魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~
第十一話「天覇絶槍」
「周りのすべての人間は、自分のための道具に過ぎん。そのくせ君達は、自分に向けられる愛情が薄れるのには臆病だ。
実の母親がそうだったんだ・・・。君もいずれ、ああなるよ・・・。間違いを犯すことに怯え、薄い絆にすがって震え、
そんな人生など、無意味だと思わんかね・・?」
「あ・・・あ・・・・。」
スカリエッティの言葉に顔を歪めるフェイト。
その体はスカリエッティの生み出した赤い線で縛られている。最初はトーレ、セッテ相手にもなんとか太刀打ちできたのだが。
「さて・・・・私はどうしたものかな。」
彼の横にいる男が現れたせいで一気に形勢が逆転してしまったのである。男の名は松永久秀。この世界に飛ばされてスカリエッティに協力している男だ。
彼等の拘束と爆破のコンボで次第に押されはじめ、今に至る。
バリアジャケットは煤にまみれ、いたるところに切られた跡が。一方の二人は無傷。
まさに圧倒的、という所だろうか。そんな中に少年と少女の声が響く。
「違う!!」
叫んだのはモニターの向こう側にいるエリオとキャロ。横には伊達政宗と片倉小十郎の姿も見える。
二人は少し笑っている。そして次に口を開いたのは政宗だ。
「HEY!そこのフェイトとか言う嬢ちゃん!今のアンタに必要なモン・・・それは勇気だ。」
そう言うとエリオとキャロの頭にポン、と手を乗せる。
「それにこいつら、利用されてるなんて微塵も思っちゃいねぇ。ほら、言ってやんな。」
手を離し、政宗は鼻で笑うと腕を組んで背を向ける。二人は互いの顔を見て頷く。
再びモニターへ目を向け、口を開いて自分達が今、言わなければならないことを言葉にする。
「無意味なんかじゃない!」
「僕達は、自分で自分の道を選んだ!」
「フェイトさんが、行き場のなかった私にあったかい居場所を見つけてくれた!」
「たくさんの優しさをくれた!」
「大切なものを守れる幸せを教えてくれた!」
「助けてもらって、守ってもらって、機動六課でなのはさんに鍛えてもらって。」
「やっと少しだけ、立って歩けるようになりました。」
政宗は二人の言葉を聞き、普段の彼にはない、穏やかな微笑をする。
フェイトの心には少しずつ、少しずつ。希望の光が。
「フェイトさんは、何も間違ってない!」
「不安なら、私達がついてます!困ったときは助けに行きます!」
「もしも道を間違えたら僕達がフェイトさんを叱って、ちゃんと連れ戻します!僕達が・・・皆がついてる!」
「だから負けないで!迷わないで!」
そして二人の声が、重なる。それはフェイトの心に、光を灯す言葉。
「「戦って!!」」
言葉を聞いた瞬間、フェイトの体の中で何かが爆発したかのように魔力が溢れる。魔力はフェイトの体を包み込むように展開している。
「オーバードライブ…真・ソニックフォーム。」
『SONIC DRIVE』
フェイトの声を聞き、バルディッシュが金色の光を放つ。魔力はさらに上昇。そして魔力の柱へと形を変えた。
思わず身構えるトーレとセッテ。フェイトはゆっくりと目を開いて今の思いを言葉に。
「ごめんね・・・ありがとうね。エリオ、キャロ。」
バリアジャケットは今までのとは違い、マントを無くし、レオタードに近いものとなっていた。
魔力で少し浮いていた足をしっかりと地につけ、バルディッシュを優しく抱える。
「疑うことなんて・・・ないんだよね。」
金属音とともにカートリッジがリロードされるとバルディッシュが二本に分かれ、二本を両手に握る。
「私は弱いから・・・迷ったり、悩んだりをきっと、ずっと、繰り返す。だけど、いいんだ・・・・!」
体を回転させて双剣を構える。目は絶望という汚れは消え、光が宿る。その光は決して消えることのない、強い信念の表れ。
目の前にいるスカリエッティ達を睨む。
「これも全部・・私なんだ!」
スカリエッティが手を動かすと地面が爆発。しかし爆風の中からフェイトが現れバルディッシュを横に凪ぐ。
突然のことにセッテは回避しきれずに手に持っていたブーメランブレードを破壊され、倒れる。
手を握る動作をすると地面から赤い線がフェイトを捕らえようと迫る。赤い線を避け、斬り、敵へと進む。
次に立ちふさがったのはトーレだ。インパルスブレードとバルディッシュの刃がぶつかり合い、火花を散らす。
フェイトは宙で一回転、トーレはその隙を突こうとIS、ライドインパルスを発動。紫の光となってフェイトを追う。
空中で激しく激突する金色の光と紫の光。トーレの頬が切れ、フェイトの肩にも軽い切り傷が。
一回止まると二本に分かれたバルディッシュを一本に装着。大剣の姿、ザンバーフォームとなる。それでも迫ってくるトーレに向かいバルディッシュを振り下ろす。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
防御したトーレだがしばらくするとインパルスブレードが砕け散った。スカリエッティと松永の横を過ぎ、壁に激突して倒れる。
次にスカリエッティへと向かうが顔に何かがかかる。
「うっ・・・!!」
目に入ってしまい、そのまま落下するフェイト。かろうじて目を開けると松永が立っていた。手には砂のようなもの。
「それは火薬かね?」
「そういうことだ。ものは使いよう・・・とも言うだろう?」
目を擦りながら立ち上がり、再び構えようとする前に顔面の真横に小さな爆発が起きる。
「ああぁっ!」
小さいとはいえ吹き飛ばすには十分威力がある。壁にぶつかり、うなだれるフェイト。
額からは血が流れ、ゆっくりと目を開けるとフェイトを守るように赤い魔方陣がそこにあった。まさに溶岩の如く。
赤い魔法陣から何か出てきた。揺らめく火の粉。火の粉は火に。火は炎に。炎は火炎に。どんどん大きさを増す。
そして爆発。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
中から出てきたのは人。赤いコート、赤いハチマキに槍二本。首にかけているのは六文銭。
若き虎が、フェイトの前に降り立つ。槍の切っ先をスカリエッティと松永に向ける。
「忠勝殿との色々な義により、助太刀いたす!!うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
槍を交差させ、天に掲げる。
「天!!」
交差させた槍を一回離し、足元でまた交差させる。
「覇!!」
切っ先をまた二人に向ける。
「絶槍!!」
さすがの二人も突然のことで少し驚いているようだ。とはいっても少し目を見開いただけでたいしたリアクションではないのだが。
若き虎はあたりに炎を揺らめかせ、鋭き眼光を向ける。
「真田幸村、見ッ参ッ!!」
突然現れた赤き武将、真田幸村。そんな乱入者にも冷静に対処し、手を動かし赤い線を出現させるスカリエッティ。
襲い来る赤い線を槍で切り裂く。槍の先端には炎が宿り、描いた軌道には火の粉が降り注ぐ。
最後に火薬を投げて腰に挿してあった刀で地面を擦り、生じた火花で火薬を爆発させる。
だが、それぐらいで幸村は止まらない。煙を掻き分け尚も雄たけびをあげながら二人に向かってくる。
交わるスカリエッティがはめているグローブの刃と槍の刃。
「燃えよ・・・我が槍、我が魂!!命の限り道を開けぇ!!」
主の雄叫びに答えるように槍に宿った炎が大きくなる。スカリエッティの刃が焼け、溶けていく。
幸村は槍を引き、相手の体勢を崩すと二本の槍を一本に連結させて回転。スカリエッティを宙へと飛ばす。
「大ぃ車輪!!」
飛んできた方向にはフェイトがいる。バルディッシュを構えてまた打ち上げる。
幸村はスカリエッティの落下している真下に走る。大地を蹴り、跳んだ後に回転、槍二本の横凪ぎでスカリエッティを叩き落す。
「朱雀翔!」
叩き落してバウンドした後も幸村は逃さない。降りて目の前に立つとまた槍を一本に連結。拳に炎が集まっていく。
「虎炎!!」
炎の拳はスカリエッティの顔面に直撃、宙で人形のように吹き飛び、やっと倒れることを許された。
直撃した顔は火傷だけではなく、大きく歪んでいた。
「ほう・・・・真田幸村か。これはこれは、予想外の客だな。」
「永松久秀ぇ!今までの悪行、この真田が許さん!!」
「はっはっは、相変わらず熱いな。卿は。」
「問答無用!!虎炎!!」
炎の拳を突き出すが刀で防御され、押し返される。直後に刀を振り下ろすと胸に切り傷が入る。
素早く切り傷に火薬をかけて刀を擦り火花を当てる。至近距離の爆発を避けれるはずもなく吹き飛んだ。
「うぐ・・・ごふっ・・・・!!」
胸から溢れる大量の血。それでも幸村は立ち上がり、槍を構える。
フェイトもそんな彼を見てバルディッシュを構える。
「!?」
「貴方だけに戦わせるわけにはいきません・・・・!!」
幸村とフェイトは顔を見合わせると少しだけ笑い、また真剣な表情で松永を見る。
まず先手を切ったのは幸村だ。槍から炎を吹き出し、自身は回転。回る速さはどんどん増していき、松永に近づく。
爆発で押し返そうとするが炎に守られ、止まらない。
「ぐあぁぁぁあ!?」
炎は松永を身を包み、焼く。幸村は横を通り過ぎて槍を連結。腰を低く構えてじっと待つ。
続いて接近したフェイトはバルディッシュを振り上げて松永を宙へ。落ちてきたところを炎を纏った槍を斜めに斬り上げて吹き飛ばす。
「千両花火ぃ!!」
「はぁぁぁぁあぁぁっ!!」
千両花火でまた吹き飛んだところをバルディッシュの一撃が襲う。気を失った松永は壁をぶち抜いて倒れた。
勝負はついた。フェイトが笑顔で駆け寄ると幸村の表情も笑顔に変わる・・・・が、次第に赤くなっていく。フェイトが首を傾げて近寄る。
「ななななななななんと破廉恥な格好をしとるのだお主はぁ!?」
戦いの最中で気がつかなかったがフェイトの格好はレオタードのように露出が高いバリアジャケット。
まぁ、これで反応しない人がいるとしても女性に慣れていない幸村には多少刺激が強かったようだ。
「え・・・・えぇぇぇぇっ!?」
思わずフェイトも顔を赤くして腕を組んで胸元を隠す。
赤くなり硬直する幸村と同じように顔を赤くして体を縮みこませるフェイトという、戦いの後とは思えない光景が後に駆けつけた伊達政宗のツッコミがあるまで続いたという。
最終更新:2007年12月30日 10:19