Devil never Strikers
Mission : 04
tear


 機動六課食堂。
 あの模擬戦の後、相変わらずダンテはここでピザを食べていた。
 人を待っていると言った点も含めて前々回と同じような入りだった。
 だが前回と違って今回は待ち合わせではなく待ち伏せである。
 ダンテが三枚目のピザを食べ終え五七杯目のストロベリーサンデーに手を伸ばした時、待っている人物が仕事を終えてやって来た。
 その人に向けて手を上げ気づくのを待つ。そして気付いた所で声をかけて呼び出す。

「ちょっとこっち来い、ハチマキ」

 名前を呼ばれたハチマキことスバルはトマトシチューハンバーグを持ってダンテの正面に座る。

「何ですかハチマキって」
「気にすんなよ。それよりちょっと聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと、ですか?」
「あれはどうしてああなった?」

 ダンテの言ってる『あれ』とはもちろん昼間の模擬戦のことだ。

「それは、その……どうしてダンテさんがそんなことを聞くんですか?」

 だがスバルは答えない。
 普段話さない人にいきなりそんな事を聞かれれば不信に思って当然だろう。
 スバルの疑いにダンテは何も言わず、スバルを見つめ続ける。その目に『悪いようにはしない』という思いをこめて。
 ダンテのその思いを感じたのかスバルはおずおずと話し出す。
 もちろんデリケートな部分は話さなかったが。

 スバルの話はホテルアグスタの所から始まった。
 ティアナがミスショットをした事、それがティアナには悔しくてたまらなかった事、それ以降二人で秘密特訓をしていた事、その成果がクロスシフトCである事。
 そこから先はダンテも見ていたので特に新しい情報は無かった。
 大体の事を聞いたダンテは今回の件のおおよそを理解する。
 だがまだおおよそで、核心はそこじゃない。
 ダンテはそこと思われる部分を聞くことにした。

「あいつの強くなりたい理由ってのは?」
「……言えません」

 そこはさっき話さなかったデリケートな部分だ。
 エリオやキャロには話したが、さすがに今までほとんど会話したことの無いダンテにそこを話すわけにはいかない。
 スバルの言えない、と言う答えにやはりそこが今回の核心だと理解する。

(さて、どうしたもんかね)

 ダンテがこれからの手を考えていると今度はスバルから質問があった。

「どうして…そんな事を聞くんですか?」

 さっきから言っているがダンテは機動六課の連中とは顔見知り程度の仲でしかない。
 そんなダンテが首を突っ込むのは明らかに不自然だ。
 スバルはダンテにその理由をさっきのように問いただす。

「間違ってると思ったからだ」

 答えは短く、スバルにとって予想外の言葉だった。
 その言葉を聞いたスバルは今までより強い口調でダンテに食って掛かる。

「間違ってるって何がですか!自分なりに強くなろうとして努力するのは間違ってるんですか!?」

 それだけ言うと目に涙を浮かべながらスバルは食堂から去っていった。
 残されたトマトシチューハンバーグを見ながらダンテは溜息をついた。

(そういう意味じゃないんだがな…)

 ダンテは次の人間に話を聞くために食堂を出た。
 そのまま人気の無いほうに歩き出す。
 適当な曲がり角を曲がり、そこで振り向き立ち止まり、食堂から自分を見張っていた次の話し相手を待つ。
 数秒後、今ダンテが曲がった角から尾行者の顔が出てくる。
 その顔とダンテの目が合い、ダンテは喋りかける。

「お話聞かせてくれないか?」

 自分の尾行がばれていた事を知った尾行者は曲がり角から体を出して答えた。

「ええ、いいですよ」

 予定していなかった話し相手、シャーリーとの話合いが始まった。

「目的は何だ?」

 先に切り出したのはダンテの方。
 シャーリーの答えはこの上なく簡潔だ。

「仲直りです」
「そのために何をする?」
「話し合わせます」
「それで解決するのか?」
「はい」

 シャーリーは断言した。話し合えば解決する、と。

「ですから他の誰かが何かをする必要はありません」

 要するにダンテは邪魔だから関わるな、と言いたいらしい。
 ダンテも場を引っ掻き回すつもりはないので潔く引くことを決めた。

「そうかい、なら俺は帰るぜ」

 そういってシャーリーに背を向けるダンテ。
 そのちょっと寂しげな背中にシャーリーは話しかける。

「で、ダンテさん。少し協力してもらえませんか?」

 ダンテはうんざりした様子で振り返り答える。

「協力してほしいならもっと素直に言え」
「気にしないでくださいよ。結果は同じでしょ?そこに至る過程を楽しまないと♪」
「……で?俺は何をすりゃ良いんだ?」

 その言葉にそれもそうだなと納得したダンテは自分の役割を問う。
 ダンテの役割はひどく単純な物だった。


 シャーリーとの打ち合わせの少し後、ダンテは訓練場に来ていた。
 なのはは今ここにいるらしい。
 ティアナ達フォワードに今回の件で見せたい物があるからその間の足止めを頼まれたのだ。
 運が良いのか悪いのかダンテとシャーリーが話している間にティアナが目覚め、善は急げとばかりに作戦決行となった。

(こういうのは苦手なんだがな)

 だが愚痴った所で始まらない、ダンテはなのはの姿を探し歩き始めた。
 機動六課の入り口から訓練場までの直線ルートを歩けばどこかで見つかるはずだった。
 そしてその考えは当たり、向こうから歩いてくる人影を見つけた。
 なのはとフェイトだった。
 二人がダンテを見つけ立ち止まる。
 ダンテも立ち止まり、お互いに少し距離をとった状態で対峙する。

「どうするつもりだ?」

 挨拶もなしに話し出すダンテ。
 なのはは一瞬何のことか分からなかったがすぐに昼間の訓練の事だと理解する。

「話し合います。それでティアナも分かってくれると思いますから」

 なのははそう言うがダンテは納得しない。
 おそらくそれでは上手くいかないからシャーリーは動いているのだ。

「それで上手くいくと思ってるのか?」
「はい」
「それはないな」
「どういうことですか?」

 ダンテの言い方になのはは少し怒りを覚える。そんな空気を察して隣のフェイトも少し不安そうになった。
 だがダンテは沈黙でなのはを威圧する。
 というより、シャーリーが動いていることから話し合うだけではダメな事を知っている。
 だがどうしてそうなったかは知らないのでなのはの問いに答えられない。
 よってなのはが新しい質問をするのを待つ意外に手は無かった。

(どういうこと、か……俺に聞くな)

 この思わせぶりな沈黙を打ち破ったのはダンテではなく、なのはでもなく、はたまたフェイトでもなかった。
 突如規則的な電子音が周囲に鳴り響き、それとほぼ同時に目の前に赤いウインドウが空中に現れる。
 何かの緊急事態だ。それを理解した瞬間シャーリーからダンテにだけ通信が入る。

(ダンテさん、聞こえてます?作戦は一時中断して戻ってきてください)

 話を切り上げ、ロングアーチの元に行くなのはとフェイト。
 今は協力者ではあるが、基本的に部外者であるダンテは仕方が無いのでヘリポート新人達と合流する事にした。
 ダンテがヘリポートに到着した時には四人全員とがそろっていた。
 もちろんティアナもいる。

「もう動けるのか?」
「え?……はい」

 それだけ聞いたダンテは視線をそのまま空に移す。
 数秒の間が空き、今度はティアナがダンテに話しかける。

「心配してくれたんですか?」
「そりゃああんなもん見せられちゃな」

 そのまま会話を続けることは出来なかった。
 副隊長二人がやってきたので私語は出来ない。
 そしてヴァイスがヘリコプターの準備を終わらせ、いつでも飛べる状態にした頃に隊長達がやってきた。

「今回は空戦になるから出動は私とフェイト隊長とヴィータ副隊長」
「みんなはロビーで出動待機ね」
「悪魔はいねーみたいだし、今回はダンテも出番無しだ」
「「はい!」」
「はい」
「…はい」

 なのは、フェイト、ヴィータがそれぞれ事態を説明した。
 それに新人達が返事をするが、元気の良い物は半分で、残りは元気の無いものと活気の無いものだった。
 なのはが活気の無い返事をしたティアナのほうを向く。

「ああ、それからティアナ。ティアナは出動待機から外れとこうか」

 その言葉に場の空気が揺れる。
 それが正しいと思っているらしい隊長と副隊長の四人。
 ただ衝撃を受けるエリオとキャロ。
 言われた親友の顔を見るスバル。
 言葉の意味を理解し、顔を俯けるティアナ。
 そりゃ逆効果だろ、と思いながらも何も言わずにこの場を眺めるダンテ。

「今夜は体調も魔力もベストじゃないだろうし…」
「言う事を聞かない奴は…使えないって事ですか?」

 ティアナの言ってる事はかなりひねくれた解釈にすぎない。
 だが前後の状況からしてそう思いたくなるのは当然といえば当然だ。
 そして一度決壊してしまった想いは止められない。

「現場での支持や命令は聞いてます!教導だってちゃんとサボらずやってます。
それ以外の場所での努力まで教えられたとうりじゃないとダメなんですか?
私はなのはさん達みたいにエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルも無い、
少しくらい無茶したって死ぬ気でやらなきゃ強くなんてなれないんです!」

 そこまで一息に言ったティアナ。
 その視界が急に赤く染まる。

「ダンテさん?」

 なのはの言葉でこの赤がダンテのコートの赤だと知ったティアナ。
 ダンテは腕をティアナの顔の前に出し、視界をふさいでいた。
 顔を上に向けるがダンテは顔をなのはのほうに向けているのでその表情はうかがえない。

「行け」
「え?ちょっと何を言って…」
「さっさと行け、何とかする」

 ダンテの勢いに押されてなのは達はヘリに乗り、他のメンバーがヘリポートに残された。
 何か言いたげなスバルやティアナを無視し、ヘリポートの入り口に話しかける。

「高町なのははしばらく帰ってこない、この形で良いんだよな?」
「すこし強引でしたけど…まあこれなら大丈夫です」

 答えたのは入り口から入ってきたシャーリーだった。
 ダンテとシャーリーなんて誰も考えなかった組み合わせに全員が混乱している中、ダンテは口を開いた。

「全員ロビーに移動だ。良いよな?シグナム」


 ロビーに移動した一行は次に何があるのかとダンテを見る。
 だがその肝心のダンテは次に何があるのかとシャーリーを見ていた。

「それで?何をするんだ?」
「説明するの、なのはさんの教導の意味を」

 シャーリーはキーボードを叩き、ロビーのパネルに映像を映してから話し始めた。
 昔、一人の女の子がいた事から始まった話は、その女の子が魔法と出会い、
 一つの事件に巻き込まれた事、
 その後もまた別の戦いに巻き込まれた事、
 敗北と限界を超える無茶な強化へと続いた。

 そしてそれまでの疲労と無茶から起こった、もう歩く事すら出来なくなるかもしれなかった程の負傷でこの映像は締めくくられた。
 その後はシャーリーがなのはがどういう気持ちでみんなに戦い方を教えているかを語った。


 シャーリーからなのはの過去と目的を聞いたティアナは一人で訓練場に座り込んでいた。
 なのはの過去。それは無茶をしたことによる負傷。
 なのはの教導。それは昔の自分の様にはしたくないがための方針。
 それを無駄にしてしまうかのような無茶な特訓。
 実際あのまま特訓を続けていたら映像のなのはほどではないにしろ何らかの形で医務室のシャマルの世話になっていただろう。

(結局、あの特訓はなんだったんだろう)

 大切な親友まで巻き込んでまでやってたことは何も通じず、ただ体を痛めつけてただけ。
 自分のしてきた事を振り返り、自己嫌悪に陥る。

 どれくらい時間がたっただろうか、ふと横から視線を感じてそちらを見るとなのはが立っていた。
 微笑まれたが、その顔もちょっと前のとは違って見える。
 なのはが隣に座った。

「あ!なのはさんが座りました」

 今解説したのはエリオだ。
 現在物陰で二人の様子を窺っているのはダンテ、スバル、エリオ、キャロ、シャーリーの五人。

「シャーリーさんや、他の人に色々聞きました」
「なのはさんの失敗の記録?」
「じゃなくて!あの…」
「無茶すると危ないんだよ、って話だよね」
「……すみませんでした」

 そしてなのはは作ろうとしている四人のチームの理想形を語りだした。

「エリオはスピード、キャロは優しい支援魔法、スバルはクロスレンジの爆発力。三人を指揮するティアナは射撃と幻術で仲間を守って知恵と勇気でどんな状況でも切り抜ける」

 そんなチームをなのはは作りたかったらしい。
 その形にゆっくりと近づいている事を話し、なのはは続ける。

「模擬戦でさ、自分で受けてみて気づかなかった?ティアナの射撃魔法ってちゃんと使えばあんなに避けにくくてあんなに痛いんだよ。一番魅力的なところをないがしろにして慌ててほかの事をやろうとするから、だから危なっかしくなっちゃうんだよ、って教えたかったんだけど」

 そして最後にティアナが置いておいたクロスミラージュを手に取る。

「まあ、でもティアナが考えた事、間違ってはいないんだよね」

 クロスミラージュのシステムリミッターのテストモードをリリースした。
 それをティアナに渡し、モード2の起動を促がす。

「モード、2」
「Set up: Dagger Mode」

 クロスミラージュを構えたティアナがモード2を命じ、クロスミラージュが持ち主の支持に従い、その姿を変える。
 グリップと銃身の角度が開き、銃口からオレンジの光の刃が伸びる。グリップの底から銃口にもアーチ状の刃が輝き、変形を終える。

「ティアナは執務官志望だもんね。ここを出て執務官を目指すようになったら、どうしても個人戦が多くなるし、将来を考えて用意はしてたんだ」

 先の事まで考え、自分達の安全を最優先に行われていたなのはの教導。
 それを成果が出てないと思い込んで、自分だけが弱いと思い込んで、そしてみんなを巻き込んだ。
 ティアナの肩が震え、目から涙が零れだした。


 そこまで見届けたダンテは振り返り、歩き始める。

「ダンテさん?」
「俺はもう帰るぜ、あれなら十分だ」

 ダンテが数歩も歩かないうちにスバルが呼び止め、ずっと疑問に思っていた事を聞いた。

「なんでダンテさんは協力してくれたんですか?」 

 おそらく照れくさいのだろう、ダンテは歩みを止めずヒントだけ呟いた。

「Devils never cry」
「え?」
「意味は自分で考えな」

 悪魔は泣かない。
 何故なら涙は人間だけが持つ、宝物だから。

(あんな使い方はもったいなくて見てられなかったぜ)

 訓練場で見せた劣等感や焦燥からくる涙ではなく、今ティアナが流している涙。
 それを見れたダンテの顔にはいつもの皮肉屋なものではない、暖かく優しい微笑みがあった。


Mission Clear and continues to the next mission

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最終更新:2007年12月26日 10:34