魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
第三話「異変」
「で、異次元世界にどうやって連絡してきたんですか?」
「あはは…潜入?」
「やれやれ…。」
親分、ドクといったハンター組の代表、ジェイが依頼主の機動六課の部隊長八神はやてと話をしている。
艦長室に連れてこられて海を渡るどころか次元を引き裂いて移動したからジェイは驚くしかなかった。
で、聞いてみるとこうだ。ポッケ村の集会所に新人受付嬢にアルフなる犬耳の女をおく。そしてジェイ達が受け取ったクエストを貼る。
手にとって受ける、と言ったハンターが出現したら八神はやてに念話で連絡、ということらしい。
本当にやれやれとしか言い様がない。そのアルフは突然目の前で子犬に変身して二度びっくり。ここではジェイの世界の常識は通用しない。
「で…、ジェイさん。」
「ん?」
「ヴィータちゃんのこと、本当にありがとうございました。」
「!!?」
三度びっくり。八神はやてが頭を下げてきた。
ヴィータのこと…あぁ、あのことか。
「よ…よしてくださいよ。あれはあくまで…」
「『逃走に無理やり付き合わせた』でしょ?いいですか?ウチの家族をどういう形であれ命を救ってくれたのは事実です。
素直に礼を言わせてください。」
「は…はぁ。」
あれ?なんで説教されてんの?なんて思いつつもはやての言葉を聞く。
笑顔から一変、真剣な表情に切り替えた。依頼の件について話をするみたいだ。ジェイもつられて真剣な話を聞く。
「で…な。依頼の件なんやけど…。」
話は過去に遡る。
JS事件が終わり、機動六課も一段落といったところに一件の事件が転がり込んできた。
『突然魔導士が行方不明になる』という不可思議な事件。スバル達が調査に行くとそこには竜の姿があったのだという。
蒼い人ほどの大きさの竜。足元には食いちぎられた局員の死体があったのだという。パニックになりながらも証拠を収め、脱出。
上に連絡したのだがトリック(手品)だと判断。機動六課がマスコミ等に叩かれるがある日、竜の目撃証言が多発。
調査を進めてみたところ蒼い竜より遥かに巨大な竜たちが一斉に出現、暴れだした。太刀打ちしたが恐るべき甲殻の硬さと戦力でほぼ全滅。
ミッドチルダの市民達は避難しているが不安な生活を送っている。そこで対策を立ててほしいと今まで叩いていた者たちが頼み込んできた。らしい。
ジェイはまず思った。
(はぁ…バカか?バッカじゃねぇのか?…またはアホか?)
自分でも誰に向けたかわからない憤怒とかが頭を廻る。ため息をついて窓から見える次元の渦を眺めながら質問する。
「…で、白い前足の生えた竜、見ませんでした?」
「え…見なかったし、証言もありません…。でも、どうして?」
「えっと…俺達ハンターが上手くやっていけるのは…モンスターが絶滅しないから。で、その絶滅しないわけは、やつ等の進化が
早すぎるんです。二匹別世界にぶち込んだだけでその別世界に適合して進化しやがる。十日で何万…ってぐらいかな。
中に祖龍ってやつがいるんだが…、そいつは繁殖できる速度と進化できる速度がずば抜けて…」
「あーっ!!!!」
「おわっ!?」
はやてが大声を上げながら立ち上がると驚いてジェイは椅子ごと後ろに倒れた。
あわててジェイに駆け寄り顔を心配そうに覗き込む。
「で…心当たりが?」
「あぁ、うん、少し前に竜を二体密輸した艦を捕らえようとして出動したんですが…残ってたのは死体と残骸だけで…」
「それだ。」
これで筋は通った。そのミッドチルダに巣食う祖龍を全滅させれば、あとは大丈夫なはず。
でも…あいつと戦ったことがあるとはいえ50戦1勝49敗。こんな成績で大丈夫なのか自分。
どちらにしろ、受けてもう戻れない場所に自分はいる。やってやろうじゃないか。その前に一つ。
「…お互いに敬語やめません?」
「え…あ~、そういうことなら…うん。」
「OK,これで話しやすくなった。」
「じゃ、じゃあ他のメンバーはもう自己紹介済んでるみたいだから、ジェイもしてきてな?」
「あいあいよ~。」
またもやれやれ、といった感じで案内されてついていく。
「フェイト・T・ハラオウンです。」
「シグナムです。」
「スバル・ナカジマです。」
「ティアナ・ランスターです。」
「エリオ・モンディアルです。」
「キャロ・ル・ルシエです。」
入った瞬間敬礼をされて自己紹介。とは言っても自分の名前を名乗ってるだけじゃあないか。
まぁ、仕方ないことなのだが。それに皆も表情が硬いっていうか睨んでない?ジェイはひたすら考える。
「ジェイ・クロードです。っと…なんか味気ないな…。」
首をかしげてうーん、と考える。まぁ、このメンバーは蒼い人と同じ大きさの竜…おそらくランポスの食事をバッチリ見てしまったから
その時のショックが抜けていないのだろう。ジェイ自身もその「食事」の場面や生肉を剥ぎ取るときに吐き気に襲われたことがある。
次に他に案内するところがあるからとはやてに手招きされて出て行こうと歩き出した。
「あの…。」
スバルが恐る恐る手を上げてジェイに質問した。当然皆の視線がスバルに集まる。
話すときも結構言葉を詰まらせていた。
「ドクって人は…、アタシ達のことどう…思っているのでしょうか?」
やれやれ、またあいつか。何か問題発言でもしたのだろうか?
「どうって、何が?」
「質問とかしても『関係ないことだ』とかで返されてしまって、もしかしたら…」
やっぱり。と呟きジェイは肩を竦める。スバルに歩み寄ると頭の上にポン、と手を置いてスバルの今にも泣き出しそうな顔を覗き込み、
口の端を少し吊り上げるだけの笑みをした。
「大丈夫、アイツは人見知りで素直になれないちょっとしたツンデレ男さ。」
それだけ言うとジェイは手を振ってスバル達と別れた。スバルのキョトンとした表情は今でも覚えている。
このあとにいろんなアースラの中を見て回った。
「驚かないのか?」
「あぁ、うん。慣れちゃった。」
喋る蒼い狼、ザフィーラと会って
「ちょ、なんで胸から手ぇー!?」
「ごめんなさい。ちょっとしたいたずらのつもりだったんだけど…。」
医者だというシャマルさんとも会った。
「リィンフォースⅡです。よろしくなのですよー。」
「アギトだ。ってかバッテンチビ邪魔だ!」
「邪魔なのはアギトのほうですよー!」
「あははははは…」
目立ちたがり屋な制服来た妖精、リィンフォースⅡとアギトにも。
ともあれ、略した人もいたが一通り六課メンバーとは会って、ドクの部屋へ。
「というかさ、ドク。確かに常識はずれな連中だとは思うけどさ、もう少し愛想良くしたらどうよ?」
「関係ないと言っている。」
「あのさ、ドク。もうちょっと…。」
「関係ない!!君に私の何がわかるのかね!?」
突然のドクの怒声に驚いた。普段良く大声を出すとはいえそれはすべて歓喜の叫びか笑い声。
ドクは自分にまで敵意をむき出しにしている。なら何故受けたのか、まったくわからない。
「わからないさ。第一聞いてもいないし、ドクは喋ってないだろう?この際、聞いてやろうじゃないの。」
ジェイは驚きながらもドクの過去を、知りたいと思った。最初はもちろん黙っているだけだったが、まるで独り言のようにポツリポツリと話し始めた。
自分の本名はジェイル・スカリエッティだということ。そして自分が行ってきたこと。このクエストの最中、ドサクサにまぎれて機動六課に復讐を企んでいたこと。
みんな洗いざらい話してくれた。
「今では私のほうが愚かだがね…。」
とだけ呟くとグラスに入っている果実酒を少しだけ口に含んだ。舌の上で転がすように味わう。なぜだろう。甘いはずなのにどこかほろ苦い。
ジェイはしばらく黙っていたが口を開いて何を喋りだすかと思いきや、意外なことだった。
ナイフを取り出すとスカリエッティの首筋を叩いたのだ。もちろん叩いたので切り傷はない。
「な…何を…。」
「確かに今のアンタは愚かだ。ちょっと、前見たら?後ろを振り返るのもそりゃ重要だけどさ。後ろばっかり見て、囚われて。これはなんかのイタチゴッコ?
そのうちまたつまづいて転ぶよ?簡単に吹っ切れるもんじゃないってわかっているんだけどさ。」
ナイフをしまうと立ち上がり背を向けてドアに向かう。開けようとするが動きを止めた。
「こんなこと言った後でなんだけど、最後に決めるのは自分自身だから。んで、もしそれで道を間違ったらぶん殴って、連れ戻して、
もう一度説教するさ。嫌になるくらいな。んじゃおやすみ。『ジェイルさん』。」
ジェイが出た部屋でもう一度果実酒を飲むドク、いや、スカリエッティ。彼の表情はどこか穏やかで、目には光るものがあったという。
「…面白い。そこまで言うなら一度、前を向いて歩いてみようじゃないか。」
余談だが、翌日ゼクウとジェイがスバルに向かって謝っているスカリエッティの姿を見たという。(顔はもちろん見せてない)
ジェイはにやけて、ゼクウは何がなんだかわからない表情をしていた。
最終更新:2008年01月03日 08:04