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第1158管理外世界。
そこは、巨大な砂丘が果てしなく続く死の世界。
強烈な陽射しが砂を焼き、目を灼き尽くさんばかりに照り返してくる。
時々吹く風が砂を巻き上げ、その跡が風紋となって砂上に刻み込まれていく。
突然、砂丘の一角が盛り上がり、砂の中から潜望鏡のように、髑髏を思わせる
金属製の頭部が現れた。
光学映像、赤外線、紫外線。人間よりも遥かに広い視野と高感度の眼が、周囲
を隈なくスキャンする。
数秒後、目指す目標――黒布に包まれた担架を、交代しながら運ぶ十人弱の人間
たち――を発見。より接近しようと、頭部は再び砂の中へ潜り込んだ。

陸・空の魔導師たちは、体内総ての水分を蒸発させるかのような、凄まじい炎熱
と闘いながら、彼らは砂丘の山脈を踏破する。
やがて、砂に埋もれかけた、いつごろ死んだか分からぬ、東洋の竜に似た巨大な
生物の骨が横たわる場所に差し掛かると、魔導師部隊はそこで休憩する事に決めた。
幸い、背骨を頂点に、両側へトンネル状に肋骨が伸びているので、そこへ衣服や
ポンチョを掛けると、即席の日除けシェルターを作る事が出来た。
最も日の当たらない場所に担架を運び込み、他の者たちはその周囲で座ったり
寝たりして、昨夜以来ずっと動きっぱなしで疲れた体を休ませた。

「…見た事ない、バカでかい化物(バケモノ)だったな」
仰向けに寝転がりながら、グーダが呟いた。
「ガジェットドローンにしちゃ火力凄過ぎだし…、戦闘機人にしちゃでか過ぎる…」
「分離主義の連中か?」
体育座りをしているロアラルダルが、横向きに寝ているデ・カタに問いかけると、
彼は首を横に振って否定した。
「いや、奴らにあんなの作れないッスよ。それこそ、ジェイル・スカリエッティ
みたいな、頭のいいクレイジーな奴でなけりゃ…」
それっきり会話は途切れ、辺りを沈黙が覆う。
エップス陸曹は、意識不明で担架に横たわっているフェイトに付いている、
蛇の顔をした女性衛生兵とデュラハの方を振り向く。
「執務官の様子は?」
ブラックアウトが放ったプラズマ弾の直撃を受けた胸部には、バリアジャケット
の上からガーゼが当てられて幾重にも包帯が巻かれ、吹き飛ばされた車両に激突
した時に骨折した両足には、応急の副え木が当てられている。
「出血は、何とか止めることが出来ました。ただ、脚の方はひどい骨折をして
まして、早いうちに本格的な治療をしないと…」
「そうか…」
エップスは、次に胡坐を掻いて座っているエグゼンダに尋ねる。
「次元航行部隊がこちらに来ているはずだ。空戦魔導師(そっち)の方で連絡を
取れるか?」
エップスの問いかけに、エグゼンダが自分のサブマシンガン型デバイスに声を
かけた。
「シューティングスター、次元航行艦とコンタクトを取れるか」
機関部にある、丸くて青い宝石が二・三度瞬いた後、申し訳なさそうな口調で
答えた。
「申し訳ありませんマスター、現在のところ返答はありません」
エグゼンダは、隣で同じように座っているローレンスの方を振り向くが、
彼もまた首を横に振った。
「おいおい、どう言う事だ!? 日頃から、次元航行艦(ふね)と直接コンタクト
を取れるって自慢してたろ!」
メルゲルが、血相を変えてエグゼンダに詰め寄る。
「ああ、そうだ。直接連絡は取れる。ただし、送・受信範囲ってのがあってな、
次元転送可能距離以上では無理なんだよ」
相手の目を見ながら冷静に答えるエグゼンダの姿に、メルゲルは絶句して力無く
うな垂れる。

「僕の村はどうかな?」
突然、黙って大人達のやり取りを聞いていたデュラハが、口を開いた。
彼の言葉に、その場に居る者全員がデュラハに注目する。
「大したものはないけど、水の出る井戸はあるし、執務官を休ませる場所ぐらい
だったら何とかなるよ」
エップスが、デュラハに尋ねる。
「村までは、どれぐらいかかる?」
「この先の砂丘を越えてすぐ、二時間ぐらいだね」
エップスは、生き残りの魔導師たち一人ひとりを見ると、全員が力強く頷いた。
「よし、行き先は決まったな」
エップスがそう言った時、フェイトが微かなうめき声を上げて、目を開いた。

「陸曹! 執務官が意識を!!」
衛生兵の言葉に、全員がフェイトの回りに集まった。
「執務官」
エップスが声をかけると、フェイトは周囲を弱々しく見回して、小さな声で
言った。
「こ…こは…?」
「砂漠のど真ん中です。基地が壊滅した後、ずっと逃げてきました」
エップスは、ゆっくりはっきりした口調で説明する。
「ああ…あれからずっと…逃げて…きたんですね」
フェイトが弱々しく呟いた後、デュラハが水の入った革袋を出し、ストローを
挿してフェイトに差し出す。
「執務官、水飲んだ方がいいよ」
フェイトは、デュラハが差し出したストローに口をつけ、水を二・三口飲む。
「ありがとう…君…は…?」
「デュラハ」
「ありがとう…デュラハ……」
フェイトは、デュラハに微かに微笑む。
「執務官、我々はこれからデュラハの村へ向かいます。
そこで、可能な限りの治療をしますので、二時間ほど我慢して頂けますか?」
エップスがそう言うと、フェイトは微笑みながら弱々しく頷いて、再び目を
閉じた。
「よし、全員出発の準備をしろ。
今度から、執務官を運ぶ連中を中心に横に広がれ。
何か金属を見つけたら大声を出せ。砂に埋もれかけた缶詰でも何でも構わん、
すぐに知らせろ」
エップスがそう号令をかけると、全員が装備をまとめ始めた。

シェルターから少し離れた砂の小山の陰で、先程のと同じ金属製の頭が魔導師
たちのやり取りを見ていた。
彼らが出発の準備を始めるのと同時に、再び砂漠の中へ潜行する。
蠍型の怪物メガザラックは、彼らの会話から次の目的地を定め、先回りすべく
全速力で砂の中を進み始めた。

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最終更新:2007年12月30日 10:15