魔法少女フルメタなのは
第二話「流れ着いた兵士達」
ミッドチルダの首都クラナガン。その一角にある時空管理局機動六課隊舎。
先程まで静寂で包まれていたこの場所だが、今ではエマージェンシーコールが鳴り響く騒がしい場所となっている。
「何が起こったん?」
作戦室に入ってきたのは六課の部隊長にしてオーバーSランク魔道士、八神はやてである。「強大な次元振反応を確認、その同地区に大型の熱源が出現するのを感知しました。」
「場所は?」
都市部の外れ、廃棄都市区画です。」
はやての問いに、六課メンバーのシャーリーとグリフィスが答える。
「スターズ分隊を目的地に調査に向かわせてや。ライトニング分隊は出動準備のまま待機や。」
「了解。」
六課フォワードメンバー・スターズ分隊は輸送ヘリ「ストームレイダー」で廃棄都市区画へと向かう。
「ねぇティア、次元振はともかくさ、大型の熱源て何だろうね?」
スターズメンバーの一人、スバル・ナカジマが言う。
「アンタね、それの調査があたし達の仕事でしょ!?」
同じくスターズメンバー、ティアナ・ランスターが呆れ気味に答える。」「あ、そっか。」
「ハァ…アンタは本当にいつもいつも…」
あっけらかんと言うスバルに対し、ティアナは嘆息する。
「にゃはは…まぁガジェットの反応もないし、それ程危険な事にはならないよ。」
スターズ分隊長、高町なのははそんな二人を見て、苦笑しながら言う。
「でも何があるのかは分からねぇんだ。あんまし気を抜くなよ。」
スターズ副隊長、ウ゛ィータが忠告する。
「「はい!!」
「ったく、返事だけは一人前だな…」
「にゃははは…」
とても任務中とは思えない空気のまま、ヘリは目的地に到着した。
「データだとこの辺りの筈だよ。」
「あっ、あれじゃねぇか?」
ヘリから降り、バリアジャケットを装着した四人は、少し広い場所に倒れていた“それ”を発見した。
「これって…ロボットっていうやつ?」
そこにあったのは、8メートル程の大きさの白と灰色の二体の鉄の巨人だった。
「うん…一般的にそう言われる物だろうね。」
ティアナとなのはは静かにそう呟く。
が、スバルはというと…
「すっごーい!!!ねぇねぇティア、ロボットだよロボット、くぅ~かっこいいー!!」
子供のようなはしゃぎっぷりであった。
「うっさいバカスバル!!」
「あう!」
お気楽な事を普通に言うスバルに、ティアナは脳天チョップを利かす。
「はしゃいでんじゃないわよ!危険なモンだったらどうすんのよ!ですよね、ウ゛ィータ副隊長?」
ティアナはウ゛ィータに同意を求めるが、当の副隊長は、
「ああ…そうだな…」
上の空で聞き流し、目をキラキラさせながらロボットを見ていた。
「………」
完全に沈黙するティアナ。
「あ、あははは…まぁとにかく調査しないとね。」
気を取り直してロボットに近付なのは。
しかし、彼女が軽く表面に触れた瞬間、二機のロボットが光を発した。
「な、何!?」
光は機体全体を覆い尽くし、それが収まった時、そこにロボットの姿は無かった。
「あ~っ、かっこいいロボットが~!?」
「なのは、テメェ!!!」
非難と怒号を同時にぶつけるお子様コンビ。
「え、えぇ~!?」
悲しみと怒りを宿す瞳に詰め寄られ、後退るなのは。
それを呆れながら見ていたティアナだが、ふとある物を発見した。
「皆あれ見て、人が倒れてるわ!」
その言葉に騒ぐのを止める三人。そして前方を見るとロボットのあった場所に二人の男が倒れていた。一人は金髪の青年、もう一人は黒髪の少年だった。
「大丈夫ですか!?」
急いで駆け寄るなのは達。
「…大丈夫、生きてるよ。ロングアーチに連絡、至急医療班を!」
生命反応を確認し、指示を飛ばすなのは。
「ふぅ、あとは…ん?」
連絡を終え、倒れている二人を運び終えたスバルが、何かを見つけて拾った。
「これって…デバイス?」
「う…」
意識を回復させた宗介は、まず自分がベッドに寝かされている事に疑問を抱く。
(どういう事だ…俺はたしかアーバレストのコックピットにいて、あの光に…)
そこまで思い出して、宗介は飛び起きた。
「クルツ!!」
自分を救う為に巻き添えになった仲間の名を呼び、周りを見渡す。
「すぅ…すぅ…」
隣のベッドでまだ眠っている相棒を見つけて安堵する宗介。
「クル…」
そして手を伸ばして起こそうとした時、部屋の扉が開いた。
「あ、目ぇ覚めたん?良かった~、ケガとかないのに丸一日も眠ってたから心配したんよ?」
入ってきたのはなのは、はやての二人であった。
しかし、二人の姿を確認した途端、宗介の表情に警戒の色が浮かんだ。
「君達が俺達を助けてくれたのなら、まずはその事について礼を言う。だが、ここはどこだ?君達は誰だ?」
長年の軍隊生活で身に着いた口調と癖がここでも発揮された。
それを聞いたはやて達は表情を少し曇らせる。
「ご挨拶やなぁ~、こんな美少女が目の前におるのに、他に言うことないん?」
そう言って冗談めかしてセクシーポーズをとるはやてだが、彼を知る者なら誰もが認めるミスター朴念仁の宗介に、それは通用しなかった。
「美しくてもそうでなくても、見ず知らずの人間を簡単には信用できん。第一、君は少女という年齢には見えん。」
言った瞬間、部屋の空気が凍り付いた。はやては先程のポーズのまま固まっていた。
「はやてちゃん…」友人を心配するも、掛ける言葉が見つからないなのはだった。
その後、何とか復活したはやては宗介に自己紹介と幾つか質問をし、彼が管理外世界の人間である事を確信した。
そしてここが魔法世界であるという事実は、起動したデバイスや簡単な魔法を見せることで理解させた。
「何と…だが、しかし…」
今一つ納得しきれない宗介に、背後から声がかかる。
「オメーはいい加減、その石頭を軟らかくしろよなソースケ。」
「クルツ、起きていたのか。」
クルツはむくりとベッドから起き上がり、三人の方に向き直る。
「あぁ、今さっきだがな。それより魔法の世界とはな~、ぶったまげたぜ。」
「まぁそうだろうね。私も初めて知った時は驚いたよ。」
そう語るなのはにクルツは目を向け、
「あんたも俺らと同じなのか?」と聞く。
「近いところはあるかな。ここへは私の意思で来たんだけどね。」
「ふーん。あ、それより助けてくれた事の礼をしてないな。」
「ええよ、そんなお礼なんて~。」
「何ではやてちゃんが照れるの…」
「まぁ二人とも関係してるからな、お礼は両方にしなくちゃな。では、まずはやてちゃんから…」
そう言うとクルツははやての手を取り、ゆっくりと顔を近付けて行く。
「ちょっ、クルツさん!?」
突然近寄ってきたクルツの甘いマスクに、はやては顔を真っ赤にする。「大したことはできねぇけど、せめて俺の熱いベーゼを…」
だが、彼の唇がはやてのそれと重なる事は無かった。なぜなら…
「はやてから離れろおおお!!」
遅れてやって来たヴィータが状況を瞬間的に判断、起動したグラーフアイゼンをクルツに叩き付けたからだ。
「ぐふぅ!!!」
クルツは勢いのままに吹き飛び、壁面とキスすることとなった。
そんな中、宗介は一言、
「良い動きだ。」とだけ言った。
物事に動じない男であった。
騒ぎが収まった後、はやては二人に話しかけた。
「ほんでな、今日うちらが来たのは見舞いだけやのうて、二人に話があったからなんよ。」
宗介、クルツの両名は顔を見合わせる。
「話とは、一体何だ?」
「うん。二人とも、一般人やのうて、何処かの組織と関わりのある人やろ?」
それを聞き、二人は表情を硬くする。
「何故そう思う?」
「宗介君のしゃべり方、クルツさんの着てた戦闘服、何より二人の持ってた認識票と拳銃。一般人と信じろっちゅー方が無理や。…本当の事、話してくれへん?」
何も言い返せない二人。宗介は少し考えた後どうしようもないと判断し、事情を話し始めた。
「俺達は、ミスリルという紛争根絶を目的とした組織の兵士だ…」
機密には触れない程度の情報、そしてここに来たおおよその経緯を話す。
「その光に飲み込まれた後、気付いたらここにいた。間の事は何も覚えていない。」
「…成程な。大体の事情は分かったわ。」
話を聞き終えたはやてはそう言った。
「まぁ今の話聞いたんは局員としての仕事の一環や。必要な所以外では話さんから安心してや。」
「助かるぜ、はやてちゃん。」
口元を綻ばせてクルツが言った。
「で、もう一つだけ聞きたい事があるんや。こっちは私の要望が主なんやけどな。」
「何だ?言ってみろ。」
「うん。君達二人、魔道士になる気はあらへん…?」
続く
最終更新:2007年12月23日 21:22