魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
第四話「赤鳥」
「やぁ、ドク。改心したみたいだね。」
「なんのことかね?」
「は?」
アースラのとある長廊下。ドクとジェイは話している。
だがドクは昨日何が起こったか忘れたような素振り。
「え、だって昨日…。」
「昨日?おぉそうか、君がくだらない人生論を喋っていたことか。」
ドクはここが廊下で夜にも関わらず大声で笑っている。ジェイは呆気に取られていた。
必死に笑いを堪えながら何故笑っているかを答える。
「クク…君のようなお人よしは騙しやすいということが…クッ…わかったよ。…クク……ハハハハハハハハハハハ!!」
ひたすら腹を抱えて笑うドクに唖然としているジェイ。ようやく繋がった。ジェイは騙されていたのだ。
昨日のドクの反応に。出る間際に見せたあの涙まで偽者だったとは。非常にお節介なジェイはすっかり騙されていたのだ。
ポケットから落ちたのは目薬。ジェイは拳を震わせて怒りやら恥ずかしさやらを爆発。
「お前は俺を怒らせたぁっ!!」
ジェイの全力の拳をいとも簡単に避けてみせるドク。
「クククク…騙されるほうが悪いのだよ!」
「んのやろぉぉぉぉぉぉ!!」
よくよく考えてみるとドクも変わらないなぁと思う。度々騙すし、俺の背中に竜撃砲をぶっ放したり。これでも腕は立つんだよなぁ。
高らかな笑い声と怒声がしばらくアースラ内に響いた…というのは余談である。
翌日、三人のハンターはミッドチルダの大地を踏む。
ジェイとゼクウの視線は全て大きなビルに。
「す…すげぇ…。」
「塔のようなものがいくつも…。」
そのリアクション、本当に田舎もんである。ドクはさすがミッドチルダ出身。動じていない。
はやて達についていくがやはり落ち着かない。街の様子はというと不気味といえるほど静寂に包まれている。
人がいるとすれば槍とも呼べる杖を持ち、黒いコートに身を包んだ者達。時々こちらを睨んでくるから余計にプレッシャーがかかる。
(そりゃそうだよなぁ…。)
自分の姿をよーく見てみる。「アカムトシリーズ」という鎧一式だ。兜も被って肌が露出するところなどまったくない。
おまけに背中には「インペリアルソード」という太刀。そしてアイテムボックスを引きずっているのだから不審者に間違われてもおかしくない。
はやて達が前に歩いていなければ連れて行かれるだろう。はやて達はというとバリアジャケットとかいうのに着替えている。
武器も手に持ち、いつでも戦闘可能ということだろう。自分の身体にまで緊張が伝わってきた。
そして建物の中へ。どうやら機動六課の本拠地についたようだ。
はやてがくるりとジェイ達のほうを向くと満面の笑みを浮かべた。
「ミッドチルダ、そして機動六課にようこそ。」
直ぐに正面に向くと宿舎へと案内される。そしてそれぞれの部屋へ。アイテムボックスを置き、
部屋を眺める。風呂にトイレ、ベットに洗面器にコンロ。生活しやすく改装されている。
いつも通り家でやっているようにボスン、とベットに飛び込む。ちなみに鎧はつけたままだ。身体が跳ねる。もちろん埃も立たない。結構ふかふかである。
この後なにも予定はないため目をゆっくりと瞑り、少し眠ることにした。
「グギャアァァァァアァァァァ!!」
安眠は一つの咆哮で遮られた。ジェイは飛び起きて急いで武器を持ち、廊下に出る。
廊下に出るとゼクウとドクが同じタイミングで廊下に出てきた。
「この咆哮、一匹じゃないようだな。」
「あぁ、おそらく数体いるな。こいつは厄介だぞ。」
「でも、ここに雇われた以上やらなきゃいけないね。」
ジェイが手にしたのは氷属性の太刀「白猿薙 ドドド」、ゼクウが手にしたのは大剣「ダオラ=デグニダル」、ドクは珍しくハンマー「ジェイルハンマー」。
三人とも顔を見合わせて頷き走り出す。
外に出ると当然の如く飛竜がいた。本来おとなしいはずの鳥にも似た飛竜、イャンクック。
それが攻め込んできた。理由はおそらく「縄張り」だ。誰かが調査をしにいって縄張りに入ってしまってイャンクックを怒らせた。
とりあえずの憶測だが、可能性がまったくないわけではない。
「ディバイィィン…バスタァァァァァァ!!」
一匹を魔力ダメージで昏倒させた後一息、なのはの隣にジェイ達ハンターが並び、それぞれの武器を構える。
「ジェイさん…?」
「OK、皆舐めてかからないようにな。」
「お前のように油断しすぎて1ダウンするほど愚かな俺等ではない。」
「そういうことだ。まず自分の心配をしたまえ。」
「…言い返せないのが悔しいんだけどさ。」
二匹のイャンクックに向け、走り出した。
対するイャンクックは大きく吼えて三人のハンターを待ち構える。
「おぉぉおおおおおりゃっ!!」
白猿薙を頭にめがけて振り下ろす。戦いが、始まった。
唸る轟音、
舞う瓦礫、
轟く咆哮、
流れ出る吐息、
そそり立つ火柱、
飛び散る血飛沫。
それが今赤鳥と狩人が戦っている場所の全ての光景。
「シッ!!」
太刀の刃が翼に深い傷を負わせていく。羽の先から入り、胴体へと肉を切り裂きながら進む。イャンクックが飛び立つと太刀が
抜き、ジェイが地面に落ちる。イャンクックが着地する隙をゼクウは逃さない。
「ぬぅぅぅぅぅぅんっ!!」
大剣、ダオラ=デグニダルの横凪ぎで足を滑らせて横転。立ち上がろうとするところに回転しながら進む影。
ドクだ。ジェイルハンマーを回転させながら顔に一撃、二撃、三撃。打撃を与えていく。
「私のオペは少し過激なのでな!!」
止めの振り上げ。ジェイルハンマーの球体から伸びる棘がイャンクックの顔面を襲う。巨体が、浮いた。
「遠慮はせずに、もう一撃受けていきたまえ!!」
おまけにジェイルハンマーを振り下ろす。頭蓋骨が砕けたのではないかと思うほど鈍い音が離れたところからでも聞こえる。
その巨体は地面に叩きつけられた。叩きつけられた顔面の周りのコンクリートは砕け、土が露出している。
人間の力だけでその威力が出るのかと不思議なくらいに。目は完全に光を失い、焦点が合っていない。
「っし!次!」
ちょうど振り返ると二匹目が突進してきていた。
ゼクウが入り込みダオラ=デグニダルを盾代わりにして突進をガード。腕の筋肉が悲鳴を上げようとも力を緩めない。
スピードが落ちてきたところをジェイが白猿薙の一撃を。刃が顔面に縦一線、傷をつけてイャンクックの左目から光を奪った。
「親分!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
怯んだところに大剣の特権、溜め攻撃を繰り出した。尻尾に切り傷をつけただけでなく、切り落とした。
「そこの君!!」
「は、はいっ!」
「こいつを仕掛けて欲しい!地面に置くだけでいい!」
ドクは走りながら近くにいたエリオに円盤状の「何か」を投げ渡す。少し慌ててしまったものの地面に設置。
灰色のネットが円盤から射出された。それを見た三人は武器をしまう。
「走れぇぇぇぇぇぇ!!」
エリオが仕掛けた何かに向かい走り出す三人。エリオもつられて走り出した。通過しても何も起こらないがイャンクックがネットに足を踏み入れた瞬間、
地面がめり込んで尻尾、足、胴体を引きずり込んだ。…これはハンターが使う一般的なトラップ、落とし穴だ。
ドクが足を巧みに滑らせて方向転換。低く構えると腕から光が。その光はどんどん色を濃くしていく。
イャンクックの前まで走るとニヤリと笑い
「別れを言いたまえ。貴様を取り巻く全てのものに、そしてこの世界にな!!」
無慈悲な鉄槌を振り下ろした。
番外その3「イャンクック」
意外に知ってる人が多いかもしれない。多くのハンターの登竜門となった飛竜、イャンクック。
ピンクの甲殻に大きなクチバシと耳。一見ユーモラスなのは確かだけど可愛いって言う人もいるなぁ。
結構人気が高いみたい。そりゃあ、狩られる運命なんだけどさ…。
聴覚が鋭いから、それを逆手に耳が劈くほどの大きな音を出せば攻撃の隙ができる。やったあと怒るけど。
驚くべきはヤツが怒ったときのスピードだ。そのスピードで何回も突進されて気絶されることが少なくない。
弱点は氷か水だな。毒とか麻痺などの状態異常の方が手っ取り早いんだけどね。あくまで弱点さ。
そんなに手強くないって思うかも知れないけど甘く見ちゃいけない。何しろ油断したせいで一回ダウンした人がいるからね……。
俺だけど、何か?
最終更新:2008年01月07日 21:47