――――時空管理局本局
「現在、多次元世界で確認されている『レリック』と呼ばれるロストロギアの回収と同時に現れる『ガジェット』
 もしくは『ドローン』と呼ばれるUAV(無人兵器)が確認されます。」
本局統幕幹部である斎藤三弥中将はモニターに移る『ガジェット』を指しながら現状を説明する。
「ご存知だと思われますが、このガジェットにはAMFを搭載しており、我々の魔道士も苦戦しており、
 ここ最近でも死亡12、負傷30名と甚大な被害を出しており…そこで我々陸戦課として。」
リンディ・ハラオウンはその後の言葉に一瞬顔をしかめる、斎藤中将がいった言葉、
そうそれは『質量兵器』の使用解禁なのだ、クロノからガジェットと交戦するにあたり陸課の部隊が独断で
質量兵器を使用する例が増えてきた報告をリンディは受けてきた、確かに法に違反した隊長達には処分が下される
のだが緊急状況的判断によって重くても減給、謹慎といった極めて軽い処分なのだ。
ではそれらの質量兵器はどこにある?話は簡単だ、時空間に色んな犯罪組織が存在している、それを取り押さえたときには大体質量兵器が存在しておりそれらは
倉庫に乱雑に積み上げられているのだ、それを目につけた隊員が適当な理由をつけて持ち出しているのだ。
「無論何も我々は旧暦時代に使用していた大量破壊兵器などの戦略兵器などの解禁を求めているわけではありません、個人携帯火器
 (無論97世界から持ち出され押収したスーツケース核は論外)の使用を許可していただきたい。」
発言を終えると斎藤中将に対し
「あの旧暦の被害を繰り返すのか!」「質量兵器使用絶対反対!」多くの罵声と
「よく言ってくれた!」「その通りだ!賛成!」少数の賛辞の声が飛ぶ、それを見ながら
リンディはさっきから無言のままただ会議を眺めている将官を一瞥する。
(彼は一体何を考えている?)
その将官の名前は宗方怜士中将といった、肩書きはリンディと同じ総務統括官である、
周囲に対して好印象を持たれているリンディと違い、彼女と同じ成果(むしろそれ以上)
を挙げている彼は周囲に対して蛇蠍の如く嫌われていた、典型的な例が彼のあだ名が「蝿の王」と呼ばれることだ、
その名は敵対組織だけではなく管理局そして3提督からも恐れられている。
 理由は?彼は物事を解決するときは徹底した合理主義を実践するからだ、在る時は貴重な重武装型時空航行艦に無能な連中と
ほんの少数の有能な人材を乗り込ませ戦訓を得るために囮役を演じさせ見殺しにしたり、またあるときは平然と回収したロストロギアを囮にして敵組織を一網打尽、
そして持っていかれても仕込んだ自爆装置で吹き飛ばしたり、無能なものに対していは例え名家だろうが上官で何であろうが適当なスキャンダルや危険地域飛ばしで潰している、
と色々とある意味黒いつまり、管理局の悪と過言しても言われている。(無能な味方ほど最も恐ろしいという意見もあるし、敵対組織で最も敵に回したくない管理局将官ランク1位だったりもする)
 かつてグレアムが闇の書封じの為に作り上げたデュランダルの製作の協力したのは彼なのだ、本来ならそこで首チョンパで管理局法会議なのだがそれは出来ない、理由は簡単だった、
彼は他世界に色々な人脈を作り上げており彼自身も先に述べたド外道行為は滅多にしなし、管理局にとって非常に優秀な人材なのだ(無能だったらとっくの昔に豚箱行き)、おかげで中将のポストについている。
(最も本部や局での評判は最悪だが)だが宗方は何も発言することもなくただ会議を見つめている。
 そしてもう一つの議題である八神はやてが唱えている『機動第6課構想』に対しては比較的賛同声が挙がったが…最も特殊部隊、緊急展開部隊構想は元軍人、警察組織出向者達から以前から唱えられていたが
何かの理由で潰されていたのだ(まぁ理由として管理局多数を占める魔法使いによる軍人、警察関連出向者に対する蔑視もある)、結局三提督の反対もあり質量兵器解禁はあくまで禁止、しかし6課成立は承認された、
そうしたまま会議は終了した、そして同じくただこの事件の経過と犯人割り出しに全力を注ぎますと口だけで言った情報局局長のゲーレンは呟いた「とんだ茶番」と。

――――本局一室(BGMは全能なる調停者(スパロボ)で)
「ふむ…やっぱり予想通りに会議は進んだな、とんだ茶番だったな。」
無表情のままで宗方は呟いた。
「予想通りと言いますと?」
肩書きとして一応は彼の部下であるチャールズ・T・ベイツ二佐が恐る恐る問うた、
ベイツは海課に所属していたが、優秀な頭脳を持っている事により(本人は海にいたがったが)
本局に引き抜かれ、何の因果か知らないが宗方の下でじっくり調教…もとい教育中だった。
「ああ、あの老害のことだよ」
悪びれもせずに宗方は言った。
「まさか、その老害って・・・」
副官的立場である情報局隊員である夏目尚康二佐の呟きに宗方はニヤリと笑った。
「ああ、あの3提督といまだ自分たちが導き手だと勘違いしている脳髄だけの連中とその取り巻きだよ。」
その答えにやっぱりという表情をする夏目、それを尻目にベイツはうめいた。
「ああ、安心しておけこの部屋は情報局の連中でしっかりと消毒している」
同じく部下であるカール・ライカー一佐は対した事ないように言う、ライカー自身も指揮する立場として
管理局内で5本の指に入るほど優秀なのだが、無能と判断した上官に対しては侮蔑を隠さない言動や行動をとる為、
上層部の受け(プライドが高いだけ無能な連中)は凄まじく悪く、本来ならクロノ・ハウラオンと同じく
XL級を指揮できるほど優秀なのだが、ある任務においてクロノの副官としてロストロギア回収を巡って、
クロノに対して馬鹿にした態度を取った為に激怒したクロノと衝突した結果、後方で冷や飯を食い続けている。
 そして部屋をノックする音がする、斎藤中将直属の部下である佐藤大輔一佐だ、それを待ち望んだ
ように出迎える宗方そして佐藤はソファに腰をおろすと葉巻に火をつけると慇懃無礼に切り出した。
「やはり、あの老害連中とその取り巻きを潰さなければ犠牲は大きくなるだけ、例え6課が成立してもね…
 まぁそれを解決する手はずはついてますが」
佐藤はパネルを操作するとある映像を写す、ジェイル・スカエリッティと呼ばれる男の映像と経歴、そして現状についてだった。
「ああ、あの無限の欲望か…」
「どうやらあいつは謀反を企んでいるそうだ、すでに本部に彼の手駒が紛れ込んでいる、それを知らずに本部の馬鹿共はつるんでいる」
「だが、改革の為には丁度いい、実にいい展開だ」
宗方は悪びれもせずに言う。
「頑固な連中を分からせるには血を流す必要がある、下っ端だけではなく、自分自身の…」
「はん、そうだよ…偽善者共は歴史からも現状からも何も学んでいない、ただ過去の成果にしがみついているだけ」
「歴史的必然だよ、まぁ自浄努力って言うものが必要だな」
そして本題に移る
「すでに情報局は3提督派を除いた連中は味方につけている、それに提督派の連中は少数だ」
「ゲーレン(情報局ナンバー1)とシェルドン(情報局ナンバー2)がこちらについたのは大きいな」
「まぁ彼らの尊敬すべき上官であるカナリス(前総局長)が3提督側勢力に逆らって辺境に飛ばされた挙句に死んでしまったからな」
「キーの一つである情報局はすでに味方についた、次は実働部隊だな」
「オメガはいつでも動けるようにしてある、そして軍属、特殊警察部隊出向者の各世界からの引き抜きを始めて、彼らに装備すべき武器の確保も完了しつつある、問題は、そうですな恐らく投入すると予測される遺船…
まぁヴォルケンクラッツァーやヴォルフィードに比べればたいしたことないですがね」
「…ヴォルケンクラッツァーはすでに沈んでいるし、ヴォルフィードの世界はこちらでは手出しできない世界(科学が魔法取り込んだから)だ、
 まぁ予測されるベルカの遺船に対する対抗手段、すでに何を使用するかは判明した、対抗する為子飼いの藤井2佐の船(ドレッドノート)は
 いつでも動けるようにしている、そして軍事技術が発展した管理外世界からツテを利用して対艦ミサイルなどの購入を急がせている」
「流石は、多数の世界に人脈を作り上げているだけはありますな、後は奴らの出方次第と言うことか」
「ああ、そうだ」
「わかりました、統幕にはそう言っておきます」
「機動6課の連中が彼らに対抗している隙を狙って…」
「最高のタイミングで殴りつける、まぁ酷い話ですよいたいけな少女達が聞いたら何ていうか」
「彼女たちは様々な場所で多くの借りを作った、ならそろそろそれらを取り立てても良い頃だ」
「ふむそうですなでは…では、また」
「ああ、斎藤君はよろしく言っといてくれ」
佐藤は宗方の部屋から出て行った、そしてベイツは思った
(チクショウ、どうやら俺もこの陰謀に買わされる1人になったのか)
それを知ったのかライカーは彼の肩に手を乗せる
(畜生!畜生!畜生!こんなどす黒い陰謀に加担するぐらいなら船に乗りたい)
彼は自分の優秀すぎる頭脳を心から呪った、それを尻目に夏目は繰り出した。
「中将、クラナガンの事ですが…どうやら彼は例の事を掴んだそうです」
「ああ、市川のことか…やめておけ彼に対して下手な真似は避けた方がいい、
 でないとこちらが大変な目に会うからな、第一今我々の手もとにある実働部隊は全員彼の教え子だぞ、
 沼田はともかく伊達や田宮相手ではどうにもならん」
それに沈黙する夏目、そして宗方は悪魔と契約したような笑みを浮かべ呟いた
「さて、御手並み拝見といきましょうか少女達よ、精々足掻いてくれたまえ」

    リリカルなのはストライカーズ エピソード
           「黄色の悪魔 2」

―――リッチェンス邸
 市川は表門の前にたった。そこには見張り番と思われる若者が立っていた。若者はたずねた。
「何か用か?」
「この大きな屋敷の持ち主に面会したい」
若者の顔が赤くなった。市川は安心した。脳や顔面に血が集まっている人間の攻撃は鈍いからだった。
「それだけじゃ通せないね」
「この大きな屋敷にわたしの家族が世話になっているのだ」
「一体誰だ?」
「君ならば、そうだなうかつなことをやっただけで腕の一本を失いかねないような立場の女性だよ」
若者は市川の言葉の意味すら分からなかった。しかし、莫迦にされたことだけは察したらしい。市川に掴みかかろうとした。
市川は彼の尖った顎を僅かに突き上げ、路上に打ち倒した。そして敷地に入り込んだ。
庭の奥まったあたりにかなり大きな温室があることが分かった。
あちらこちらからスーツを着こなした若者や中年たちが飛び出てきた。
市川は彼らを眺め回した。自分を取り囲んでいる男たちの中でも最も格のありそうな1人に言った。
「リッチェンス氏にお会いしたい。私は市川。娘がここで御世話になっているそうだ」

―――邸内
内部は奇妙なつくりになっていた、通路は僅かに身体を斜めにしなければ通り抜けられないような狭さで、
不必要に折れ曲がっていた。この屋敷の主人が誰かの襲撃を恐れ続けている証明だった。その誰かとは
自分の職場だろうと市川は判断した。市川が通されたのは16畳ほども有りそうな応接室だった、
そこは冷房がしっかりと働いておりひんやりとしていた。ソファに腰をおろした市川は室内を見回した。
内装は極めて豪華であり、金を用いた装飾品や彫像があちこちに置かれていた。この部屋の飾りつけにかかった金だけで
自分の家の土地が4つほども買えそうだった、彼は好みでない豪華さの中で30分待たされた。
 そして分厚い扉が開いた。最初に入ってきた男は庭で市川が話し掛けた男だった。リンデマンという名前で、
口元から微笑が消えることはないが、ふくらんだ印象のある瞼の陰に光る目には墓石のような冷たさがあった。
続いて何かを記憶する必要が認められない筋肉が発達しただけの男が二人入室し、そして主人が入室した、
仕立ての良いダークスーツを着ている。リッチェンスは市川の対面に置かれた一人がけのソファに腰をおろすと
天然木の形状を利用したテーブルに両手をつき、深々と頭をさげた。
深みのある声だった。市川よりもさわやかな声だと言ってよかった。リッチェンスは顔を上げ市川と視線をあわせる。
ほっそりとした印象の男だった。額は高く、知性すら感じさせるひとみを持っている、しかし、そこには
同時に常識で推し量れないものも存在していた。
「こちらこそ娘を預かってくれて感謝している」
「御預かりしているわけでは有りません、娘さんが自分の意思で私の元へとやってきたのです」
「貴方の見解はそうなわけだ」
「見解ではありません、全くの事実です」
「おそらくそうなのだろう、だが、納得できない、せめてのこと、彼女と二人きりで話す事が出来なければ」
「ええ、本来ならそうすべきであると私も思います。親御さんとして当然な判断です」
「ならばこの場合はどうだと?」
「娘さんは貴方にお会いしたくないと言っております。以前に、貴方の女性の友人が訪ねてこられたときも同じでした。
 そして私は彼女の意志を尊重しなければならない、誠に残念でありますが」
「貴方の許しが得られるのならば、一言、二言私から話し掛けてみたい。娘の気持ちも変わるかもしれない」
リッチェンスの背後に立っていた筋肉の塊が一歩踏み出そうとするが、リンデマンが視線を向け彼を押しとどめた。
「御気持ちはよく分かります、しかし、ここは私の家なのです」
リッチェンスは深く頷いて見せた
「成る程…なら私は失礼しよう」
市川は答えた。
「一杯やってゆきませんか」
リッチェンスは言った、彼の視線の先には封の切られていない酒瓶だ、驚いた事に97管理外世界
の高級スコッチ・ウィスキーだった、だがあまり市川は好きな銘柄ではなかった。
「この4年酒を一滴も口にしていない。できる事ならば、健康の為にこのまま禁酒しようかと思っている。
 恐らく無理だろうが。それに何より、私は酒を口にする環境に五月蝿い方なのでな」
「ではお帰りください」
リンデマンは扉を開けて誰かを呼んだ。市川は室外に出た、扉が閉められた。リッチェンスは何か
から解き放たれたように深いため息をついた、もしスーツを取ったらシャツは冷や汗でずぶ濡れと
言ってもよいだろう、クラナガン警察上層部や管理局本部上層部を買収する時に比べ凄まじいほ
どに消耗しきっていた。
「どうしますか?」
リンデマンが尋ねた。
「たいした男だ…流石、あの娘の父親だけのことである」
「だから殺す?」
「そこまでしなくていい」
「あんな奴―――」
先ほど市川を恫喝しようとした筋肉の塊が言った。
リッチェンスは煙草を加えた、表の慈善事業の裏家業である不正時空間密輸で入手した
ボロワーズだった、リンデマンが金色のライターを差し出して火をつけた。
「その莫迦を壁に立たせろ…左腕を水平にしてな」
リンデマンが顎を動かした。もう1人の筋肉の塊が片割れを壁に押し付けた。リンデマンが左腕を掴み、それをまっすぐに伸ばす。
リッチェンスは立ち上がった。
「リンデマン、最近若い者の扱いが甘すぎるんじゃないのか?」
「申し訳ありません」
「その通りだよ。まさか俺の下に、本当の男を見ても敬意を抱けない奴がいるなんて想像もしていなかった」
リッチェンスは壁に押し付けられた男の顔をみつめた。
「俺の顔を見ろ」
怯えた瞳が彼に向けられた。
「あの女の父親は、以前下らない正義感でこちらの事業を妨害しようとして、俺を逮捕しようとして捕まった挙句に
 『親がいない妹がいるんだ、許してくれ!』とほざいたが、体重の倍にさせる程銃弾を撃ち込んできた・・・
 確かランスターと言ったな、その他の屑連中と違う本物の兵士だ。いいか、俺も管理局でいたことがある。
 貴様より若い頃にな。その時もあんな上官がいた。有能で、慈愛に溢れ、知性と教養を持っている。
 勇気については口にするまでもない。まさに理想の管理局の職員、醜の御盾なるべく生まれたような男だった。
 そいつをすべて合わせると何になるか分かるか、オイ!どんな男が出来上がるか想像がつくか?」
怯えた男は蒼白くなった顔を横に振った。
「悪魔だ…あのエースオブエースと呼ばれこちらの同業者では悪魔と呼ばれているあの高町なのはという
 女と比べ物にならない本当の悪魔だ」
リッチェンスは言った。
「地獄の門番にこそ相応しい勇気としぶとさを持った悪魔だ。たしかに奴は管理局に雇われた狗かもしれない。
 しかし、魂まで支配されているわけじゃない。奴は何処までも自分自身だ。自分にとって最も大事な何かを守る為ならば、
 管理局本部・・・いや本局にでもアルカンシェルをぶち込むような奴だ、ええ?わかるか?どうなんだ?
 お前が莫迦な脅しをかけようとした男はそんな怪物なんだぞ」
リッチェンスは男の懐から銃を取り出し装弾しているか確認する。そして彼は再び男に言った。
「俺の顔を見ろ!分かっているな?お前があの男とは比べ物にならない屑だということは?
 だが、その屑でも責任と言う言葉の意味を知っているだろう」
リッチェンスは壁に押し付けられた男の左手に銃を突きつけた、そして引き金を引く、銃声、絶叫、
壁に飛び散る血飛沫、筋肉の固まりの左手小指の第1関節から先がなくなっていた。
「リンデマン」
リッチェンスは振り向いて言った。
「あの男に警告を与えてやれ、決して殺すな。あれは、尊敬出来る男だ。むしろ俺はあいつのことが好きだよ」
「すぐにですか?」
「当然だ」
「分かりました」
リンデマンは部屋から飛び出した。リッチェンスは相棒を壁に押し付けている男に言った。
「後5分そのまま立たせていろ。そいつの身体からいくらかでも毒気が抜けたら、医者を呼んでやれ」
リッチェンスは上着のポケットから札束を取り出し、テーブルへ放り投げた。
「医者にはこれで払え、残ったら二人で女でも買いにゆけ、お前たちの毒気は血の中にだけ有る訳でもあるまい」
リッチェンスは男の傷口にタバコを押し付けて火を消した。再び屋敷に悲鳴が響き渡った

―――リッチェンス邸近く
市川は屋敷を出た。外は暗かった。商店はちらほらあったが繁華街から離れた場所なのでネオンや
街頭の数は少ない、そして尾行にすぐ気づいた。市川はその種の経験も豊富に持っている。彼をつ
けているのは路上に男が二人、そして車が一台だった。市川はそれを一瞥するとゲイズから貰った
葉巻を取り出す、驚いた事に97管理外世界にあるハバナの葉巻だ、恐らく別の密輸事件で押収し
たものらしい、SAS時代ですら滅多に吸えなかった高級葉巻に火をつけ辺りを見回す、尾行こそ続
いていたが、行動を起こす気配は見られない、市川は流れタクシーを止め乗り込んだ、そしてタク
シーが動き出し、スピードに乗った時である、尾行していた車から銃型デバイスの銃口が顔を見せ
タクシーのタイヤを撃ち抜いた。そしてタクシーは回転しながら柱にぶつかりL字に折れ曲がった。

――――本部・メディカルルーム個室
 市川はメディカルルームで意識を回復した。視界が妙だった。その視界にオーリスが入った。市川は、やぁ、と言った。
オーリスは懸命に涙を抑えようとした後で、感情の抵抗を放棄し、ああ、あなた、ああ、あなたと二度呟くと彼に縋りついた。
市川はこの20時間昏睡状態に陥っていたのだった。そしてオーリスはさらに10分間を自分に為に消費した後で医者を呼び、
そして自分のあるべき仕事の為に名残惜しそうに退室した。
 そして医者と共に八神はやてと白衣を着た金髪の女性が入室したことにより市川はここが本部のメディカルルームだとわかった、そして医者は言った。
「貴方は幸運でした、本来ならあの事故の際、飛び込んだ異物で水晶体が完全に破壊されましたが、その御隣にいる女性が丁度本部にいた為に
 保持スキルである程度修復できました」
そして金髪の女性は市川にあいさつをした
「シャマルと申します、貴方の事ははやてちゃ…じゃなくて八神隊長から貴方のことはよく聞かされています」
市川は目を修復してくれたことに感謝した、がシャマルは続ける
「ですが、完全というわけではありません、今後も何度か私の術で少しずつ治療してもらう必要が
 あります、その間できるだけ目に何か起きないように眼帯をして頂きたいのですが」
市川は内心何かをわずかな繭の動きだけで表現した。
「眼帯は黒がいいな、ほらよく映画で海賊が好んでつけているような」
そしてシャマルはクスリと笑うとはいそうしますと言って退出した、それに習うように医者も退出
した。部屋には市川とはやてだけが残された。
「礼を言う」
「ええって、困った時は御互い様や!それに市川さんには管理局に入局した時やそれ以外にも色々御世話になってんで、そのお礼をいうわけです」
「そうか…一つ聞いてもいいか」
「何でしょうか?」
「何故私を君の構想した機動第6課に向い入れようとした?少なくとも私の悪名は知っているはずだが、
 少なくとも君たちにとって相応しくないと思えるが?」
管理局で密かに市川につけられている仇名それは「子供殺し」、SAS時代の、IRAのとりわけ過激
でしられる強硬派を制圧する時に、偶然本部にいたIRAの少女を殺したことだ。だがそれは(SAS
でも本部でも)非難される事はなかった、銃を持ってこちらに撃ちかけられたら誰でも撃ち返す・・・
当然の話だ、それ以外にも彼は任務において支障をきたす存在に一切の情けは与えなかった、一部
の人たちはそのことで(他色々)で市川を嫌っていた奴らは(クロノも含む)『子供殺し』の名をつけていた。
「確かにそう呼ばれていますけど、それは関係ありません、理由として…」
はやては6課のメンバー表(仮)のリストを見せる、市川は一瞬にしてその欠点を見つけた
「成る程打撃としては優秀だが…」
「ええ、市川さんも分かっていると思いますが」
「そうだな欠点として
 1、隊長や隊員を抑えるもしくは補佐するポストがいない(参謀や幕僚がいない)
 2、バックサポートが少なすぎる(人がいないから仕方ないけど)
 後者は君のコネに訴えれば何とかなる、問題は2だな、君たちの部隊はたしかに実戦経験者を主体に構成されて打撃力はいいが
 …前衛が揃って命令違反の常習者、そしてお前自身も・・・」
「ええ、それは分かっています」
はやては隊の欠点と自分の欠点を分かっていた、前者は先も述べたが命令違反の常習しかも問題は彼女たちがそれでいいと思っていることだ
(自分も言えた義理ではないが)緊急の際に部下が思い思いの行動を取られると作戦に齟齬が起きてそのままパーになる可能性が高いのだ。
 そして後者ははやても感じていただろう、そう人を失う恐れだった。確かにある程度克服したとはいえ未だに父や母が事故で死んだ影響は大きい、
その例がかつてヴォルケンリッターがグレアム(と裏で宗方)の陰謀で闇の書に吸収されてしまったとき自分が暴走してしまったこと、
そして高町なのはが重傷を負って生死の境を彷徨った時に相当取り乱してしまい医者に詰め寄ったこと。それらを踏まえて市川は言う。
「指揮官と言うのは、時に非情にならなければならない。時には部下を切り捨て、時には部下に対して死んで来いと言う必要もある…私もそんな判断をしたことがある」
それに驚くはやて、上には悪名が轟く市川だが、下や前線部隊からの評判は極めて高い、何故なら彼の下で戦えば死んでも必ずつれて帰るし、
何より負傷した部下を自ら背負って帰還する例もあるからだ、それを知っているからこそはやては驚いた。
「切り捨てた部下の家族から何か言われなかったのですか?」
「ああ、言われたよ『何であんただけ生きて帰って来た!』『父さんを帰せ!』と…罵声を…」
「後悔はしなかったのですか?」
「した、何度もした…それに伴う悪夢も見続けた。だからこそ次はどうすべきか、部下を不用意に切り捨てない為にどうするか、
 考えなければならない、悔やんだまま次の作戦にそれを持ち出してさらに部下が死んだら話にならない、頭を切り替えることも大事だ」
「強いのですね…」
はやてはとても自分では出来ない感じで市川に言った。
「強いのどうのこうではない、それが部隊を預かる指揮官して当然の責務であり義務だ、君が思っている以上に指揮官というのは厳しい…」
君にそれが勤まるのか?と市川はそう言う視線ではやてを見る。
「指揮官は助からないと判断した部下も処断しなければならない・・・現にSAS時代にいざしらず他の方面で何回か瀕死の部下にグデークラ(慈悲の一撃)
 を加えたこともある、君に人を殺せるのか?大事な者の命を失うことが許容できるか?」
それが出来るのか?という視線ではやてを見る、はやては何も言い返せなかった。『何とかなる・・・』
彼女はクロノやカリムに対して笑顔で言った言葉を市川に対してそうは言えなかった、大体世の中
100%という言葉は存在しない、そしてそう言えばたちまち「お前のような奴に指揮官が勤まる
か!」と首をへし折られるだろう。そして市川ははやてに大して最も言って欲しくない一言を言う。
「おまえは指揮官に向かない、優しすぎる、確かにリストで見た君たちの知り合いなら君を知っているから許してくれるだろう、
 いずれ君の知らない人が入ったら?優しさだけでは部下はついてこない、時には指揮官としての厳しさ、非情さがない無理だ。」
淡々とした感じで市川は言う、はやては沈鬱な顔をして俯く、そしてはやては何かを決心したように言う。
「確かに市川さんの言う通り、私はまだまだひよっこです・・・でも私は、この6課成立の為にすべてをかけています、だからこそ
 貴方の言う通りにその優しさを捨てる覚悟はあります」
それにほうと頷く市川、はやての覚悟に曇りも何もないことで彼女が心からそう思っている、だが…市川は思う、本当に出来るのか?彼女に?
「ひょっとしてこの事件で人を殺してしまうこともあるかもしれん、大事な人を見捨てるかもしれへん…だけどそれも心を鬼にして受け入れます」
はやてはきっぱりと言い放った、少なくともこの場に見る限りは信じられる、そういう回答を市川は得た。
「わかった、今は君を信じよう…ああ、すまないな話が随分と脱線した、本題を言ってくれ」
「ええ、貴方を副隊長にスカウトしたい理由、1つは貴方が様々な戦闘におけるベテランであること、確かにヴォルケンリッターは貴方以上に戦闘に対してはベテランですが、
 私の意見に是として心情的に答えてしまうので、否と言い切れるベテランであること、戦況を読める目があること。2つめは万が一動揺した私や隊員達を支える補佐役として
 適任であること、知っていると思いますが戦闘部隊は命令違反の常習者です…場合によっては私もそうなるかもしれません、それを抑える役目としてやってもらいたいのです」
「つまりは女房役と言うわけか」
「はい、そうです」
ああ、それもいいかもしれない、久方ぶりに若手の面倒を見るのも正直悪くはない。
「いいだろう」
「本当ですか?」
はやては喜びの声を上げる。
「仮に私を入隊させて大丈夫なのか?君のバックサポートについている友達の兄であるクロノ提督は私の事を蛇蠍の様に嫌っているし、
 上層部でも受けの悪い『傷持ち』だ、君の経歴に傷がつくのじゃないね?」
「そんな経歴なんて知ったこっちゃありません、それにクロノ提督は若いのにコチコチの爺ちゃんみたいに頑固すぎるんや、
 文句はつけさせません、安心してください。」
「ああ、分かったよだが決まったわけではない、私の一存で決められることではない、陸戦課がどう動くかできまるからな」
「はいわかりました」
「君も仕事があるだろ、早くいきたまえ」
「はい、了解しました」
はやては市川に敬礼をする、そして市川も敬礼をするとはやての頭を撫でる。
「だ、だからうちは子供ちゃいます!」
はやては抗議する、そして市川は罰の悪い笑みを浮かべる、だがそれにはやては不快感を覚えなか
った、父と子と並に年が離れ、新入り時代の自分を案じて世話を焼いてくれた市川の姿をはやては
かつての自分を可愛がってくれて、大きな手で自分の頭を撫でてくれた父を重ねていたかもしれな
かった、そいて病室から出て行ったはやてに市川は思った、本人の覚悟はよくわかった…だが主戦
力の2人(なのはとフェイト)は大丈夫なのか?あいつらああいったこと一番嫌っていると聞いたぞ。

―――通路
八神はやてと高町なのはとフェイト・ハウラオンは歩いていた、これから会議において機動6課成
立における役割を各課に発表する為だ、本来なら緊張ものであったが、はやてはどこか嬉しそうな
顔をしていた。
「あれ?はやてちゃん、何かうれしそうだね」
通路で一緒に歩いているなのはは言う。
「ええ、そうや」
「何かあったの?」
疑問そうにフェイトも問う
「それは6課出来てからのお楽しみや」
疑問そうな顔を浮かべる二人だった、それに対し背後にいたシャマルはクスリと笑った、彼女はその理由を知っているからだ。

―――メディカルルーム
 医者が断言したとおりに身体は順調に回復していった、そしてシャマルの術によって壊された左
目も少しずつでもあるが回復していった(でも正直クラールヴィントで目玉いじくられるのはヒヤ
ヒヤものだが)、そして病室には連日彼の同僚や、部下であったものがおとずれ、彼と会話をして出
て行った、そしてゲイズ中将も面会に着た。
「やはり君はあの八神二佐の機動6課に配属されることを希望するのか?」
「ええ、ずっとは恐らく無理でしょうが、たまに女房役と言う役も悪くはないと思います」
「ふむ・・・」
ゲイズは難しい顔をする、市川はゲイズが八神二佐の事を嫌っているのは知っていたが、それと別
のような顔をしているように見えた。
「確かに、彼女達の部隊はあまりにも若すぎる、そして君みたいな人材が必要なのは承知だ…だが…」
ゲイズは珍しく歯切れが悪かった、そう、もし市川が戦闘機人計画の事を知ってしまったら?そし
て…その場合上層部に彼の始末を言い渡されたら?いくら彼とは言え殺されてしまうだろう、また
失うのか?自分とゼストと3人で共に戦場を駆け抜けた大切な戦友を?
「君が八神二佐と知り合いなのは分かっている・・・だが・・・」
「部署が違う?そう言うことですか?」
ずばり指摘された、海や空に何かしらの恨み(まぁ優秀な連中が引き抜かれればなぁ)をもっているゲイズに比べて、
市川は全くに意に介さずに必要な時は平然と助力を得る。
「中将、貴方の気持ちも分かります、ですが部署同士が対立して一体何の得がありますか?喜ぶのはこちらを疎ましく思っている連中です、
 こっちが冷や飯ばっかり食っているというなら皆で食べればいいのです」
「…そうだな」
こいつはそうだな、上官であろうと忌憚なく意見を吐く、だがこのままでは。
「分かった、人事に取り計らっておくように要請する」
「ありがとうございます」
「だが、それが通らなかったら諦めてくれないか?」
「…わかりました」
「そして、君の娘のことなのだが」
「ええ、そのおかげで現在こうなっています」
「リッチェンスは狡猾な男だ、裏で密輸業に勤しんでいるが表では慈善活動を行っている上に、警察やこちらに利益の一部を回している」
「まぁ、つまりは」
「この管理局や警察に金の持つ魅力に心を奪われた下衆がいるということだ」
ゲイズは吐き捨てた、少なくともミッドチルダを愛している彼にとって許しがたい行為だろう。
「しかも奴は狡猾だ、金はきっちり消毒している…まぁそうでなければクラナガン近郊に堂々と屋敷を建てられるわけがないがな、
 ああ安心しておけ、八神二佐やその一派にはこの事はまだ知られていないし、尻尾もつかませていない」
これに市川は安堵した、おそらく彼女のことだ、必要以上に自分を気遣う為といらぬ正義感で部下
を引き連れてリッチェンス邸に堂々と殴りこんで事態を悪化するのは自明の理だ。
「ありがとうございます」
市川は礼を言う、そして私は仕事があるからとゲイズは病室から出て行った、そしてゲイズは軽く
うめく、彼は本気だ、少なくとも娘を助けるならば悪魔に魂を売る男だ、だが彼は陸課において
要不可欠な人材だ、これ以上戦友を失わせる訳にはいかない、そして彼のことを好いている愛娘を
悲しませることは…ゲイズは歯噛みした、彼を止める手段がないからだ
 友人、知人から贈り物が届いた。その中に紫色を帯びた花を束ねたものがあった。花束について
いたカードはリッチェンスと市川の娘の連名になっていた。市川はそれを花瓶へ生けて欲しいとオ
ーリスに頼んだ、贈り物にどんな意味が有るのかオーリスはわからなかった。珍しいですね、オー
リスは言った。その花はクリスマスローズの亜種だと、市川は問うた、なら負傷した父親にわざわ
ざ送りつけるような花なのか?オーリスは考え込んだ
「たしか、根にはステロイドが含まれており、強心剤と使用されたこともあるはずです」
「その花に根はついていない、それに、あの娘は貴方ほど学術的な姿勢で植物を好んでいたわけではない。
 意味があるとするならば、何か、もっと素直なものだと思う」
「調べてみます」
 今晩も泊り込みますとオーリスは続けた。いや家に帰って欲しいと市川は言った。悲しそうな顔をしたオーリスに笑みを向け、
いまだ、激しい運動を禁じられている状態で、貴方と夜を過ごすのはかなり辛いことなのだと言った。オーリスの笑顔は処女のようだった。

そして面会時間終盤間際、誰もいない事を狙ってフレイザーはやってきた。
「私を病院に運んでくれたのは君だと押しられた。感謝している」
「まさか、連中があれほど荒っぽい手に出るとは予想できなくて」
「そうなのか?」
「貴方がある程度の役割を果たしてくれるだろうとは期待していました、科学事件の触媒のように」
「恋と戦争は手段を選んでいけないと言うからな。想像するに、警察活動も、まぁ、そんなものだろう」
「なんとも私的な表現ですね」
「何、何年も前に娘が教えてくれたのだ」
「その娘さんについてですが」
「話したまえ」
「彼女が、望んでリッチェンスの下へ飛び込んだことは事実のようです。たしかにそうですが」
「義務に忠実な警察官として何か言いたいわけかね?」
「私はリッチェンスに対する意識はあくまで公的なものですが、貴方とリッチェンスの関係は全く個人的なものです。一人の女性を巡る愛情の問題と言ってもよい、リッチェンスがいきなり荒技を用いたのもそのためでしょう、本来あの男は、どんな場面でも慎重な実業家なのです」
「私が娘に対して抱いている感情は、畜生道に値するものではないと思うが」
「貴方はそうかもしれません。貴方にはそれだけの強さがある。素晴らしい女性の心を手に入れてもいる」
「娘は違うと?」
「私の見るところ、父親の存在を大きく認識しすぎている女性には二種類の典型があります」
「君は心理学はやるのか」
「優秀な警官は皆心理学者ですよ」
「実践心理学のご高説を承ろう」
「かんたんなことです、意識の表層で男を求めすぎているか、その逆か、それだけですよ」
「単純化しすぎに聞こえる」
「そうでもありません、意識の奥では、全く反対の願望を抱いているのですから、男好きの女は男と長く付き合えない、男嫌いの女はたまたま掴んだ男を一生はなさない。まぁそんな所です。
 医者や学者ならばまた別の表現をするでしょうが、私の仕事では之で十分です。もし分からなければ専門家に尋ねたらよいのですから」
「で、私の娘はどちらに当てはまるのかと言うのだ」
「後者でしょうね。男性としての魅力に溢れた父親を持った娘の悲劇です。表層的には父親ほどの男などいないと信じている。しかし内心ではまた別の感情が有る。
 そしてたまたまあの男に出会った。部分的に父親のレベルに達し、他の部分でまた別の願望、あまりに完璧な父親に対する秘めたる反感を充足してくれる相手に。言うなれば、
 リッチェンスは彼女にとって理想の男性であったわけです。リッチェンスへ頼ることによって自分の内心にいた貴方を殺そうとした」
「必然だと言いたいわけか」
「冷酷に聞こえたならば申し訳有りません。しかし、貴方の娘さんは私にとって完全な三人称認識の対象ですから。警官と言う職業はそのような思考法を強制されます」
「その点については理解できる。職業病はどんな仕事においても発生しうる」
「少なくとも、娘さんはあの戦争の被害者、その一人であります。彼女のこんにちはは貴方が行方不明になった事から始まったのですから」
「不愉快な男なのかもしれないな、君は」
「不愉快なのは私ではなく、私の仕事ですよ。之でも近所では善人で通っているのですよ」
「つまりこの世は並べて不愉快さに満ちているわけだ」
「ええ、全くもって不愉快な現実です。この点については貴方の方が詳しいでしょう」
出来る事ならば、退院後、暫くクラナガンから離れてくださいとフレイザーは言った、私は本気で
リッチェンスを片付けたいと思っていますが、この町で個人的な戦争が起きるのどうも。
考えてみるよ、と市川は答えた。そして数日後オーリスが、彼女の几帳面さを裏付けるように学究的な態度で記されたクリスマスローズについてのあれこれがあった。
市川は三度読み返した。そして、娘が興味を持つだろう部分を見つけ出し、順位をつけ、判定した。人を狂気から回復させると信じられた霊薬の原料。
エデンから放逐された最初の男女が免罪符として持ち出したもの。花言葉は「我を不安より解き放ちたまえ」
退院当日、シャマルは市川が注文したとおりの眼帯を持って現れた、そして左目の水晶体も治り視力も徐々に戻っているが出来るだけ左目に衝撃を与えないで下さいと言った、
それに礼を言い、眼帯をつけた市川にはやては男ぶりあがったなぁと言った市川はありがとうと答え内心で、まさに黄色い悪魔そのものだと呟いた。
 本部の前にはフレイザーが数人の部下と共に彼を待っていた。町を離れてくださいとフレイザーは言った、そして市川はかつての妻の墓参りをした後にエルセア辺りで左目を完全に直す為
にゆっくりしますよと…そして自宅で準備を行い(オーリスも行きたがったが、6課成立やレリック事件で振り回されておりとても行ける状態ではなかった)、列車に乗り込んだ、
途中でフレイザーが派遣した彼の護衛兼監視役をトイレにいくふりをして、あっと言う間に気絶させた。そして駅員に彼は疲れているのか良く眠っている置き引きに会わない様に注意して貰いたいと伝えた。
彼が降り立ったのはかなり大きな町だった。市川は駅で中古車を扱う店の場所を確かめ、そこへ向かった、店についた市川は受付の女性に店長を呼んでもらいたいといった。事務室から出てきたのはいかのも
苦労人といった風情の五〇絡みの男性だった、局にいたことがあるなと市川は見当をつけた。
 すぐに持ち帰ることの可能な車はあるだろうかと彼は店長に尋ねた。店長は怪訝そうな表情を浮かべた。市川は身分証を取り出し、彼はそれを見せた。局務で必要なのだと市川は言った。
店長は背筋を伸ばし、二佐、お貸し出来る車ならばありますと言った。市川は店長へ強引に金を押し付けた。彼には4年間手付かずだった俸給があった、そして市川は目立つことを避けた色の車で、
彼が責任を果たさなければならない場所、彼自身の戦場へと戻っていった。

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最終更新:2010年04月09日 21:16