リリカル遊戯王GX 第九話 学園分裂!? 腹ぺこデュエル!

「レイちゃんは大丈夫?」

なのはの問いに十代は頷いて応え、なのははほっと胸をなでおろす。
昔入院していた時の記憶が頼りの、かなり危ない手つきでの治療だったがうまくいったようだ。

「そっちも、スバル達は平気なのか?」
「うん、言うなれば極端に疲労してるってだけだからね。このまま安静にしてれば問題ないよ……ただ」

なのはの表情が暗くなる。

「フェイトちゃんとエリオは、今のままじゃ戻せそうにない。定期的にバインドを掛け直して暴れないようにするしかないね」
「……そっか」

そんななのはになんと言葉をかけるべきかわからず、十代は小さく頷いた。
状況はあまりいいとは言えなかった。
突然一部の生徒がゾンビ化し、爆発的な勢いで増殖していった、万丈目や翔といった十代と縁深く、頼りになるメンバーまでもがだ。
更にその調査に出たフェイト・エリオの二人までもゾンビ化してしまった、今は拘束しているが、直す手段はない。
レイの救出には成功したものの保健室は倒壊、医療の知識がある鮎川もゾンビ化、アモンやジムもデスベルトによって疲労している、更にスターズの二人も疲労困憊・魔力切れで行動不能……
……訂正しよう、状況は限りなく悪い。
最も――フェイトとエリオに関しては手段が無いわけではない。
罠カード「洗脳解除」、全てのモンスターのコントロールを元の持ち主に戻すカードである。
他のゾンビ生徒にならともかく、精霊として存在している二人ならばこの効果で元に戻る可能性が高い、
ただ、元々使いどころの難しいカードでもあることから、現在無事な人達の持っているカードにはなかったのだ。

「……そういえば」
「何だ?」
「万丈目君って、食糧庫の見張りをしてんだよね?」
「そうだけど……あ!?」

何を言いたいのかに気づき、十代は愕然とする。
万丈目がゾンビになった……それはつまり、食糧庫もゾンビの集団のど真ん中になってしまったということだ。
更に悪いことに、なのは達の食糧も食糧庫に入れてしまっている。

「まずいぜ……これじゃ一週間どころか、三日も持たない」
「でも、どうしよう……対策の立てようが……」

ただでさえ最低限の食事によってストレスはかなり溜まってしまっている、
それさえ得られないなどということがわかったら――想像したくもない。

「とにかく、みんなには隠しておかないと……って、どっちにしろ飯の時間になったらバレちまう!」
「トメさんが少し食材を運んでたはずだから、すぐにどうなるってことはないだろうけど……」
「少しって、どれくらいだ?」

十代の問いに記憶を掘り起こし――

「多く見積もっても、一日分……」

重い口調で呟いた……



マルタンは図書室に作られた玉座で上機嫌で微笑んでいた。
手ゴマであるゾンビ生徒はかなりの数となり、残った生徒たちも心の闇を増幅させている。

「もうすぐ……もう少しだよ、十代……」



「……十代……?」
「レイ! 気がついたか!」

目を覚ましたレイに十代とヨハンは喜ぶが、レイは逆に顔を俯かせてしまう。

「私のせいで……マルっちと鮎川先生が……」
「何言ってんだよ! レイのせいじゃない!」
「そうだ、この訳の分からない世界のせいだ。あまり自分を責めるな」
「うん……っ? あは、あはははは! ちょっ、やめ――あはは!」
「れ、レイ?」

突然笑い出したレイに二人は困惑し――不自然に盛り上がっているシーツをめくり上げる。
いつの間に入り込んでいたのか、レイの腹部でじゃれ合っていたヨハンの精霊、ルビーとはねクリボーは気まずそうに十代達を見上げていた。

「ルビー……」
「はねクリボー、何やってんだよ」
「もう……!」

ああくそ、俺と代わりやがれ淫獣共がっ


「近藤君……鈴木さん……この子も、あの子もゾンビになっちゃったノーネ……」

残っている生徒たちの点呼を取りながら、クロノスとナポレオンは肩を落とす。
頼りないが、彼らとてこのアカデミアの教師なのだ、生徒たちを想う気持ちに嘘はない。

「それに、加納マルタン君は相変わらず行方不明……」
「っ!」

ぽつりと呟いたクロノスの言葉にナポレオンはわずかに反応する。
拳を強く握りしめ、マルタンの無事を強く祈り続けていた……



スバルとティアナは眠り続けている。
剣山や明日香、なのはがたまに見に来る以外は、キャロが付きっきりで看病にあたっている。

「……ごめんなさい」

思わず謝罪の言葉がこぼれてしまう。
二人が危険な状況に陥っていることはわかっていたはずだ、それでも自分は明日香達を優先した、
なのはもここに辿りついた時の二人もその判断は正しいと言ってくれたが、フリードだけでなく自分も向かっていればここまで傷つけることはなかったかもしれないのだ。
現に剣山が助けに行かなければゾンビ達に囲まれ、彼らの仲間入りをしていた可能性が高い。
自分を責めるキャロの頭をティアナが撫でる。

「ティアナさん……? いつの間に……」
「ついさっきよ。まったく、そんな顔しないの、キャロがフリードを送ってくれたおかげで助かったんだから」
「でも……」
「あのね、明日香さん達より私たちを優先してたら、それこそキャロの事を軽蔑してたわよ?
 キャロの判断は正しかった、あの状況では間違いなくベストな選択だったわ、それはなのはさんにも言われたでしょ?」

ティアナの言葉にも、キャロは俯いたまま顔をあげようとしない。
――まったく、私の周りにいる人は、どうしてこうも優しすぎる人ばっかりなのかしらね。

「キャロ、いい?」
「え?」
「あんたが今考えなきゃいけないのは、私たちのことでも、アカデミアのことでもないわ」
「え……と、それって……」
「そんなのは他の人に任せなさい、あんたは今、一番心配していることを無理矢理隠してる」

その言葉にキャロはハッと顔を上げる。

「私は二人を……エリオ君とフェイトさんを、救いたい……!」
「そう……なら、今やらないことは何? 私たちの看病?」
「いえ……ごめんなさいティアナさん、スバルさん、私、みんなのところに行ってきます!」

キャロが去っていき、ティアナは一つ息を吐いて――すぐ側から視線を感じて体を竦ませる。

「ふふふ……ティア、やっさしー」
「す、スバル……! あんた、目を覚ましてたならそう言いなさいよ!?」
「いやー、だって丁度ティアがキャロの事を諭してたからさー、何だか入りづらくって。うーん、流石ティア、いいこと言うよね~」
「――っ! 動けるようになったら覚えておきなさいよ……!」


「みんな、食事の時間だよー!」

トメさんの声に、体育館にいた全員が反応する。
例え最小限だろうが、食事というものはそれだけで人の心を安らげてくれるものだ。
……まあ、いくつもある次元世界の中には、一口食べただけで卒倒するような料理を作る義妹から逃れるため、日夜神経をすり減らしている家庭なんかもあるだろうが。
そんな不幸な特例はともかくとして、用意された料理を見て生徒たちは動きを止める。

「何だ、これ?」
「……羊羹?」
「ごめんね……材料がなくて、スープを薄めるしかないんだよ……少しでも食感をと思って、ゼリーにしてみたんだけどさ」

十代やなのはが止める間もなく、
トメさんは食糧の絶対的な不足を話してしまう。
二人はパニックになることを覚悟するが――何の騒ぎも起こらないことに気づく。
別に騒いでも仕方がないことに気づいた訳ではない、
ただ、絶望感がパニックになる気力さえをも上回ってしまったのだ。

「みんな……」
「これうまいぜ! トメさん!」
「ヨハン?」

暗い雰囲気に包まれた中、場違いなほどに明るい声で言いながらヨハンはスープゼリーを食べていた。
それを見て、一人二人とスープゼリーへと手を伸ばし、量はともかくとして、その味には満足そうな表情になる。

「流石トメさんだぜ、うまい!」
「ありがとうねぇ、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「ごめんなさい、私たちまで……」

申し訳なさそうに言うなのはへ、トメは首を振る。

「とんでもない! あんたたちは十代君達を守ってくれたんだろう? その上仲間が倒れてるんだ、遠慮なんてするんじゃないよ」
「はい……ありがとうございます」

そう言いながらスープゼリーが三つ乗った皿を持ってなのはは立ち去る、スバル達のところへ持っていくのだろう。
その後姿を見ながら、エリオとフェイトの分を用意してやれなかったことに悔しさを感じる。
ゾンビ化している人間が食事を必要とするかどうかはわからない、だからといって、それを理由に食糧を節約するのは彼女のプライドが許せなかった。

体育館の片隅で、三人の男が話していた。
その三人が最後まで名残惜しそうになのはの持っていった食糧を見ていたことには、誰も気がつかなかった。


――戦いたい。
フェイトとエリオの考えていることはこれだけだった。
二人は体育用具室でバインドを何重にもかけられ閉じ込められている。
バインドを掛け直す手間を考えたら別に閉じ込めなくてもいいのだが――
まあその、なんだ、ソニックフォームで縛られているフェイトを想像してみたら理由が分かってもらえるかもしれない。
半ば力づくでバインドを破ってはいくが、動けるようになる前にバインドを掛け直されてしまう、
――このままでは戦えない、なのは達を仲間にしてあげられない。
埒があかないと判断し、どうやってここから抜け出せるか、二人は思考を巡らせていく――


夜、三人の男が体育館から抜け出していった。
オブライエンが組んだ監視チームの目を?い潜り、ジムや三沢が作ったバリケードの一部を崩して外に出る。
彼らが目指しているのは食糧庫、道中には当然ゾンビが大量にいるのだが――空腹の限界を超えた彼らには、そんなことまで考えていられなかった。
ただひたすらに食糧庫への道を走り続け――

「うわぁ!?」

当然のごとく、ゾンビ達が立ちふさがる。
三人は必死に逃げるが、まるで誘導するかのように現れるゾンビの群れに堪らず側にあった部屋へと飛び込んだ。

「こ、ここは……?」
「図書室、か?」

この三人はほとんど来たことなかったが、大量の本棚を見れば大抵の人間は図書室を思い浮かべるだろう。
更に耳を澄ませてみると、奥の方から何か音が聞こえてくる。

「おい、この音」
「ああ、誰かが何か食ってる!」

音の正体に気づくと、我先にとその音源へ走り出す、
その下へと辿り着き、優雅にステーキを食べているマルタンと目が合った。

「お、お前、加納……?」
「てめぇ、姿を見せないと思ったら、こんなところで一人で呑気にお食事かよ!」

一人が怒りに任せて肉へと手を伸ばすが、その手をマルタンの異形と化した手が掴む。
怯える生徒へ、マルタンは不適に笑い別のステーキが乗った皿を前に出す。

「欲しいかい?」
「あ、ああ……食いてぇ」
「ふふ、いいよ、食べても……だけど、どれだけ食べても君たちが満たされる事はないけどね」
「ど、どういう意味だ!?」

意味ありげに笑うマルタンへと怒鳴りつける……ステーキを食べながらでなければもう少し迫力があったかもしれない。

「君たちの心の闇は、もう僕の手にある……満たされたいなら、このカードの向こうへ行くといい」
「な、何だ……?」
「融合……?」

マルタンの側に一枚のカードが現れ、三人を導くように光だす。
わずかに戸惑いながら、三人はその光へと吸いこまれるように歩を進める。
そして、そのまま――



『やあ、十代』
「この声、マルっち!?」

突然放送で名指しされ戸惑う十代の横で、レイが驚きの声を上げる。

「マルっち、どこにいるの!?」
『マルっち……? その呼び方はやめてもらいたいな、それに、今僕は十代と話しているんだ』
「……俺に何の用だ?」

何か危険な空気を感じ、警戒しながら十代は問いかける。

『別に大したことじゃない、少し取引きをしようと思ってね』
「取引き……?」
『君たちは今、僕が支配している生徒たちによって動きが取れない、特に食糧は残りわずかなんじゃないかな?』
「っ! お前が翔達をあんな風にしたのか!?」
『こちらには有り余る食糧がある、それを提供してもいいよ』

マルタンの言葉に生徒たちが活気づく。
だが、十代達は厳しい顔つきでここにはいないマルタンを睨みつける。

「それで、代わりに何を要求する気なの?」
『変電施設、あそこをこちらに譲ってほしい』
「……? あそこは砂で埋もれて使い物にならないぞ?」
「兄貴、いい条件ザウルス」

意図の読めない取引きに十代やなのは達は警戒を更に強めるが、
他の生徒はとにかく食糧を手に入れるチャンスだと深く考えずに乗り気になってしまっている。

「兄貴、交換しちゃうザウルス」
「……いや、捨てるには惜しい場所だ、まだ復旧させられる可能性もある」
「それに、相手が欲しがってるってことは、そこを使って何かを企んでいるってことでもあるからね」

みんなの意見を聞きながら十代は悩み――口を開く。

「取引きには――応じない!」
「なっ!? ふざけるな十代!」
「食糧が手に入るんだぞ!」

周囲の生徒たちが次々と罵声を浴びせるが、十代は不適な笑みを浮かべて叫ぶ。

「だが、その二つを賭けてデュエルで勝負だ!」
『ふふ、そう言うと思ったよ、十代……表に出るんだ、相手はすでに用意してある』

マルタンに言われ、動けないメンバー以外は全員が外に出る。
……最も、生徒の大半は早く食糧が欲しいからという理由のようだったが。

正門のところにやってくると、見慣れぬ仮面をつけた三体のモンスターがやってくる。

「何だ? あんなモンスター見たことないぜ」
「お、おい、あれ……人間の顔じゃないか!?」

誰かの言葉に全員がモンスターを注目し直し――絶句する。
怒り・笑い・無表情とそれぞれ違う仮面を付けたモンスターだったが、その仮面とは別の位置に、見覚えのある顔が浮かび上がっていた。

「あ、あれは原田君と斎藤君と前田君なノーネ!」
「あの三人、いつの間に……!?」
『ふふふ、彼ら三人とデュエルして、勝ったら食糧をあげるよ』

マルタンの声に十代が前に出ようとするが、ヨハンに止められる。

「お前はまだ鮎川先生とのダメージが抜けてないだろう、俺が行く!」
「あの三人が抜けだしたのは俺の監視体制が甘かったせいだ、俺もやろう」
「バリケードが不十分だったのは俺の責任でもあるからな……OK! 勝負だぜ!」

ヨハン、オブライエン、ジムの三人がそれぞれモンスターの前に立つのを見て、なのはは思考を巡らせる。
はっきり言って、今のなのはに三人を援護する力は無い、
スバルやティアナほどではないにしろエクシードモード、更には非常識な量の魔力球の同時生成など無茶をしすぎた。
更に、デュエル場所をわざわざ指定してきたことも何かが引っ掛かってならなかった、
そんななのはに、キャロが話しかける。

「なのはさん、体育館へ行ってください」
「キャロ?」
「この隙にフェイトさん達の拘束を解かれたら、スバルさん達が危険です」
「っ! だけど、ヨハン君達が……」
「三人なら、大丈夫です……ケリュケイオン、セットアップ!」

強い眼差しで、キャロはフリードと共に三人に近づく。

「三人は、私が援護します!」
「キュルルー!」

続く

十代「こいつら、強い!? ヨハン、耐えてくれ!」
なのは「何なの? とても強い力が動いている気がする……ってナポレオン教頭!? いったいどこへ!?」

次回 リリカル遊戯王GX
 第十話 キャロの決意! 突き抜けろスターズ!

キャロ「これ以上、犠牲者は出させない!」
なのは「どうしても止まってくれないのなら、力づくででも止めてみせる!」

十代「今回の最強カードはこいつだ!」

―ライトニング4 キャロル=ルシエ―
光属性 魔法使い族 星3
攻撃力600 守備力1200
このカードは自分の場に「エリオ」「フェイト」「フリード」と名のついたモンスターがいる場合、その枚数×200ポイント攻撃力がアップする。
このカードの攻撃力を半分にすることで、ターン終了時まで別のモンスター一体の攻撃力を300ポイントアップできる。この効果は1ターンに一度のみ発動可能。

十代「ヨハン達のことを頼むぜ、キャロ!」
なのは「次回もよろしくね♪」

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最終更新:2007年12月20日 07:52