Devil never Strikers
Mission : 03
devil , inspector and sword
仲介という仕事がある。
仲介とは、金次第でどんな危険な依頼でも引き受ける便利屋とその便利屋を必要とする人間を繋ぐ、裏社会の窓口のような物だ。
ある一人の仲介屋がいた。
その仲介屋はまだ若く、つい最近初心者を卒業したばかりだ。
彼は便利屋たちの溜まり場である薄汚れた酒場に入ると一人の男の隣に座り、話しかけた。
「なあダンテ、そろそろ働けよ」
だがダンテの態度はこうだ。
「仕事がねえ」
正確には仕事が無いのではなく、ダンテの気に入った仕事が無いのだ。
だがダンテの言葉を額面通りに受け取った男はダンテに仕事のメモを見せながら声を荒げる。
「そんなこと無いだろ!ホラこれを見ろ!」
現在ダンテはDevil May Cryを開く前のように便利屋をやっていた。
便利屋というのは本来なら自分から仕事をもらいにいかなければならないのだが、実力のある者には仕事のほうから 来る場合もある。
実力だけ見ればダンテの右に出る者はいない、故に彼を指名する依頼は多い。
だがダンテがその依頼に応じる事は少ない。
さっきも言ったように気に入った仕事しかしないからだ。
そしてダンテが気に入る仕事というのは誰にも分からない、まったく法則が無いのだ。
どんなに破格の待遇でも断ることがあり、逆にタダ働き同然の仕事に自分から関わった事もある。
だが仲介屋の男はこう考えた。
その法則さえ見つければ自分はダンテのマネージャーも同然だ、と。
要するにダンテの報酬のおこぼれにあずかろうというわけだ。
しかしダンテに仕事をさせるのはDMDノーコンティニュークリア並に難しい。
「これなんかどうだ?一人倒せばそれで終わりだぞ?」
「興味ねぇ」
「こっちは?危ないが報酬はこの中で一番だ」
「気にいらねぇ」
こんな風にどんな依頼でもたいていの場合は断ってしまうからだ。
本格的に金が無い時はどんな依頼でも受けるのだが今はそれなりに、本当にそれなりに持っているため興味の無い依頼は引き受けない。
それでも彼は諦めずダンテに仕事の一覧を見せる。
いくつもの仕事が書かれているそれを見たダンテは一つの仕事を指差す。
「これだ」
「へ?」
「だからこれだ」
最初は意味が分からず間抜けな声を出すが、すぐに理解する。
その瞬間彼の頭の中に声が聞こえてきた。
『If Devil May Cry's a rocking, don't come a knocking, baby yeah! 』
ダンテが選んだ仕事はホテルアグスタの警備だった。
このホテルでロストロギアを扱うオークションを開催されるのでその警備をする事が仕事だ。
ダンテの警備は前日の夜からオークション終了まで。
いつもの赤いコートでうろつかれてはホテルの品位が疑われる、という理由からダンテは用意された部屋で待機し何かあったらそこに行くといった用心棒のような扱いだった。
ダンテが事務室のような部屋で夕食を食べていると来客があった。
「失礼、管理局の者ですが…」
入ってきたのはシグナムだった。
機動六課にも警備の依頼があったらしく、一緒になる便利屋達に挨拶にきたらしい。今もヴィータを含め何人か警備にあたっているらしい。
「まさかお前が働いているとはな」
「そりゃ働くさ、働かなきゃピザが食えない」
「お前は何も無ければここにいるだけなんだろう?」
「うらやましいか?」
「うらやましいな」
最後の言葉が皮肉からか本心からなのかは誰にも分からない。
そしてシグナムは部屋を出て行き、その後は何事も無く朝になりオークション当日となった。
機動六課の他のフォワードがホテルに到着したのはオークション開始の数時間前だった。
仮眠を取り終えたヴィータが出迎え、それぞれの警備箇所に着く。
ホテル内には何のトラブルも無い。
だがホテルから少しはなれた場所にトラブルの種が来ていた。
画鋲に足と羽が生えたような姿の虫が偵察飛行を終え、主であるルーテシアの指に止まり、自分の意思を伝えた。
それを聞いたルーテシアは隣にいる同行者にそれをそのまま伝える。
「ドクターのおもちゃが近づいてきてるって」
だがそれはこの二人には関係ない。
このまま無関係を決め込もうとしていると通信が入った。
「ごきげんよう、騎士ゼスト、ルーテシア」
「ごきげんよう」
「何のようだ」
突然入ったスカリエッティからの通信に挨拶を返したのはルーテシアだけで、ゼストはお前には関わりたくないといった態度を隠しもしない。
だがスカリエッティはそれを気にせず続ける。ちょっと欲しい物があるから盗ってきてくれないか?と。
「断る。レリックが絡まぬ限り互いに不可侵を守ると決めたはずだ」
「ルーテシアはどうだい?頼まれてくれないか?」
「いいよ」
「優しいなあ、今度ぜひお茶とお菓子でも奢らせてくれ」
ゼストはスカリエッティへの不信感から断ったがルーテシアは簡単に承諾する。
スカリエッティはそのままルーテシアのデバイス、アスクレピオスに情報を送り、通信を切った。
そして今さっき偵察に使った画鋲型の召喚虫をガジェットに向かわせた。
それと同時にアスクレピオスを通して悪魔が話しかけてきた。自分も出してくれ、と。
「うん。いってらっしゃい」
ルーテシアはその言葉に答え、燃盛る炎の力を持った悪魔を転送した。
同時刻、便利屋達の待機所にある男がやって来た。
「ダンテさんですよね?」
「だったら?」
「差し入れです」
サボリの口実のために来た男、アコースが持ってきた差し入れはストロベリーサンデーだった。
「ありがとよ」
もらったストロベリーサンデーを食べ始めるダンテ。
だがのんびり至福の時間を楽しむことは出来なかった。
「聞きたいことがあるのですが」
「食ってからにしろ」
もらった相手にこの態度である。だがアコースに気にした様子は無い。
アコースはダンテにちょっとした興味を持っていたのだ。妹分であるはやてが勧誘した男となればアコースが興味を持つのはなんらおかしい話ではない。
だがアコースの最大の興味はダンテの主義にあった。それを詳しく聞く事が今回の目的だった。
「食べてからで良いので、あなたの唱える週休六日主義について詳しくお聞かせ願いたい」
結局週休六日主義について語り合うことは出来なかった。
シャマルからの念話通信が入ってきたからだ。
(ガジェットの反応があったわ!すぐに向かって!)
ガジェットの反応があったと聞いたダンテはストロベリーサンデーをすばやく片付け、外に出た。
二種類ある反応のうち近い方に狙いを定め走り出す。
だがその足がガジェットの元へ向かうことは無かった。
ダンテのすぐ目の前に召喚魔方陣が出現したからだ。
そこから凄まじい熱気を伴い炎のように赤い体毛、雄雄しい二本角と褐色の肌を持った悪魔が出てくる。
「懐かしい気を感じたと思って来て見れば…やはりお前か、ダンテ」
「誰だ?」
「こいつはご挨拶だ。マレット島では一緒に戦ったじゃないか」
「イフリートか?」
「これにはワケがある、まあ聞きな」
そう言うとイフリートは魔法陣の中から一冊の本を取り出した。
人間の腕ほどもある指で器用にそれを開き読み始める。
「イフリートの冒険日記 ○月×日 水曜日
今日僕はダンテとアラストルと悪魔狩りに行きました。
でもダンテはアラストルしか使ってくれません。
こいつは絶対素人だと思いました」
まだまだあるぞ、と言いながらイフリートはページをめくる。
「○月△日
今日はデュ何とか島を探検する日です。
なのにダンテは僕達を忘れて僕達は留守番でした。
リベリオンが羨ましいです。
△月□日
今日はとても嬉しい事がありました。
ダンテの代わりに僕達を使ってくれる人が来てくれたのです
アラストルはとっくにどこかに行ってしまいましたが、僕達はその人のところに行くことになりました。
でももう意思を持たないベオウルフだけはダンテの事務所に残っています。
僕は少しかわいそうだと思いました。
といった具合で我々はスカリエッティに拾われた。
まあ私だけは気の合う友人を見つけたのでそっちにいるがな」
イフリートの音読が終わった。
ダンテが今まで従えてきた魔具達がいつの間にか自分の下を離れていたことにちょっとくらいショックを受ける事を期待していたイフリートだったが、その期待はダンテの次の言葉で砕かれた。
「長い台詞は終わりか?さっさと戦ろうぜ。こっちに来てから骨のあるやつがいないんで退屈してたところだ」
闘争心満々といった感じで剣を構えるダンテ。
その姿は力強く、動揺など微塵も感じられない、むしろお前らなんか居なくなったっていいよと言っているかのようだった。
そんな態度をとられたイフリートには怒りが沸き、普段より強い業火を纏った拳を構える。
「さて、ようやくライブの始まりだ」
先手を取ったのはイフリート。獣のような体から繰り出される拳の力は凄まじく、受け止めたダンテの足がコンクリートにめり込む。
好機とみたイフリートは頭上で拳を組み、二つ合わせてダンテ目掛けて勢いよく叩きつける。
だがその程度でダンテをしとめられる筈も無く、拳はむなしくも空振る。
イフリートは顔を左右に振りダンテの姿を見つけようとするが左にも右にもあの赤いコートは見つからない。
残された可能性を考え上を向くが時すでに遅し、そこには空中で双銃を構えたダンテがいた。
「あせるなよ、熱血野郎」
ダンテの指が引き金を引き、イフリートの体に魔力弾の雨が降り注ぐ。
数秒打ち続けた後に銃をホルスターに収め、落下速度を利用してリベリオンを叩きつける。
そのままダンテはリベリオンを操りイフリートに連続攻撃を仕掛ける。
接近状態では不利と見たイフリートは魔力をこめた右腕を地面に叩きつけ、周囲に火炎の結界を張る。
インフェルノ。火炎の結界を張り、その中のもの全てを燃やし尽くすイフリートの奥義だ。
ダンテはバックステップで距離をとり難なくこれを避ける。
現在ダンテにダメージは無い。イフリートの攻撃を全て見切っているからだ。
どんなに強い攻撃も当たらなくては意味が無く、このままではイフリートに勝機は無い。
だが単純な力の差だけで決まらない。だからこそ戦闘は楽しいのだ。
まだいくらでも戦況は転がりようがある。
今回この状況を変えたのは、増援だった。
いつの間にかイフリートの側に立つ黒い人型の虫を見てダンテの闘志はイフリートの炎にも負けないぐらいに燃え上がる。
しばらくイフリートと黒い虫、ガリューは顔を見合わせる。
それを作戦会議と判断したダンテはあえて攻撃をしない。
そしてガリューの姿が消え、ダンテは相手の手を考える。
(イフリートを餌にしてあの黒いのが攻撃ってとこか)
だが次にイフリートが取った行動はダンテが全く予想していないものだった。
「悪いが、今日は終わりだ」
突然の終了宣言。
ダンテの高揚感は炎の魔人のその言葉によってあっさりと冷やされる。
ダンテには知る由も無いがイフリートの今回の役目は陽動だった。
ガリューが目的を果たしたためにイフリートがここで戦う必要はもう無い。
まだ戦いたいダンテの気持ちなどよそにイフリートは召喚された時のようにあっさりと魔方陣から帰っていく。
「マジかよ…」
残されたダンテには呟くしか出来なかった。
呟くと同時に近くの森での戦闘音に気づく。
どうやら向こうはまだ戦闘中らしい、行き場の無いモヤモヤを捨てるためダンテはその方向に向かった。
「おい、ちび組。もう終わってるのか?」
「何だその括り方は!」
ダンテが着いたときに居たのはヴィータ、エリオ、キャロの三人しかいなかった。
ちび組と言う呼び方にヴィータが反発するがダンテは意に介さない。
自分が子供じゃないと言い続けるヴィータを無視し、エリオに説明を求めるダンテ。
エリオが説明を始める。内容はガジェットがイキナリ強くなっただのティアナがミスっただのダンテが興味を示す物はなかった。
全部聞き終えたころには前のほうに出ていたザフィーラもやってきた。
だがダンテにはこの状況に違和感を感じていた。
何かが欠けてる。なんとなくそんな気がしたのだ。
その何かについて考えていると不意に思い出した顔があった。
「おい、シグナムはどうした?」
その言葉に場の空気が固まる。
この場にいない剣の騎士の所在について全員で思考をめぐらせる。
口を開いたのはヴィータだった。
「あたしが仮眠を取り終えて、シグナムが仮眠室に入ったのを見たのが最後だ」
今回ヴィータとシグナムは交代で仮眠を取ることになっている。
そして非常事態とはいえ、今はシグナムの仮眠時間ピッタリだった。
ヴィータは念話でロングアーチとこの場の通信をつなぐシャマルに話しかける。
(おいシャマル!シグナムにちゃんと伝えたんだろうな!)
(ちゃんと伝えたわよ、ガジェットの反応があったからすぐに出てって)
シャマルが念話で話しかけている中にはダンテも含まれるため、ダンテもこのやり取りを聞いていた。
だからダンテはこの会話で思うことがあった。
「あれか?」
そう、確かにダンテは本来受けるはずの無いになっていないシャマルからの念話を受けていた。
『ガジェットの反応があったわ!すぐに向かって!』と。
受けたときはいつもの働けコールだと思っていたので気にもせず返事もしなかった。
だが!これはいつもの!そう、シャマルのいつものうっかりミスだった!
シャマルはシグナムに念話をしたつもりがダンテに送ってしまった!
それならシグナムはどこにいるのか!?
「主はやて……お止めください…」
仮眠室で悪夢にうなされていた。
さて、この事件の後日談としてダンテと機動六課の関係の変化について書き記そう。
イフリートとの戦いにより、ダンテが(隠してたわけではないが)デビルハンターであることが明らかになった。
それにより機動六課から協力の申し入れが来たのだ。
機動六課は悪魔の存在を確認したらそれをダンテに伝える。
ダンテはその悪魔を狩りに行く、といった内容だ。
はやての目論見は、本来機密の情報をダンテに流し、悪魔を含めガジェットと戦わせることでこちらの戦闘を楽にする事にある。
ダンテも自分が利用されている事に気づいているが―――否、はやて自身がダンテを利用すると言ったのだ。
下手に取り繕うよりそっちの方がダンテには効果的と見たはやての考えは間違っていなかった。
ダンテの返事はこうだ。
「分かった、ただし行くかどうかはその時次第だ」
口ではこう言うがダンテが気分を害した様子は無く、心なしか楽しんでいるようにも見えた。
これを機にダンテと機動六課の距離を縮めようとしたはやてはダンテに模擬戦の見額を勧めた。
「実際見たほうがうちらの実力が分かるやろ?」
ダンテはこの言葉に反対する理由を持たず、かつ暇だったので暇つぶしに見ていく事を決めた。
案内は執務官の仕事を終え、自身も訓練所に向かうフェイトが務めた。
もっともダンテは自分に敵う奴はこの中にはいないだろうと思っていた。
これは自惚れではない。実際魔王を倒した彼に一対一で敵う相手はそうはおらず、それがイフリートとガリューの作戦会議を待った理由でもあった。
彼を一対一で倒せる者がいるとすればそれは魔王以上か同等の存在ぐらいだった。
だが、今の訓練所には奴がいた。
「ちょっと…頭冷やそうか…」
―――冥王が、そこにいた。
Mission Clear and continues to the next mission
最終更新:2007年12月20日 07:55