいい!」

十代の言葉になのはははっとして顔を上げる。
二人で向き合い、頷きあってそれぞれ別の方向へと向き直った、
なのはは横の壁へ、十代は天井へディスクを展開する。

「何をする気だ!?」
「みんな、なのはさんの側へ! いくぜ、フェザーマンとバーストレディを手札融合、フレイムウィングマン!」
「いくよ、本日二回目! ディバインバスター、フルパワー!」

なのはの砲撃が壁を吹き飛ばして道を作り、十代の呼び出したモンスターが天井を崩して万丈目達の追撃を阻止する。
天井の崩壊を逃れた翔が追ってくるが、キャロが再び鎖を召喚し縛り上げる。
そのまま通路を駆け抜け――二つの閃光がその進路を塞ぐ。

「フェイトちゃん……!」
「逃げるなんて酷いよ、なのは……私達と、戦おう?」
「エリオ君、目を覚まして!」
「キャロも仲間になろうよ、ライトニング隊みんなでさ……」

デバイスを構えて歩み寄ってくる二人になのはたちは思わず後ずさり――スバルとティアナが前に出る。

「スバル、ティアナ!?」
「ここは私達が抑えます、なのはさん達は早く先に!」
「保健室に行かないとレイちゃんが危険です、そちらをお願いします」

二人の目に迷いはなかった、スバルはエリオと、ティアナはフェイトとそれぞれ向き合う。
今のなのはにこの二人と戦うのはまず無理だ、彼女は決して心が強いわけではない。
確かになのはの意思は固い、最後の最後まで相手を救おうと動き、決して諦めようとしない、
だが……硬いからこそ壊れやすい、幼い頃からの親友、比べられるものではないが、ヴィヴィオよりもなのはの心に深く寄り添っていたものが崩れてしまったのだ、
まともな精神状態を保つのがやっとであろう、ならば二人を止められるのは、自分達しかいない。

「スバルさん、嬉しいなぁ、僕と戦ってくれるんですね」
「違うよ、戦うんじゃない……目を覚まさせてあげる……!」
「ティアナ、さっきの判断はよかったよ……もっと、もっと楽しもう!」
「フェイトさん……私に教えてくれた執務官としての心得、今度は私が教えます!」

他の面々が止める前に二人はフェイトとエリオへ駆け出していく、
なのははその光景に呆然とするが、ヨハンに手を引かれ慌てて走り出す。

「急ぐぞ! 俺に言ったこと、もう忘れたのか!?」
「え――」
「仲間を信じるんだろ? なら信じろ! あんたの部下と、親友を!」
「っ……うん! ありがとう、ヨハン君!」

――みんな、お願い……!



エリオはウイングロードで滑走するスバルへと狙いをつけ、一気に突撃する。
近接戦闘を得意とする二人だが、力や防御力ではスバルが勝るが速さでは圧倒的にエリオに軍配があがる、
その突撃を回避することは不可能と判断し、障壁で受け止め反撃しようとするが、直後のエリオの行動に目を見開く、
魔力をブーストとして爆発させた直後にスバルの強固な障壁との拮抗、かなり負荷がかかっているはずのストラーダで、更にカートリッジをロードして二回目のブーストを発動させる。
強力な負荷でストラーダはフレームが軋み、障壁は砕け散って慌てて身を捻ったスバルの左腕を浅く切り裂いた。

「エリオ……!」
「どうしたんですかスバルさん、そんなスピードじゃ僕にはついてこれませんよ」
「そんな戦い方をしたらストラーダが持たないよ! わからないの!?」
「ああ、心配いらないですよ。この世界では戦いが終われば元通り、ストラーダだって壊れても元に戻ります」

スバルは怒りを抑えるように拳を強く握る、だが、次のエリオの言葉に――キレた。

「スバルさんもどんどんマッハキャリバーを使うといいですよ、強化されてるんだし、ちょっとやそっとじゃ壊れないんでしょう?」
「エリオォォォォォォォォ!!」

ウイングロードの形成とほとんど同速度で突っ込み右腕を振るうが、その拳は壁の一部を砕くだけだった、
高く跳んで拳をかわしたエリオは、自分の右腕に雷撃を纏わせ、怒り任せの攻撃によって隙だらけになったスバルの背中を狙う。

「紫電、一閃!!」
「うわぁぁぁぁ!」

数年前の時にはまだ制御がしきれず、自身のバリアジャケットをも粉砕してしまった未完成の技だったが、
今はもうあの時とは違う、威力もあがり制御も完璧だ、
その一撃を受けてさすがにスバルも――そのままエリオの腕を掴み取る。

「なっ!?」
「この、ぐらい……!」

――ギン姐の方が……強かった!
そのまま腕を引き寄せ――投げ飛ばす!

「効くもんかぁ!!」
「――!」

背中から床に叩き付けられ、エリオの息が一瞬止まる。
急いで体勢を立て直そうと起き上がるが、目の前に突き出されていたスバルの拳と魔力に、動きを止めてしまう。

「一撃、必倒!」
「しまっ――」
「ディバイーン……バスター!!」

スバルの0距離からの魔力砲撃を受け、エリオは壁に叩きつけられて気を失う。
一息つこうとした直後、何かがぶつかりその場に倒れこんでしまう。

「いっつぅ……っ!? ティア!」
「くっ……やっぱり厳しいわね……」
「エリオ、やられちゃったんだ……さすがだね、スバル」
「フェイトさん……!」

なんとか立ち上がるも、状況はかなり厳しかった。
ティアナはすでにふらふらなのにも関わらず、フェイトはほとんど疲労しているように見えない、
防御の硬いスバルが前に出ようとするが、足から力が抜けてその場に膝をついてしまう。

「スバル!?」
「っ……思った以上に、ダメージが……!」
「そんな状態じゃ面白い戦いができないね……困ったな」

完全に舐められている、そう思いながらもティアはしかけることができなかった、
無防備に考え込んでいるだけのように見えるが、あの状態からでも一瞬の間に自分の背後を取れるだろう。
フェイトの戦いはよく見ていた、だが、今のフェイトはその時よりも強い。
――人を傷つけるのに、躊躇いがない……
それはフェイトを知る人間には信じられないことであった。
例え犯罪者相手でも、フェイトはどこで自分をセーブしていたのだ、
その躊躇いがなくなった彼女は、もしかしたらなのはを超えてしまうかもしれない。

「……そうだ」

簡単なことじゃないか、といった風に微笑みながら二人へ向き直る。

「仲間になればいいんだ、ずっと一緒に戦えるよ……」
「……スバル、頑張りどころよ」
「だね……頑張ろう、マッハキャリバー!」
『All right』

スバルは懐に忍ばしてある一枚のカードにこっそりと手を添える、
別れる直前十代から受け取ったこのカードに、この場を乗り切る可能性を賭けて。



十代達は誰もいないことを確認し、部屋に入って扉を閉める。

「ガンナーガール、無事だといいが」
「万丈目、翔……ちくしょう!」

全員の気持ちは完全に沈みこんでいた、
それも無理はない、アカデミアに帰ってから息をつく間もなく、次々と変わり果てていった仲間の姿を見せられてしまっているのだから。

「今は、落ち込んでいる場合じゃない」
「ヨハン!?」
「早くこの薬を保健室まで届けなければ、鮎川先生とレイが危険だ」
「そ、そうだ……レイが待ってるんだ……!」

そう言うが早いか、薬を持って十代は駆け出そうとする。

「待て! どうする気だ!」
「どうって、だから薬を届けるんだよ!」
「落ち着いて十代、保健室の方にもあのゾンビ生徒が大勢いるのよ!」
「だったら! 尚更急がないと!」
「落ち着いて――って私が言えた立場じゃないけど、とにかく冷静になって、十代君」

なのはの言葉に十代は一旦動きを止める。
先ほどのなのはの表情を十代は見ていたのだ、絶望に染まったその顔を。

「保健室の周りがあのゾンビたちでいっぱいなら、私達が真正面から乗り込んだら返ってレイちゃんたちは危険になっちゃう」
「じゃあ、どうしろっていうんだよ!」
「そうだね……正面からじゃなければいいんだよ」

なのはの言葉が十代はさっぱりわからないと首を捻るが、オブライエンが意図に気づいて言葉を引き継ぐ。

「通気口からなら見つかる可能性はかなり低い、ミッションを達成するならそちらから向かうべき、ということか」
「うん、私はここの構造に詳しくないけど……みんななら、通気口からでもどっちの方向が保健室かわからないかな?」
「問題ない、内部構造なら把握している」
「よ、よし、それなら急ごうぜ!」
「wait、トゥモローガール達は体育館の方へ行って守りを固めた方がいい」

ジムの提案に明日香達は頷き、キャロとフリードを護衛に体育館へと向かう。
十代達も保健室へ向かおうとしたとき、生徒手帳が保健室からの通信を拾った。

『……か、誰か、応答して!』
「鮎川先生!? 無事なのか! レイは!?」
『十代君!? お願い、早く来て、もうもたn……』
「先生!? 返事をしてくれ、先生ー!!」

続く


十代「くそっ、どいてくれ! レイのところへ急がないといけないんだ!」
なのは「信じてるよ、スバル、ティアナ……私は、私が今できることをやるんだ!」

次回 リリカル遊戯王GX
 第七話 レイ救出作戦! 恋する相手はなのはさん!?

なのは「さ、さすがにモンスターとお付き合いする気はないんだけど!?」
十代「相変わらずだな……あのカード」


なのは「今回の最強カードはこれ!」

―スターズ3 スバル=ナカジマ― 効果モンスター
攻撃力1850 防御力1600
自分の場に「ティアナ」「なのは」「ギンガ」と名のつくカードがある場合、
その枚数×200ポイントこのカードの攻撃力はアップする。
この効果はいつでも扱うことができる、
このカードを生贄にすることで、このカードを素材とする融合モンスターを特殊召喚できる。
デッキから魔法カードを二枚除外しこのカードを生贄にすることで「スバル=ナカジマ(戦闘機人)」を特殊召喚できる。

十代「無事でいろよ、スバル……!」
なのは「次回もよろしくね♪」

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最終更新:2007年11月27日 19:15