魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~

第五話「聖夜の夜、そして風魔」

「・・・・」
機動六課宿舎の外、中々人目のつかない所にその男はいた。
黒と白を強調した忍用の着物に、目から下を露出させた兜。その兜から出た少し黒みを帯びた赤髪。
背中には忍者刀を二本、繋げて背負うように差している。
右の肩当てから流れる血、その量は半端ではなく、彼が腰掛けている草が真っ赤になるほどだった。
「・・・・・」
この男は考えた。主から命ぜられた任務を予定通りこなし、横目で大武道会を見ながら帰路についていた途中、光に巻き込まれた。
そして目覚めたときにはここにいた。今と違うのは目覚めた当時、肩に太い木の枝が刺さっていたことだけ。
彼は右肩に刺さっていた枝を抜き、今に至る。何故、自分はここにいるのだろう?
「・・・・・」
どうしようもないので立ち上がろうとするが、肩が熱く焼けるかのような激痛が走る。
立ち上がれずにそのまま倒れこむ男。
ここまでか。そう思った刹那
「あ・・・あ・・・・」
ハチマキを締めた蒼髪の少女が顔を真っ青にして立っていた。
それから、男の意識は途切れた。

「!!」
次に目覚めたとき、室内にいた。
肩は包帯が巻かれ、痛みも和らいでいる。誰が自分をここまで・・・?
上半身だけを起こすと先ほどの蒼髪の少女がいた。
「あ、目覚めたんですね?よかったぁ・・。心配したんですよ?っていっても・・・あたしもパニックになってここまで抱きかかえてきましたが・・。」
えへへ、と恥ずかしそうに笑い頬を赤に染める少女。すると彼女が助けてくれたのだろう。
口を開くが言葉が出ない。彼は小さい頃、「声を無くした」。だからどこぞの戦国最強と同じく、喋れない。
少女が近づき、近くにあった椅子を自分が寝ている布団(ベット)の隣に引き寄せ、座る。
「あなたのお名前は・・・風魔・・さんですか?」
いきなり驚いた。見知らぬ少女に自分の名前を言われたからだ。
少女は自分が驚いたのを見抜いていたかのように自分が持っていた忍者刀を見せる。その鍔にははっきりと「風魔」と彫られていた。
やれやれ、だからわかったのか。肩を落とし、素直に頷く。いかにも自分は風魔小太郎。忍者である。
「あ、あたしはスバル。スバル・ナカジマって言います。ここは機動六課の宿舎の医務室です。」
スバルと名乗った少女。そしてわからない単語が一つ。
(・・・・機動六課?)
今までそんな軍はあったのだろうか。主からも聞いたことはないし、部下からも聞いたことはない。
そんな自分をよそに、スバルという少女は綺麗に切った林檎を爪楊枝に刺し、顔の前に出す。
「はい、あーん。」
「!!!?」
いきなり驚いた。その2。いきなり林檎を自分の目の前に出されても・・・。
顔を逸らすしかない。おそらくスバルから見れば自分の顔は赤いだろう。
「左手だけじゃ食べにくいでしょう?はい、口あけてください。」
確かにスバルの言っていることは筋が通っているが・・・だからと言って初対面の者にそんなことをしていいのだろうか?
      • 数秒後、その林檎を食べきった自分がいた。恥ずかしさで味わう余裕がなかった。
そんな自分の横で嬉しそうに笑うスバル。ふと窓を眺める。雪が降っていた。

宿舎別室で忠勝は機動を開始した。
体を見た。茶色かった。見事な茶色に自分の体が染まっていた。次に鏡越しに自分の顔を見た。
鼻が赤かった。そりゃあもう見事なまでに赤かった。
「おっきいトナカイさん!」
忠勝の目の前で金髪の少女、ヴィヴィオは喜ぶ。ヴィヴィオの足元には赤と茶色のペンキ。
そんな少女の横で「ごめんなさい。」とこれでもかというくらいに何回も頭を下げるエリオとキャロ。
その奥で「止めようとしたんだけど・・・。」とつぶやくなのはとフェイトの姿が。やはり子供相手には甘くなるらしい。
どうやら今日は「くりすます」という祝い事の日らしい。
当然のごとく忠勝は「くりすます」なんて知らないし「となかい」なる動物も知らない。
生きてきた時代が違うだけでこんなに常識も違うものなのである。
三人に連れられ広間に出る。あたりは綺麗な光やらテープやらで装飾されており、忠勝は一瞬見惚れた。
「ぶはっ!!何なんだ忠勝の旦那!その格好は!!」
思いっきり酒を吹き出したのはヴァイスであった。
「あははは、大きすぎるトナカイですねー。」
次にグリフィスが控えめに笑う。まぁ、笑われているのには変わりない。
「なんか忠勝さん、似合ってますねー。」
「うんうん、やっぱり今日だからかな?」
「ヴィヴィオちゃんてばいたずらっ子ねー。」
次にルキノ、アルト、シャリオが忠勝の姿を見て笑う。
忠勝ちょっと拗ねた。
腕を組んでそっぽ向いたはずの方向には・・・大爆笑するヴィータを始め、自分を笑うヴォルケンリッターの面々。
忠勝さらに拗ねた。
ふと下を見ると紙で作った角を付けられ、鼻まで赤く塗られている蒼い狼、ザフィーラの姿があった。
「・・・お前もか。」
ザフィーラの言葉に素直に頷く忠勝。ちょっと、嬉しくなった。

そんなこんなしていく内にクライマックスでプレゼントなる贈り物の交換をしている六課メンバー。
怪我人を看護していたスバルも戻り、広間は騒がしくなっている。
当然忠勝はプレゼントを準備していない。渡されてもいない。
一人窓から見える夜空を眺める忠勝。
肩を叩かれた。振り向くとそこに立っているのは八神はやて。
「忠勝さん。はい、プレゼント。」
渡されたのは小さな小包。忠勝はなんで自分に?と思いながら受け取る。
「ほら・・あの時頭なでてくれたやろ?あれで逆にウチが励まされてしもうてな・・。そのお返しや。」
「・・・・」
小包を開けると小さな宝石。なんの捻りもない、丸くて黄色い宝石。
それでも忠勝は大事そうに握り締めた。忠勝はまたはやての頭を撫でる。
「あかん・・・あかんて。また・・・。」
「はやてに近づくなー!!」
忠勝、鉄槌で殴られる。
頭を抱えて立ち上がると目の前にはグラーフアイゼンを構え、巨大なソリの上でリィンフォースⅡとともに仁王立ちするヴィータ。
いつの間にか自分の体はソリから伸びるロープでつながれていた。
「テメーはソリでもひっぱっとけー!!」
「ひっぱっとけ。ですー!!」
忠勝は素直にそうすることにした。ただし、ちょっと捻った。
両手を前に突き出し、目を赤く光らせると背中の紋章から二門の巨大なロケットが。

忠勝、機動形態。

「え、ちょっと待て、落ち着け忠勝、ただかつ!ただかぁぁぁぁぁぁぁつっ!!」
悲鳴とともに巨大なトナカイはソリの上に二人の小さなサンタを乗せたまま、夜空へと飛び立った。

そのころ、かつて伝説の忍と呼ばれた風魔小太郎と、いつの間にか侵入した鬼、長曾我部元親は医務室で話をしていた。
「・・・・」
「わかってらぁ。なんで俺等がこんなとこに飛ばされちまったか・・・だろ?」
元親の言葉に頷く風魔。
「俺だって知りてぇよ。ま、事故・・・と考えたほうが手っ取り早い。」
本多忠勝が失踪した後、次に元親、そして風魔。
実を言うと、何も関連性がない。したがって手がかりもない。
「戦国最強さんには会ってねぇが・・・ここにいるらしいな。」
巨大な錨を持ち、ドアに向かう元親。
廊下に出る前に立ち止まり、廊下側を向いたまま元親は言う。
「・・・・風魔。死ぬなよ。戦国時代にいた時ぁ敵同士だったが、ここにいる間は数少ねぇ仲間なんだからよ。」
最後に「じゃあな」と言い放ち、立ち去った。
「・・・・」
風魔はまた窓から見える風景を眺め、物思いに耽る。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年12月25日 11:51