「主はやてから、ある程度話は聞いていたが、状況は相当酷いようだな」
シグナムが深刻な表情で言いながらなのはの方を振り向くと、なのはは暗い表情で
膝の上に置いた手を見つめていた。
「フェイトちゃん…」
突然、ヴィータがなのはの前にやって来て、彼女の顔に両手を当てて自分の方を振り
向かせて大声で言った。
「テスタロッサは大丈夫だ、そうだろ!? なのは!!」
周囲の人間が、驚いて振り向くのも構わぬヴィータの剣幕とその真摯な視線に、なのは
は眼を見開いてヴィータを見つめる。
続いて、シグナムが励ますように笑顔で言った。
「なのは、テスタロッサはかつて、お前のスターライトブレイカーの直撃にすら耐えた
のだろう? ならば、前線基地一つが壊滅する程度の攻撃では死なんよ」
「シグナム。それ、フォローになってねーんじゃ…?」
ヴィータが白けた表情で言うと、シグナムは鼻白んで天井を見上げながら言った。
「む…そ、そうだな…」
なのはは首を横に振り、微笑みながら言う。
「ううん、今まで色々と大変な事はあったけど、私もフェイトちゃんも――」
なのははそこで一旦言葉を切り、二人の肩に手を置いて、再び話し始める。
「そして、みんなの力でそれを乗り越えていったんだよね。
ありがとう。ヴィータちゃん、シグナムさん」
なのはが多少ながらも力を取り戻したのを見て、シグナムとヴィータは互いに顔を
見合わせ、笑みを浮かべた。
実用性に優れた、質素な家具が並ぶ広い洋間。
部屋の中央部にはテーブルがあり、そこには二つの高級ソファーが向き合う形で配置
され、一方には恭也・美由希とヴィヴィオが座っている。
反対側に座るのは、コバルトブルー一色に統一されたパスリーブクレリックシャツと
ロングスカートの、桃子と同年代で、オパールグリーンの髪に額に紋章の入った女性。
ボストンレッドソックスTシャツに迷彩色のハーフパンツを穿いた、犬耳と尻尾を
生やしたオレンジ髪の少女。
ロボットのおもちゃで遊ぶ二人の子供をあやす、黒の半袖ポロシャツに白のカジュアル
パンツの、二十代前半の栗色のショートヘアーの女性。
彼女たちは、窓際に表示されている空間モニターを真剣な表情で見つめていた。
「現在のところ、基地及びその周辺で生存者が確認されたという情報は、残念ながら
入っておりません」
モニターには、演壇に立ったゲラー長官が、フラッシュを浴びながら記者や視聴者に
向けて語りかけている。
「しかし、政府は、生存者の捜索と救出に全力を尽くすべく、次元航行部隊を当該
世界へ向けて緊急派遣し、事件についても、現在総力を挙げて調査中です。
この残忍かつ一方的な攻撃の重大性、攻撃の規模と、推定される犠牲者数の多さを
鑑みて、元老院は時空管理局統合幕僚会議の諮問に同意し、管理内外世界総ての部隊に
DEFCON3体制を発令。最高レベルの防衛準備体制に移行しております」
「なのは達が慌てて帰っていったのは、このためか」
恭也は、モニターを見ながら呟く。
「ごめんなさいね、久しぶりのなのはちゃん達との再会に水を差すような事になって」
ティーカップを持った、オパールグリーン髪の女性が申し訳なさそうに言うと、美由希
が首を横に振って答える。
「リンディさんが謝る事はありませんよ。むしろ、娘さんが行方不明ですごく心配でしょう」
リンディ・ハラオウン次元部局執務統括官は、硬い表情でカップのお茶を少し飲んでから、
小さく言う。
「そうね。血の繋がりはなくても、大切な娘だから…」
「フェイト…」
リンディの隣に座る、オレンジ髪の少女が不安げな表情でモニターを見つめながら
言うと、栗髪の女性が少女に問いかけてきた。
「アルフ、フェイトちゃんの気配とか何か感じない?」
エイミィ・ハラオウンの言葉に、フェイトの使い魔アルフは、目を閉じて意識を
集中する。
「ダメ、世界が違うから何も」
アルフはしばらくして目を開き、体の力を抜いて天井を仰ぎながら言った。
「でも、フェイトが助からなかった場合、契約が消滅して…魔力供給に影響も出る
はずだから…」
アルフから続いて出た言葉に、リンディは期待を抑えきれない口調で言った。
「じゃあ、フェイトはまだ…」
「確証はないけど、生きてるとは思う」
アルフの言葉に、リンディにエイミィとヴィヴィオの表情が少し明るくなり、恭也
と美由希は顔を見合わせて頷いた。
「フェイトママ…今、どうしてるんだろう……?」
ヴィヴィオは、遠い世界で必死に生き残ろうと戦っている、もう一人の母親を憂え
ながらぽつりと呟いた。
最終更新:2007年12月24日 10:20