Devil never Strikers
Mission : 05
girls in underground


 地下水路。
 それは薄暗く、ジメジメした空間で人が歩く事はまず無い。
 だが今日に限って何人もの人間が歩く事になる。

 一人目はとても幼い女の子だった。
 腕には鎖が巻きついており、その先はケースに繋がれている。
 ケースの中身はレリック。
 そのレリック反応を捉えたガジェットドローンが少女を追いかけている。
 今はまだ振り返っても見えないが、この少女の足では数分もすれば追いつかれるだろう。
 捕まったらガジェットからは邪魔物とみなされ、排除されるだろう。
 小さな体には重過ぎるケースを引きずりながら逃げる。

 出来るだけ遠くへ、出来るだけ速く、だがガジェットのボディが風を切る音が刻一刻と迫ってくる。
 最初は時計の針の音の様な大きさだったが、次第に大きくなっていく。
 そしてそれが自分の背中から鳴っているのではないかと思った瞬間、ガギィンという鈍い音が響いた。

 何が起こったのか分からない。
 だが今の音の正体を確かめないと次の瞬間に何が起こるかも分からない。
 勇気を振り絞り振り返った少女が見た物は、
 壊れたガジェットが一体と、それでもまだ何体もいて自分を取り囲んでいるガジェット、そして血のように赤いコートを纏った男だった。

「よう、嬢ちゃん。迷子か?」

 自分の体ほどもある大剣、リベリオンで少女を救った男、ダンテはまるで街中で泣いてる子に話しかけるように言った。
 お前らなんて、迷子の相手をしながらでも相手に出来る。とでも言っているような態度だ。
 もしガジェットに意思があれば間違いなく怒りを買っていただろう。
 それでもこの少女にとってダンテは自分の味方だと思える人間だった。

「ママがいないの」

 気がついたら自分の不安を打ち明けていた。
 母親がいない、だから探している。
 この場所と状況に似つかわしくない不安ではあるがこれが今の少女の不安だった。
 その不安を聞いたダンテは考えこむ。

(捨て子か?それにしてもこんな所に?まだ橋の下のほうが良心的だな)

 かなり見当外れな結論に至ったがそれを訂正できる者はここにはいない。
 代わりにいたのは突如現れた闖入者を敵とみなしたガジェットの攻撃だった。

「おっと」

 少女をケースごと抱え、その攻撃を避ける。
 全て避け生じた隙を狙い、大剣リベリオンを投げつけるスタイルアーツ、ソードピアスを繰り出す。
 放たれたリベリオンは一直線にガジェットに飛んでいき、ガジェットを貫き、そのまま壁に貼り付ける。
 一方でダンテはリベリオンを投げた方向とは逆に向かって駆け出した。
 そしてガジェットの隙間を走り抜けたダンテが目指したのはこの地下水路から出るためのマンホールだった。
 十数秒の疾走の後、マンホールの下にたどり着いたダンテ。
 その後ろからはガジェットが列を成して追いかけてくるが、一番後ろを飛んでいるのはガジェットではない。
 ダンテが放ったリベリオンだった。
 持ち主の下へと戻ろうとするリベリオンが全てのガジェットを切り裂く。

 ダンテがリベリオンを掴んだ時、ガジェットは全て只の鉄クズへと姿を変えていた。
 リベリオンを収め、アイボリーを真上に構え、マンホールの蓋の端目掛けて連射する。
 放たれた弾が蓋を持ち上げ、薄暗い空間に光が差す。

「一端、外に出るぞ…って寝てやがる」

 疲労からかいつの間にか少女は腕の中で眠っていた。
 左手に抱えた重さを何の苦にせず、ダンテは光目掛けて跳躍した。


 ダンテが地下水路でガジェットと戦う少し前、地上にはエリオとキャロがいた。
 この二人は入隊以来始めて貰った休暇で街で遊んでおり、要するにデートだった。
 そのデートの最中、エリオが急に立ち止まった。

「どうしたの?」
「今何か聞こえなかった?何て言うかこう…大剣で鉄を切るような音なんだけど…」

 その言葉にキャロも耳を澄ましてみる。
 するとグサッという音の次にドスッという音が聞こえてきた。
 そして最後ににドスッという音のした所から何かが飛んで行くような音が聞こえてきた。

「聞こえた!まるで投げた大剣が何か鉄みたいな物を貫いてそのまま壁に刺さったような音!」
「その後はその大剣が投げた持ち主の元に戻っていく音かな?」

 まるで見ているんじゃあ無いか?とすら思えるほどの聞き取り力だった。

「あっちのほうに行ったのかな?」

 二人は音をたどり路地裏に入る。
 そこではマンホールが踊っていた。
 正確には踊っていたのではなく下から持ち上げられていたのだが、小刻みに揺れているため踊っているように見えたのだった。
 そしてマンホールが倒れ、中から出てきたのはそれなりに見覚えのある赤いコートの男だった。

「ダンテさん!」
「お前ら、こんな所で何してる?」
「ダンテさんこそこんな所で何してるんですか?というかその女の子は…」
「仕事だ」
「え?ここに住んでるんですか?」
「…どういう意味だ?」
「だって…ダンテさんの仕事って…」

 会話の最中、ダンテの仕事という言葉にキャロが妙な反応をする。
 どうやらキャロはダンテの仕事が警備的な物だと思っているらしい。
 ダンテは誤解を解く気にもならず、左手に抱えていたケースを二人に見せる。

「これはお前らの担当だろ?ついでにこっちの方も任せた」
「え?ちょっと待ってくださいよ!」

 説明を求めるエリオを無視し、少女を地面に降ろしてからマンホールに飛び込む。
 残されたエリオとキャロは相変わらず勝手気ままな悪魔狩人の残した物を見るしかできなかった。

「レリックケースらしき物と…」
「女の子?」
「「何で地下から女の子を?」」

 二人して同じ疑問を抱くが、考えるより先に仲間に連絡を取る事にした。


 連絡をした後はまずスバルとティアナが来て、その後しばらくして隊長達がヘリで駆けつけてきた。
 一緒にきたシャマルが少女を診るが、命に別状は無いらしい。
 診断結果に安堵する一同だったが、まだ終わりではない、むしろここからが本番である。

「ケースと女の子はこのままヘリで搬送するから、みんなはこっちで現場調査ね」
「「「「はい!」」」」

 二週間前とは違う全員揃った掛け声。
 ヘリに戻る隊長達を見送り、それぞれデバイスを機動し、地下水路に降り立った。
 辺りの様子を窺ったティアナが違和感を感じ、口を開く。

「ねえエリオ、キャロ」
「なんですか?」
「ダンテさんは『仕事』って言ってたのよね?」
「え?…はい、言ってました」

 その言葉に納得したのかティアナは近くの排水溝に魔力弾を撃ち込む。
 魔力弾を受けた排水溝から虫が出てきた。
 それも人の体ほどの大きさのやつが何体も。
 ハエ型の悪魔、ベルゼバブだった。

「少し数が多いけど、行くわよ!」
「おう!」
「「はい!」」

 地下水路で、星と雷のチームと青と緑の群れが戦い始めた。


 さて、新人達がベルゼバブと戦っている頃、ダンテはというと、戦いながら色々な人たちに出会っていた。
 まず一人目はキャロくらいの紫色の髪をした小さな女の子だ。

「よう、嬢ちゃん。迷子か?」

 とりあえずさっきと同じ言葉をかけるが、少女は首を横に振り、ダンテの横を素通りする。
 一人目はこれだけ。


 二人目は向こうから話しかけてきた。

「おい!そこの赤いの!」

 その声は後ろからだったので振り返るが誰もいない。
 いないなら気のせいだったのだろう、そう思い歩き始めた瞬間また声が響いた。

「無視すんじゃねえ!燃やすぞ!」

 再び振り返り今度はよく目を凝らしてみる。
 すると手すりのところに何やら人の形をした小さな物体が燃えているのを見つけた。

「お前か?悪いな、小さすぎて気づかなかった」
「テメエ!絶対燃やしてやる!」
「燃えてるのはお前のほうだろ。で、何の用だ」

 燃えている人形サイズの物体――妖精にも見えるそれ――は自分の目的を思い出し、怒りを何とかおさめる。

「女の子を探してるんだ。紫の髪をした子なんだけど、見たか?」
「あっちで見たぜ」
「おお!よくやった!今ので無礼は帳消しにしてやる!じゃあな!」

 そう言ってダンテが来た方向に飛んでいった。
 二人目終了。


 三人目はもっと簡単だった。
 マッハキャリバーとリボルバーナックルに似た武装をした女が通路の奥を横切るのが見えただけだった。


 そして四人目、これが一番面倒だった。
 灰色のコートを着た銀髪の少女で、右目には眼帯をつけているのだが、
 出会うなりナイフを投げて攻撃してきたのだ。
 いきなりの攻撃だったがそれを食らうダンテではない、剣を高速回転させる技、プロップシュレッダーで全て足元に叩き落とした。
 だが敵はそんなの予測済みさ、とでも言うかのように唇の端を吊り上げ――

「IS発動、ランブルデトネイター」

 ――投げたナイフを爆発させた。
 足元で生じた爆発がダンテを襲う。
 普通の人間ならこの時点で死亡、運が良くても大怪我で戦闘不能は間違いない。
 だがこの男は普通などではない。
 爆煙が晴れたそこには、リベリオンを盾のように構えたダンテがいた。

「よう、嬢ちゃん。迷子か?」

 三回目となるこの言葉をかける。だが返ってきた言葉は答えではなかった。

「お前がデビルハンターのダンテか?」
「人の名前を聞くときはまず自分からなのるもんだぜ?」
「その態度、間違いないようだな。私はチンク。妹達では手におえそうにない相手と判断したので私が倒す事となった」

 そういって眼帯の少女、チンクは左腕に翼のような飾りのついた髑髏型の肩当てを付ける。
 それはダンテの良く知る魔具、無尽剣ルシフェルだった。
 いつの間にかチンクの眼帯にはバラがついていた。
 チンクのIS、ランブルデトネイターは触れた金属を爆弾に変える能力だ。
 そしてルシフェルは剣を無尽蔵に生み出す装置で、その剣にも爆発能力がある。
 この二つの能力はとても似ており、合わせて別の効果を生み出すことはできないが、単純な戦闘能力は上昇している。

「ルシフェルだ。昔はあなたの物だったらしいが今は私が使わせてもらっている」
「許可を取る気か? 心配するな、怒っちゃいない。さあ来いよ!」

 チンクが爆弾化させたスローイングナイフを数本放った。
 それをダンテは弾き落とさず避けながら接近する。下手に距離をとればルシフェルとISの二重攻撃を受けるからだ
 チンクが飛び、壁、天井と蹴り、空間を移動しながら固有武装のナイフを撃ちだす。
 飛んでくるナイフを避けながらダンテはリベリオンを振るう。
 だがチンクはバックステップでそれを避けながらナイフとルシフェルをありったけ配置する。
 あの数を食らっては一溜まりもない、そう思ったダンテはさらに距離を詰め、いわゆるクロスレンジに持ち込んだ。
 途端に距離をつめたダンテの後ろで爆発が起こる。
 その間もチンクはナイフとルシフェルの連射を一向に止めない。
 つまりこのまま立ち止まれば爆発に巻き込まれる。そうならないためには走り続けるしかなかった。

 足を止めたらやられる、生死を賭けた追いかけっこが始まった。

 時には壁を蹴り、天井を駆ける追いかけっこは続く、
 チンクが飛びながら配置するナイフを紙一重で避けながら、高速斬撃、ダンスマカブルを繰り出す。
 ナイフやルシフェルの剣を避けながらの高速斬撃をチンクは避けることが出来ない。

「ビンゴ!」
「まだだ!ハードシェル!」

 だがチンクはそれをもう一つの固有武装、シェルコートで防ぐ、そして斬撃の一瞬の隙を持って再び弾幕を張り直す。
 さっきからこのような事は何度かあった。身体能力ではダンテに分があるため、何度かチャンスは訪れるのだがそれをモノにできない。

(コイツを仕留めるにはこのままじゃダメだ。俺にも、向こうにも決定打が無い)

 エボニー&アイボリーではナイフとルシフェルの剣を弾き落とすのが精一杯だし、リベリオンでもこのザマだった。
 最悪、あの防御中は移動できないらしいのでスティンガーからミリオンスタッブのコンボを連発し、無理やりぶち壊す方法もあったが

(そんなチキン戦法はゴメンだね)

 という美学から彼はそれをしない。
 考えながらチンクを追い、曲がり角を曲がったダンテはこの状況を変えられる物を見つけた。
 チンクがジャンプした隙に目的の物目掛けて走り出す。
 当然チンクに背中を向ける形になり、好機と見たチンクがその背中目掛けてナイフを投げる。
 振り返ることなく避けるが、ナイフは次々と投げられる。
 最初のうちは余裕でかわすが、次第に余裕が無くなり、ダンテが目的の物にたどり着いた一瞬後に、とうとうナイフが突き刺さった。
 一本刺されば流れから残りも自然と刺さって行き、ダンテの背中はほとんどナイフとルシフェルの剣に覆われていた。

「よし!IS発動!」

 ランブルデトネイターでナイフを爆発させ、同じタイミングでルシフェルの剣も爆発し、ダンテの姿が爆煙で見えなくなる。

「やったか!?」

 あれは当たった。
 チンクはそう確信し、それは正しい。
 ダンテは避けていないし、直撃だった。
 だが爆煙が晴れたそこには、未だ倒れていない、それどころか『俺の勝ちだぜ』とでも言いたげに、唇の端を吊り上げていたダンテだった。

(やっぱりいい男には、チャンスのほうから来るもんだな)

 ダンテは振り返り、大きな砂時計を持ち上げている金色の像を見る。
 時空神像。
 ダンテが新たな力を得る時に使っていた像だ。
 その力の一つであるスタイルの変更機能を使い、ソードマスターからロイヤルガードにスタイルを変えただけだ。
 そして、ロイヤルガードのスタイルアーツで防いだ。

「今、何をした!?」
「準備は良いか?今度はこっちの番だ」

 だがチンクは知らない。
 そんなダンテの能力など。

「ルシフェル!もう一度だ!」

 ロイヤルガードのもう一つの能力など。

「はぁ!」

 チンクがナイフとルシフェルの剣を投げ、それがダンテに当たる瞬間。

「ショウタイムだ」

 ダンテは最初の爆発で溜めたエネルギーを打ち込んだ。
 ジャストリリース。
 ロイヤルガードのもう一つの能力、リリースを最高のタイミングで打ち込むことによって発動する技だ。
 食らったチンクが吹き飛び、地面に叩きつけられる。
 掌底にも似たこの技は、条件さえ整えればダンテの持つ技の中で最高の威力を持っている。
 いくらチンクが頑丈であってもしばらくは指一本動かせないだろう。

 ダンテは近寄り、話しかけた。

「何故俺を狙った?」
「…話すことは何も無い」
「何者だ?」
「……」
「妹達とは?」
「……」
「やれやれ、だんまりか」

 チンクから情報を引き出せそうに無いと見たダンテは踵を返し、歩き出す。

「殺さないのか?」
「お前に何ができる?」

 すでに戦闘不能の相手を殺すなんて事はしない。
 何も出来ない相手に何かする必要は無いし、また襲ってきたら倒せば良いだけだ。
 必要の無い殺しはダサいからしない。
 本気でそう考える彼は甘いだろうか、確かにそうかもしれない。
 だがそれが彼の美学なのだ。
 それを曲げることは誰にも出来ない。
 例えこれから先、今逃した少女によって何が起ころうとも。


Mission Clear and continues to the next mission

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年06月10日 21:22