Devil never Strikers
Mission : 06
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チンクとの戦闘を終えたダンテは歩き続け、開けた場所を見つけた。
この中に何があるのかは分からない。
何も無い大部屋である可能性が高いが、もしかしたら悪魔が待ち構えているかもしれないし、ガジェットかもしれない。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか)
先ほどの戦闘が楽しかったからか今にも鼻歌でも歌いだしそうなくらい上機嫌なダンテはその部屋に何の警戒も無く入って行った。
そしてダンテを出迎えたのは火の球と魔力弾の一斉射撃だった。
破片と埃が舞い散り、ダンテの姿を覆い隠した。
災難とかトラブルといった種類の物は不思議な物で、これで何があっても大丈夫!って準備している時は何も起こらず、
逆にたぶん問題ないだろうって時に限って、この時を待ってたぜ!とでも言っているように襲い掛かってくるのだ。
今回のダンテは後者のほうだった。もっとも彼が何らかのアクシデントに備えて準備をしている姿なんて想像できないが。
「やったか!?」
「まだだと思う、アギト」
一斉射撃を行った子供と妖精の二人組の妖精の方、アギトがうれしそうに叫ぶが、別の声の主はそう思っていないらしい。
煙が晴れたそこにはもう一方の思った通り、傷一つ無いダンテがいた。
「さっきの嬢ちゃんたちか、敵だったのか?」
意外な相手に本当に敵なのか確認するため話しかけてみるが、答えは入ってきた時と同じ一斉射撃だった。
(人違い、って事はなさそうだな。なら!)
ダンテは横っ飛びに避けながらホルスターからエボニー&アイボリーを引き抜いた。
そのまま二人組みの子供の方に照準を合わせ、ためらい無く引き金を引く。
だがルーテシアは動じることなく柱の影に隠れ避けた。アギトも慌ててそれに続く。
「ルールー!どうするんだよ!やっぱりあいつ強いぞ!」
「……」
「だから五番なんてほっとけって言ったのに!」
「……」
柱の影から口論――と言ってもアギトが一方的に捲し立ててるだけだが――が聞こえてくる。
その話から聞くに、この部屋での待ち伏せは先ほど倒したチンクが絡んでいるらしい。
おそらくチンクが戦いながらここまでおびき寄せ、入ってきた所を先ほどの一斉射撃でドカン!といった作戦だったのだろう。
残念ながらここに来るまでに決着がついてしまったのでその作戦は成立しなかったが。
(まだライブは終わってないらしいな)
チンク抜きでも逃げずにダンテを倒そうとするのだから、この二人も雑魚と言うことは無いだろう。
終わっていないどころかこれからが本番だ。そんな予感すらわいてくる。
「勝手な行動は今回に始まったことじゃないしさ!」
「……」
「レリックが大事なのは分かるけど!心配したんだよ!」
「……」
二人の口論は相変わらず続くが、それに付き合うつもりは無い。
ダンテは銃弾を二人が隠れている柱に撃ちこみ、口論に割り込む。
「そろそろ行くぜ」
ダンテが言い終わるのとほぼ同時に、上から魔力の塊が落ちて来る。
いつものようにサイドへのローリングで避けながら上を確認する。そこには片手で柱に捕まりながらもう一方の手をこちらに向けているルーテシアがいた。
回転しながら上に銃口を向けようとするが、それより先に柱の影から出ていたアギトが火の球を撃ってくる。
仕方なく上への攻撃を中止し、回転の終わり際にもう一度地を蹴り、もう一回転重ねる。
二回転目を始めた瞬間、三人目の敵に気づいた。
ホテルアグスタでイフリートの側に現れた黒いやつだった。
「行け!ガリュー!」
アギトが名前を叫ぶ。どうやらコイツはガリューというらしい。
(ロイヤルガードの力で防いで…ダメだ、角度が悪い)
ロイヤルガードの真髄は敵の攻撃を見極めることにある。
相手の攻撃を見切り、タイミングを合わせて初めてジャストガードは成立する。
つまり攻撃が見えていなければならないのだ。
よってダンテの死角から来る攻撃はジャストガードで防げない。どこかにカメラでもあってそこからの映像なら話は別だが。
ルーテシアが上、アギトが正面、ガリューが後。
今の位置関係はこんな感じだ。
振り返ってガリューの攻撃を防いでは他の二人を視界から外してしまう。
攻撃は間に合わない、防御は受け切れない、回避はしきれない。
取れる手段はほとんど封じられたまま、二回目のローリングが終わる。
ダンテは再び地を蹴り、少し方向を変えた三回転目に突入した。
ダンテが蹴った地面は正面方向。つまりガリュー方面に回転することになる。
ガリューに突っ込む形になる分、本来の形とは少しズレたところで攻撃が当たる。
具体的な言い方をすれば二回転半。
つまりガリューの攻撃はダンテの背中に当たる。リベリオンのある背中に。
体を器用に使い、ガリューの攻撃を下に受け流し、その反動で上に飛び、転がりながらガリューを飛び越える。
もちろんガリューがタダで通してくれるとは思っていないので、エボニー&アイボリーで通行料を払いながら、だ。
後ろにいたガリューのさらに後ろを取ったのでこれで三人全員が視界に入る―――はずだった。
柱の上にいるはずのルーテシアが見当たらなかったのだ。
(あの紫の嬢ちゃんはどこに行った?)
と考えたその時、とん、と言う軽い音がダンテの後ろから聞こえてきた。
その音が何を意味するのかは考えなくても分かった。
分かっているので振り返らずに話しかける。
「俺の能力を見抜いていたのか?」
「……チンクから聞いた」
「それでも対策を考えたのはお前だろ?」
ルーテシアはこくん、と軽く頷く。
ダンテが睨んだ通り、ルーテシアはチンクからダンテの能力を聞いていた。
あれはこちらのあらゆる攻撃を防ぎ、優位な立場に身を置く事が出来る技だ、とチンクは伝えていた。
そしてルーテシアはそれなら相手の視界を制限し、優位な立場に置かせなければ良い、と考えた。
一度でロイヤルガードの特性を見抜いたチンクも見事だが、短い時間で対策を練ったルーテシアやそれをこなす三人のチームワークもたいした物だ。
三人は常に誰かを死角に配置するこの陣形を崩すつもりは無い。
ダンテの能力を知っている以上ジェットストリームアタックのような奇策を用いる必要も無い。
一方的に不利なこの状況でダンテがどんな手を打つのか、それは簡単に明かされる。
本人の口によって。
「宣言するぜ、俺はお前に切りかかるってな」
リベリオンの切っ先はガリューに向けられていた。
「嘘に決まってる!こいつルールーかあたしを狙う気だ!」
アギトが騙されないぞといった風に叫ぶがルーテシアとガリューは黙っている。
ダンテの真意を計っているのだ。
「今から三秒後にいくぜ」
何故手の内を明かす必要があるのか、ガリューと見せかけて他の二人を狙うため?
違う。そんな手が通じるとはダンテも思っていないし、事実油断する二人でもない。
「一」
ガリューが一番弱いから?
これも違う。戦闘に関してガリューはこの中で一番強い。最後に回してじっくり戦う方が楽だろう。
「二」
それならガリューを狙う理由は無い。あるとしたらもっと別の可能性だ。
そう、例えば――ルーテシアとアギトを無視できるから、とか。
「三!」
「アギト!ガリュー!」
ダンテが宣言通りガリューに切りかかるのと
ルーテシアが珍しくも大声を出しアギトに指示を飛ばすのは同時だった。
ダンテがガリューに突っ込み、宣言どおりリベリオンで切りかかる。
当然アギトからは狙い放題になるがルーテシアの指示に混乱し、行動が遅れる。
そのルーテシアは何か別のことをしている。仕方なくアギトは指示通りに動き出した。
数秒かけてアギトが準備を終える。だがその瞬間オレンジ色の魔力弾がルーテシア目掛けて放たれた。
ルーテシアを心配するまもなくアギトの左右にローラーブーツと篭手で武装をした二人が並び立つ。
「アギト、今」
ルーテシアが最初に指示したのは閃光弾の準備。
それを今使え、と言うことなのだろう。
ローラーブーツの鉢巻の方が何か口を開こうとするがそれより先に閃光弾を地面に叩きつける。
地面に当たった弾が光と轟音を放ち、薄暗い空間になれた目を眩ませ、本来の機能をしばらく失わせる。
数秒後、全員が視力と聴力を取り戻した時にはルーテシア達の姿は無かった。
「逃がしたか…」
最初に口を開いたのはダンテ。
その言葉に答えたのはティアナだった。
「そうみたいですね…あの子達は一体?」
「知らないで攻撃したのか?」
そうだとしたら管理局の人間としては失格だろう。
だがそれなりに納得の行く答えがキャロから返されてきた。
「私が…思ったんです。ホテルアグスタの時、何か召喚したのはあの子だって、それに…」
そこで言葉を切り、おずおずとリベリオンの先に目を向ける。
リベリオンの先端近くに、ストラーダをダンテに突きつけているエリオの顔があった。
互いに武器を突きつけている状態だが、腕の長さや構えの差からリベリオンは数ミリ、ストラーダは数センチの距離で止まっている。
もしエリオが止まらなかったとしたらリベリオンはエリオに刺さっていた事だろう。
「いざとなったら俺ごと捕まえるつもりだった、か?」
喧嘩両成敗、という訳だ。
そうすれば管理局員として、知り合いを贔屓にしたと言うことはない。
誰が考えた?とダンテが問うより速く
「「「「部隊長が考えました」」」」
ギンガを除く四人が同時に答えた。
これは部隊長である八神はやての指示で、全責任はうちが負うで!とまで言っていた事ももちろん忘れない。
そのまま互いの状況報告を行う、向こうはもう一つのレリックケースを見つけ、残りのガジェットを殲滅しようとしていたらしい。
こちらは先ほどのチンク戦と今の三人との戦闘を話す。一応どちらも先に攻撃してきたのは向こうだとも言っておいた。
一通りの情報交換を終えた所でギンガが口を開いた。
「ねえスバル、この人は?紹介してくれない?」
状況が状況だがもしかしたらこれから協力するかもしれないのだ。
名前とポジションくらいは互いに知っておいた方が良いだろう。
「えっとこの人はデビルハンターのダンテさんで、武器は大剣と銃で、ピザが好きで、多分良い人で、他には…」
いきなり話をふられたスバルが一生懸命紹介しようとするが、スバルがダンテについて知っていることはこれで全部だ。
一緒に訓練をしている訳でもなければ六課の同僚でもない。
戦っているのを見るのはこれが初めてで、ポジションすら知らない。
どうすれば良いか分からなくなり、ついティアナに目をやってしまう。
それを受けたティアナはやれやれ、と言った風に
「ダンテさん、この人はギンガ・ナカジマって言ってスバルのお姉さんなんです」
無理やりダンテの紹介を終わらせた。
ギンガはえ?これで終わり?と思うもすぐにそれを隠し、軽く頭を下げる。
互いに情報を出しつくし、それをロングアーチにも伝えた。
後は退却なり追跡なりの指示に従うだけなのだが、そうは問屋が卸さなかった。
キャロのデバイス、ケリュケイオンが発光し始めた。
「地上から大型召喚の気配がします!」
それを見たキャロがこう言ったのと同時に地下水路全体が振動し始めた。
どう考えてもその大型召喚で出てきたやつが原因だろう。
すぐにロングアーチから脱出の指示がきたが、全員すでに脱出準備を整え、既に行動していた。
キャロが感じた通りこの地震はルーテシアの召喚虫が起こした物だ。
地雷王。
ガリューやインゼクトよりは幾分か虫に近い形ではあるが、サイズはその二匹より遥かに大きく、家一つ分は楽にある。
ルーテシアが地下でとった行動はこうだ。
アギトに閃光弾の指示をしていた時には既にガリューを戻す準備をしていた。
そしてアギトに閃光弾を撃たせると同時にガリューを戻す。
閃光弾で視力を失うのはルーテシアも同じだが、あらかじめ知っていたルーテシアは混乱している敵の中を記憶を頼りに駆け抜けることができる。
そのままアギトを抱き寄せ、転送魔法で地上まで脱出、これがルーテシアの取った行動の全部だった。
ルーテシアはビルの屋上から地面の召喚虫を見下ろし、更に決意を固める。
ガリューはあの数秒でかなりのダメージを受けているので、今日はもう戦えない。
故に切り札を使うつもりで、その準備も終わっている。
後は敵を待つだけ、相手が出てくるであろう方向に目を向ける。
すると少し離れた地面から二本の道が出てくるのを見えた。
「ルールー!来るぞ!」
アギトが叫び、二つの道を凝視する。
左の道にはスバルが、右の道にはギンガが走っていた。
左右対称、かつ同じ速さで接近してくるのでどちらが先に攻撃してくるのかは判断できない。
そのうえウイングロードの上にはダンテの姿まである。
ウイングロードを足場にしてこちらに接近してくるがスバルとギンガに比べてだいぶ遅い。
今はまだ視界の片隅に入れておけばそれでたりるだろう。
ルーテシア達は数で負けているのだから下手に動いてはすぐに詰んでしまう。
相手の動きを予想して最高のタイミングで切り札を使わねばならない。
「アギト、右の方を撃って」
アギトに様子見で射撃をさせる。
アギト自慢の火の球をギンガは回避するが、その動きで少し速度が落ちる。
だがそれを見てもスバルの動きに変化は無い。
(タイプゼロ二人の動きがバラバラ……囮?)
もし二人が攻撃するつもりなら二人は速度を合わせているだろう。
ましてやスバルとギンガは姉妹だ。
攻撃するのならギリギリまで同じ速度で接近してからタイミングを少しずらして連続攻撃を仕掛けてくるはず。
それをしないのだからこの二人に攻撃する気が無いのだろう。
よってこの二人は囮だと考えられ、どこかに本命の攻撃があるはずだ。
「二時の方角からだ!ルールー!」
ギンガへの攻撃を緩めずにアギトが叫ぶ。その方角を見てみると確かに白い竜がいるのが見えた。
その竜の下には自分と同じくらいの女の子がいて、その女の子が白い竜の召喚士なのだろう。
側に槍の少年と二丁拳銃の少女もいる。
「Fried!」
「キュクルー!」
白い竜、フリードは召喚士の意思に応え、炎の球を地雷王目掛けて発射する。
あれも相当な威力だろうが、一撃で地雷王を倒すほどではない。
炎が地雷王に当たるが、予想通り地雷王は倒れない。
おそらく二撃目、三撃目と重ねて地雷王から倒すつもりなのだろう。
ルーテシアはまだ動かない。
「Erio!」
二丁拳銃の少女が名前を叫び、自分の攻撃タイミングだと理解した槍の少年、エリオが地雷王に突撃する。
その時エリオがレリックケースを抱えているのが見えた。
目的の物の場所が分かり、作戦を頭の中で組み立てる。
ある程度固まった所でスバルが無視できない距離に入ってきた。
「一撃必倒!Divine buster!」
スバルの前に魔力スフィアが作られ、そのスフィアがルーテシア目掛けて打ち出される。
シールドで防ぐが、魔力スフィアは壊れない。しかもスバルはその状態で更に接近してくる。
このままではスバルお得意のバリアブレイクの餌食だ。
だが今はその心配は無い。
「おらぁ!」
アギトがいるからだ。
ギンガへの攻撃を止め、アギトはスバルの魔力スフィアへと標的を変更する。
アギトの炎を受けた魔力スフィアは破裂し、術者であるスバルを吹き飛ばす。
「スバル!」
ギンガがウイングロードで先回りし、スバルを受け止めようとする。
「こいつはオマケだ!」
だがアギトが既に次の炎をチャージしていた。
受け止めて二人で固まっている所を狙うつもりらしい。
それでもスバルは大技を使った後なのだ。自分で立ち直れるかどうかは怪しいし、何よりギンガにスバルを放っておくなんて事は出来なかった。
危険を承知でギンガはウイングロードを伸ばし妹を受け止めた。
「あばよ!燃え尽きな!」
アギトが今日一番大きな炎を完成させ、後は撃つだけだった。
だが―――
「Cross fire shoot!」
「なにぃ!」
二丁拳銃の少女がアギトに複数の魔力弾をぶつけてきた。
二人の間はかなりの距離があったため命中こそしなかったがその間にギンガとスバルは離れてしまった。
だがこれで繋がった!
ギンガはスバルを抱えていて二人は同じ場所にいる。
白い竜とその召喚士、二丁拳銃の少女も一箇所に固まっている。
おまけにダンテはこの二組の間にいた。
レリックケースを持ったエリオ以外が直線状に並んだこの瞬間を待っていた!
今こそ切り札を使う時!
ありったけの魔力をアスクレピオスに込め、究極召喚を行う。
白天王。
その力と大きさはルーテシアの召喚虫で最大の物を持っている。
自然の中で生きるには不利なはずの白い体からは甲虫特有の重厚感は失われてなく、むしろ神々しさすら感じられる。
「……」
召喚の最中から集めさせていたエネルギーを無言のまま腹部から開放する。
ギンガとスバルを狙った砲撃。
もちろんその延長線の上にはダンテの姿があり、更に奥にはティアナ、キャロ、フリードがいる。
白天王の砲撃がまずギンガとスバルに迫りつつある。
二人は砲撃と逆方向に走るが、新幹線に背を向けて走っても逃げられないように意味が無い。
回避するには線路から外れるしかないが、白天王の砲撃は大きいので横や斜めに走ってももはや間に合わない。
まず二人倒した。ルーテシアがそれを確信するが、その瞬間二人の奥にいる人影に気づく、
赤いコートで分かる。ダンテだ。
ダンテは逃げる二人とは逆に走っている。つまり砲撃の、正確に言えば白天王のいるこちらに。
だが白天王より先に砲撃があるのは馬鹿でも分かる。
誰がどう見ても自殺行為だ。
(あの人、本当に死ぬな)
そう思った。
だが自分で思ったことなのに何故か本気でそう思えない。
理由を求め、ダンテを良く見てみて気づいた。
彼が笑っている事に。
自分が重大な事を忘れている事に。
(あの人…確か…!)
ダンテ、ギンガ、スバルの三人はそのまま走り、二人と一人は直線上で位置を入れ替える。
これで最初に砲撃が当たるのはダンテだ。
砲撃がダンテに当たったその瞬間、ダンテはカンフーのような構えを取る。
Block & charge
これはロイヤルガードのスタイルアーツで、これがタイミングを合わせることでジャストガードになる。
今回も最高のタイミングで発動させたのでジャストガードとなり、砲撃をノーダメージで消滅させる。
「ルールー!これ以上はダメだ!引こう!」
アギトの言う事はもっともだ。
白天王ならこの人数でもそう簡単にやられはしないだろうが、向こうだって切り札を持っていない訳が無い。
このままではやられる。だから逃げなくてはいけない。
(でも、レリックが…)
理屈では分かっていながらもレリックの存在が行動を一瞬遅らせる。
そしてその一瞬が命取りだった。
その一瞬で白天王が何らかの鎖に拘束されていた。
「錬鉄召喚、Alchemic chain!」
魔法で召喚された鎖を操作し、対象を拘束するキャロの魔法だった。
白天王が数秒かけて鎖を引きちぎる。
次はその数秒がまずかった。
ダンテが白天王の頭上まで飛んでいたのだ。
一瞬の隙が数秒の隙をつくり、その数秒の隙が相手の攻撃チャンスになる。
F、E、D、C、B、Aとくれば次は何か、当然Sだ。
ダンテの技でSから始まる物と言ったらこれだ。
「Sparda kick!」
ダンテの父であるスパーダ直伝のキック。
それを胸に食らった白天王はその威力にのけぞる。
だが思ったほどの威力は無い。
その気は無いがこれならまだ白天王は戦える。
思ったよりショボかった締めの技にルーテシアは安堵する。
だが地雷王のすぐ側から、エリオが白天王を狙っていたのが見え、その気持ちは一瞬で無くなった。
「Strada!」
「Sonic move!」
エリオの最大の武器はスピードで、本人曰くそれだけが取り柄だ。
そのスピードをもって白天王に肉薄し、白天応の胸にストラーダを突き立てる!
同一箇所への連続攻撃に白天王が先ほどより大きくのけぞる。
これで終わってくれたらどれほど良かった事だろうか、だが連続攻撃は続く。
同じ速度でスバルとギンガが白天王に近づいて行く。
その遥か後方ではティアナも既に射撃準備に入っていた。
「行くわよ!スバル!ティアナ!」
「おうよ!」
「はい!」
二つのリボルバーナックルからカートリッジが数発ずつ廃棄される。
ティアナもカートリッジをいくつかロードし、多重射撃の準備を終える。
「「リボルバー――」」
「クロスファイア――」
ギンガとスバルは射程距離に入った瞬間に、
ティアナは二人の攻撃の一瞬前に当たるタイミングで、
「「「Shoot!!!」」」
それぞれのSを合わせた。
Sを三つのせた同時攻撃。これが止めとなり、白天王が後ろ向きに倒れる。
「白天王!」
ルーテシアが悲鳴に近い叫び声を上げ、何とか白天王を助けようとするが、
「動かないでください」
胸に突きつけられた槍がそれをさせない。
隣ではアギトがダンテに銃を突きつけられていた。
そのうえ他の仲間もここに集まって来ていて、まさに絶体絶命だ。
この状況はルーテシアにはどうしようも無かったが、そんなことはもうどうでもよかった。
「……戻していい?」
「え?」
「あのままじゃ死んじゃう……」
今までの感情の無いものとは違う、深い悲しみと焦りを伴って出てきた言葉。
それは自分の召喚虫を殺したくない一心から、涙すら流しながら発せられた。
ダンテはエリオの顔を見たが、エリオもダンテを見ていた。
どうしようか聞きたいらしいが、既にどうしたいかは決まっているらしい。
何も言わずに頷き、好きにしろ、と伝える。
それを見たエリオは顔をほころばせ、ルーテシアに伝える。
「分かりました。送還を許可します」
その言葉を聞き、ルーテシアは急いで地雷王と白天王を送り返す。
ルーテシアにとってレリックは家族を助けるための大事な物だ。
だがそのために召喚虫達を道具のように使う気は一切無い。
ガリューも、地雷王も、白天王も家族と同じくらい大事な仲間だった
「……ありがとう」
ルーテシアが安堵し礼を述べた、その瞬間一本の剣がダンテとエリオの後ろに落ちた。
からん、という軽い音にエリオが振り向く。
隙だらけだったがダンテがもう一つの銃をルーテシアに突きつけたのでルーテシアは何も出来ない。
エリオがルーテシアに隙を見せた事に気づき、急いで向き直る。
ダンテがフォローしてくれていたので逃げられてはいないが、今のはエリオのミスだった。
「すいません。つい驚いて…」
「何だった?」
「えーと、白くて、細い剣です」
「こいつらを見てろ」
言うが早いか振り返り、その剣を見つける。
それは紛れも無くルシフェルによって作られた剣だった。
「セイン!?」
「うわあああ!」
エリオとルーテシアの声にダンテは再び振り返る。
そこではエリオ、ルーテシア、アギトの三人が地中に引きずり込まれそうになっていた。
ルーテシアの反応からしてあれはルーテシアを救出に来た敵だ。
わざわざルシフェルの剣を使ったのはエリオではなくダンテの注意を引きたかったからだろう。
そしてそれは成功した。エリオは不思議がりはしたが、そこまでの脅威とは取らなかったのだから。
エリオが持っているレリックも奪うつもりで三人を引きずりこむのに少し手間取っている。
状況を把握したダンテは即座にストラーダごとエリオを蹴り飛ばす。
その衝撃でエリオは少し吹き飛び、地中の敵から離れる。
だがストラーダとレリックケースを手放してしまった。
ストラーダはエリオと一緒に蹴られたため無事だったがレリックケースは地中から現れた敵がつかんでいた。
「いただき~」
軽い声だけを残し、新たな敵は消え去った。
敵は目的の物を手に入れたのだし、今日仕掛けてくる事は無いだろう。
「坊主、怪我は?」
「ダンテさんが蹴ったんじゃないですか…」
蹴られた所とぶつけた所の二つをさすりながらエリオが立ち上がる。
少し埋まっていた足にも異常は見られない。
あのまま引きずり込まれていたらどうなっていた事か、最悪レリックケースを取られて地中に放置されていたかもしれない。
蹴ってでも助ける方法を取ったダンテの判断は正解だろう。
あのレリックケースは空なのだから。
地下から脱出する時から既にあのレリックケースは空だった。
中身は今はキャロが持っているはずだ。
(あのプリティ・ウーマンはあれを開けた時どんな顔をするんだか)
ちなみにプリティ・ウーマンとはヴァン・ヘイレンのアルバム、ダイバーダウンの曲の一つだ。
何故かは分からないがセインとか言うやつにはこの言葉がぴったりな気がした。
フリードに乗ったティアナとキャロ、そしてスバルとギンガがこちらに向かってくるが今日はもう用がない。
面倒くさい事情聴取は後にしてさっさと帰る事にした。
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最終更新:2008年01月17日 23:10