「おかえりなさい、少佐」

 ホテル・リオでの闘争から数日。少佐一行は、ミレニアムの本拠地であるジャブローへと戻ってきていた。
 出迎えるは旧ナチス・ドイツの軍服を着た兵士の集団。その数は1000人に少し足りない程度。
 その中から代表で出てきたのは、犬耳の少年『シュレディンガー』。ちなみに階級は准尉である。

「いかがです、空中散歩は。やっぱりこんな穴倉じゃあ息が詰まりますからねえ」

 シュレディンガーは楽しそうに少佐へと話しかけ、少佐は労いの言葉をかけつつ話題を転換した。

「ご苦労。トバルカインが喰われたぞ」
「へえ、やっぱり」

 「やっぱり」という事は、トバルカインの死という結末を予想していたのだろう。
 そして彼は、自信に満ち溢れた様子で言葉を続ける。

「相手はあの『不死者』アーカード。トランプ遊戯じゃいくら吸血鬼になったって……
 だから言ったでしょお? 僕ら『ヴェアヴォルフ』に任せてって。きれ~~に息の根止めてあげるから」
「シュレディンガー准尉、口が過ぎるぞ」

 『ヴェアヴォルフ』……もとは1945年のドイツで生まれた少年兵の部隊で、戦果を過大に宣伝されていたというもの。
 それがこの組織の中では、所属する吸血鬼の中でも特異な能力を持った幹部達の総称となっている。

 シュレディンガーの自信過剰な物言いに対し、口を尖らせてたしなめるドク。だが、当の少佐もシュレディンガーも全く堪えていない。

「まあまあ、良い良い。だが、成果はあった」

 彼の言う成果が何なのかは、前回の話を参照いただくとしよう。
 そしてシュレディンガーが大尉へと同意を求めようとするが……

「ねえ、大尉。そうでしょう? 僕らだったら、HELLSINGなんかは……あ……いや……あの……」

 ……無言の威圧感が漂い、それが口ごもらせる。
 しばらく無言の時間が出来上がり、次に聞こえた声は……

「も……申し訳ありません、少佐殿」

 シュレディンガーによる少佐への謝罪。どうやら大尉の威圧感に負けたようだ。
 それに対して少佐は片手を上げて制し、問いかける。内容は他のヴェアヴォルフがどうしているか、である。

「まあまあ、急にかしこまるな。気持ち悪いぞ准尉。他のヴェアヴォルフの連中は?」
「はい、こんなに早くお着きになると思わなかったんで……多分慌ててこっちに」
「そうかそうか……いよいよだぞ、准尉」

 満足のいく問いを聞いて気を良くした少佐は、シュレディンガーへと言葉を返す。
 その問いの内に含まれた意図を察し、同じようにシュレディンガーもご機嫌な笑顔に。
 そして、その問いに反応したのはシュレディンガーだけではなかった。

「何がいよいよなのかね、少佐!」

 少佐の上官である老人達、通称『オペラハウスの御老人方』がそこにいた。


第七話『AGE OF ENPIRE』(2)


「ジークハイル! 総統特秘第666号に基づく特務を完了し、ただ今帰投致しました」

 少佐が敬礼し、老人達へと報告する。
 総統特秘第666号とは……言うまでもなく、吸血鬼によるもの。それ以外は一切不明である。
 その報告を聞いた老人の一人が、少佐へと肩をいからせて近寄る。もう年だからだろうか、杖を使うのを忘れない。

「貴様は……貴様らは一体、何をしているのだ!?」
「全く完全にお答えできません、大佐殿。
 今は亡き我らが総統閣下の特秘命令は、いかに上官殿のご命令でもお答えできません」

 その老人……いや、大佐の口から飛び出したのは、少佐への糾弾交じりの問い。
 それに対する少佐も、臆することなく反論する。これが舌戦へと発展するのにそう時間はかからなかった。

「これは重大な独断専行、命令違反だ」
「総統特秘はあらゆる命令系統の上位に存在します」
「貴様ごときが総統の名を借りて勝手な……」
「小官は命令を実行しているにすぎません」

 ……訂正。舌戦になる前に勝負はついた。
 大佐は反論することができず、シワだらけの顔に汗とさらなるシワを作って捨て台詞のようなものを吐く。
 おそらくこれが、大佐なりの精一杯の反撃なのだろう。

「何もかも貴様の思い通りに行くと思うなよ、少佐」
「ならば小官の尻でもなめたらいかがです? 大佐殿」

 その捨て台詞に対し、少佐がジョークで返す。それを聞いた兵士達は一斉に大爆笑。
 先ほどの一言で終わりにしようとした大佐だったが、こうまで言われてはたまったものではない。感情に任せて少佐を殴り飛ばした。
 ……刹那、部屋中の空気が変わる。だが、それに気付かない大佐が倒れた少佐へと近付き、尚も話を進める。

「貴様は、我々が何も知らないとでも思っているのか。
 一介のSS(親衛隊)少佐風情が『代行』などと呼ばれて調子付き、調子よく踊っているにすぎん!」

 そう言うと、少佐のすぐ近くで立ち止まり、杖を思い切り振り上げ、吼えた。

「何故我々を吸血鬼化させない!? この化け物め、化け物め! 答えよ少佐!」

 あわや少佐が杖で打ち据えられるか、と思ったその時である。
 杖が手元からバキリと折れる。いや、銃で撃たれて弾け飛ぶと言った方が正しいだろう。
 いきなりの出来事に驚く大佐。それと同時に、クスクスと笑い声が。
 その声の方向に目を向けると……数人の人間がいた……訂正、人間ではなく吸血鬼だ。
 右半身に魔導書のような模様が掘り込まれた女性『ゾーリン・ブリッツ』。
 ハーケンクロイツの首飾りを下げ、マスケット銃を持つ眼鏡の女性『リップヴァーン・ウィンクル』。
 他にも吸血鬼が何人か。彼女らこそが前述の『ヴェアヴォルフ』である。

「そこらへんにしておいた方がいいわよ、大佐。
 そもそもミレニアムも大隊も、少佐が準備して作り上げたモノ。あなたたちは後から来て、たまたま階級章の星が多かっただけ。
 居候の分際であんまりおいたが過ぎると……ブッ殺しちゃうわよ、おじいちゃん」

 ゾーリンが大佐へと警告を発し、その直後に部屋の空気がさらに変わる。
 例えるとすれば、先ほどまでの空気は『殺意』に満ちたモノであるのに対し、今の空気は『敵意』に満ちたモノ。
 その敵意の発生源を探るべく、老人達が辺りを見回す。そして、敵意の元を見つけた。
 ……それは、部屋中の全ての存在だ。部屋中にいる少佐と老人達以外の存在全てが、彼らへと銃を向けている。
 いや、銃を向けていない者もいたが、そういった者達も大鎌を構えるゾーリンのように他の武器を向けていた。

「お……お……お前は……何をしようというんだ。
 1000人(一個大隊)の吸血鬼を率いて、お前は一体何をするつもりだ少佐!」

 苦し紛れに少佐へと目的を問いただす大佐。
 その当の少佐はというと、狂気に満ちた目で立ち上がっていた。
 先ほどの殴打の際に切ったのか、口からは血を滴らせている。

「私の目的?ふふ、目的ですか、大佐殿……
 戦争の歓喜を無限に味わうために。次の戦争のために、次の次の戦争のために」

 人間には到底真似出来ないような狂気の笑顔……言わば最狂の笑顔とでも言うべきだろうか。
 少佐はそんな表情を浮かべながら答え、右手の指をパチンと鳴らす。
 その瞬間、先ほどからの敵意が老人達へと向かっていった。
 四方八方から兵士――とうにお分かりだろうが、彼らは全員吸血鬼だ。――が老人達へと駆け寄り、捕縛する。
 上官としての権限で押さえ込もうとするが、兵士達も聞く耳を持たない。完全に無視されている。

「しょっ、少佐! 貴様、こんな事をしてただで済むとでも思っているのか!」

 誰によるものか、最後の頼みの綱である少佐への大声が飛ぶが、当の少佐は嬉々としてシュレディンガーへと指示を出す。
 最高司令官である少佐どころか、末端の三等兵にすら背かれるとは。哀れな結末である。

「シュレディンガー准尉、頼みたいことがある。一つは円卓会議への特使、もう一つはスカリエッティ君への伝言だ。
 スカリエッティ君への伝言の内容は――――」


 一方その頃、ミッドチルダではとある闘争が起こっていた。
 時空管理局中将『レジアス・ゲイズ』によって造られた兵器『アインヘリアル』。それを制圧すべくスカリエッティ一味が行動を開始している。
 対する管理局魔導師はというと、スカリエッティの作った兵器『ガジェットドローン』の張る結界『AMF』により、魔法が一切通じないという状態だ。
 現時刻は夜の8時。吸血鬼にとっては外での活動が可能な時間だ。

「対フィールド弾を撃てる奴、固まって迎撃!」

 隊長格の魔導師が指示を出し、ガジェットを迎撃。その後すぐに通信機で指令隊へと連絡を入れるが……繋がらない。

「地上指令隊! 指令隊、指令隊! おい応答しrぐはぁっ!?」

 懸命に連絡を入れるが、反応は皆無。そして間もなく彼も反応できなくなった。
 後方からの強烈な一撃。打撃音とともに、何かが折れる音。彼はそれを最後に意識を失った。
 それを実行したのは、少佐の元にいるはずの吸血鬼兵。何故ここにいるのだろうか。
 そして遅れること数秒、大砲を持った少女……戦闘機人『ディエチ』が現れ、吸血鬼兵に言う。

「ねえ、分かってるとは思うけど……」
「『なるべく殺すな』だろ? 改めて言われなくても分かってる。
 こっちにいる間はスカリエッティに従うように言われてるからな。命令に背きはしないさ」

 ……どうやらこの吸血鬼兵は、スカリエッティの元へと派遣されていたようだ。交換条件は大方、戦闘機人二人の貸し出しといった所だろうか。
 先日の地上本部襲撃、そして今回のアインヘリアル制圧。吸血鬼兵はそのために派遣されていたらしい。
 その地上本部襲撃の際の『なるべく殺すな』という命令。それが今回の件でも使われた。そういう事だろうか。


『アインヘリアルの制圧、ほぼ完了しました。妹達も、初回出動からのデータを全て蓄積。行動に反映できています。
 また、少佐から借り受けた吸血鬼兵も問題なく活動しています』
「ああ……素晴らしい、素晴らしいよ」

 スカリエッティのいる「どこか」。彼はそこで戦闘機人『ウーノ』からの報告を受けていた。
 報告の内容は聞いての通り。スカリエッティにとっては万々歳といったところか。
 その報告の最中に、前方に戦闘機人のデータを表すモニターが。そして後方にはシュレディンガーが。
 ちなみに、二人ともシュレディンガーには気付いていない。そのまま戦闘機人の説明を始めた。

『失敗が目立つ人造魔導師と比較して、私達戦闘機人はトラブルが少ないですね』
「事は最高評議会の主導で、管理局が実用寸前まではこぎつけた技術だからね。それを私が随分と時間を掛けて改良したのだ」
「ふうん、だったら吸血鬼でもないのにあれだけ動けるのも納得だね」

 その声で、スカリエッティがようやく後ろを振り向き、シュレディンガーの存在を確認する。
 いつでもどこでも現れるというのは理解していたため、あまり驚きはしない。が、ウーノは少々驚いているようだ。
 その証拠に、普段は感情を顔に出さないウーノが、驚愕の表情で彼へと問いかけている。

『……シュレディンガー、あなたは地球にいたはずです。それなのに何故ここに?』
「僕? 少佐のお使いで、伝言を預かって来たんだ。という訳で、少佐からの伝言をお伝えしまーす。
 『こちらの準備は整った。そちらも『ゆりかご』の準備ができているなら、早く合流してくれると嬉しい』ってさ」

 シュレディンガーの伝えた伝言は、これから起こる事を如実に表していた。
 少佐の側は、先ほどの一件で腰抜けの上官は排除。戦力も十分。これから起こす『コト』の準備は完了している。
 一方のスカリエッティの側も、地上本部の切り札たるアインヘリアルは排除完了。あとは話題に出た『ゆりかご』とやらの準備さえ終われば合流も可能である。
 もっとも、問いを投げかけたウーノは自身の望んだ回答が得られなかったようだが。

「いや、ウーノが聞きたい事はそういう事ではないだろう。
 君は確か地球にいたはずだ。それなのに、転移魔法も無しにどうやってミッドチルダに来たのか……
 それを聞きたかったのだろう、ウーノ?」
『ええ、そうです』

 そんな様子を察したのか、スカリエッティが先ほどの問いの意味を言い、ウーノもそれを肯定する。
 それに対するシュレディンガーも答えを返す。もっとも、それは抽象的で、人によっては要領を得ないような答えだが。

「あれ、言ってなかったっけ? 『僕はどこにでもいるし、どこにもいない』って」

 「どこにでもいるし、どこにもいない」……これこそがシュレディンガーの能力の真相であろう。
 前述の通り、彼らヴェアヴォルフは全員特殊能力を持っている。それは階級の低い彼とて例外ではない。
 おそらく彼の能力は『どこにでも現れ、どこからでも消える』というもの。ウーノはそう解釈した。

『なるほど、あなたが持つ特殊能力……そういう事ですか』
「さあね。ま、とりあえずはそーゆー事で納得しといてよ」

 そのウーノの結論を軽く流す。どうやら能力の真相を明かすつもりは無いようだ。
 と、ここでスカリエッティが再び口を開いた。

「伝言は確かに受け取った。シュレディンガー、戻ったら少佐に伝言を頼みたい。
 内容は『こちらの準備もできているから、可能な限り早く合流する』だ。頼めるかな?」


 同刻、次元航行艦『アースラ』。

「アコース査察官から直通連絡!」

 機動六課所属のオペレーター『ルキノ・リリエ』からの報告。
 それを受け取った機動六課部隊長『八神はやて』が通信回線を開き、査察官『ヴェロッサ・アコース』からの通信を受け取った。

「はやて、こちらヴェロッサ。スカリエッティのアジトを発見した。シャッハが今、迎撃に出たガジェットを叩き潰している」

 そう言うと同時に、聖王教会のシスター『シャッハ・ヌエラ』がガジェットを蹴散らす映像が表示され、それが閉じられると同時にヴェロッサが二の句を告げる。

「教会騎士団から戦力を補給する。そちらからも制圧戦力を送れるか?」
「うん、もちろんや」

 そう言うと、はやてはすぐに通信回線を開く。
 通信の相手はライトニング分隊隊長『フェイト・T・ハラオウン』。傍らには同副隊長『シグナム』の姿が。
 フェイトとしても先ほどから鳴り響くアラートの正体が気になっていたらしく、はやての通信を受けてすぐに状況を確認した。

『はやて、どうしたの? さっきから艦内にアラートが鳴ってるけど……』
「スカリエッティのアジトが見つかった。今そこでロッサとシスターシャッハが警備のガジェットと戦ってる。
 フェイトちゃんはライトニングのメンバーを連れて、ロッサ達の手伝いに回ってくれへん?」
『本当? 解った、すぐに行く』

 その声を最後に通信が切れた。
 とりあえずこれで制圧戦力は確保できた。続いてもしもの時に備え、スターズ分隊隊長『高町なのは』に連絡を入れようとするはやて。
 だが、その作業はすぐに中断されることとなった。

「戦闘機人、アインヘリアルから撤収。スカリエッティのアジトに向かって……!?」
「何や、どないしたん!」

 ルキノからの報告が途絶えた事、それは何らかの異常があったことを表す。
 はやてが何事かと思い聞くと……ルキノの口から驚くべき言葉が飛び出した。

「戦闘機人の反応……消失!?」


 それから一時間ほど後、スカリエッティのアジト。
 ライトニング分隊の四人が内部へと進撃していく。道中にいる警備用のガジェットを片端から薙ぎ払って。

「……シグナム」
「ああ……警備が手薄すぎる」

 戦闘の最中、フェイトは違和感を感じ、その違和感が自分だけかと思ったのかシグナムへと話しかける。
 話を振られたシグナムも、その言葉の裏に隠された意味を読み取り、肯定の意を示す。
 違和感の正体……敵の戦力が少ないという事実を。
 残りの二人『エリオ・モンディアル』と『キャロ・ル・ルシエ』はそれを理解していなかったらしく、頭に疑問符を浮かべているようだが。

「え? さっきからたくさんのガジェットと戦ってるじゃないですか」

 理解できていなかったキャロがそう聞き、すぐにシグナムが説明する。

「そうだな。だが、ガジェットしか出てきていない。
 ここが奴らのアジトならば、アインヘリアル制圧に参加しなかった戦闘機人や他の戦力がいるはずだ。だが、それは今までに出て来たか?」

 それを聞き、二人分の疑問符が消し飛んだ。
 ここがアジトなら、侵入者……それもガジェットを片端から叩き潰せるような強者には、それ以上の戦力を送るはず。
 それにもかかわらず、現れるのはガジェットばかり。まるで「他の戦力はいません」とばかりに。
 戦闘機人という強力な戦力がいる事は、地上本部やアインヘリアルの一件ですでに解っている。それにもかかわらず出して来ない……
 それが意味する事を理解できないほど、この二人は愚かではなかった。

「だとしたら、ここがアジトじゃないか……まさか!」
「うん、多分ここは初めから放棄される予定だったんだと思う」

 ゴゴゴゴゴゴッッ!!

「な、何だ!?」

 結論を出すとほぼ同時に地震が発生。震源地は……スカリエッティの元アジト。


「さあ、いよいよ復活の時だ。私のスポンサー諸氏、そして、こんな世界を作り出した管理局の諸君。
 偽善の平和を謳う聖王教会の諸君も……見えるかい? これこそが君達が忌避しながらも求めていた絶対の力!」

 複数の回線を開いた状態で、スカリエッティが大演説を始める。
 その回線の繋がる先は、レジアスのいる地上本部であり、アースラ艦内であり、そしてとうの昔に破壊された最高評議会。
 スカリエッティはそれらを満足げに見回しながら、元アジトではないどこかからの演説を続ける。
 そしてその演説と同時に、先ほどの地震の正体が地下から出現。

「旧暦の時代、一度は世界を席巻し、そして破壊した古代ベルカの悪魔の英知……『聖王のゆりかご』だ」

 ……そろそろスカリエッティの現在地を明かしてもいいだろう。
 古代ベルカの戦艦型ロストロギア『聖王のゆりかご』。彼が今いるのは、そのコントロールルームとでも言うべき場所である。
 そして、先ほどシュレディンガーが言っていた『ゆりかご』の正体でもある。

「見えるかい? 待ち望んだ主を得て、古代の技術と英知の結晶は今その力を発揮する……」

 その言葉とともに、通信回線上の画面が切り替わった。


『ママ……』

 切り替わった画面には、ゆりかごの中枢部と椅子が一つ、そしてそれに縛り付けられている少女『ヴィヴィオ』である。
 母代わりであったなのはやフェイトへと助けを求めるが、今はそれは叶わない。
 何せなのはがいるのはアースラ艦内。フェイトはスカリエッティの元アジトにいる。どちらもすぐにゆりかごの中枢に向かうには時間がかかる。

『痛いよ! 怖いよ! ママ、ママーーーー!!』

 それ故、今のなのはには苦しむヴィヴィオを見ている事しかできないのであった。

「ヴィヴィオ……!」

 地上本部襲撃の際にヴィヴィオを拉致され、精神的に弱ってきているなのはにとってそれは、もはや苦痛を通り越して地獄。
 自身のデバイス『レイジングハート』を握り締め、この地獄に耐えている。涙を流さないだけまだ立派といったところだろうか……


「やられた……こういう事やったんか!」

 一方のアースラブリッジ。はやてはスカリエッティの狙いを察し、歯噛みしていた。
 おそらくアジトはただの囮。そこに注意を向けている間に、自身はゆりかごで目的を果たしに行く。それが狙いだったのだ。
 途中で消えた戦闘機人も、おそらく眼鏡の戦闘機人のISを使ってのカモフラージュだと理解した。クアットロはミレニアムにいるので、実際は違うのだが。
 その間にフェイトからの通信。あるはずの多量の証拠品が何一つ無いという。全てゆりかごに積んだのだろう。
 ……と、それを考えている間にルキノからさらなる報告。それははやてを驚かせるには十分だった。

「聖王のゆりかごに転移反応! 別の次元世界に転移するつもりです!」
「なッ!? 急いで転移先を割り出して! ライトニングの四人が戻ったら、すぐにアースラで追うよ!」

 そう言うと、はやてはすぐにフェイトへと連絡を入れ、すぐに戻ってくるよう伝える。
 その間にルキノはアースラの設備をフル活用しての転移先の割り出しを行う。こんなデカブツだからか、幸いにもそう時間はかからなかった。

「転移先、割り出せました! 第97管理外世界『地球』です!」


 HELLSINGとミレニアム、スカリエッティ、そして機動六課。
 彼らを巻き込んだ大戦争の幕開けは、近い。


TO BE CONTINUED

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最終更新:2008年02月12日 10:19