『わかりました、引続き調査を続行するように。それと・・・』
モニターの向こう側、757調査捜索部隊長・オーリス・ゲイズ一佐がフェイトからの報告を聞き、指示を出す。
『何か改めて必要なものは?』
「ありがとうございます。お借りしている二個機動小隊で十分ですが・・・」
フェイトは最近昇進したらしい上官の質問に笑顔で答える。
『どういたしまして。なお詳細はまだ不明ですが航空の71任務部隊がレイブンと交戦、貸し出していた
9号特殊機材・ノーヴェが中破しました。他にも一名が軽傷とのことです』
(なのはの隊が?)
フェイトにとってなのはと彼女の直卒班が遅れをとったことが驚きだった。
『今後十分注意して事に当るように』
「分かりました。では後ほど・・・」

「部隊長は何と?」
執務官補のティアが新しい指示を受ける為に、入室する。
とはいえ、基本的にドアを閉めていないので誰でも入れる状態だが・・・。
「引き続きジャック・Oの追跡に当たるようにだって。“アビス”への到着予定は?」
「艦橋からの連絡では残り十二時間程度の行程だそうです。
でも部隊長はすごいですよね・・・。軍から小型とはいえ高速輸送艦を借りてくるなんて・・・」
「お父さんの下で働いていたからあまり知られていないけど、本人もすごく有能な人なんだよ」
ティアナは改めてオーリス・ゲイズ一佐の人脈に舌を巻いた。
殆どは父・レジアス・ゲイズから受継いだ物だがそれを維持し利用するのは唯の親の七光の二世では出来ない。

海側が艦船の貸し出しに難色を示し、部隊は機材や兵員を受領し編成ができたが部隊が他世界へ動くための
手段の確保が問題となった。海側の気まぐれで利用できるような艦船を当てにするのは論外であり、
纏まった数で動くためにはそれ相応の輸送手段が必要となる。
オーリス一佐の本領はここからだった。
彼女は海が非協力的であるのを理解すると直ちに父のかつての友人達-内部にも外部にもいた-に掛け合い、
話を持ちかけ取引したのだ。
その結果手に入れたのはミッドチルダ政府軍から高速輸送艦をドック入り前に借用し、さらに装輪装甲車をリースで入手、その他各種物資・
人員を手に入れてきた。
その手に入れてきた物品が搬入されるのを見たとき誰もが目を疑った。
そして誰もが彼女はやはりレジアス中将の娘なのだと再確認することとなった。

「執務官の受け持つ職務の範囲は広いから各所に人脈がないと厳しい仕事だからね。
一人だと手に負えないよ」
「必要なのは経験と才能ですね・・・」
ティアナの困った顔を見てフェイトは苦笑する。
「みんなは格納庫で訓練?」
「はい、トーレさんとセッテさんが来てから随分訓練も充実して来ました。私の幻術だと限界がありますから・・・」
「ティアナの幻術だと耐久力が無いからね。・・・久しぶりに皆の訓練の相手をしてこようかな」


「たぁぁーー!!」
「遅い、ISを使うまでも無いぞ!!」
自身のアームド・デバイス「ストラーダ」を構えるエリオ・モンディアルの声が響く。
それを正面から迎え撃つのは元ナンバーズ前線リーダーNo3:トーレ。
現在は自身直卒のセッテと共に執務官付“民間協力者”-なお扱い上管理局から給料無し-を勤める。
二人が刃を打ち合っているのは船内格納庫。
本来なら積載されるべき車両は無く、天井の低い狭い空間を訓練用として使用していた。
「これでも・・・?!」
「それではディードにも後れを取る!!」
エリオが一瞬で距離を詰め、ストラーダを振り上げるとトーレの頭上から速度を活かして近接、
ストラーダと重さと自身の魔力を重ねて振り下ろす。
だがエリオ渾身の一撃をトーレは左手二の腕で受け止めるとま
だ動きを繋げれないエリオの腹を右拳で打つ。
「・・・ぐっ!!げほ!!げほ!!」
一応手は抜いているが右拳を二発連続で鳩尾に打ち込まれればさしもののエリオも堪らない。
前屈みになり、体内の空気と中身を内臓を出しそうな勢いで吐き出す。
「どうした、終わってはいないぞ!!立て!!」
手だけでなく足を積極的に使うノーヴェと違い、トーレは手を中心に攻撃を組上げる。
前屈み状態のエリオの後頭部に拳を振り下ろす。

「はい、そこまで。・・・トーレ、いつも言ってるけどもうちょっと手加減してあげてくれないかな?」
何時の間にか間に入ったのかフェイトがトーレの右手を押えていた。
トーレもセッテも手加減をしない。相手のエリオとガリューはやればボロボロ、他の小隊員も半死半生になる。
「申し訳ありません、フェイトお嬢様。ですが私やチンクが妹達を少々甘やかしすぎた経験から言えば訓練でも実戦でも手加減は無用です」
「チンクちゃんは甘かったというより優しい子だと思うけど?」
「いいえ、あいつとセインが甘すぎたから妹達があんな育ち方をしたのです」
「そうです、チンク姉様とセイン姉様は少々無駄が多いように感じます」
『またこれだ・・・』
流石のフェイトもこの元戦闘機人二人の頭の固さに頭を抱えるしかない。
「ごほ・・・、すいませんフェイトさん・・・」
「キャロ、ルーテシア、エリオをお願い」
「「は、はい!!」」
いつものことだが、トーレやセッテの相手する模擬戦での雰囲気に萎縮していたのか動けずにいたキャロとルーテシアを呼んでエリオを運ばせる。
「あ、ありがとうございます。・・・って、あの二人とも?」
右をキャロ曳かれて、左をルーテシアに曳かれて行くエリオ。
なお二人は火花が飛ぶぐらい睨み合う。
それをいつも見るであろう他の隊員もはやし立てる。

トーレとセッテはJS事件の時、フェイトに捕獲された。問題はこの後、管理局内で戦闘機人の取り扱いが
議論されていた時、二人は何故かそのまま局の有力者たるハラオウン家の保護下に入っていたのである。
元々二人は-特にトーレ、セッテも若干-フェイトに入れ込んでおり、フェイトが保護扱いにしたことで
二人は再教育プログラムの受講資格の埒外にいた。
無論、管理局内では好ましい状態ではない、という結論になったが相手は何せ元から現役まで執務官を
多数輩出しているハラオウン家と言う事もあり、失脚を狙う一派からあそこに任
せておけばいいだろうという一派等の思惑が重なり合って現在の形に落ち着いた。

「そうだ、トーレ、セッテ、妹さんのノーヴェが怪我したって・・・」
「不出来な妹の事です。大方昔のように見境をなくして挑みかかったのでしょう」
「・・・」
「今回のことでボロボロになって少しは成長するでしょう」
「そ、そうかな?」
思ったとおりの反応にフェイトは苦笑する。
トーレはいつものように妹達に厳しい。セッテは相変わらず冷たくあしらう。
三女はともかく七女はどんな感情を抱いてるのかまったく推し量れない。
だが二人は二人なりに一応は心配しているのだ。それは少しだけ動く顔の表情を見れば分かる。
「あとチンクちゃんからまた連絡があってね、『トーレ姉様と
セッテに形だけでもいいから
更生プログラムを受けて欲しい』って」
この時は二人と他の娘達との窓口とも言うべきチンクの名前を
出せば簡単に陥落する。
最近だがフェイトはそれに気が付いた。
「はぁ・・・、またですか。あいつは、何度言えば分かるのか
、まったく・・・」
「連絡だけでもしてあげればいいと思うよ」
「今回の作業が終わったら連絡することにします。セッテ、お
前も手伝え」
トーレがこう言えばほぼ確実に妹達に連絡を取る。フェイトは
心の中でトーレの意外と家族思いの深さに微笑む。
「分かりました」
セッテが喋っているのを聞いてその会話を盗み聞きしていたで
あろう隊員たちがどよめく。
よほどセッテが喋ることが珍しいのだろう。
「じゃあ、トーレ、セッテたまには私の相手をしてもらおうか
な?勿論手加減無しで」
バルディッシュを起動、バリアジャケットを着用。二人に対し自信に満ちた笑顔を向ける。
「判りました、手加減なしでお相手します」
トーレは少しだけ楽しそうに構えをとり、セッテはトーレを支援するポジションへ移る。

なおエリオはというと・・・。
「私がエリオ君の看病をするの!!」
「・・・ダメ、私がする・・・」
「あの、二人とも、僕は大丈夫だから・・・」
「大丈夫じゃないよ!!あんな深い打撃を受けたんだから!!」
「お母さんが・・・、持たせてくれた薬があるから・・・」
「ルーちゃん・・・」
「なに・・・?」
エリオは睨み合い火花を散らす二人から這い蹲って離れると壁に体を預ける。
「キュク?」
「ありがとう、フリード。心配しなくても大丈夫だよ」
『今度トーレさんとやる時はハンデをつけてもらおう』
そう思いながら今だ安定せぬ頭を働かせてフェイトとトーレ・セッテ組の模擬戦に目を移す。
「やっぱりフェイトさんはすごいな・・・。ストラーダ、記録よろしくね」
<ヤボール>
そう呟くと三人の動きを追う。
射撃はは厳禁。これは安全上守らなければならない。
必然、格闘戦になるのだが狭い空間では殆ど速度も出せない。
だが三人はそんなハンデを感じさせないような動きで模擬戦を繰り広げ
その場にいる全員に力量と技術の違いを見せ付けていた。
フェイトが正面から間合いに入ればトーレはそれをセッテと協力して受け止めチャンスを探す。
逆にトーレとセッテが同時に攻めればフェイトは攻撃を受け流し、相手を分断できる動きをとる。
それを分かっている二人は一瞬でも分断されないようお互いをカバーする。
『いつかあの中には入れればいいな・・・』
エリオは三人の動きを追いながら漠然と考えていた。

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最終更新:2008年02月24日 20:57