未踏査世界“アビス”
旧暦時には主要世界の一つとまで言われた世界。
だが、旧暦から新暦にいたる過程で行われた再構築戦争により幾つもの世界が崩壊、忘れ去られていった中で
この世界もまた管理局によって未踏査世界として分類され忘れられていった。
その後、管理局と異なり、過去の歴史・技術の発掘・再生に熱心な企業-大企業は大半-によってかつての
歴史が発見された時、そしてそこにあったであろう技術を求め、非合法の調査隊が派遣され風化し朽ち果てて
行くのみの世界から技術が持ち出されるまで、誰もその世界のことなど忘れていた。
管理局の知らぬ間に持ち出された技術は再生され、
だがそれは誰も知らぬ間に、何者かの手によって-一般にはレイヴンといわれている-破壊され、
再びその世界は忘れ去れて言った。

時はすべてを風化させていく。
過去に生きたレイヴンの妄執も、誰に知られることも無く深い地下で風化させていくはずだった・・・。

都市部の廃墟、戦火の爪跡は年月の風化と共に消え去りもはや廃墟のみ。
端部の砂が都市を呑み込みつつある前線ともいうべき場所。
防砂堤など無い。年月と共に消えつつある廃墟都市の外郭部に不釣合いにきれいな船が着座していた。
それが高速輸送艦LSH21級だということを知る者はこの世界にはいない。
周りで船の周りに立つ天幕の周囲で動く人間達を除けば・・・。

「ティアナ、目標の施設までどのくらい?」
「スミカ女史から教えてもらった座標では、直線で五キロ程度先に目標があるようです」
輸送艦が撮影した付近の地図を照らし合わせながらティアナが答える。
「この世界は都市跡の廃墟を除けば殆どが砂漠地帯ですね。あとは少しの湖のみ。旧暦の戦争後に捨てられたという
のも分かります」
指揮所用に割り当てられた天幕内でフェイトは
周りでは持ち込まれた通信機材に隊員が取り付き、
「フェイト執務官、周囲の調査が終了しました。都市部の大半が廃墟です、生きてる物一つ無し」
機動小隊長の一人が報告する。
「分かりました。事後はベースキャンプの警備をお願いします」
「了解しました」
小隊長が敬礼を一つ返して天幕から出て行く。その後姿を見ながらフェイトは今後の予定を頭の中でくみ上げる。
「明日、警備の小隊を残して目標の研究施設に向かおう。ティアナは私と一緒に施設内に。
エリオ達はここに残してトーレとセッテには一個小隊の皆と施設の地上面で警戒。ティアナ、調整をお願いできる?」
「分かりました」
「フェイトさん、フェイトさん!!」
「エリオ?どうしたの?」
天幕の入り口から勢いよく入ってきたのはエリオ。何故か妙に興奮している。
「雪、雪が降ってきました!!」
言うが早いかフェイトの手を無理やり牽いて天幕の外に出る。
「雪?さっきまであんなに晴れていたじゃない?」
まさかという顔でティアナが半信半疑で天幕から顔を出す。
「うそ・・・、ホントだ・・・」
先ほどまでは雲一つ無い快晴だったはず。だが今の天候は大玉の雪が降る雪景色となりつつある。
「異常気象なんですかね?・・・うぅ寒い。さっきまで晴れてたのに・・・」
ティアナが両腕を抱えながらぼやく。
そんなボヤキを聞いたフェイトや周りの隊員が苦笑する。
フェイトがふと視線を移すと白い雪が降る中、一人キャロが佇む。フリードは何故かいない。
「キャロどうかしたの?」
「えっと、フェイトさんと初めて会った時のこと、思い出しちゃって・・・。感傷って言うんでしょうか・・・」
「そうだね、あの時も雪が降っていたね・・・」
二人でそっと感傷に浸る。
こんな時間もいいかな?
なんとなくフェイトはそう思った。

なおフリードは・・・。
展張された一つの天幕の中、隊員たちが持ち込んだストーブに群がっていた。
だが一応は任務中、休憩時間を利用して暖を取り、食事を済ませる。
「おい、ストーブの火力を上げろよ。雪が降って寒くて堪らん」
「少し待て。入り口をちゃんと閉めろよ」
「分かったよ、コーヒーあるか?」
「あるよ。ポットの中だ。自分で注げよ」
「おいチビ竜、食うか?」
隊員の一人が携帯口糧の中からパンを一切れ、ストーブの傍で温まっていたフリードの上から落とす。
「キュ!!」
フリードは素早い反応でパンを加え咀嚼、飲み込む。
「キュ、キュゥ!!」
フリードが次を催促、隊員達はそれを見て笑う。
「まだ食うのか?ほれ、俺は食わんからやるよ」
他の隊員が封を切った甘味物をフリードの前に置く。
それをすこし警戒して鼻先を向け、すこし逡巡してから口をつけると問題が無いと判断したのか夢中で食べ始める。
夢中で食べているフリードから取り上げる。
フリードが抗議をしようとその手の主を見る。
「・・・おいで」
ルーテシアだった。
一瞬、警戒したのか体を大きく動かす。
だが、すぐに警戒を解いたのかルーテシアの膝上に乗り、取り上げられた食べ物にまた夢中になる。
そんなフリードの後姿をルーテシアが細い指先で撫でる。
食べ終わった後、フリードはそのまま膝の上で丸々まってまどろみ始める。
ルーテシアもそれを見ながら自身もうつらうつらと舟を漕ぐ・・・。
なお、ガリューは雪の降る中、廃ビルの屋上で佇んでいた。

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最終更新:2007年12月09日 20:33