リリカル・コア第三話

「で、何でウチはこんな所におるんやろうな」
「それを言ったらあたしだって…」
戦術部隊司令部第四部長、八神はやて一佐と秘書兼密偵のセインは広く開けた場所にいた。
地面は大型の艦船でも着陸できるようになったコンクリート製、離れた向こう側には滑走路の端を示す灯火が
強い日差しに負けず光っていた。さらに遠く離れた向こう側には基地の周囲を360°囲むカルデラの外周が見えた。
「とりあえず管制塔の方に行きませんか?」
さすがに暑さがこたえるのかセインが音を上げた。
自分達を送ってきた輸送ヘリは自分達を降ろすとどっかへ行ってしまった。
「そうやな、迎えも来そうにないしな…」
こんな時ばかりははやてもセインも制服が憎い。
(そのまま格納庫のほうへ送ってくれればえかったのに…)
二人とも燦々と輝く太陽の下、手近な冷房の効いてそうな建物、管制塔へとトボトボと歩みを進めた。

なおリインフォースⅡはと言うと…。
「うー…、何でこんなに書類があるですかーー!!」
積み上げられて行く未決裁の書類に埋まっていた。
「はやてちゃーん!!カムバァックですぅー!!」
留守役も大変の仕事である。

「先にご連絡をしていただけたら迎えを遣しましたのに…」
「まぁ、それは…」
さすがのはやても口が重い。
「しかし、今回の出張は突然ですね?ご用件は“アレ”ですかな?」
基地司令室の中ではやての前に座る基地司令-階級は准将-が興味ありげに聞く。
「そうですが…、これは一応…」
「いや分っていますよ、こんな場末の基地に管理局始まって以来のモノが組み立てられているんですから」
秘密事項です、そう言おうとしたはやてを基地司令は遮る。
管制塔のある施設に入り、自分の身分と用件を言うと慇懃無礼に案内されたのはこの基地の司令室だった。
部屋の中で来訪を待っていたであろう基地司令も内心歓迎してないのは明らかだったが、今のはやてには冷房の利いた部屋と冷たい
飲み物は何にも増してありがたかった。
「しかし個人的な意見を言わせて貰うとですな」
はやての表情がこわばる。
「本局のお偉いさんは何をお考えですのかね?地に落ちつつある管理局の信用を取り戻すためとはいえ“アレ”見たいなものに
手を出すとなると…」
「私は受領せよという命令を受けただけです。そのような事は私の考える範疇ではありません」
「いや、そいつは失礼…」
話を遮るように机の上の電話が鳴った。
「どうやらお出迎えが来たようですな」
「そうですか、では失礼させていただきます」
あまり歓迎されていない事が身に沁みて分ったのではやては逃げ出すように、挨拶もお座成りに司令室を後にした。

「お迎えが遅くなって申し訳ありません」
迎えに来た戦術部隊付の技官が頭を下げる。
「いきなり来たうちも悪いんや。そんなことより…」
「そのまま格納庫のほうへ行かれますか?」
技官がちらりと荷物を見てからはやてとセインを見る
「そうや、それでセインええな?」
「はぁい・・・」
明らかな不服そうな声でセインが答えた。
『少しぐらい休ませてくださいよ…』
『少しぐらい我慢せいや。戦闘機人やろ?』
『うぅぅ…それを言われると辛いです…』

「これが…、“レヴヤタン”?」
「デカイですね…」
案内された先は基地地下格納庫、戦術部隊専用として与えられたその中で大型航空機動兵器が組み上げられていた。
それを見たはやてとセインはその巨体を見上げ言葉を失う。
「1、2、3、…これが三機もあるんですか・・・?」
「はい、精確には四機ですが初号機は各種試験のためキサラギ社が所有しています」
「ということは二号機から四号機が戦術部隊に提供されたということかな?」
「そうです。なお厳密な意味では五機、ですがオリジナルの一機はナービス社の崩壊の時に破壊されました」
作業用のツナギを来た技術者が話す。
「ずいぶん詳しいですね」
セインが口を挟む。
「自分は元ナービス社の社員です。社の崩壊後、キサラギ社に再就職して今はこちらで出向中となっています」
「へぇー」
会話を聞きながらはやては改めて格納庫に並ぶ三機の巨体を見上げた。
基地司令の言っていた“アレ”=“レヴィヤタン”。
キサラギ社がナービス社の施設から回収した資料を基に開発、精確に言うと復元した大型航空兵器。
戦術部隊には今でも企業から無料、リース、もしくは不当に安い価格で装備が提供されている。
これは提供と言う形、用はタダで送られてきた。裏が無いと言えない筈が無い。
はやても最近になってから本局と企業間の黒い噂を耳にしていた。
あまり考えたくは無い。だが、自分が派閥争いの出汁に使われているのを知っているといやでも考えてしまう。
「今日はもうお疲れでしょうからお休みになられてはどうですか?宿舎に部屋も用意してありますから…」
「せやけど…」
「機体の受領の確認は明日でも大丈夫でしょう?本気に関する資料をお渡ししますから読んでおいて下さい」

そして基地から離れた場所、砂漠の砂の一角が盛り上がり崩れる。
「さて…、そろそろ日が暮れるな」
右目に眼帯をつけた少女が偽装の為ににかぶっていたバラキューダを脱ぎ捨て愛用していたコートに替えた。
彼女の受けた依頼、それは管理局基地の調査。特に搬入されたモノが何であるかと言うのに重点が置かれていた。
「すぐに終わらせるとしよう。侵入は…」
元ナンバーズ・№Ⅴ:チンク。
生き残った姉妹の中で只一人、管理局への協力を潔しとせず、一人傭兵家業をする少女。
姉妹達とは連絡を取るが出来うる限り管理局との仕事以外での接触は避けていた。
『私が正面から行く。そっちは先行して地下の水路から侵入して』
この任務に人を付き合わせた依頼人、眼帯仲間:ファナティック=レッドアイが通信を寄越す。
「分った先行する」
『よろしく頼むわ』
予めめぼしを付けていた地下水路の点検溝の場所を再確認し、チンクは動き始めた。

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最終更新:2008年02月24日 20:57