第14話「負けられぬ戦い」
「デュアッ!!」
「ハッ!!」
荒れ狂う大海原。
一歩間違えれば、即座に海の藻屑となりかねないその中で、ウルトラセブンは一人戦っていた。
額のビームランプから放たれたエメリウム光線が、マグマ星人の放った光線を相殺する。
しかしその直後、セブンの隙を狙いマグマ星人の傍らにいた、レッドギラスとブラックギラスが飛び出した。
二匹は大きく腕を振りかぶり、セブンに殴りかかってくる。
セブンは両腕を交差させて防御を固め、その攻撃を乗り切ろうとする。
海上・海中での戦闘を専門とする双子怪獣を相手では、立ち回りにおいて圧倒的に不利。
下手に回避に回ろうとするよりかは、防御の方が確実である。
やがて、連続して攻撃を叩き込んでくる二匹の動きに、若干の乱れが見え始めた。
セブンはそれを見逃さず、即座に頭部のアイスラッガーを手に取り、そして一閃。
二匹の胴体に真一文字の傷がつき、二匹は悲鳴を上げた。
(こいつら二匹だけなら、まだどうにかならなくもないんだが……!!)
「そこだぁっ!!」
追撃を仕掛けるべく、セブンが光線を放とうとしたその瞬間だった。
ブラックギラスの背後から、マグマ星人が飛び出してきた。
マグマ星人は真っ直ぐにセブンの胸元目掛けてサーベルを突き出してくるが、セブンはギリギリの所でアイスラッガーでそれを受け止める。
せめて2対1ならば十分勝ち目はあったのだが、3対1となるとやはり分が悪い。
中々、決定打を打ち込む隙が見当たらないのだ。
こうなると、消耗戦に追いやられて敗北するのはもはや目に見えている。
この状況を打開するには……彼女の到着を待つしかない。
(ヴィータ……!!)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「アイゼン!!」
セブンより、ギラススピン打倒の願いを託されたヴィータ。
その期待に応えるべく、彼女は只管に特訓に励んでいた。
特訓当初に比べれば、ラケーテンハンマーの威力は確かに上昇している。
十分強くなっているレベルではあるのだが……それでも、ギラススピンを打ち破れるだけの威力には届いていない。
気がつけば、カートリッジも数が危なくなり始めている。
このまま尽きて終わる様な事になったとしたら、それは最悪である。
「くそっ……どうすりゃいいんだよっ!!
早く行かなきゃ……早く何とかしなきゃ、ダンさんが……!!」
現状を打開できないことに、ヴィータは酷く焦る。
しかし……彼女とて歴戦の騎士、自分が挑戦していることの難易度ぐらい承知している。
技の威力というのは、そんなに急激に上昇させられるものではない。
何度も何度も反復的に練習を繰り返し、その末に向上するものだ。
尤も、それでもラケーテンハンマーを今日一日だけでここまで強化させられたというのは、驚異的なのだが……
「……これじゃ、駄目なのか?」
ヴィータは、ついに今の己のやり方に限界を感じ始めていた。
このままラケーテンハンマーを反復的に使い続けていても、ギラススピンを打ち破るだけの威力は得られない。
そんな気がしてならなかった。
しかし、ならばと駄目元で挑もうものなら、それこそどつぼだ。
ダンの期待を裏切る結果に終わってしまうし、何より自分自身がそんな結末を許せない。
だが、それならどうしろというのか。
ギラススピンを打ち破るには、回転技であるラケーテンハンマーしかない。
ギガントシュラークすらも弾かれたのだから、他の技で挑んだところで結果は見えている。
手も足も出ないとは、まさにこのことか。
「どうしたらいいんだよ……アイゼン……!!」
『……』
ヴィータは、相棒についに弱音を吐いてしまった。
そんな彼女へと、グラーフアイゼンは何も答えてやれない。
もしもここに他の守護騎士達がいたならば、この光景をとてもじゃないが信じられなかっただろう。
ヴィータが弱音を吐くというのは、それ程に中々ないことなのだ。
彼女は今、己が置かれている絶望的な状況を悲観していた。
自分を必要としてくれる人間の期待に応えられないで、何が守護騎士だ。
はやての為にリンカーコアを持ち帰るためにも、セブンを助けるためにも。
彼等の助けとなるために、絶対にあの双子怪獣を倒さなければならないというのに……
ヴィータは強く拳を握り締め、地面に叩きつける。
その瞳には、いつしか涙が浮かんでいた。
「こんなんじゃ、このままじゃ……!!」
「誰も助けられず、負け犬で終わるだろうな」
「!?」
その時だった。
落ち込んでいたヴィータへと、背後から何者かが声を掛けてきた。
とっさにヴィータはふりかえり、身構える。
彼女の目の前にいたのは、一人の中年の男性だった。
見たところ、彼は修行僧らしき服装に身を包んでいる。
ヴィータはその男に対し、警戒心をむき出しにしたまま、声を荒げた。
「誰だ、テメェ……!!
マグマ星人ってやつの仲間か!?」
「俺の事など、どうでもいいことだろう?
問題なのは、今のお前がこのままで終わるか否かじゃないのか?」
「テメェ……何なんだよ、一体!?
いきなり出てきて、人の事を馬鹿にして……!!」
ヴィータは、怒りの形相で男にグラーフアイゼンを向けた。
確かに彼が言うとおり、今の自分に問題があるというのは否定しない。
だが、だからといって、いきなり負け犬呼ばわりされて黙っていられるわけがない。
男はそんなヴィータを見ても、表情ひとつ変えず……それどころか、信じられない言葉を口にしたのだ。
「ならば、馬鹿にされないだけの実力があるかどうかを試させてもらおうか」
「何……!?」
「かかってこい、お前の特訓とやらがどんなものかを見せてみろ」
男はあろうことか、ヴィータに戦いを挑んできたのである。
彼女にどれだけの力があるというのか、それを試すために挑戦してきたのだ。
ここで、ヴィータも流石に我慢の限界が来た。
堪えていられるわけがない。
強く地を蹴り、男へと接近する。
一撃を叩き込むべく、ヴィータは大きく腕を振るった。
「うおおおぉぉぉぉっ!!」
それに合わせて、男が動いた。
しかしそれは、回避行動でも防御でもなく。
ただ、静かに左の拳を握り……真直ぐに突き出したのだ。
その瞬間……男が身につけている指輪が、光った。
その指輪の名は、レオリング。
獅子の瞳を宿す、男―――おゝとりゲンが真の姿に変身する為の道具。
「レオオオォォォォォォォォォッ!!」
「っ!?」
獅子の瞳が輝いて、眩い光が辺りを照らす。
ヴィータはとっさに動きを止め、後方へと下がる。
彼女は目の前の光景に、既視感を覚えた。
それもその筈……先ほど、ダンがウルトラセブンに変身したときと、全く同じなのだから。
ここでヴィータは、まさかと感じた。
そして、その予感は的中する……光が晴れた時、そこに立っていたのは、一人の赤い戦士であった。
彼こそが、ゲンの真の姿―――ウルトラマンレオである。
「ウルトラマン!?」
「そうだ……俺はウルトラマンレオ。
隊長……ウルトラセブンと同じ、ウルトラマンだ。
ヴィータだったな……本気でかかってこい。
そうでなければ、死ぬ事になるぞ?」
「っ……アイゼン!!」
相手の正体が判明しても、ヴィータは臆す事無く向かっていった。
ウルトラマンレオが、本気で自分を倒しにかかろうとしていることを、本能的に悟ったからだ。
気圧されれば、その時点で負けてしまう。
ならば、先手を打つ以外に道はなかった。
ヴィータは全力で、レオの脳天めがけてグラーフアイゼンを振り下ろす。
しかし、レオはそれを紙一重で回避。
そのままヴィータ目掛けて、右脚で回し蹴りを叩き込む。
「うっ!?」
「ハッ!!」
とっさに障壁を展開し、ヴィータはその一撃を受け止める。
そして、すぐさま反撃に転じようとする……が。
それよりも早く、レオが追い討ちをかけてきた。
レオは右足を引かず、そのまま片足だけでサマーソルトを繰り出す。
ヴィータの腹部に、強烈な一撃が叩き込まれた。
「ウグッ!?」
胃の内容物を全て吐き出したくなるような、強烈な嘔吐感がヴィータを見舞った。
そのままレオは、ヴィータを上空へと蹴り上げる。
そして、自身も着地と同時に地を蹴り上昇。
右手で手刀を作り、赤熱させる。
ヴィータはその光景を目にして、とっさに障壁を展開する。
この一撃はやばいと、そう直感したからである。
そして、その直後……レオは勢いよく、手刀を振り下ろした。
流れ落ちる滝をも両断する、必殺の手刀ハンドスライサー。
その一撃は、見事にヴィータの障壁を切り裂いた。
「叩き斬られた!?」
「イヤァァッ!!」
防御を失ったヴィータへと、正拳の一撃が炸裂する。
一切の加減がない、レオの本気の拳。
その威力はやはり高く、ヴィータは地上へと相当な勢いで叩きつけられるハメとなった。
猛烈な土煙が巻き起こり、ヴィータの姿が覆い隠される。
レオはそこへと深追いはしないで、冷淡に彼女へと語りかける。
「修行の成果を見せろと、そう言った筈だ。
ヴィータ、技を出せ……そうでなければ、俺は倒せんぞ!!」
「くっ……分かってらぁ!!
やるぞ、アイゼン!!」
『yahoo!!』
レオの言葉どおり、ここは必殺の攻撃でいかなければ勝ち目はない。
威力を試すためにもと思い、ヴィータはラケーテンハンマーの構えを取った。
それを見て、レオもしっかりと地面に両足をつけ、構えを取る。
そのまま、両者は動きを止めて睨み合い……数秒後。
「ラケーテン……ハンマアァァァァァァァッ!!」
雄たけびを上げ、ヴィータが飛び出した。
ラケーテンハンマーを繰り出し、猛烈な勢いで回転しながらレオへと接近。
レオは腕を十字に組み、深く腰を落として防御の構えを取る。
そして……鉄槌が、レオへとついに叩き込まれた。
「ぶち抜けえええぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ヌウウゥゥゥゥッ!!」
ラケーテンハンマーの直撃が、レオを猛烈な勢いで押す。
その両足が、地面を激しく削り取っていく。
ヴィータは全力で、グラーフアイゼンを振りぬこうとする。
しかし、レオは全力でそれに耐えぬこうとする。
どちらのパワーが勝るかの、純粋な力比べ。
打ち勝ったのは……
「……成る程な。
これがお前の、ギラススピン対策か……」
「そんなっ……!?」
レオは吹き飛ばなかった。
ヴィータの全力の一撃を、正面から受け止めて耐え切ったのだ。
信じられない。
そう言わんがばかりの表情で、ヴィータはただ呆然としていた。
そんな無防備な状態の彼女を、レオが見逃す筈が無い。
「だが!!」
レオは両腕を勢いよく開き、グラーフアイゼンを弾く。
そして、力強く前へと踏み込み……まっすぐに、蹴りを叩き込んだ。
ヴィータの体が、宙を舞う。
やがて、彼女は十数メートル先に落下。
その瞳には、絶望の色が浮かんでいた。
「そんな……あたし……負けた……また……?」
「……ギラススピンを破るのには、まだまだ力が足りない。
どうやら、隊長の見込み違いだったようだな」
「お前……一体、何で……」
ヴィータは虚ろなまま、レオに尋ねかけた。
何故、仲間であるセブンを助けに行かないのか。
これだけの力があるならば、きっと彼の力になる筈。
それなのに……何故、自分に戦いを挑むという、正反対の行動を取ったのか。
その至極当然な問いを聞き、レオは少し黙り込んだ後……静かに、答えた。
「……俺はこの世界で異変が起きているのを察知して、兄さん達の力を借りてここにやってきた。
その後は、お前の言うとおりに隊長に加勢しようとしたさ。
だが……隊長自身が、それを拒んだんだ。」
「え……どういうことだよ?
だって、ダンさんじゃギラススピンは……!!」
「『お前が加勢して勝ったならば、ヴィータに申し訳が立たない。
ギラススピンを破るのは、他ならぬ彼女でなければならない。
だから、その手助けをしてやってくれ』と……隊長は、俺にそう言ったんだ」
「!!」
レオの言葉を聞き、ヴィータは瞳を大きく見開いた。
セブンは自分が不利な状況にもかかわらず、レオの加勢を拒んだ。
全ては、ヴィータにギラススピンを打ち倒させるためにである。
それがどれだけ危険な事かは、説明するまでも無い。
「ダンさん……」
「だが俺は、お前がそれに値するかどうかが不安だった。
だからこうして、試させてもらった……お前が本気で牙を向けるよう、態々あんな挑発までしてな」
「あ……!!」
「そして、その結果がこれだ。
お前は俺に負けた……これではギラススピンに挑んでも、結果は見えている。
……奴等に滅ぼされた、故郷の仲間達と同じ様にな」
「っ……!!」
彼は過去の経験から、セブンに対して尊敬の念を抱いていた。
そのセブンが託したヴィータが、どれ程のものなのかを知りたかったのだ。
かつて、メビウスが地球を守るに値する戦士かどうかを試したときと同じように。
ましてや相手は、レオにとっては因縁の相手。
彼の故郷を滅ぼした、マグマ星人と双子怪獣なのだ。
この手で何としても打ち倒したいと、そう思っていたが……それでも彼は、セブンの考えを尊重し、自重したのである。
だからこそ、ヴィータがそれに見合うだけの人物か否かを確かめたかったのだ。
そしてその結果は……はっきり言えば、期待外れであった。
ヴィータはその現実を前に、堪らず瞳から涙を流してしまう。
しかし……そんな彼女に対して、レオは怒声を浴びせる。
「その顔はなんだ!!
その目はなんだ、その涙はなんだ!!
お前の涙で、何かを守れるのか!!」
それはかつて、セブンからレオに告げられた言葉。
そして、レオからメビウスへと告げられた言葉。
強敵との戦いの末、不本意な結果に終わり涙を流した二人へと告げられた、叱咤の言葉であった。
今のヴィータにとって、この言葉がどれだけ酷なものであるかは言うまでも無い。
だが、レオの言う事にも一理ある……泣くだけならば、誰にだって出来るのだから。
その後……レオは、さらに冷淡な言葉をヴィータへと次げた。
「ヴィータ……お前はもう分かっているとは思うが、俺達はメビウスの仲間だ。
本来ならばお互い敵同士の立場なのは、分かっている筈だ。
だが、セブン隊長はそれでもお前に賭けた……そしてお前は、その期待に応えられぬまま俺に負けた。
これが何を意味するか……分かっているな?」
「……まさか……!!」
「ヴィータ……お前の身柄を確保して、時空管理局に引き渡させてもらうぞ」
彼女にギラススピンを打ち破る力がないと分かった今、もはや道は一つ。
この場で確保し、時空管理局に身柄を引き渡すのみ。
一歩一歩、ゆっくりとレオがヴィータとの間合いを詰めていく。
今のヴィータにとってそれは、まさしく地獄へのカウントダウンだった。
(冗談じゃねぇよ……こんなのって……!!)
ここで捕まれば、全てが無に帰してしまう。
闇の書を完成させる事は出来ない……はやてを助けられなくなってしまう。
ダンのことだって、助け出す事が出来なくなってしまう。
他の守護騎士達にも、申し訳が立たない。
ここまでの全てが……失われてしまうのだ。
(ふざけんな……ふざけんなよ……!!)
―――こんなところで終われるかよ
(はやてが、ダンさんが、皆が……!!)
―――終わらせてたまるかよ
(あたしの事を……皆が、待ってくれているんだ……!!)
―――勝ちたい
(だから!!)
―――勝って、先に進みたい
「進まなきゃ……ならねぇんだよぉぉぉぉ!!」
「っ!?」
突如として、ヴィータが雄叫びを上げた。
レオはとっさに動きを止め、そして構えを取った。
ヴィータが力強く地面に手を突け、ゆっくりと立ち上がる。
その瞳に宿るのは、涙にあらず。
必ず勝って、先へと進むという……強い意志の光であった。
「これは……!!」
レオは立ち上がったヴィータの姿を見て、驚きを隠せなかった。
立ち上がってきたこと、それ自体は予想の範囲内である。
だが、問題は……今の彼女から感じられる魔力にあった。
魔道士でないとはいえ、相手から放たれる力が如何程かを察する事ぐらいは、ウルトラマンにも出来る。
そして……その魔力が今、明らかに上昇しているのだ。
最初に彼女と対峙したときよりも……遥かに高く。
「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ッ!!」
ヴィータは凄まじい勢いでレオへと急接近、その胴体へとグラーフアイゼンの一撃を見舞った。
防御が間に合わず、レオは直撃をまともに受ける。
レオは堪らず、打たれた部位を押さえて怯んでしまう。
攻撃力もスピードも、確実に上がっている。
(ぐっ……まさか、これ程に力が……!!)
「あたしは、負けられねぇんだ……!!
こんな所で立ち止まってる暇なんて、ねぇんだよぉっ!!」
ヴィータはグラーフアイゼンを、ギガントフォームへと変形。
勢いよく、その巨大な鉄槌をレオ目掛けて振り下ろした。
この一撃を受けては、レオと言えども致命傷になりかねない。
生半可な防御も、通用しないだろう……ならば打つ手は一つしかない。
レオは、全身の力を全て右脚部に集中させる。
そして、勢いよく地を蹴り……真っ直ぐにグラーフアイゼン目掛けて、飛び蹴りを繰り出した。
レオ最大の必殺技にして、ウルトラ兄弟最強の肉弾技―――レオキック。
両者が、真正面から激突し合う。
「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「エイリャアアアァァァァァァァァァァッ!!!」
鉄槌と右脚が、火花を散らせ合う。
どちらも引かない、完全な拮抗状態。
一瞬でも相手の力を上回ったならば、その瞬間に勝負は決まる。
レオは渾身の力を込め、突き抜きにかかる。
それと全く同じタイミングで、ヴィータも力を込めた。
すると……その時だった。
両者の間に異変が起こった……突然、グラーフアイゼンが光ったのだ。
「これは……!?」
「アイゼン!?」
二人とも、この事態に驚きを隠せないでいる。
この時、ヴィータは知らなかっただろうが……今よりおよそ半年ほど前。
なのはが、レイジングハートを手にして間もない頃であった。
彼女は戦いの最中で、レイジングハートを通常形態から砲撃形態へと初めて変化させた。
砲撃形態の存在は、以前の持ち主であったユーノからも、レイジングハート本人からも聞いたわけではない。
戦いの中で、彼女が自然と変化させたものであった。
無論それは、その時にもユーノが言ったように、誰にでも出来る真似じゃない。
彼女が新たな力を願い、それに見合うだけの魔力があったからこそ、出来たのだ。
そして今……それと同じ現象が、起ころうとしている。
あの時なのはが願ったのは、離れた位置にいる相手へと攻撃を届かせられる力。
そして、ヴィータが願ったのは……先へと進むための、目の前の相手へと勝つ力。
『Zerstörungsform』
グラーフアイゼンが、ヴィータへとその名を告げる。
鉄の伯爵の第四形態にして、最強の形態……ツェアシュテーレンフォルム。
ヴィータは、しばし呆然とした後……己の相棒へと素直に感謝する。
この土壇場において、彼は応えてくれたのだ。
「ありがとう、アイゼン……ツェアシュテーレンフォルム!!」
『Yahoo!!』
感謝の意を込め、ヴィータは新たな形態の名を呼んだ。
グラーフアイゼンが、変形を遂げていく。
その姿は、単純明快、しかし極めて強烈なインパクトを放っていた。
ギガントフォームに並ぶほどの巨大さ、そしてそれにラケーテンフォームのロケットブースター。
二つの形態が持つ長所を、一つにあわせた形態だったのだ。
一目見ただけで、それがギガントフォームを上回っているという事がはっきりと分かる。
「これは……いかん!!」
「いっけえぇっ!!!」
ヴィータが雄叫びを上げ、渾身の力でグラーフアイゼンを振りぬきにかかる。
その瞬間、ロケットブースターが轟炎を噴出した。
ギガントフォームの圧力に、更なる勢いが加わる。
レオキックが、一気に押し返され始める。
終に、均衡状態が崩れたのだ。
「ぶち抜けえええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ウオオオオオオォォォォォォッ!!??」
レオはこの勢いに、耐え切る事が出来なかった。
グラーフアイゼンが、完全に振りぬかれたのだ。
直後、鉄槌は勢いよく地面に叩きつけられて、大量の土砂を巻き上げる。
やがて、土砂が完全に地に落ち、ヴィータの視界が良好となった時。
そこには……レオの姿は無かった。
「……勝った?」
すぐさまグラーフアイゼンを持ち上げ、レオの姿を確認する。
当然ではあるが、潰れてなどはいない。
ならば、攻撃の勢いで何処かに吹っ飛ばされたか。
それとも、どこかに隠れて攻撃の隙を伺っているのか。
すぐさま周囲を見渡し、レオの姿を探す……いない。
レオの姿は見当たらない……これが意味する事は一つ。
「勝った……勝ったんだ……!!」
ウルトラマンレオに勝った。
自分よりも遥かに強大な力を持つウルトラマンを相手に、打ち勝ったのだ。
ヴィータはガッツポーズを作り、歓声を上げる。
だが、ここでいつまでも喜んではいられない。
ついに、自分には成すべき事を成せるだけの力が備わったのだ。
ならば……やらねばならない。
今こうしている間にも、ウルトラセブンは窮地に立たされているのだ。
「よし……ダンさん!!」
ツェアシュテーレンフォルムならば、ギラススピンを打ち破れる。
ヴィータはセブンを助けるべく、彼の元へと一直線に向かっていった。
「……行ったか」
そして、それから少しばかりした後。
林の中から、息を荒げさせたゲンが現れた。
変身は既に解かれており、その腕や足には青痣がついている。
彼はヴィータの予想通り、グラーフアイゼンの強烈なパワーにより、遠くまで吹っ飛ばされてしまっていたのだ。
「やれやれ……ここまでやってくれるなんて、思ってもみなかったぞ?」
ゲンは、思わぬ成長を遂げたヴィータに心底驚いていた。
彼がヴィータに戦いを挑んだ理由。
それは、彼女の実力を試すためだけではなかった。
ゲンはヴィータを強化する為、荒療治に挑んだのだ。
かつて自分が、ダンから特訓を受けたときの様に。
メビウスと激突したときの様に……ヴィータを成長させる為に、あえて心を鬼にして接したのである。
そうする事で、ヴィータの成長を促そうとした。
背水の陣に立たせる事で、彼女の力を引き出そうとしたのだったが……正直、ここまで成果を上げられたのは予想外であった。
よもや、レオキックまでも打ち破られようとは……もしも後一秒早く均衡を破られていたなら、反射的に巨大化していたかもしれない。
恐ろしい相手に、力を授けてしまったものである。
だが、これで彼女はセブンにとってはこの上ない味方になる。
憎きマグマ星人と双子怪獣の打倒を、託す事が出来る。
「ヴィータ……隊長の事を、頼むぞ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「デュアッ!?」
「どうした、スピードが落ち始めてるぜ!!」
丁度、その頃であった。
セブンはマグマ星人達を相手に、相当の苦戦を強いられていた。
持久戦に突入されては、やはりセブンの不利は必死であった。
だがそれでも、セブンは引こうとはしない。
ヴィータが現れるその時まで、持たせてみせると約束したからだ。
レオからテレパシーがあった時にも、彼はそれを蹴った。
それが、圧倒的な不利を齎すにも関わらずである。
それ程までに、セブンの意志は強かったのだ。
「終わらせるぜ、ウルトラセブン……!!」
「来るか……!!」
マグマ星人が、ここで勝負に出た。
レッドギラスとギラススピンに指示を出し、肩を組まさせる。
双子怪獣必殺の、ギラススピンの構え。
それを見て、セブンはすぐに動いた。
両腕をLの字に組み、必殺の光線技―――ワイドショットを放つ。
しかし……ギラススピンの前には、ワイドショットでさえも通用しなかった。
光線は弾かれ、威力を殺され消滅する。
「ハハハ、ざまぁねぇなぁウルトラセブン!!」
「くっ……!!」
その様を見て、マグマ星人が高笑いする。
ワイドショットすらも通用しない今、セブンの攻撃はギラススピンには何も通用しない。
マグマ星人は、完全に勝ちを確信していた。
セブン目掛けて、双子怪獣が迫っていく。
これを喰らえば、相当の大ダメージを受けてしまうに違いない。
セブンは、何とかして回避しようとするが……ここまでの疲労がたたってしまい、思うように動く事が出来ない。
目の前まで、双子怪獣が迫る。
もはやこれまでか。
そう思い、セブンが覚悟を決めた……その瞬間だった。
「ダンさあぁぁぁぁん!!」
「何っ!?」
「ヴィータ!!」
上空から、ヴィータが駆けつけた。
彼女はセブンの前へと飛び出し、そしてグラーフアイゼンにカートリッジをロードする。
今の自分と相棒ならば、きっとやれる。
ギラススピンを打ち破る事は出来る。
ヴィータはグラーフアイゼンを強く握り締め……そして、一撃を繰り出した。
「見ててくれ、ダンさん……これがあたしとアイゼンの、新しい力だ!!」
グラーフアイゼンが巨大化し、双子怪獣に対抗できるだけのサイズとなる。
直後、ブースターから轟炎が噴出し、ヴィータはその勢いに呼吸を合わせた。
ギラススピンを打ち破る為の、最強の回転が生み出される。
ギラススピンに決して引けを取らない、強烈な旋風が巻き起こったのだ。
「こいつは……やべぇ、ブラックギラス、レッドギラス!!」
「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
マグマ星人はギラススピンを止めて引き下がるよう、双子怪獣に命令を下す。
ヴィータの攻撃が危険であると、直感したのだ。
しかし、双子怪獣がその命令を実行するよりも早く……両者が激突した。
二つの旋風が、激しくぶつかり合う。
やがて……しばらくして、片方の旋風が消える。
打ち勝ったのは……
「よっしゃあああぁぁぁぁぁぁ!!」
「馬鹿な……馬鹿なぁっ!!」
双子怪獣が揃って倒れこみ、海中へと沈んでいく。
ギラススピンは、ヴィータとグラーフアイゼンの前に敗れ去ったのだ。
マグマ星人にとって、双子怪獣の敗北は自身の敗北に等しかった。
もはや、どう足掻いてもヴィータとセブンの二人がかりには勝てないからだ。
ならば、もうここは引くしかない。
マグマ星人は、撤退しようとするが……それをセブンは見逃さなかった。
「逃がさんぞ、マグマ星人!!」
「くそっ!!」
セブンはマグマ星人目掛けて、アイスラッガーを投げつける。
ここで倒されるわけにはいかない。
マグマ星人は、セブンへと振り返りその一撃を受け止めにかかった。
真正面から、サーベルとアイスラッガーが激突する。
ここで堪えきれなければ、全てが終わる。
マグマ星人は、全身の力を振り絞った。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
全力を込め、マグマ星人が腕を振るう。
アイスラッガーが、上空へと弾き飛ばされた。
何とか堪えきれた……これならばいける。
そう思い、マグマ星人が笑みを浮かべた……その直後だった。
「まだだ、マグマ星人!!」
「何……!?」
「いけ、ヴィータ!!」
「ああ、ダンさん!!」
セブンの合図と共に、ヴィータが飛翔する。
グラーフアイゼンをギガントフォームへと変化させ、そして巨大化させる。
狙いは一つ……上空へと打ち上げられた、アイスラッガー。
ヴィータは全力で、アイスラッガー目掛けて鉄槌を振り下ろす。
「ギガントシュラーク・スラッガアアァァァァァァッ!!」
力強く振り下ろされた鉄槌が、アイスラッガーを打ち飛ばした。
その威力とスピードは、セブンが通常に放つそれを遥かに越えている。
マグマ星人は、とっさにサーベルでそれを受け止めようとする。
だが……先程の一撃と違い、これを防ぎ切るのは不可能であった。
「うっ……グアアアアァァァァァァァァァァッ!!??」
一閃。
アイスラッガーは、サーベルごとマグマ星人の右腕を切り飛ばしたのだ。
マグマ星人は、失った右腕を押さえながら、その場に膝を着いた。
武器であるサーベルを失った今……彼にはもう、抗う術すらない。
「終わったな、マグマ星人……」
「くそっ……ふざけんなよ……!!」
「何故ヴィータを襲ったのかと、お前の背後にいる奴に関する詳しい情報。
色々と、聞かせてもらおうか」
セブンはマグマ星人から、知っている全ての事を聞き出そうとする。
ヴィータは彼が暴れださないよう、バインドを発動させて動きを封じようとする。
これで何とか情報を引き出せれば、一気に事態は進展を迎える。
上手くいけば、全てが分かるかもしれない。
そう、セブンは思っていた……しかし。
今まさに情報を引き出そうとした、その瞬間であった。
ガッシャアアアァァァァン!!
「何っ!?」
「空が割れた……あの時と同じだ!!」
音を立てて、空が割れた。
裂け目から、赤黒い異次元が姿を見せる。
セブンとヴィータは、何かが現れるのではないかと思いとっさに身構える。
しかし……その予想は、裏切られた。
空の裂け目からは、何も現れなかったのだ。
二人はこの事態に、思わず呆然とするが……すぐに、その真の目的に気付いた。
「まさか……しまった!!」
「はっ……まだ、俺にもツキがあったみたいだな!!」
一瞬の隙を突いて、マグマ星人が飛び上がる。
この空の裂け目は、彼の為に用意された逃走経路だったのだ。
セブンはとっさにエメリウム光線を放とうとするが、時既に遅し。
マグマ星人は、空の裂け目へと入り込み、完全にその姿を消してしまっていたのだ。
直後、空の裂け目は消滅する。
まんまと、マグマ星人には逃げられてしまったのだ。
「そんなっ……!!」
(だが、これではっきりした……マグマ星人は、やはりヤプールの仲間だった。
ヤプールは、怪獣や超獣だけでなく、異星人までこの世界に……!!)
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「ハァ、ハァ……」
「ふふ……災難だったな、マグマ星人」
「くそっ……あんな隠し玉さえなけりゃ、確実にやれてたってのに……!!」
異次元空間。
逃げ延びたマグマ星人は、ヤプールに出迎えられていた。
生き延びこそできたものの、片腕を失うという重傷を負った彼に、ヤプールは哀れみの視線を向ける。
しかしそれは……災難だったとか、そういう意味は一切含んでいない視線だった。
「……ククク
クククク……」
「ヤプール……テメェ、何がおかしいってんだよ!!」
「いや、何……まさかこうも上手くいってくれるなんて、思ってなかったのでな」
「何!?
……まさかテメェ、最初から俺を……!!
この世界の地球の支配権なんてのは、真赤な嘘だってのか!?」
マグマ星人がヤプールから受けた話の内容。
それは、鉄槌の騎士ヴィータに戦いを挑み、彼女を打ち倒せという事であった。
そしてその見返りは、なのは達が住む地球を支配する権利。
マグマ星人は、ヴィータがそれ程の邪魔者であると解釈していた。
しかし……実際は違っていた。
ヤプールは、マグマ星人が敗れるのを予想していながら、尚もヴィータにぶつけたのだ。
その目的は一つ……ヴィータの、最後の力を引き出させる為。
「まさか、ウルトラマンレオまで現れるとは思わなかったが……まあ、結果的には上手くいった。
鉄槌の騎士は、ヴォルケンリッターの中で唯一一人、デバイスの力を完全に引き出せていなかった。
それを、お前の御蔭で無事に引き出す事が出来た……礼を言うぞ。
これで奴のリンカーコアは、少なからず成長を遂げた……闇の書の完成に、近づけたわけだ」
「ヤプール、テメェェェェェッ!!」
ヤプールの本当の目的を知り、マグマ星人が激怒する。
まんまと、自分はこの悪魔に利用されていたのだ。
残された左腕で、ヤプールへと殴りかかろうとする。
しかし、惜しくもその拳は届かない……ヤプールの念力により、マグマ星人は完全に身動きを封じられてしまったのだ。
「無駄だ……貴様如きに、今の私は倒せん」
「こ、これは……!?
体が全く……馬鹿な、テメェにどうして!!」
「これだけの力があるか、か?
確かにお前の言うとおり、今までの私ではここまでの力は発揮できなかっただろう。
だが……今の私には、力があるのでな!!」
その直後だった。
マグマ星人の足元に、アメーバ状の何かが出現した。
それは相当の数があり……その全てが、マグマ星人の足を伝い、徐々に全身を覆いつくそうとしていた。
「なっ……なんだよ、こいつ等は!?」
「これが私の得た、新たな力だ。
この知的生命体がなければ、私はこうも早く復活する事は出来なかっただろう……食らい尽くせ」
「やめろ、やめてくれ!!
やめ……!!」
マグマ星人は、完全にその生物へと覆いつくされ……そして自我を失った。
謎の生物達に寄生され、意識を完全に失い……ヤプールの傀儡と成り果てたのである。
この生物達は、ヤプールがなのは達の世界に来て最初に出会った存在。
彼がメビウス達の予想を越えて、余りにも早く蘇った原因。
異世界において、時を同じくして消滅した筈だった知的生命体。
ウルトラマンダイナによって、滅ぼされた筈であった……宇宙球体スフィアであった。
アスカがなのは達の世界へと転移されたのと同様に、スフィアも彼女達の世界へと降り立っていたのだ。
そこに、瀕死の重傷を負ったヤプールが現れ……ヤプールは、スフィアの力を吸収する事により完全復活を遂げたのだった。
そして同時に、スフィアを統率する長ともなったのである。
「さて……他の者達は、どうしているかな?」
ヤプールが上空を見上げると、異世界の風景が映し出される。
そこにいたのは、残る三人のヴォルケンリッター……そして、ウルトラマンダイナ。
彼等もまた、ヴィータ同様に戦っていたのだ。
強敵―――ウルトラマン達と。
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「ダンさん……本当、ありがとう」
「こちらこそ、御蔭で助かったよ。
ありがとう、ヴィータ……まあ、ゲンには少し悪い事をしてしまったが……」
丁度その頃であった。
戦いを終えたヴィータとダンの二人は、互いに感謝の意を述べていた。
御蔭でゲンには少々そんな役回りをさせてしまったから、それに関しては後で謝っておかなければならない。
ちなみに彼は、予想以上に受けたダメージが大きかった為、ダンの勧めもあって先に光の国へと帰還している。
「……でもさ。
あたし達……本当は、敵同士なんだろ?」
「ああ……本来なら、俺は今すぐにでも君を捕まえなければならない立場だ。
だが……君がいなければ、俺は奴等に負けていたかもしれないのも事実だ」
「それを言うならあたしだって、ダンさんの御蔭で強くなれたんだし……」
「そう、お互い様だ。
だから……今回は、互いにここで引くとしよう。
次に出会った時には、完全な敵同士……それでいいだろう?」
「ああ……そうだな」
本来ならば、敵同士戦わねばならぬ立場にある。
しかし、今はその気も起こらなかった。
ならばここは、お互いに引き下がるのみ……敵同士として戦うのは、次に出会った時から。
二人は互いにそう約束し合い、この場から去ることにした。
「最後に一つだけ、聞かせてくれ。
君は、闇の書を完成させて何を望んでいるんだ?」
「……闇の書さえ完成すれば、持ち主は強大な力を得る。
例え、重い病気とかを持っていたとしても……そいつを、克服できるかもしれない可能性はあるんだ」
「……そうか。
やはり君達は、守る為に戦っていたのか……」
「ああ……ダンさん、そろそろあたしは行くよ。
このままじゃ、何か色々と話してしまいそうだし……じゃあな!!」
これ以上、何かを喋ってしまう訳にはいかない。
ヴィータは踏ん切りをつけ、ここから去ることにした。
即座に転移魔法を発動……その場から、姿を消す。
ダンはただ、それをじっと見つめているだけだった。
「ふっ……次からは、か。
こんな事、本当なら駄目だというのは分かっているが……俺も甘いな」
ダンは、自分が甘いという事を自覚していた。
メビウスや仲間達の事を考えれば、ここで彼女を確保する事が最善だというのに。
どうやら自分は、女性には弱いらしい。
地球を守るためにウルトラ警備隊の一員として戦った時も、それは常々実感できていた。
最近の話で言えば……大切な者を守りたいと願う一人の女性の為、救世主としての力を一人の若者に託した事もそうだろう。
「……彼女達にも、そしてヴィータにも、守るべきものがある、か。
……辛い戦いになりそうだな……メビウス」
最終更新:2008年02月08日 10:12